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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
四章 日常編

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姉と妹

イラスト頂きました。

詳しくは活動報告で紹介しておりますので、気になる方はぜひご覧あれ。

イラスト置き場も更新しました。

2014.11.24



 まだ日も登り切らぬ早朝。

 屋敷の広い庭にて、俺はシオンさんと立ち合い稽古に励んでいた。


 「っせ!!」


 渾身の掌底。

 それをあっさり躱される。

 が、そんな事は想定内。

 俺が一体どれだけシオンさんの戦いを見てきたと思っている。

 そう、この程度の俺の攻撃が当たるなどとは思っていない!

 敏捷も、戦いの経験も劣っているのだ。

 それを補うためには――魔法しかあるまい!

 身体に魔力を帯びる。

 雷の魔法でアシストした動きで素早く反転。

 そのまま回し蹴りを放つ。

 それも躱されたがシオンさんを仰け反らす事に成功した。

 俺の敏捷がシオンさんを捉えられるほどに加速した証拠。


 ――ここぉ!


 素早く軸足を入れ替えて回転の力を殺さないように、魔力と身体の捻りを加えた後ろ回し蹴りを体勢の崩れたシオンさんに放つ。

 シオンさんはその一撃を崩れた体勢に逆らわず後方倒立回転跳び――つまりバク転だが――によって回避した。

 まだまだ俺は驚かない。

 なぜなら俺は誰よりもお姉ちゃんを凄いと心酔しているからだ!

 想定内、想定内!

 宙に浮いて着地する瞬間、それこそが最大の隙。

 これがティルやエクレアなら方向転換等やりようもあるだろう。

 しかしお姉ちゃんにそれはない!

 いや、ティルやエクレアがそこまで回避するのかという問題もあるが。

 ……ティルは別の意味で当たらないと思うけど。

 とにかく俺はこの稽古における最大のチャンスをモノにすべく、雷の魔力を最大限に活用する。

 それは通常では無理な挙動と不可能な加速を生み出した。

 無理やり回転の力を止めて、そこから爆発的な加速で突き刺す如く強烈な前蹴りに移行。

 身体の負荷が大きく少々苦しいが……括目せよ!

 電光石火の雷蹴りいぃぃ!


 「――速い!」


 着地間際のシオンさんが俺の動きに瞠目する。

 もらった!

 ――と、思ったが。


 「――えぇ!?」


 今度という今度は俺もさすがに驚いた。

 シオンさんは空を舞う木の葉のように掴みどころ無く俺の蹴りを空中で受け流した。

 腕で俺の蹴りを受け止め切らずに、捻じって受け流す。

 手応え無し。

 その動き、まるで柳の如し。

 ……空中に浮いたままでその動きですか?

 シオンさんが着地した所で、お互い何となくキリが良いと判断して稽古を終了した。


 「なるほど、速いなアリス。驚いた」

 「このあたしに腕を使わせるとは褒めてやろうと言っても良いんですよ?」

 「はいはい、実際あんたがただの蹴りじゃなくて得意の雷を込めたキックで攻撃してたら終わってたよ」


 シオンさんに魔法防御はないからね。

 俺の攻撃を『受けた』時点で終わりだって事だろう。

 でも。


 「……ちなみに、そこに至るまでの間に何回私の首が飛びました?」

 「3回かな?」


 シオンさんは武器を失ったので、空の手で刀を振るう真似をする。

 そもそも武器なしの組手なんだから、俺が圧倒的に有利なんだよ。

 シオンさんが剣を持っていれば全然違った展開になるだろう。

 やはり接近戦では無理があったか。

 つまりレオニールみたいな相手と純粋な接近戦『だけ』でやり合っても難しいという事だな。

 日ごろの訓練は大事だ。

 それが分かっただけでも有意義な稽古だった。


 「認めます。私の負けです――結婚しましょう、お姉ちゃん」

 「考えとくよ」

 「えー」


 だ、ダメなのか。


 「……私の故郷では自分を負かす相手と出会ったら結婚しろというシキタリがありまして」

 「じゃあ、あたしの前にエルフのおチビちゃんと結婚しなきゃいけないんじゃないの?」

 「ぶー」


 頬を膨らます俺に苦笑しながらシオンさんが頭を撫でてくる。

 わしゃわしゃとやや豪快に、いつも通りに撫でられて目を細める。

 癖になりますなぁ、これ。


 「それに普通の剣じゃ、あんたには届かなそうだ」

 「……」


 確かに俺には身を守る回避以外の最終手段、斥力フィールドがある訳で。

 並の武器で俺に致命傷を与えるのは不可能なのです。

 ……見抜かれていましたか。


 「どうしてレオニールから魔剣を奪わなかったんです?」


 魔剣ライキリ。

 魔法を切り裂くあの魔剣なら、間違いなく俺の首も飛ぶ訳だが。


 「ん~、何かさ、人の武器って感じで興が乗らなかった」

 「その感覚は分かるかも」


 しかしシオンさんにあの魔剣があれば相性抜群、向かうところ敵無しという気もする。

 天敵でもある魔法を打ち破るのだから。


 「ならやっぱりサイラに期待ですね」

 「そうだね。あたしの持ってた剣が特殊で、研究しないと良いのが作れないって考え込んでるよ」

 「サイラにしては難産ですか」


 でもその分凄い剣――刀――が生まれそうな気がする。

 それはともかく。


 「じゃあ稽古も終わりましたし、お風呂にでも入って、ご飯を食べて、お出かけしましょう、お姉ちゃん!」


 ピクニックに良い天気ですよ!


