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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
二章 王都動乱編

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望みへの糸口

 「良かったのですか、アリス様? 引き受ける必要まではありませんでした」

 「まぁまぁ、分かってますから。そう怖い顔をしないで、イリア」


 帰り道、宿に着くのももどかしい、とイリアが俺に詰め寄ってくる。

 落ち着け落ち着け。

 クランセスカの望みは、自らの名代として檜舞台に顔を知らしめること。

 つまりはそういうことだ。

 とすれば、この闘技大会は権力争いの真っ只中。

 恐らくクランセスカに対抗する勢力の権力者共も、代わりの武を立ててくるつもりだろう。


 「思った以上に、この国は荒れているのかもしれません。イリアの昨日の報告にもあったでしょう?」

 「……確かに、複数の権力者同士が次期摂政の座を狙っているとは伺っています」

 「確か、王様が数年前に崩御して、今は小さな王子様が居られるのだとか?」

 「はい、ディオール王子です。摂政はロムス殿。ご高齢ですが前王の信頼厚き、忠義の臣であると」

 「クランセスカは、そのロムス殿の孫娘に、間違いありませんね?」

 「クランセスカ・ウィルミントン。ロムス・ウィルミントンの孫娘に間違いありません」


 有能な右腕が居るのが自分だけとは思わないことです、クランセスカ。

 まぁ、俺だってまさか自由時間にここまで情報を集めてくるとは思ってなかったけどさ……

 イリア、凄すぎ。

 メモの情報料って、一体何ぞやと目が点になったもの。

 おかげで、クランセスカの掌で踊らされる道化にならずに済んだ。

 ……まぁ、こちらの動きも、あちらが掴んでいないという保証はないけども。


 「三大名家の一つなのですね?」

 「はい、オースティア家、サクラメント家、ウィルミントン家。これが現在の王都の勢力図争いそのままでしょう」


 腐敗しきった王侯貴族、か……

 ティルは辛辣に言うけれど、俺はもう少し信じてみたいけどねぇ。


 「クランセスカの後ろに居た男は?」

 「申し訳ございません。存じません」

 「仕方ありません。一日しかなかったのですから」


 あれが俺にとってのイリアには違いないだろう。

 曲者そうだが、今は良い。


 「クランセスカの家は、共和国との戦に対して穏健派。これは事実ですね?」

 「少なくとも、ロムス殿の意志はそのようです」

 「そのロムス殿が病で伏せっているのが、ここ最近の現状である、と」


 イリアが頷いてくる。


 「オースティア家は好戦的な強硬派、サクラメント家の状況は、良く分かりませんでした」

 「しかし、両家の御当主は壮健であられる、と」

 「イエス。そしてウィルミントン家。クランセスカ様のご両親は『事故』で数年前に亡くなられておいでです」

 「クランセスカの動機……復讐ですか?」

 「可能性はあるかと」


 ここで力の見せどころ。

 そう思っても不思議はないが……

 それより、さっきの最後のクランセスカの言葉が気になる。


 「……共和国の犬。あ! ごめんねサイラ? 嫌な意味で言ってるのではないの!」

 「いえ! 分かってますから、アリスさんのことは……信じてますニャ」

 「ありがとう、サイラ」


 イリアとは逆隣りに歩くサイラが、勢いよく首を振った。

 この信頼を裏切らない為にも、出来ることをしなくては。

 獣人族が矢面に立つ戦など、見たくない。

 いや、実際それだけで済むはずもない。


 「共和国の間諜が入るなら……オースティア家、ですか?」

 「共和国が戦争を起こしたがっているという前提であるならば」

 「前提か……」


 共和国は、戦を起こせば勝てると思っている?

 そんな圧倒的な戦力差があるのか?

 この世界に来たばかりだから、国家間の事などまるで分らない。


 「まだ分からない事だらけですね」


 藪をつついてみるのも手か。


 「お嬢様、闘技大会には本当に出場なさるので?」

 「表の権力争いくらいは、引き受けてあげましょう。クランセスカの戦いは、裏でしょう?」

 「仰ることは分かります。ですが、あの方はそもそも信頼に足る人物なのですか?」

 「ふふ」

 「?」


 俺が笑ったことに、イリアが首を傾げた。


 「ごめんなさい、いえね? 多分、クランセスカも同じことを言ってるだろうなぁって」


 あの執事がいかにも言ってそうだ。


 「ウィルミントン家は三大名家。そのご令嬢がクランセスカ。私は戦を回避したい。この偶然を、使わない手は無いでしょう?」

 「お嬢様がそう仰るなら」


 偶然か。

 偶然にしては、という気がしないでもないが。

 クランセスカがあの騒ぎを起こしたというのは、ちょっと考え難い。

 裏の裏……などと考え出すと、それこそティルのように人間不信になりそうだ。


 「とりあえず、私はウィルミントン家の名代として、表の力を示します。後の権謀術数はクランセスカに任せます」

 「お嬢様に危険が迫ることも考えられますが」

 「守ってね、イリア?」

 「やりがいがありそうですね」


 イリアが苦笑する。

 精々、掌に乗った『フリ』でもしてやりますか。

 お互いの利益が一致している間はね。

 ま、白金貨は魅力的だけどさ!


