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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
二章 王都動乱編

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片鱗

 川の上に佇んで、ティルが目を瞑って待っている。

 足元にはブリザーで固めた魔法の足場。

 思った以上に、氷魔法は汎用性があるなと思う。

 俺に出来るだろうか?

 上手く調整して、雷魔法の力を調整すれば出来なくはないだろう。

 今の所、一気に力を解放して飛ぶことしかしていないが、繊細な調整でその場に留まるということも出来るはずだ。

 何もない所に足場を作ることは出来ないが、水上なら……


 「大丈夫、右足が沈む前に、左足を出せばいいだけ」


 なんだ、簡単じゃないか。

 ……

 ……簡単か?


 「アリス様、頑張ってくださいませ」

 「頑張ってください!」


 川岸で逡巡する俺に声援が送られる。

 応援には人を奮い立たせる効果と、重圧を与える効果と二通りあるなぁ。

 ふと、自分の後ろを振り向いてみる。


 「……」

 「アリス様?」

 「アリスさん、どうかしましたか?」


 不思議そうな顔をするイリアとサイラ。

 二人を見ていると、強張っていた顔が緩む。

 肩肘張っていた重圧が消えた気がした。

 縁って、凄い。

 頑張れる気がする。

 もう一度、川の上に立つティルを見据えた。


 「よ~し、行きますよ! ティル!」


 ティルに宣告して、右足を一歩踏み出す。

 足元にサンダーを調整して、水の上にそっと足を乗せる。

 戦う前から、緊張のピークである。

 水の上に踏み出した足に、慎重に体重をかける。

 ――いける、か?

 体重を預けるのに十分な感触を感じて、一気に踏み込んだ。


 「わわっ!」


 やはり調整のバランスが難しい!

 足元が覚束ない。

 自然、身体が倒れかけて左足を出した。

 そして魔力を込め過ぎた。

 跳ねるように前に押し出される。

 慌てて右足を出す。

 今度は弱すぎた。

 沈みそうになる。

 急いで左足を前に出す。


 「って、これただ全力で走ってるだけですし!!」


 しかし止まれない。

 止まった時が、沈む時。


 「ティル! 試合開始しましょう! すぐしましょう! さあ!」


 川の上に静止するティルの周りを走りながら、試合開始を嘆願してみる。

 始まる前に終わりますし!


 「騒がしい奴よのう――ブリザー」

 「ちょっ!」


 おまっ!

 いきなり過ぎだろう!?

 眠たげに唱えたブリザーが、俺の周りに降り注ぐ。

 範囲!!

 蒼い氷が鋭い弾丸となって、広範囲に襲い掛かる。

 でも、下級魔法の範囲なのだ。

 魔法防御で、受けられる――


 「――っ」


 咄嗟に、強く反発力を生み出して後方に跳んだ。

 範囲外まで後退して、攻撃をやりすごす。

 直感に従っての行動。

 相手は、盗賊ではない……


 「どうした? 随分離れるではないか」


 ティルベル・エインシャウラ。

 氷雪の魔女、だったか?


 「……正直に言います。身体が言うことを聞いてくれません。怖いです」


 本当に正直に言ってみた。

 いや、実際その通りなのだ。

 相変わらず、ティルから離れた距離でランニングしながら、告白する。


 「素直よのう。しかしアリスよ? お主、冒険者をやっておって、この先自分より強い相手と相まみえぬとでも思うか?」

 「それは……」

 「敵わぬから無理だ、諦めたと、背を向けるのか? 果たして、それが許されるような甘い状況ばかりかのう?」

 「確かに……」


 もう一度、川岸に目を向ける。

 肝心な時に、守りたい人を守れない自分は嫌だ。


 「本気で行って、いいですか?」

 「くふっ、妾が死ぬかもしれぬと、心配か?」

 「愚問でした」


 水面を蹴って、ジャンプする。

 滞空時間の間に、攻撃魔法を発動する。

 ティルのように、ダブルキャスト出来ないから不便である。


 「天下る一条の光刃よ、我が剣となりて闇を裂け! ライトニング!」


 右手で、ティルに中級魔法を放つ。

 ティルを相手に遠慮なんて馬鹿らしい。


 「――ブリザー」


 俺のライトニングの射線上に、ティルは氷の壁を無数に張り巡らせた。

 ライトニングはその壁に阻まれて、ティルに届く前に掻き消えた。


 「ほう、8枚抜いたか」


 砕け散った氷の壁を見て、ティルが賞賛するように声をかけてくる。

 ――しかし、こっちはそれどころではない。

 最強の攻撃である。


 「こ、事もなげに……」


 受け止められた。

 ブリザー?

 ブリザーで受け止められたのか?

 下級魔法で……

 いや、それもそうだが、防御にも使えるなんて、なんていう汎用性。


 「わっと」


 着地に気を付けて、魔法で落下速度を相殺しつつ足を水面に付ける。

 仕切り直し。

 と、思ったら足が固まった。


 「ちょ! 冷たい冷たい!!」


 いつの間にか水面が凍ってしまって、俺の足まで氷漬けにされている!


 「さて、今度は妾の魔法を受けてみよ」


 逃がさないということですか!?

 なんてドS!


 「ブリザー」


 今度は、単体狙い!

 その分、威力が大きいはず。

 まずい!