 「相変わらずあんたには仕事という発想が無いんだね……」


 やる時はやる、それで良いのです!

 したり顔で頷く俺に、シオンさんはため息を吐いた。






 遊ぶと一口に言っても何をすればいいのやらという問題である。

 とりあえずという事で王都を気ままに散歩中。

 何気なく歩いている時に名案が思い浮かぶのはよくある事だし。

 シオンさんがある提案をしてきたのはそんな時だった。


 「陣取りゲーム?」

 「ああ、前にイリアと話してたんだけどね。何チームかに分けて陣取りするゲーム。フィールドは近くの山なんかでやるといいんじゃないかな?」


 なるほど、陣取りゲーム。

 サバイバルゲームの様な感じか?

 面白そうかも!


 「チーム分けから熱くなりますね!」

 「そうだねぇ、メイドの皆もいるし、大将をあたし等の仲間内から選んで本格的に競うと面白いかなって思ってね」


 なにそれ熱い!


 「指揮の訓練にもなってちょうどいいしさ」

 「なるほど、お姉ちゃんは私を怠けさせない様に色々考えている、そんな配慮が見え隠れします」

 「気づいてくれて何よりだよ」


 これが家族か。


 「でもそれは面白そうです。負けられない戦いの予感」


 ルールはまだ分からないけど、指揮が要か。

 指揮、となるとクランの右に出る人間は居ないんだよね。

 いや、クランがそんな暇つぶしイベントに参加するとも思えないけど。


 「大将副将の2人ペアに、メイドの皆を付けてチームにしようかと考えてるんだけど」

 「なるほど」


 俺、イリア、シオンさん、サイラ、ティル、クラン、エクレア、エイム?

 これで4チームになるな。

 ティルとクランが参加不透明だから、3チームかもしれないけど。

 それ以前にあの2人の参加って、反則かと。


 「……ん? 2人ペア?」


 ……絶対に組み合わせてはいけないペアが何組かある気がする。

 高確率でそれに絡む問題児が居る気がする。

 いやしかし、この中のどのペアが最強なのか興味深々だよね。


 「私たちの絆を見せつけてやりましょう、お姉ちゃん!」

 「別にアリスと一緒のチームとは言ってないけどね」

 「ま、またまたぁ~」


 お姉ちゃんまでエクレアみたいにならなくても良いんですよ!


 「私はお姉ちゃんと一緒に居るだけで満足なんですが」


 隣を歩くシオンさんに主張してみる。


 「私はお姉ちゃんと一緒に居るだけで満足なんですが」

 「繰り返さなくていいから」


 この余裕である。

 だ、ダメなのか……?

 そんな不毛な事をやっていると、挙動不審の男が俺たちの前に立ち塞がった。

 シオンさんと顔を見合わせながら立ち止まる。


 「……あの、何か?」


 男は深呼吸をして間を取ると、毅然とした表情で俺に向き直った。


 「――す、好きです! 俺と付き合ってください!!」

 「………………」


 自分の今の表情を鏡で確認してみたい。

 引きつった顔に縦線が入っているんじゃないだろうか。

 姉は微笑ましそうに事態を伺っている。

 ……何か変な事を期待してるんじゃないでしょうね、お姉ちゃん?


 「……あの、私はあなたが誰かも知りませんし、無理です」

 「俺、リックって言います!」


 名乗るな。


 「ちょっと、まだ男の人と付き合う事に興味を持てないので、無理です」


 まだ、じゃないけどな、まだじゃ。


 「俺、待ちます! 俺の本気、見ててください!」


 頼むから、待つな。

 ここはこちらも毅然とした態度が良いに違いない。


 「私には心に決めた人がいるので、無理です。絶対に無理です。諦めてください」


 リックと名乗る男は雷に打たれたかのようにショックを受けた様子で、肩を落とした。

 ……なんだ、この罪悪感は。


 「そう……ですか……なら――俺応援します」


 ……応援?


 「あなたのファンクラブ作って、応援しますからあああああ!!」

 「ちょおっ!?」


 衆人環視で居た堪れない俺たちを残して、リックとやらは雄叫びを上げながら駆けだしていった。

 ……あいつ、この中でよく告白とかしたな。


 「アリス」

 「……はい?」


 思い悩む俺に笑いかけたシオンさんが、手を差し伸べてくる。


 「手でも繋ぐか?」


 目を丸くして姉を見る。

 ど、どういう意味だ?

 また唐突に……

 あの男に触発された?

 何となく子ども扱いされている気もするが……

 だが!


