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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
一章 異世界転生編
6/170

命を狩るということ

 俺とシオンさんは街を出て、最初に俺が居た丘を越えた先にある森の遺跡に行くことになった。

 どうしよう!

 わくわくするな!


 「お姉ちゃん、遺跡には魔王がいるんですか? 倒したら私たち英雄ですね! どうしよう!?」

 「とりあえず、薪も割れないあんたが心配する必要のないことだけどね」


 いいんです!

 俺は腕力などに頼るつもりはありませんし!


 「もうすぐ街を出るから、その前にパーティを組むよ」

 「ん、パーティ?」


 パーティを組むって、今一緒にいることを指すんじゃないのか?

 俺がいつもの分からん、という顔をするとシオンさんが笑った。


 「ステータスに申請する項目があるだろう? それでパーティ勧誘すればいいんだ。最大6人までパーティを組むことが出来る」

 「へ~~」


 しかし、ステータスが見えたり、パーティに申請があったり、まるでゲームのようだけど異世界は違うな、やっぱり。

 んん?

 それとも、これはやっぱりゲームで、夢なのか?

 う~~~ん。

 ……確かめてみる必要があるな。

 確かめると言っても実際、どう確かめたら良いものか。

 とりあえず、お腹も空くし、眠たくもなる。

 五感は完全に備わっていると言って良いだろう。

 俺が転生する前に比べて、身体の感触は何の違和感も無い。

 ……

 いや、違和感はあるよ、そりゃ?

 男女差、というとてつもないものがね?

 トイレに入って赤面したのは生まれて初めての経験だろう。

 しかし生活レベルも、現代に比べれば劣っているかもしれないが、それほど悪い物でもない。

 独自の文化で発展している様子も見られるし。

 俺が夢を見ているとするには、創造性に溢れすぎているだろう。

 実際、もうここが現実に転生した世界だということは認めかけている。

 ただ。

 一つ、これから魔物と戦うというならば、確かめておかねばならんこともある。

 それは――――ダメージだ。

 ステータスやパーティや、というのなら、魔物から食らう攻撃はダメージ換算されるのか?

 つまり、痛みはあるのか?

 ないのか?

 単にHP、のような数値が減るだけか?

 そんな数値って、ステータスにあったっけ?

 しかしこれは重要だ。

 ゲームならばともかく生死がかかる現実で、痛み、というものに慣れていない俺が戦っていけるだろうか?


 「……これだけはやりたくなかった」


 しかし、済まさねばなるまい、街を出る前に。

 俺は首を巡らせて、目的の物を見つけた。

 そしてそれ――――おもむろに街角にある小石を手に取った。

 手の平に収まる、ちょうどいい大きさの丸石だ。

 ……ままよっ!


 「せーっの!! ~~~~っ!」


 思いっきり、小石を自分の頭に打ちつけた。


 「はああ!?」


 俺の意味不明の行動に、シオンさんが驚愕する。

 火花が出る、という表現を使わねばなるまい。

 ふ……


 「いたああああああああああっ! いたいいたいいたいぃぃぃ!」


 その辺の地面をごろごろ転がる。

 痛い、痛いです!!

 これが夢!?

 これがゲーム?

 く、ははははっ!

 良いだろう、認めよう。

 もはや、ここがなんであろうと関係ない!

 これは何が何であれ、現実に他ならない!

 だって痛い!

 涙出るほど痛いいいいい!!!


 「ちょ、アリス!? 大丈夫、あんた!?」


 いや……確かに小石を頭にぶつけるのは痛いだろう。

 それは当たり前の話だ。

 だがこんなに痛いか?

 これは、あれか?

 俺が紙だって言いたいのか?

 防御力0の豆腐野郎って言いたいのか?

 いや、乙女なんだけどさ……

 ともかくようやく痛みが引いてきた俺は、すっくと立ち上がった。

 検証は終わりだ。


 「……理解しました。行きましょう、お姉ちゃん」

 「え? あ、うん……いや、あんた……頭大丈夫?」


 それって、どういう意味で言ったんですか、お姉ちゃん?

 どうやら失ったものはそれなりに大きいようだ。






 しばらくシオンさんの俺を見る目が生温かったんだが、まぁそれはいいだろう。

 俺たちはシオンさんからのパーティ申請で、ペアパーティになった。

 ペア狩り!

 いいね!


 「最初は街の周辺で適当に戦いながら、慣れて来たら遺跡に行くよ。あたしがやり過ぎると意味がないから、基本的にアリスが戦いなさい」

 「見捨てませんよね?」

 「大丈夫大丈夫」


 本当か?

 シオンさん、俺が子犬にも敵わないことを、ちゃんと知ってるのか?

 これくらい大丈夫だろう、という気の緩みが大事故に繋がるんですよ!?


 「それとアリス、パーティってのは、誰とでも組むものじゃないよ? この人は信頼できる、若しくは裏切られても後悔しないって相手じゃないと、危険なんだよ」

 「そうなんですか?」

 「基本的にお金と経験値は均等にメンバーに振られるんだけど、ドロップアイテムはそうはいかないからね。特にレアなものが出た時なんて、後ろからぐさっ、なんて良くある話さ」

 「こわっ!」


 異世界こわっ!

 ここはあれですか?

 法律に守られたりしないんですか?

 自己責任ですか?


 「だから、あたしがパーティを組もうと思った相手には、ステータスも包み隠さず見せることにしてる。信頼の証みたいなものさ」


 シオンさんはステータスの細部まで見えるものを見せてくれた。


 武器:東方剣(高品質)(銘:イザナギ)

 防具:ライトプレート(高品質)(銘:カロン)

 装飾品:疾風のイヤリング


 スキル:スラッシュ


 「お姉ちゃん、凄く強そう!」

 「まぁ、装備を整えるのは冒険者として基本だからね」


 これがなかなか揃わないんだけど、と軽い笑顔で答えるシオンさんは、恐らくかなり大変な思いをして揃えたんだろう。

 別にそんな事を誇る様子もないシオンさんは偉大です!


