表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
一章 異世界転生編
7/170

森の遺跡

 ウッドロビンLV3


 その後、魔物と戦いながら、俺とシオンさんは遺跡に向かった。


 「はっ!」


 森の中は結構エンカウント率が高い。

 もう幾度目かの、戦闘中。

 シオンさんが軽く攻撃してタゲを取り、俺が止めを刺すという連携。

 タゲを取るっていうのは、敵の攻撃対象に認定されることを言うんだけど、まぁ脅威が一番高い相手を狙ってるって考えれば、違和感ないな。

 現状、俺なんて戦力外だし。

 そしてこの、ウッドロビンという相手。

 なんと、矢を放ちます。

 魔物のくせに、武器を持つんじゃないよ。

 切り株から枝の腕が生えてて、そこに自作? の木材を使った木の弓矢を持っている。

 はっきり言って、怖い事この上ない。

 飛び道具って、俺の世界じゃ最強ですよ?

 剣じゃあ銃には敵いませんし。


 ―――しかし。


 しかしですよ。

 うちのお姉ちゃんは、飛び道具などまるで問題にしません。

 今も矢をあっさりと上体を引いて躱しました。

 何故そんなことが出来るのか、という俺の質問に、シオンさんはこう答えました。


 「え? だって構えが見えたら、後は狙ってる点を見切って避けるだけでしょ?」


 意味が分かりません。

 例えば、俺の世界でマフィアだかヤクザだとかが銃を目の前で構えたとしましょう。

 銃なんだから、もちろん真っ直ぐにしか飛ばないでしょう。

 眉毛の太い人みたいに、G線上の射撃とかしてくる人は知りませんが。

 とにかく、銃が狙っているポイントが分かれば、後は引き金を引く瞬間に躱すだけだと。

 彼女はそう主張しています。


 「敏捷5、か」


 恐ろしいものの片鱗を見た気がするぜ。


 「アリス! ぼけっとするな」

 「は、はいっ」


 慌てて切り株の後ろに回り込んだ俺は、雷のロッドで攻撃する。

 5回に1回くらいの確立で雷撃が出る。

 今回はちょうど雷撃が発生し、首尾よく切り株を倒せた。


 「ふぅ」


 恐らくだがこの雷のロッドも高品質だとかになると、もっと高確率で雷撃が出るようになるんだと思う。

 武器は大事だ。

 ドロップアイテム、薬草が出たのでそれを拾う。

 そこで俺は怠りなく、後ろを振り向いて警戒した。


 「ほっほ~う? あたしがあんたを刺すと? そういうことかな? その態度は?」


 東方剣(高品質)をとんとん、と手に乗せながら、シオンさんが黒い笑顔を向けてきた。


 「や、やだなぁ。冒険者の心得を実践してるだけじゃないですか」


 お茶目はほどほどにしよう。

 親しき仲にも礼儀あり。


 「まぁいい。じゃあ、今日はそろそろ帰るよ」

 「え? まだ遺跡に行ってませんよ?」


 今は遺跡のある森に入った所で、遺跡の姿は影も形もない。


 「いいんだよ。焦る理由はどこにもないし」

 「まだ行けます」

 「無理」

 「何でですか? 日も落ちてません」


 シオンさんが俺を見て、大きくため息を吐いた。


 「今のあんたを見れば、誰だって無理って言うよ」

 「……」


 実は俺が大泣きした後、シオンさんは切り上げようとしたのだが、頑なに断ってここまできたという経緯がある。

 さすがに2度目は、突っぱね難い。


 「……分かりました」


 こうして俺とシオンさんの初日の冒険が終了した。

 帰りに草原でエンカウントした敵は、何も言わずにシオンさんが切って捨てた。






 家に帰って、夕食を食べて、お風呂に入って、昨日からおばさんに用意してもらっている部屋(なんと俺専用)のベッドで、俺は体育座りをしていた。

 分かりやすく落ち込んでいる。

 この手にかけた感触が、未だに忘れられない。


 「魔法が使えれば、こんな感触なんて無いのに……」


 いや、違うか。

 それじゃあ、ミサイルのボタン一つで戦争が終わるゲームみたいな感覚になってしまう。

 きっとこの感覚は味わうべきものだ。

 現代日本から来た俺には酷なことだが。

 そこでふと、今日の戦果を確かめてないことに気づいた。

 ステータスを見る。


 名前:アリス

 種族:ハーフエルフ

 年齢:15歳

 性別:女

 職業:見習い魔法使い

 LV:4


 お?

 LV4?

 そんなに上がってたのか。

 全然気づかなかった。


 スキル:なし

 魔法:初期魔法選択可


 「……え?」


 魔法:初期魔法選択可


 思わず2度見した。

 魔法、使える?

 俺は焦る気持ちを押さえながら、魔法設定という項目に進んだ。


 ファイア ブリザー サンダー


 この3種の中から1つを選ぶ、そういうことらしい。

 なるほど面白い。

 これなら、この世界の魔法使いには個性というものがあるはず。

 俺はどうするか?

