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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
三章 冒険者編

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迷宮攻略

 この世界には魔力回廊という迷宮があるらしい。

 入る度に道順も敵も変わるという、結構ドキドキ仕様のラビリンスだ。

 一体誰が作ったのか、元々あったのか、神様のいたずらか、それは誰にも分からない。

 ……まぁ、俺がこうしてこの世界に居る事も、謎すぎるんだけどね。

 ただその最奥にはレアな素材があったりと、いつの時代も一攫千金を夢見る冒険者の心をくすぐってきた魔境である。

 足元をすくわれる冒険者も大勢いるので、血に飢えた迷宮と言い換えても良い。

 そしてまた、そんなアリジゴクに挑もうとする冒険者が現れた。


 「私です」

 「?」


 イリアが、どうしたのですかお嬢様?

 でもまぁ、お嬢様ですしね、という顔をして何事も無かったかのように歩き出す。


 「……馴れって怖い事だと思いませんか、イリア?」

 「それだけ仲良くなれたということですわ、お嬢様」


 構って欲しいならそう言ってください、という顔だし!

 今そんな優しい目で見るのはやめて!

 ……ふん、もういいですー。


 「ふふ、可愛らしすぎですわ」


 歩調を早めた俺に、後ろから笑い声が届く。

 手の平感が凄い……


 今日は王都の近場にある魔力回廊の下見に、イリアと二人で来ていた。

 王都から東の草原地帯、そこにその遺跡はある。

 ギルドランクは地道に依頼をこなした結果、もうすぐCになろうかという所。

 ただ、稼ぎ的にはEからDくらいではそこまで劇的には変わらない。

 その二つのランクなら、大体稼ぎは一回の依頼で五百ルークから三千ルークまでという所だ。

 三千ルークなんていう額は、早々ないけども。

 そして一回の依頼が一日で片付くものでもない。

 その依頼をこなす為の現地へ赴く経費なんかも自腹な事を考えれば、これはもう、そう良い商売ではない。

 クランから貰った大金があるから貯蓄はまだ余裕があるが、貯金が出来ない。

 今、そんな状況。

 それに装備を作っていると、マイナスになる。

 もっとランクが上がればそうでもないのだろうけど、危険も増すだろう。

 まぁ、そこはハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンと、上手く出来ている。

 しかし現状、まだまだ稼ぎが少ないのは事実。

 なので、ちょっと小金を稼ごうかと、たまには思うのが人情である。


 「イリア、迷宮は各階に出口への転送陣があるものなんだよね?」


 子供みたいなことはやめて、歩調を合わせてイリアに問う。


 「そう言われています。ただし、当てにはできません。自力で出口まで帰る事を念頭に行動するのが宜しいかと思います」

 「なるほど」


 帰りを気にせずに限界まで進んだ所で、転送陣無し、なんて目も当てられない状況だものね。


 「すると、敵の事も考えて戦力は安心できるほど揃えて、非常食とかも持ってた方が良いよね?」

 「そうですね。ただ、迷宮自体は地下十階がいつも最下層だということですので、日を跨ぐほど時間がかかるという訳でもありません」

 「ふ~ん、それでも皆、中々最下層までたどり着けないって事は、敵が強いの?」

 「はい。地下十階には、その迷宮の主が待ち構えています。それこそ欲を出した冒険者が返り討ちに合うなど日常茶飯事ですわ、お嬢様」


 にこにこしながらイリアが注釈する。

 分かってます、分かってます!


 「……しかしそこに迷宮がある。理由はそれだけで十分なのです!」

 「巻き添えで死ぬのはゴメンですわ、お嬢様」

 「で、ですよねー」


 良い笑顔で、ぐさっと刺された……


 「くすっ、冗談です。わたくしは誓っております。生きるも死ぬも、ご一緒しますわ、お嬢様」

 「イリア……」


 あなたって、下げてから持ち上げるの上手ですよね……

 まぁ、死なせませんけどね。






 草原をしばらく歩くと、目的の遺跡が見えてきた。

 その魔力回廊の遺跡の前には、数組の冒険者が集まっている。

 実際お金だけじゃなくて、経験値稼ぎにも魅力があるのだろう。

 しばらく見ていると、冒険者の一団が出たり入ったり、なかなか盛況なようである。


 「これって、一度に一組しか入れない?」

 「そんなことはありません。それぞれ別のラビリンスに送り出されているのです。中で別のパーティがすれ違うことはありません」


 へぇ?

