1話 哀しみの舞①
ヒトは、誰しも心に悪魔を飼っている……
太古から、ヒトより生まれし異形の化物により人類は脅威に晒され続けてきた。ヒトの心の中には生まれた時から『繭』が存在している。繭はヒトの「心の闇」を餌として成長する。やがて繭は羽化しヒトを憑代として転生をはかる。羽化した化物はヒトを捕食し、その数を広げていった。ヒトはその異形の化物に為す術なく、只々奴らの餌となりやみくもに数を減らしていった……ある者が現れるまでは。
救世主と名乗るその女は化物を悪魔と呼び、異形の力を用いて化物を駆逐しその地に暫しの安息をもたらした。救世主の正体は未だ分からず。しかしこの者が残した功績は、永劫語られる事となった。
人類は救世主去りしあと、悪魔に対抗しうる力を得る為、悪魔の研究に勤しんだ。その中で悪魔の討伐を生業とする種族がいる事が判明し彼らに協力を求めた。彼らは異端扱いされ辺境の地に追いやられた民族であった。その民族は異形の化物を使役し、異能の力を宿す。脅威でしかなかった化物との共存をしていたのだった。
「これが、後の退魔師って訳?」
「エリちゃん、図書館なんだから静かにして!」
夕焼けの光が入る図書館の中、2人の少女が本を読んでいた……。
「あたし、魔女の方が早く生まれたのかと思ったー」
「違うよアッちゃん。魔女が生まれたのは割と近代だって話もある位なんだよー。」
「……。ねえアッちゃん。わたし魔女になるって言ったら怒る?」
「何で?」
「だって、学校だって離れた所になるから施設出なきゃいけないし……。それに!」
「エリちゃん。私達前約束したよね?お互い悪魔をやっつける人になろうねって……。だからエリちゃん。」
「アッちゃん……。」
「エリちゃん、才能あるんでしょ?だから凄い学校から連絡が来たんでしょ?折角のチャンスなんだよ?」
「……。うん。」
二人の少女は図書館で将来について語り合った。あれから幾年たち……。
「でさー、結局のところ救世主って何者なんだろね?」
「エリカったらまたそんなトコでサボってる…。」
時は201○年。図書館で語り合っていた少女2人は、大人の女性と少女になっていた。2人が話しているこの場所はあの図書館ではなく対悪魔機関の『ゲネウィッチユニオン』の屋上テラス。悪魔退治を夢見た2人は今、まさに最前線の機関に所属しているのである。
「あれから20年かーー。お互い歳とったね〜。」
「あんたは魔女だから、そう歳とってないでしょ?」
「まあ、身体年齢は15歳位らしいからね。それよりあたしも、アツコもユニオンに入れるとはねー。」
「私は単なるオペレーターよ?……。エリカ、A號隊への進級おめでとう。」
「アツコ知ってたの??」
「私オペレーターよ?知らない訳無いじゃない。」
「それよりあんた、何してんのよー。」
「今休憩の時間な・ん・で・すー。」
「休憩って……。あー、今日は研修の日ね。ってあんた、もう休憩時間終わってんじゃない!?」
「んなまさか〜。……。オゥ……。」
エリカは急いで講義室に向かったが時すでに遅し、仁王立ちの二条隊長がそこにはいた。
「オーデット。30分の遅刻なんだけど、何していたのかしら?」
「お、お花を摘みに……。えへっ♡」
「へえ……。」
「誠に申し訳御座いませんでした。」
「A號隊としての自覚がたりませんよ!」
「すんません…」
隊長からの有難い説教の後は、午前中に引き続き午後の研修の時間。二条隊長とエリカ以外は誰もいない研修室。
「魔女は悪魔が使用する異能の力を行使出来るほか、使い魔の使役も行います。現代の悪魔との戦いにおいて使い魔の力を借りて戦闘するのが主な戦闘方法なのは何度も説明している事ね。使い魔は主である魔女の指示で、使い魔の姿のファミリアモードと武器の形を模したウェポンモードの二種の形態に変化出来るの。貴方の使い魔は…。」
「ノアの事ですか?頭に乗っているのがそうですよー。」
エリカは頭の上に常に猫の様な何かを乗せている。エリカの頭の上にいる猫の様な生き物は彼女が生み出した使い魔なのである。
「貴方の場合、使い魔の行使を必要せずとも悪魔の討伐は可能と聞いていますが、魔女の基本は使い魔との共闘にあるのよ。」
「それは、C號隊とB號隊の研修でも耳にタコが出来る位言われました……。でも、この子は私の切り札なんですよ〜。」
「まあ、いいでしょう。次に、現代の魔女化の儀式は、強制羽化という方法が用いられるの。」
「確か学校でその儀式やった気がするなー。」
「あなた覚えてないの?」
「いやー。」
「……。人間の心の中に巣食う悪魔と『契約の儀』を交して使い魔として召喚する方法で、使い魔の羽化と同時に主の体内に悪魔の遺伝子が流れ込むの。」
「その流れた悪魔の遺伝子は細胞内のミトコンドリアに蓄積され、人間は魔女へと変貌します。つまり、貴方の頭の上の変なのの力で魔女になったという事ね。」
「変なのって言わないで下さいよぉ。こんなに可愛いのに?」
「話続けるわよ。魔女って基本的に女性であれば魔女にはなれるんだけど、強い魔女になれるかは召喚した使い魔次第なところがあるわね。あなたの場合、例外なんだけどね。」
「いわゆる血統って事ですね!前の研修でも言われましたよ〜。」
「……。そうね。代々魔女を輩出する由緒ある家系の人間は元々悪魔の遺伝子を所有しているの。だから、有名な魔女の家では使い魔を契約しない者もいるらしいわね。そういう、名家は逆に使い魔の扱いが下手だったりするのよね。」
「あー、裏を返せば自分の使い魔がへっぽこって事ですね〜。」
「でも、何も考えずに魔女になれる貴方は幸せなのかもね。強い使い魔を召喚出来る条件はね、繭がある程度成長しているかどうか。つまり、心の闇が深い人間ほど強い魔女になれる可能性があるという事なの。」
「それってつまり……。」
「あまり良い人生を歩まなかった人間の方が魔女の適性があるって事ね。」
「A號隊のみんなに、過去の話を聞くのはやめておこう……。」
「ここまでで何か質問は?」
「以前の研修でも聞いたので大丈夫で〜す。」
「じゃあ、次は……。」
どこからともなく聞こえるサイレンの音。
『緊急警報発令!緊急警報発令!魔女部隊は至急集合せよ!』
けたたましくサイレンが鳴り響く。どうやら悪魔が出現したらしい。
「まさか……悪魔!?」
「オーデット!これが貴方のA號初出動になるわよ!」
「了解しました!私、エリカ・オーデット出動します!ノア、行くよ!!」
ユニオンは、騒然となっている。ユニオン中日本支部があるエリアの近くで、悪魔が数体出現したらしい。 二条隊長は、中央司令室へ急いだ。
「アツコ!今の状況は!」
「はい!現在、北区エリアにて巨蜘蛛タイプの悪魔が十数体確認!近隣住民にも被害が出ている模様!」
「至急、B號隊の配備を!」
「はい!」
こうして、長い夜は始まった……。