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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
一章 異世界転生編
8/170

魔法

 何処となく観光気分の俺は、まず遺跡の周りを歩いてみた。

 遺跡は好きだ。

 ロマンがある。

 日本の古墳とか、万里の長城とか、マチュピチュとか、世界一周遺跡巡りの旅とか行ってみたかった。

 なのでぜひ、この異世界では思う存分廻ろうと思う。


 「ふ~ん? それほど大きな規模じゃないんだ」


 歩いてみると、外周は5分くらいで回れる。

 徒歩5分。

 ややゆっくりと確かめるように歩いたから、恐らく250メートルくらいの外周だろう。

 運動場の200メートルトラックとほぼ一緒くらいかな?

 入る前に規模を確かめようと思ったんだが、これなら迷う程ではないだろう。

 行ける……気がする。

 危なくなれば、すぐに引き返せばいいのだ。

 ここまで来て、やっぱやーめたって、そんなこと出来る?


 「ふふん、生憎、私はそんな臆病者じゃないんですよ」


 生憎なー。

 根拠のない自信に後押しされて、当たりをつけていた遺跡正面の魔法陣の前に来た。

 魔法陣に魔鉱石を使っているのだろうか?

 淡く発光している。

 これが入口だろうか?

 遺跡の内部に入る出入口、というものが見当たらなかった以上、そう考えるのが自然だ。

 異世界的に。

 ここから遺跡内部に転送されるに違いない。

 ……うん、大丈夫だよね?

 罠とかじゃないよね?

 魔法陣に入った途端、地獄の業火に焼かれたりしないよね?

 ここに来てやや及び腰になりながら、俺は魔法陣にそっと足を踏み入れた。

 魔法陣が優しく光を放つ。

 良かった、目が眩むほど明滅したりしないで。

 とか思っているうちに、魔法陣の外の光景が見えなくなる。

 一面白の淡い光に包まれて、数秒で薄らと弱まってくる。

 外の光景は……まるで変わっていた。

 屋内である。

 石造りの壁自体が魔鉱石なのか、薄緑色に光っている。

 とにかく、明らかに遺跡内部だ。


 「まさにファンタジー」


 妙に感心した。

 魔法陣から出て、辺りを確認する。

 ここは魔法陣のみがある部屋のようだ。

 部屋の出入り口から伸びる通路の先が気になる。

 そっと顔を出して、廊下の左右を確認した。

 右、突き当り。

 左、クマさん。


 「……」


 ん?

 もう一度確認しよう。

 右……すぐそこで廊下の突き当たり。

 左……さっきよりアップのクマさん。


 ルインベアーLV10


 エネミーステータスが頭の中に浮かぶ。


 「ちょおお! LV10!?」


 既にこちらをタゲッちゃってるクマさんが廊下狭しと突進してくる。

 無理無理無理無理!!

 どんなホラーだ!

 パニック映画も真っ青だよ!

 あんな涎垂らしながら突っ込んでくるクマさん相手に戦おうという人類が居るなんて有り得ない!

 反論は認めない!

 そんな訳で、戦術的撤退!

 素早く部屋の中に戻った俺は、魔法陣の上に急いで乗った。


 ―――しかし何も起こらなかった!


 「今そんな冗談本当に求めてないからああああああああ!!!!」


 何だこのポンコツ魔法陣、壊れてんのか!?

 何!?

 どういうこと!?

 ……まさか!

 入口と出口は別ってことか!?

 ここから出るには、出口となる魔法陣を探さなければいけないと、そういうことか!?


 「グルルルルル」


 部屋の出入り口に、クマさんがのそっと陣取った。

 ここに、引くことも行くことも出来ない、背水の陣が完成した。

 一瞬、死んだふりしようかと思った。

 でもそれをしたら、本当に死にそうなので止めておきましょう。

 俺は冷や汗を流しながら、雷のロッドを握りしめた。

 こいつの雷撃を叩きこめば、クマと言えども無傷という訳にはいくまい。

 あの前足を掻い潜って、一撃を食らわすんだ。

 やれるやれる。

 自分に言い聞かせる。

 集中しよう。

 多分、当たったら即死だ。

 現代日本の知識で言っても、例えばツキノワグマの前足の攻撃は牛馬の首を粉砕するとか聞いたことがある。

 どこかの格闘家だか有名な人に、熊を倒せますかって質問したら笑って人間が熊に勝てる訳がないと断言されたとか。

 敢えて言おう、それは正しいと!