 と、自分で問いながら、実はもう決めてある。


 サンダー


 これに決めた。

 理由?

 好きだから。

 以上。

 何か文句ある?

 ともかく、これで初期設定魔法を選択した俺は、サンダーを使えるようになった。

 ……はず。


 「試したい……」


 現金な奴だと思う。

 さっきまで沈んでいた心に火が灯った。

 こういう時、俺はじっと出来ない性分だ。

 部屋着から装備に着替え直し、こっそり部屋を出る。

 シオンさんの部屋からは明かりが漏れていた。

 そっと通り過ぎる。

 リビングにはおっさんがいた。


 「ん? アリスちゃんかい? ……どうした、そんな恰好で」


 おっさんが俺の恰好を見て、明らかに訝んだ。

 ……ぬぅ、俺を邪魔するか、おっさん!

 やらせはせんよ!


 「ニコルさん」

 「なんだい?」

 「黙って通してください」

 「そりゃあ、駄目だろう。今のアリスちゃんは外に出るべきじゃないと思うね。そもそももう日も落ちてる」


 こんな押し問答してる場合じゃないって!

 シオンさんに見つかったらアウトなんだよぉ!

 俺はシオンさんに、何か頭が上がらないんだよ!


 「……通してください」

 「駄目だね」

 「……おとうさん」


 びくっ、とおっさんが身体を震わせた。


 「通してください、おとうさん。黙って、今すぐに」

 「……」

 「でないと、もうおとうさんの事なんて、おとうさんなんて思いません」

 「通りなさい」


 変にキリッとした顔でおっさんは道を開けた。

 おっさん、ごめん!

 後、俺の中ではおとうさんじゃなくて、おっさんだから!






 家の外に出ると、やはり辺りは真っ暗になっていた。

 街灯もあるにはあるが、如何せん数が少ない。

 ちなみに街灯や家で使っている明かりはランプじゃなくて、魔鉱石という光を放つ特殊な鉱石だ。

 どっちにしろ数が少なすぎて、闇を照らし切れてはいないが。

 現代日本の感覚とはまるで違う。

 まぁ、その分星とか月とか(月?)、かなり明々と輝いて見えるんだが。


 「草原はもう越えられる……遺跡、行けるか?」


 怖い物知らず、だとは思う。

 今の自分は正常な判断が出来ているのか、いないのか。

 それは周りの人しか分からない。

 そうして俺は、こっそりと街を出た。

 街を出て、草原でエンカウントした敵は適当に振り切って、森までたどり着いた。

 意外と視界が効く。

 月明かりだけでも相当明るい……ような気がする。

 いや、見えすぎる。

 これは見えすぎ。


 「エルフの目?」


 でないと、以前の俺と比較して夜目が違いすぎる。

 まぁ、俺はハーフエルフだが。

 しかしこれなら、例え森の中でも視界は確保できる。

 不意を打たれることはないだろうし、暗闇に混乱して前後不覚に陥ることもない。




 ―――――そんなことを思っていた時期が、俺にもありました。




 「う~~~~ん、ここはどこなんでしょう?」


 森に入って間もなく。

 道に迷いました。

 森、舐めてました。

 見えるとか見えないとか、そんなことは関係ねぇ。

 自然を舐めたらいかん。

 そもそも遺跡がこの森にあるって聞いただけで、どこにあるのか分かってないじゃん。

 思いつきで行動すると、碌なことにならんな。

 そもそも目は見えてるけど、道に迷ってるってことは、これはもしかして同じ場所をぐるぐる回っているのだろうか?

 聞いたことのある話だと、樹海で迷うと20メートルも真っ直ぐ進めないとか。


 「う~~~ん」


 迷った時の心得その1。

 検証:左手の法則。

 その辺りの木々に左手をつけながら進むと、いつかは森を抜け出せる。


 「だが断る!」


 何故なら、暗い木に手なんかついちゃったら毛虫とかいたらどうすんの?

 無理!


 心得その2。

 検証:トレモー・アルゴリズム。

 自分の通った後に目印をつけて、しらみつぶしに森を踏破する。

 土にロッドで目印をつけることは出来る。

 しかし!


 「私にはそんなことをする体力がありません!」


 体力1、舐めんな!


 しかし困ったな。

 敵とはなかなか遭遇しないけど、困ったな。

 てか、魔物は夜に活性化するっていう都市伝説嘘でしょう?

 寝てますよ、ほらそこの木陰でウッドロビンが。

 わざわざ寝た子は起こしませんとも、ええ。

 真っ暗な静かな森の中、適当に歩いていく。

 田舎育ちだから、実は暗闇に耐性があります。

 しかもこの夜目。

 そう怖くはありません。

 どれくらい歩いたか。

 夜が明けたら、シオンさんに殺されるんじゃないかと別の恐怖が頭を過り始めた頃、ついに俺はそれを見つけた。


 「遺跡……発見!」


 森の外に出たのかと思った開けた場所に、古ぼけた建造物が姿を現した。

 ……ところで俺の当初の目的は遺跡に来ることだったっけ?

 ま、いっか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