 異次元空間みたいな。


 「あ、お姉ちゃん! ……に、ソルトさん」


 そろそろ帰ろうかなぁ、と思った所で、その二人を発見してしまった。

 ちょうどラビリンスから出てきた所のようだ。


 「――お、アリスにイリアか」


 向こうもこちらに気づいて、手を振りながら歩いてくる。


 「お姉ちゃんも、ここに来てたんですか?」

 「ああ、最近はずっとここに来てるな、ソルトの付き合いが多いけど」

 「……余計なことを言うな」


 黒ずくめがぶすっとした顔で釘を刺してくる。

 あなた、いつも機嫌が悪そうで大変ですねぇ。

 その眉間、そのうち皺にでもなっちゃうよ?


 「顔面マッサージしてあげましょうか、ソルトさん?」

 「おまえはいつも……一体何を言っている」

 「親切心なのに」


 伝わらないって悲しい。


 「お嬢様ですから」

 「アリスだしね」


 二人が深く頷き合っていた。

 ……何か貶められているような。


 「まぁいいですけど、二人だけで来るには危なくないですか?」

 「奥までは行ってないから、そうでもないさ」


 どうってことないよ、とシオンさんが答える。

 お金というより、経験値稼ぎか。

 ……そういえば、サイラが何か言っていたような?

 ま、いっか。


 「……あ! それより、ソルトさん! あなたちょっとリンちゃんの事をほったらかし過ぎなんじゃないですかね!」

 「それは……すまん」

 「すまん!? それだけ!?」

 「いや……気にはしている」

 「してませんよ! 伝わりませんよ、あのくらいの子に、そんなんじゃ!」

 「……すまん」

 「すまん!?」


 そう云う、とりあえず謝っとこうというのが一番腹が立つんです!


 「どうしようイリア、すっごく面白いんだけど」

 「そうですね、お姉様。相変わらず可愛いすぎですわ、お嬢様」


 ここぞとばかりに黒ずくめに説教できた俺は、ある程度すっきりした。






 説教の効果なのか、何なのか、黒ずくめがリンちゃんを迎えに来て、久しぶりに自分たちの借りている家に帰って行ったのは昨日の事。


 「でし、なんでいっしょにこないの?」


 と、その際、心底不思議そうにリンちゃんに言われたのだけど。

 何故俺が一緒に行かないと行けないの……

 小さい子にこそ、誤魔化しじゃなくて事実を伝えることが大事だよね?

 よし!


 「それは、この人に甲斐性がないからですよ、リンちゃん」


 と、教えておいた。


 「む~、お兄ちゃん! ちゃんとかいしょうもって!」

 「……」


 黒ずくめに、凄い目で睨まれました。

 ゴメンネー。

 そうして、元気な我が家の天使が何度も振り返り、ぐずりながら帰って行きましたとさ。


 寂しさはあるものの、まぁ、いつでも遊びに来ればいいのです。

 一応、あんな目つきの悪い男でも家族なんだろうし、たまには一緒にいないとね。

 うん……家族、だよね?

 犯罪者じゃないよね?

 ……様子は定期的に聞いておこうか。

 食事とかも不安だし。

 最悪の場合、保護します。

 家も広いし。

 いやほんと……こんな広くて豪華な家を使わせて貰えるなんて、有難くって。


 『家など誰かが住んでいないと、痛んでしまうもの。寝かせておくよりも、アリス達に使って頂いた方が有益ですわ』


 とは、クランの言葉。

 クランか……


 「――お嬢様」

 「はいっ!」


 急に呼ばれて、私室のデスクから跳び上がる。

 振り向くと、開きっぱなしのドアの前にイリアが立っていた。


 「妄想中に申し訳ありません、何度もお呼びしたのですが」

 「……い、言いがかりも甚だしいですが、どうしたんです? 中に入って」


 開きっぱなしのドアの前でちゃんと待つ所が、イリアだよねぇ。

 丁寧且つ美しい所作で、イリアが入ってくる。

 たおやかな子。


 「報告が三点あります。良い知らせと悪い知らせ、どちらからお話しましょう?」

 「え? 悪い知らせ?」

 「了解しましたわ」


 いやいや、そっちから話してってことじゃなくってね!?