 「で、今の会話を気にしていた人間は?」

 「二人、でございます」

 「ふ~ん」


 クランセスカか?

 それとも……


 「お嬢様も」

 「ん?」

 「お嬢様も、意外と怖い人だと、今日は思いました」


 ふふふっ!

 もっと恐れ戦きなさい、そして尊敬するが良いです! イリア!


 「あ、いえやはり気のせいかもしれません」

 「……ですよね」






 ところで闘技大会に出るからには優勝したい。

 別に俺は勝敗何てどうでも良い……とか言ってクールを決めるつもりはない。

 並み居る敵を、薙ぎ倒す。

 それには準備が大事だ。

 準備を怠る者に、勝利の女神は微笑まない。

 そして今の俺にまず一番足りないもの、それは――


 「武器です!」


 宿に帰って早速、作戦会議など開いてみる。

 景気づけに机に手を叩き付ける。

 すっごく痛かった!


 「お、お~です」


 サイラだけ、控えめに賛同してくれる。

 で、残りの二人は……


 「お師様、申し訳ございません。わたくしが付いていながら」

 「構わんよ。こやつは絶対にやりおると思っておった。退屈だけはしなさそうよの」

 「ええ、それはまあ」

 「そこっ! 聞こえてますよ!」


 後ろで堂々と人の陰口を叩かないで!?

 ベッドに寝転がるティルに、何故かイリアが頭を下げていた。

 ……この人本当に一日寝てたの?


 「……とにかく、今大事なのは過去を振り返る事ではありません。過去を振り返っても、何もならないのです!」

 「左様でございますか」

 「……」


 イリアが冷たい。


 「くす、申し訳ございません、お嬢様。そのように沈んだ顔をなさらないで下さいませ。わたくしはお嬢様の盾。誓った言葉に、偽りなどございません」

 「……ついてきてくれる?」

 「もちろんです」

 「馬鹿なことしても?」

 「可愛らしいことですわ」

 「……私が黒だと言ったら?」

 「黒でございます。マイレディ」


 自らの胸に手を添えて、誓うようにイリアが応える。

 世界中を敵に回しても、やっていけそうな気がした。


 「えと……私たち、場違いです? お師匠さま……」

 「放っておけ。すぐ慣れる」

 「そ、そうなのです……?」


 サイラの戸惑った声と、ティルの欠伸混じりの声で、正気に戻りました。

 いやいや、正気を失ったつもりはありませんけどね!


 「こほん、とにかく。私の武器を探す事が先決です。聞くところによると、闘技大会の武器は自前で用意するものだとか?」

 「ええ、その通りでございます」


 武器屋を明日、片っ端から回るのも手だけど……

 サイラを見る。

 ぴこん、と耳が跳ねた。

 イリアとティルにも慣れたのか、サイラは部屋ではもう、帽子もヘアバンドもしない。


 「サイラ、鍛冶というのは設備が無ければ出来ないものですか?」

 「いえ! そんなことはありませんです。それより素材が大事です」

 「例えば、この宿の部屋でも素材さえあれば出来る?」

 「可能ですニャ!」


 自分の得意分野の話だからか、サイラの目が輝いている。


 「へぇ、じゃあルフィンの街で見たような鍛冶屋さんの設備は、どういうこと?」

 「あれは大量生産品を作る為の窯です。包丁とか、鉈とかも作ってます」

 「なるほど……武器屋に並んでいるような銘の無いものは、もしかして?」

 「はいです! あの窯で大量生産するんです! もちろん、素材が無ければ出来ませんから、限度はありますけど」


 なるほどなるほど。


 「確かに窯があれば、私もアリスさんたちの収入に貢献できるとは思うですが……」

 「ん~、それはまぁ、考えるのは先ですね。現状、サイラには私たちの武器防具をこそ、作ってもらいたいの」

 「は、はいです! お任せください!」


 嬉しそうだなぁ~。

 つられて笑顔になる。


 「アリスさんは、何を使うですか? やっぱり、ロッドですか?」

 「力がありませんからね、重いものは無理なの……」


 でも、そうだな。

 少し考えてある。


 「グローブを、作ってもらいたいの」


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