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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
二章 王都動乱編

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王都セントリア

 四日目のお昼に、ついに王都に到着した。

 行程的には三日目で到着できたのだが、夜遅くになってしまうので、敢えて一日ずらした。

 わざわざ夜中に入ることも無いだろうということで。

 それにしても、さすが王都は立派だ。

 門からして、既に街とは一線を画している。

 見渡す限りの城壁に囲まれた、大規模な城郭都市である。

 城壁を分けて、内と外で居住区が完全に別れている訳ではない。

 城壁の外にも、主に農業など一次産業を中心とした市民が住んでいるようだ。

 田園風景や、それだけで観光価値のありそうな水車が回っていたり、家畜が飼われていたりと、城壁に辿り着くまでの様子を見れば分かる。

 城壁の外の居住区も木の柵で囲まれている為、完全な城壁外という訳でもないだろうが。

 でもまぁ、これは今までの街と似たような感じだ。

 ちなみに、城壁外までは誰でも行き来可能だったのだが、城壁を潜って郭内に入るには通行料を払わなければならなかった。

 その額、一人100ルーク。

 城壁の維持費という名目らしい。

 一か月は出入り自由の券を貰った。

 無くさない様にしないと、一々出費が……


 「お嬢様、ここはアルセイド王国の王都、セントリアです」

 「へぇ?」


 いつもの如く、ここは何処?

 という俺の質問を予期していたのか、何も言わずともイリアが解説してくれた。

 名前の由来は、さすがに特産物じゃないな。

 それにしても郭内はやはり賑わっている。

 通りにはこっちの世界で見たことも無い程の人混みに溢れていた。

 建ち並ぶ建物も、石造りや煉瓦を使った趣のある立派なものが多い。

 それでも、やはりというか、木造が大勢を占めているんだけども。

 街道はしっかり、石を敷き詰めているが。


 「アリスよ、そこの宿を取っておれ。妾は馬車と馬を売ってくる」


 すぐ先にある宿の看板の出た建物を指差しながら、ティルが言ってくる。


 「え!? 売るんですか!?」

 「しばらくは王都に腰を据えるのであろう? ならば、荷物は少ない方が良い。馬の世話も大変であるしな」

 「そ、そう……ですよね」


 思わずお馬さんを見る。

 つぶらな瞳が可愛らしい……


 「そうですね……次の飼い主にも、可愛がってもらうんですよ」


 ちょっとだけ友情が芽生えつつあったお馬さん二頭の顔を撫でてやる。

 それから、余っていたリンナルを一個ずつ、お馬さんにあげた。

 むっしゃむしゃ頬張っている。


 「元気でね、タロー、ジロー」

 「……名前があったのですか」

 「今付けました」

 「左様でございますか。お嬢様のネーミングセンスは独特でございますね」


 名残惜しかったが、必要な荷物だけ荷馬車から取って、後は荷物ごと売ることにした。


 「心配するな。売り先は間違えぬよ」


 心配そうに馬を見る俺に、ティルが苦笑しながら答えた。


 「はい……」


 本当、元気でね?

 ティルに手綱を引かれて去っていくお馬さんに、両手を合わせて幸せをお願いする。






 その後、さっそく宿を取って、部屋に荷物を運びこむ。

 さすがに四名一室などという部屋は無かったので、二名一室を二部屋取った。

 宿泊費は一人200ルーク。

 まぁ、ちょっとルフィンより高くなっているが王都だし、仕方ないだろう。

 部屋割は、俺とサイラ。

 イリアとティルである。

 ところで、皆の人間関係ってどうなってるんだろう?

 それぞれ部屋でくつろいでいると、ふと気になった。


 「ねえ、サイラ? ティルの事、どう思う?」

 「お師匠様ですか?」


 お師匠様?

 イリアが呼んでいるから、そうなったのか。


 「あの方エルフなのですね。初めて見ましたが、感動しました!」


 元気よく答えたサイラは、目を輝かせていた。

 なるほど、何も問題ないような。


 「じゃあ、イリアは?」

 「え!? えっと……時々コワい、ようニャ……酒場で刃物……」

 「刃物?」


 そんなことあったかな?


 「怖いの?」

 「ち、違います違います! 素敵な人だなって思って、でもちょっと私には近寄りがたいです。完璧すぎて……」


 俺の前ではもう帽子を取る様になったサイラのネコ耳が萎れる。

 イリア、近寄りがたいかな?

 確かに隙のない美人という感じだけれど。


 「ふむ……確かに、あの子は意地悪なところがありますから、おしおきが必要かもしれません」

 「いえ、それはアリスさんだけだと思うです……基本的にイリアさんは優しいです」

 「ええ!?」


 主に向かってだけ意地悪とかどういうこと!?


 「えと……それからアリスさんの事は……大好きですニャ」

 「……」


 あ、あれ?