 「姉と妹が手を繋ぐのは世界の真理と言っても過言ではありません。何も間違ってない」


 確信した俺はシオンさんの手を取った――

 いや、取れなかった……


 「……お姉ちゃん?」


 すんでの所で手を引っ込めて、お姉ちゃんがにんまり笑っている。


 「あたしは恥ずかしいから、やっぱりやーめた」

 「もてあそばれた!?」


 なんてこと!

 でも仲睦まじい姉妹にとっては、些細な戯れなんて日常茶飯事か?

 ああ、そう考えると何だか顔が緩むな!

 こういうのも良いかも!


 「もっと私をもてあそんでも良いんですよ、お姉ちゃん! ――あいた!」


 シオンさんの顔がちょっと赤くなって強めの拳骨を頂きました……

 ついでに、周りの人々がざわついていました……

 うん、ごめんなさい。

 舞い上がってました。

 好奇の視線を避けるため、そそくさと通りを2人で駆け抜けて行った。






 場所を変える為とイベントの下見に、魔法を使って手近な山の頂上までやって来た。

 ハイキングのような、そうでもないような、微妙なお出かけである。

 その分、あっと言う間に頂上に着いたけど……

 そして俺は開けた頂上の草原に座り、シオンさんの頭を膝に乗せているという。


 「……うん? 何かおかしいな」


 膝枕である。

 でも俺がされているんじゃない。

 俺がしているのだ。


 「何か……おかしい気がする」

 「そうか? アリスは女らしいし、こういうの似合うと思うけど」

 「……そ、そうですかね? ほら、私って時々そこはかとなく男らしさを出してませんか? 滲み出るような、隠しきれない男らしさを」

 「いや、全く?」

 「――」


 衝撃の回答である。

 これは……喜ぶべき事なのか?

 それとも、喜んではいけない事か?

 もう俺には分からない……


 「……お姉ちゃんって男になりたいとか思ったことあります?」

 「いや、ないね。アリスはあるの? 前に変な事言ってたけど」


 あるというか、そうだったというか……


 「何というか、この世には人知の及ばぬ不思議な出来事があるなぁ、と実感しています」

 「ふ~ん?」


 曖昧に答える俺にシオンさんは不思議そうな視線を向けてきた。

 何だかそれがくすぐったくて、照れ隠しにシオンさんの髪を撫でる。

 いつもと逆で、妙に新鮮だ。

 ふふん、この妹様の包容力を見るが良いです、姉よ。

 しかしこのまま行くと男で過ごした時間を圧倒するほどに女の時間が長そうだ。

 エルフという寿命にしても。

 ……ふむ、ま、深く考えようが思い悩もうがどうしようもないや、今更。

 今はこの和やかな空気を満喫しよう。

 気持ちが落ち着くねぇ。

 なんて考えていたら、シオンさんに下から両手を顔に添えられた。


 「お姉ちゃん?」

 「そういう穏やかな顔、良かったって思うよ。色々思い悩んでる事も多そうだったからさ」

 「……リンナルの街に居た時は、正直そうです」


 今だって別に解決してる訳じゃない。


 「でもあの頃の私より、ちょっとはマシになったって思ってます、今は」


 精神的にも、実力的にも、仲間に恵まれたことも。


 「そうか。単なるあたしの妹で居た時とは大違いだ」


 シオンさんがそう言って懐かしむように笑う。


 「今だって、単なるお姉ちゃんの妹ですよ、私は」


 何か色々と立場が付いてきている気もするけど。


 「あんたの走る速さに付いて行くのは大変だよ、このお調子者」

 「おだてられると何処までも走りますよ~、私は」

 「ははっ!」


 笑いながら、シオンさんが両手を大の字に広げて気持ち良さそうに寝転がる。

 しかし仰向けに寝ても重力に引っ張られないそのお胸は……


 「アリス」

 「み、見てません!」

 「?」

 「……何でもないです」


 どうしたって目が行く自分が恨めしい!


 「あたしの夢はさ、深緑の森を抜けて妖精郷に行く事なんだ」

 「妖精郷?」


 確かいつだったかおとぎ話の例えでイリアが言ってたな。


 「そうさ、誰も行ったことのないおとぎ話みたいなもんだけどね」

 「あるんですか? 本当に」

 「それを確かめに行くんだろう?」

 「なるほど」


 それは……心躍る夢ですね!


 「……私も、お姉ちゃんの夢を一緒に見たいです」

 「ああ、もちろん手伝ってくれるんだろう? 世界一の魔法使い様」

 「仕方ありません、私のお姉ちゃんの頼みですからね」

 「生意気」

 「えへへ、これぞ妹特権ですし」

 「はいはい」


 このもたれ掛れる空気最高。

 俺、その夢が叶ったらシオンさんと結婚するんだ。


 「……」

 「どうしたのさ?」

 「いえ、自らに大きなハードルを課してしまいました」


 俺は死なないよ?


 「妖精郷か……」


 目標が出来ちゃったな。

 その日は2人で静かな時間を過ごした。






 ――そして。


 「足、足しびれた……!」

 「世話が焼けるよ、ほんとに」


 帰りは姉に負ぶって貰って下山しました……


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