 さっきの範囲でさえ、受けられる気がしなかった。

 単純な魔法防御に頼っただけでは……串刺し!


 「痛いのは嫌ですっ!」

 「なぁに、女なら、そういうこともあるものよ」


 あってたまりますか!?

 というか、今そんなこと関係ないでしょうが!

 未だ魔法を掌の上で遊ばせているティルが、行くぞ行くぞと脅しをかけてくる。

 器用ですね!


 「最悪、治療はしてやる――即死はするなよ」


 などと、容疑者は供述しており。


 「って、待って待って!!」


 との願い虚しく、ブリザーが放たれる。

 随分ゆっくりした速度だ。

 一応、それで気を使っているつもりだろうか?

 相手は一歩も動いておらず、攻撃から逃れることも出来ず、最強の攻撃すら簡単に防がれた。

 この絶望的な実力差を前にしても、人間は抗わないといけないのだろうか?


 「――答えは、イエス!!」


 斜に構えるのはカッコ悪いだけだ。

 やれるだけやってみせる。

 ティルの氷の魔法は凄い。

 だけど、俺は自分の雷の魔法に可能性を感じている。

 自分に迫る氷の鉄槌を見据えて、息を整える。


 「強制! ライト・エンチャント!」


 ――ティルの氷の刃に、強制的に雷の付与を施す。


 「――ほう?」


 これで、後の要領は同じだ!


 「サンダーっ!!」


 氷の弾丸に、俺の雷の魔法をぶつける。

 雷の付与をされた氷の弾丸は、反発力で見る間に勢いを落としていく。

 でも、これで終わりなんて思わないことだ、ティル!


 「いっけええええ!」


 ティルの魔法を、押し返す!

 重い!

 ぐぬぬ!

 ここが勝負所!


 「――くっ、ライトニング!!」


 連続発動。

 足場が氷で固まっている分、ダブルキャストの必要が無いのです!

 俺の中級魔法に押し出されて、遂に逆転の弾丸となったブリザーがティルに襲い掛かる。

 しかし、それはティルがジャンプすることによって簡単に躱された。

 そのまま空中に滞空するティル。


 「そのくらい、折りこみ済みです!」


 なんせ、俺はティルを憧れを持って見ているので、ティルがどんなに凄い事をやってもある意味想像の範囲内!

 ならば、当然咄嗟の状況にも対処する。


 「サンダー!!」


 直線だけでは当たらぬ。

 空中に逃れたティルに、範囲でサンダーを放つ。

 しかし、その攻撃にもティルは全方位に氷の壁を張ってガードするという度肝を抜かれる対処をしてのけた。


 ――まだまだ!


 俺のティルに対する幻想は、その程度で驚くものではないのだ!

 足が抜けないので、足場の氷ごとティルに向かって飛ぶ。


 「接近戦はどうです! ティル!」


 そのまま勢いよくティルに突っ込んで、手の平に雷を乗せる。

 雷掌底。

 切り札にしようかと思う、一つ。


 「――くふ、嫌いではない」

 「は――?」


 至近で微笑んだティルが、俺の掌底を放った腕を下から払いあげて逸らした。

 完全に体勢を崩された。

 放っておいても、連続発動のし過ぎで魔力が限界な俺は川の中に真っ逆さまだが、相手は甘くなかった。


 「守り0か。夕餉の支度までには、目を覚ませよ」


 逆にほれぼれするような掌底を腹に打ち込まれた俺は、その場で意識を手放した――






 「う……」

 「アリス様? 目が覚められましたか?」

 「ここは……」


 ぼぅっとする意識で回りを確認する。

 テントの中であるらしいことが分かった。

 状況も、何となく分かった。

 何故かイリアに膝枕されている。


 「はぁ……どのくらい寝てましたか?」


 ティル、強すぎです……

 何やっても無駄な感覚を肌で感じてしまった。


 「ちょうど日が沈んだところですので、それほど長い時間ではありませんね」

 「そうですか、ティルとサイラは?」

 「お師様は出かけています。サイラさんは、夕食の支度を」


 なるほど、サイラには後でお礼を言わないと。

 しかし稽古が始まったのが夕刻だったから、確かに言う通り、そこまで時間は経ってないな。


 「えと……」

 「?」


 こちらを見下ろすイリアに声をかけると、不思議そうに首を傾げた。

 イリア可愛い。


 「私、カッコ悪かったですか?」

 「くす」


 笑われた!?


 「気づかれませんでしたか? お師様は、お嬢様と戦っておられる時、終始嬉しそうにしておりました」

 「え?」


 必死すぎて、それ所じゃなかったので。


 「それに、わたくしたちも、アリス様を見ていると期待に胸が熱くなりました。お嬢様は、いずれお師様の最強を継ぐ方です。わたくしは、その思いを強く致しました」

 「イリア……」

 「そんなお嬢様を、カッコ悪いなどと思うはずがありません。どうか自信を持って下さい、マイレディ」

 「もう……イリアは口が上手いから困ります」

 「あら? ふふ、そうでしょうか?」

 「そうです」


 簡単に乗せられる俺がいるから、困る。

 でもそうか、ちょっとその期待に応えてみたいと思う自分が居る。

 ティルが誇れるような、自慢の弟子になりたい。

 俺は、ティルを悲しませたりしない。

 それだけ、強く心に誓った。


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