 俺今、女の子に告白されたような……


 「そ、そう? ありがとう、嬉しいわ」


 しかしちょっと頭を冷やすと、女の子が女の子――俺――にライクな感情を持ってくれているというだけか。

 どうしても男の思考で捉えてしまうから困るな。


 「は、恥ずかしいニャ……」

 「照れる事ないのに」


 頭とネコ耳を撫でる。

 なんと至福な手触り。

 ひとしきりその感触を楽しんでから、ようやくサイラを解放する。

 サイラはベッドにうつ伏せに倒れ込んで、枕で頭を隠してしまった。

 もてあそび過ぎたか。

 とりあえず、俺は部屋の椅子に腰かけて革袋からお金を取り出してみる。

 家を買うのは無理でも、賃貸で借りるくらいのことはしないと宿泊費がキツイ。

 持ち金は金貨八枚に、銅貨が数枚。

 もう少しで三枚目の金貨を使ってしまいそうだ。

 旅費と服などの購入は必要経費だったので、仕方ない。

 しかし大所帯になってきたし、金貨一枚なんてあっという間に溶けそうだな。

 四人家族で、年間金貨三枚というのは普通に無理だ。

 条件がかなり厳しい。

 前提として、持ち家で、ほとんど旅など動いたりせず、毎日外食せずに節約を考えた手作り料理――まぁ節約とか手作りは個人的に嫌いじゃないけど――が必要になってくる。

 もちろん嗜好品は不可、と。

 こうなると金貨一枚分の紛失が痛いが、さすがに金貨八枚あれば当面は大丈夫だろう。

 ここのギルドで働いて貯めて行こう。

 もしくは……


 「闘技大会……」


 優勝すれば、安くない額が手に入りそう。

 開催時期は聞いていた話だと、後一週間くらいだと思うけど。

 その辺りも聞き込みしないとね。

 まずは……ギルドかな?


 「サイラ、私は少し出かけてきます。サイラも夕方までは自由にしてて」

 「はいです!」

 「お金は持ってる?」

 「大丈夫です、少し持ってきてます」

 「そう、では夕方またこの部屋で」

 「いってらっしゃいです、アリスさん!」


 軽く手を振って、部屋を出る。

 さて、どうしようか。

 ずっと俺と一緒だと、イリアも疲れるだろうし羽を伸ばして欲しいからな。

 隣の部屋をノックすると、すぐにイリアが出てきた。


 「お嬢様、どこかにお出かけですか?」

 「ギルドまで行こうと思います。サイラにも言いましたが、イリアも夕方までは自由に過ごしていいですよ」

 「そのような、わたくしはお嬢様と一緒に居とうございます。何があるか分かりませんから」


 う、う~~~ん。

 俺が凄く頼りなさそうに思われているんだなぁ。

 お姉ちゃん以上の過保護ぶりですよ?

 何だかんだシオンさんは、俺を一人で街の外を行動させたりするからな。


 「大丈夫です! これでも私はティルの弟子。そうそう後れを取るものではありません」

 「いえ、そういうことではなく。お嬢様は少し隙が多すぎると言いますか……女性的な意味で心配です」

 「そっち!?」

 「都会は色々と危ないのです、お嬢様」

 「子供に言い聞かせるよう!?」


 女としての自覚か……

 芽生えたら芽生えたで、精神が崩壊しそうだが。


 「とにかくっ、私は今日は一人で行動します。いいですね、イリア?」

 「くすっ、イエス、マイ、レディ」


 注意喚起は出来たと思ったのか、あっさり引き下がるイリア。


 「……イリアは何処かに出かけますか? お金を渡しておきますが」

 「そうですね……ではわたくしも王都の今を見ておきたいと思います。来る途中、気になる情報もありましたので」


 戦の話か。

 確かに無視は出来ない。

 イリアが調べてくれるなら、とても助かる。


 「では、今は細かいのが無いので金貨を渡しておきますね」

 「お嬢様はわたくしを信頼しすぎている所が危ういです」


 困ったように笑いながら、イリアは金貨を一枚受け取った。


 「何かあれば、その時は私の目が曇っていたということです。いい勉強になりますね」

 「……お嬢様は、時々ドキりとさせるようなことを仰る」


 少し頬を染めたイリアの綺麗な顔に、思わず手を伸ばす。

 その艶々の頬に手を添える。


 「……裏切ったら、おしおきしますよ?」

 「少し、期待してしまいますね」

 「馬鹿」


 名残惜しかったが、切り替えて部屋を出た。

 あのままだと、変な気分になりそうだったので……






 ――――で、事件は宿を出てギルドに着く前に、早速起きてしまった。

 あぁ、イリアに怒られる……


 「ほらっ、急いでくださいまし! 賊を取り逃しますわ!」

 「えぇっと……はい」


 何で俺は頼まれた訳でもなく、賊を追っているんだろう……

 俺の腕を引く、高級そうな衣装を着けた桃色が目を惹く特徴ある髪の女の子。

 髪型はサイドアップにして巻いたようにしている。

 なんというか、俺の知る偏った現代知識で言うと、彼女はまさに――貴族というやつでは?

 成り行きでこうなってしまったとしか言いようがないが……とりあえず。


 「ねえ、私はアリスと言います。あなたの名前を伺っても?」

 「これは失礼しましたわ。余はクランセスカ・ウィル――ああ、いえ、クランセスカですわ」


 ……怪しい。

 賊より怪しい。


 「クランセスカ……様? よろしく」

 「呼び捨てで結構です、アリス。ええ、こちらこそよろしくお願いしますわ」


 全く状況が分からぬまま、俺たちは賊を追うために王都の裏道を走り抜けていく。

 あの時、変に機敏に動くんじゃなかったと思いながら……


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