 汗が頬を伝う。

 クマが獲物を前に、仁王立ちした。

 こ、これが噂のクマの仁王立ちか。

 実際対峙すると、クマ対処法の何だかんだとか、まるで浮かんでこない。

 とにかく初手!

 それが全てだ。

 そう、シオンさんのように相手の攻撃を読むんだ。

 息も止めて、その時を待つ。

 クマの重心が沈んだ……気がした。

 次の瞬間、前足の攻撃が振り下ろされた!


 「―――っ!!」


 予備動作を察知していた俺は、一瞬の差で転がるように避けて懐に飛び込んだ。


 「お願い!!」


 雷のロッドを、くまっ腹に叩きこむ。

 ロッドの魔法石から閃光が走った。

 雷撃、成功!!

 懐は怖すぎたので、すぐに離れる。

 祈るような気持ちで距離を取って様子を見る。


 「グ、ルルル」


 クマさん、健在!

 多少のダメージはあるだろうが、致命傷には至っていない。

 若干警戒するように、こちらを伺っていた。


 ―――率直に言うと、絶望しかけた。


 偶々初撃で雷撃が発生したが、次の雷撃を出す為には、およそ5回の攻撃を必要とする。

 無理だろう。

 5回も掻い潜って攻撃するのは……無理だろう。

 そもそも何で俺、こんな所に来た?

 何を調子に乗って、1人で遺跡になんて来たんだ?

 魔法が使えるからって言ったって、試す前に入ることもなかった。

 少し気分が高揚していたのは違いない。


 「……使うか?」


 使えるだろうか?

 当てにするには状況が詰まりすぎているが。

 しかし本来遺跡に来るのが目的じゃなくて、魔法を試すのが今夜の目的。

 ならばここで披露してやる。

 というか、やるしかないだろう。

 もはや泣言を言っている場合じゃない。

 死にたくなければ、やってみせろ!

 頭の中でステータス、魔法の使用をイメージしてみる。

 必要な情報が理解できた。


 サンダー:詠唱10秒、クールタイム10秒


 この際、クールタイムはどうでも良いだろう。

 詠唱で10秒かかるんだから、一発撃つので精一杯だ。


 (サンダー、発動)


 念じて、その時を待つ。


 カウントダウン、10


 詠唱開始を感じると共に、身体が熱くなる。

 クマが、改めて攻撃の意志を見せ始めた。

 じりじりと間合いを詰めてくる。

 刺激しないように動きを合わせて限界まで、後ろに下がる。

 壁に背中が付いた。

 さらに間合いを詰められる。

 相手の間合いに、ぎりぎりまで入りたくない。

 壁を伝って、角の方まで逃げる。

 出入口から一番遠い対角線の隅。

 正真正銘逃げ場無し。

 ゆっくりと熊が獲物を追い詰めるように近づいてくる。

 もう、届く。

 相手の距離だ。

 クマの重心が沈む。


 カウント、5


 魔力のせいなのか、身体が淡く光っている。

 クマが飛びかかってきた。

 何とか尻餅をつくようにして、クマの突進をやり過ごした。

 狙った訳ではないが、クマの腕が角の両壁につっかえて、上手く振り回せない。

 ならばとクマは自慢の牙で噛みつきに来た。

 雷のロッドを口に突っ込んで、何とか牽制。

 しかし力が違いすぎる。

 ロッドを力任せに振り払われる。

 これで、完全に詰んだ。

 噛まれたら、俺の首なんて千切れるだろう。

 俺は両手をクマに突き出した。

 ―――いける!


 カウント、0!


 「天を裂く一筋の光となって、我が敵を撃て―――サンダー!!!」


 まばゆい雷光がクマの身体を貫いた。

 雷糸が部屋中に残滓を引いて、帯電する。

 時が止まったかのように、俺とクマは動きを止めた。

 手応えは、あった。

 そろりと伺うと、クマの目は裏返り、口元からはだらしない涎がぽたぽたと毀れていた。

 それでもクマは、俺の方に覆いかぶさってくる。


 「ひぃっ!?」


 無理ですか!?

 LV4の魔法じゃ無理ですか!?

 頭に浮かんだ通り、あんなに恥ずかしい詠唱まで披露したのに、あんまりだ!

 涙目になって、もう目を瞑った。


 「…………?」


 いつまで経っても噛まれないな、と薄目を開けると、クマの姿は何処にもなかった。

 代わりに、ドロップアイテムが落ちていた。


 ―――クマ耳。


 「……どうしろと?」


 クマ耳を拾って、俺は途方に暮れた。

 割ともっふもふしていた。

 ……出口まで行けるかなー?


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