 まぁ良いけど……


 「バティ様から、注文の防具の納期が遅れそうだと」

 「ああ、やっぱり難しいの?」

 「いえ、単にインスピレーションを刺激したいということで、お嬢様に水着姿になって欲しいと駄々をこねております」

 「……」

 「ちなみにビキニだそうです」

 「却下で」

 「では、そのようにお伝えします」


 いいからさっさと仕事しろ。

 採寸はイリアにして貰って、ちゃんと数値は渡してるんだから。


 「二点目は、お手紙をお預かりしております、こちらです」

 「手紙?」


 差出人を確認すると、エイムだった。

 なんだろ?


 『――そろそろ仕事ちょうだい、マスター。誰か消したい人居ないの?』


 一読して、手紙をデスクにそっとしまう。


 「……頭痛くなってきた」


 暗殺者の感覚って……

 催促してくる暗殺者って……


 「では最後、良い報告なのですが、それはご本人から話して貰いましょう」


 イリアがすっと身体を引くと、入口際で隠れる様に覗いていたサイラと目が合った。


 「サイラ?」

 「は、はいっ! あの、イリアさんの装備が出来ました! えと……ちょっと、自信作ですにゃ」


 照れたように控えめに、そして期待と不安を込めてこちらを見つめる熱い視線に、自然と笑顔になる。

 サイラはいつだって、俺の心の清涼剤だなぁ。


 「ご苦労様、とっても楽しみです」

 「~~はいです!」


 人の嬉しそうな笑顔を見るのは、いつだって良いものだね。






 という訳で、ラビリンス攻略に挑む日がやって参りました。

 本日はお日柄もよく、草原を迷宮に向かって歩くのは、むしろピクニックのようで気持ちがいいです。




 ――――後ろを気にしなければ。




 「ふん、エクレアが手伝ってあげるんだから、ラビリンスなんて余裕ね」

 「マスター、この紅いの煩い」

 「なんですって!? エイムって言ったわね!? 燃やすわよ!」

 「背中に注意した方がいいかも」

 「やる気!?」

 「弱い犬ほど、よく吠える」


 …………

 素晴らしく、後ろが賑やかです。

 あれか。

 喧嘩するほどってね?

 そうだよ、うん、きっと。


 「良い天気だね、イリア」

 「ふふ、現実を直視しましょうね、お嬢様?」


 ……このパーティ、不安だわー。

 後ろに時限爆弾がセットされているような。

 なんで出会って早々、かみ合わない雰囲気を醸し出してるの?


 「ま、なるようになるさ」


 どこまで器が大きいんですか、お姉ちゃん……


 「何を間違えたんだろ……」


 エクレアにクッキー持って行ったついでにラビリンスに誘ってみたら、OK貰えたのは良かった。

 ちょっと本格的な冒険だから、エイムにも声かけようと思って初仕事を頼んだのも、安全を考えれば間違いではあるまい。

 ……催促もされてたし。


 「パーティ編成はとてもバランスが取れていると思いますわ、お嬢様」

 「そうだね、あたしとイリアが前衛。紅と青のお嬢ちゃんが後衛、アリスが万能と」


 さりげなく私を褒めましたか、お姉ちゃん!

 もっと褒めても良いんですよ!


 「でもあんまり前には出るなよ、アリス。虚弱なのは変わらないし」

 「お姉ちゃんに言われたくありませんよ!?」


 毒気の無い笑顔でシオンさんが笑う。


 「くす、そうですわね。前はわたくしとお姉様で十分かと思います。お嬢様はどちらかというと、後ろを宥めておいて下さい」


 それ一番やりたくない役じゃないの……

 後ろを振り返る。


 「マスター、こいつ消す? 今なら無料でいいかも」

 「あんたなんかに消されるほど、エクレアは弱くないんだから! 上等よ! その挑発、受けてあげるわ」

 「受けなくていいですから……エイムも、やめなさい」

 

 一万ルークの経費が発生しているのだから、この冒険、今更手ぶらでは帰れない。


 「……マスターがそういうなら」

 「……アリスに免じて」


 本当にしぶしぶ、といった様子で顔を背ける二人。

 ねえ、どうしてそんなに仲が悪いのに、二人並んで歩いてるんですかね?

 本当は、仲良しなんですよね?


 「一番後ろを歩くのは、習性。さっさと前に行け」

 「あんたなんかが一番後ろにいたら、敵と戦うどころじゃないのよ!」

 「……」


 ……すごく頭痛いデス。

 万全を期しただけだったのに、おかしいなぁ。


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