 「素質の方も見せておくよ。何かとパーティメンバーの把握はしておいた方が戦いやすいからね」


 素質って、見られるのか?

 初めて知った。

 そしてシオンさんの素質はこうだった。


 力3 体力1 守り1 敏捷5 知力0


 「……お姉ちゃん、偏ってる」


 偏ってるって!!

 前衛で体力1 守り1 って許されるんか!?


 「ま、攻撃なんて当たらなければ大したことないよ」


 あれですか?

 赤い人ですか、お姉ちゃん!?

 しかし、敏捷5か。

 こんな身近に天才がいた。

 正直、俺の敏捷を超える人は早々いないだろうと思ってたんだが。


 「お姉ちゃんは頼りになるのか、ならないのか……ちょっと判断に迷います」

 「えー、じゃあ、そういうアリスはどうなのさ?」

 「良いでしょう、私の大いなる素質を見るが良いです!」


 力0 体力1 守り0 敏捷4 知力5


 「ふふん」

 「虚弱……」

 「そこ!?」


 そっちじゃなくて、もっと見るべき部分があるでしょう!?


 「う~ん、だって知力5は凄いんだろうけど、あたしにはぴんとこないのさ。まぁ、敏捷4には驚いたけどな」


 まぁ、俺も何がすごいのかまだ実感したことが無いから分っかんねーです。


 「まぁ、0,1,0にもっと驚いたけどな……」


 はて?

 それは何の数字でしょうかね?


 必要な知識を交換し合った俺たちは、遂に街の外に出た。

 ここからはいつ、あの子犬が襲ってくるとも限らん。

 俺は警戒を厳にして、あっちこっちを見ながら慎重に足を進めた。

 あまりにも亀のような足だったため、途中からお姉ちゃんに首を引っ掴まれて連れまわされました……


 「私は物じゃないです~」

 「あんた、かっる。ちゃんと飯は食べてんのかね?」

 「昔はカレーを4杯食べたこともあります!」

 「カレー?」


 あれ?

 カレーって、通じないか、発音は出来るんだけど。


 「どんぶりにごはん4杯食べたことあるってことです」

 「へぇ、一体あんたのどこにそんな容量を収める部分があるんだか」

 「ふふん、参りましたか?」


 部活をした後の空きっ腹と、育ち盛りの男ならではの食欲だよ。


 「で、昨日は何食べたの?」

 「リンナルのパイ、一切れです。もうそれ以上入らなくって」

 「……」

 「……」


 絶対嘘だと思われてる!!

 嘘じゃないのに、説明しようがねえ!


 「お? ほら、ようやくお客さんだよ」

 「はわっ」


 ぺい、っとシオンさんに放り出されて着地する。

 そこに―――


 プチパンサーLV2が現れた!


 エネミーステータスを確認!

 おお!?

 来たな~~って……

 え?

 LV2ってなってませんかね?

 見間違い?


 「お、お姉ちゃん、れべ、相手!」

 「ああ、レベル? 多少は前後するよ。同じ場所でも」


 聞いてないよ!?


 「ま、何とかなるだろ」


 軽!

 そして、なんでよっこいしょ、みたいにその場に座ってるんですか!?

 観戦?

 助ける気、微塵もありませんよね!?


 「おわぅ!!」


 そして子犬LV2はそんな動揺する俺を待ってはくれなかった。

 当たり前だが!

 持ち前の敏捷で、何とか初撃をやり過ごす。

 ええい、やってやろうではないか。

 俺も(元)男だ。

 今でも心は男だ。

 ならば、引けぬ戦いもあるというもの。

 俺は雷のロッドを構えて、慎重に間合いを取った。

 子犬LV2も、かつての俺と違うことを察したのか、じりじりと様子を見ている。

 いや、かつてって、あの子犬はおっさんにぶっ刺されたんだけども。


 「行きます!」


 すばやく動いた俺は、雷のロッドで子犬をぶっ叩いた!


 「きゃんっ!」

 「あ、ごめん! ―――あっぶな!!」


 良心の呵責に苛まれて手を伸ばしたら、噛まれかけた。

 危ない!

 噛まれたら痛いということは、さっきの検証で嫌というほど理解したからな!


 「何やってるんだか……」


 後ろからシオンさんの声が聞こえてきます。

 無視。

 むぅ、やはり命のやりとりってのは、キツイものがあるな。

 これが弱肉強食の掟か。

 冒険をやるってのはこういうことだ。

 それが嫌なら、街で裁縫師でも鍛冶師でもすればいい。

 でも俺は……


 「もう、決めたんだ……」


 この世界で生きていくこと。

 世界を冒険すること。

 狭い部屋でじっとしているよりも、本当はこっちの方が良いって思ったから。


 「てぇやああ!」


 攻防の末、俺は子犬に渾身の一撃を与えた。

 瞬間、雷のロッドが煌めいて、紫電が子犬に走る。

 びくんっ、と痙攣した子犬が動かなくなる。


 「……」


 子犬は世界に溶けて、代わりにプチパンサーの毛皮が出た。

 ぽたっと、毛皮に染みが落ちる。


 「……アリス、冒険者、やれるのか?」

 「……やれ、っますっ」


 もう俺は、命をこの手にかけたのだから。

 ここで引き返したら、子犬に申し訳が立たない。

 決意は固い。

 でも、涙は止まらなかった。


 「う、あぁぁああぁっ」


 この日。

 俺は命を狩るという仕事に就くことを選んだ。


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