表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
二章 王都動乱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/170

鍛冶師

 部屋に通された俺たちは、とりあえずテーブルに座ってお茶を頂いてしまった。

 人を招くと何か振る舞う。

 日本だろうが、海外だろうが、異世界だろうが、変わらないのね。


 「改めまして、私はギルドから依頼を受けた者で、アリスと言います。こちらは私の連れで、イリア」

 「よろしくお願い致します」

 「それと、こちらがギルドからの紹介状です」


 自己紹介し、ギルドから同封されていた紹介状を渡すと、サイラはさすがに驚いたのか目を見開いた。

 恐らく、話を聞く為の代理か使いかと思っていたのだろう。

 違うんですよ、これがね。


 「お若いのに、冒険者……」


 帽子がぴこぴこ動いている。

 正直、他の事よりそれが気になって気になって仕様がない。

 取りたい。

 その帽子、取りたい!!

 そこには、何が隠れてるんですか!?


 「ふふ、アリス様?」

 「はっ?」


 紹介状に目を通していたサイラの下がった頭――帽子に、無意識のうちに手を伸ばしていた。


 「?」


 サイラが視線を戻す前に、お茶飲んでましたよ?

 という風情を取り繕って、カップを手に取った。


 「どうかしましたか?」

 「いいえ、お茶、美味しいです」

 「そんな、大したものでもないのに、恥ずかしいニャ……です」


 ニャ……?

 な、なんですイリア?

 別に、そんなことで突っ込んだりしませんよ?

 ああ、余計な気を遣わせてしまった。

 反省。

 後、イリア?

 その笑顔、怖いです。


 「こほん。それで、依頼の方ですが、私の事を不安に思うなら、キャンセルはもちろん受け入れますので」


 依頼主の護衛という特殊性から、依頼主が不安を覚える場合、キャンセルも有り得る。

 そんな注意事項も書いてある。

 当然だろう。


 「いえ、冒険者というなら遺跡には行った事があるでしょうし、それに……個人的に、えと、アリスさんの事は信用出来るっていうか……」


 何故か彼女は頬を染めて、俺を見た。

 は?


 「昨日の夜、酒場で私も居たのです。アリスさんの事は、よく覚えています」

 「そ、そうですか」


 逆に俺はほとんど覚えてないぞー。

 まぁ、なんだ。

 覚えていない事に悩んでも仕方ない。

 問題ないなら、それでいい。

 何も問題ない……よね?


 「私たちは直ぐにでも出発出来るので、サイラさんが良いようなら、いつでも声をかけてください」

 「私も直ぐに出られます! 少し着替えてきますので、お待ちくださいね」


 そう言って彼女は慌てたように奥の部屋に引っ込んだ。

 隣の部屋……というか、ちらりと見える作業所に目を向けると、大きなかまどに火が燻っている。

 さっきから鉄を打つような音が響いているので、誰かが作業をしているのだろう。

 親方さんかな?


 「お待たせしました、行きましょう」


 待つという程待つ時間も無く、サイラが戻ってくる。

 着替えても、帽子は取らないんですね?






 サイラは見習い鍛冶師LV10。

 パーティを組んで、サイラの案内でこの街の遺跡に向かう途中。

 色々話していると、用件は俺たちと同じだということが分かった。

 聞いてみると当たり前の話なのだが、世の中戦闘向きの職と、そうでない職があって、鍛冶師や裁縫師などは敵を倒すのではなく、腕を磨いてLVを上げる職業らしい。

 つまり、修行を積んで正式な鍛冶師になるLVにはなったサイラだが、戦うことは出来ないということで、ギルドに今回の件を依頼したという訳だ。

 

 「へえ? じゃあ、サイラさんは正式な鍛冶師になったら、王都で自分の店を持つつもりなんだ?」

 「はい、いつまでも親方さんのお世話になる訳にはいかないので」

 「え? お父様じゃないの?」

 「いえ……私、流民だったので」


 力無げに笑うサイラ。

 なんという無神経さ。

 いい加減、平和ボケの思考回路を放棄しようかと思う。


 「……すみません、サイラさん」

 「あ、そんな! 親方さんは本当に私に良くしてくれたのでっ……恥ずかしいですけど、アリスさんの言った通り、お父さんって、ちょっと思っちゃったりしてますニャ……です」


 そうですかニャ……


 「でも王都に行くのなら、目的地は私たちと同じですね」

 「えっ? アリスさんも?」

 「はい、この街には明日まで滞在するだけで、王都に向かう予定ですから」

 「いいなぁ……私なんて言ってるだけで、何時になったら夢を叶えられるか分かりませんもん」

 「う~~ん」


 鍛冶師、か。

 鍛冶師との縁。

 これは、大事にするべきでは?


 「サイラさんは、お得意様っている?」

 「は、はい。この街では、ちょっと御贔屓して貰ってる方もいます。と言っても、親方さんの手伝いしかしていませんので、銘は全部親方さんですが」


 恥ずかしそうにする仕草が可愛いな。

 女の子っぽいな。

 俺も参考にしようかな。

 しかし、腕は良いってことだよな。


 「もし問題ないようでしたら、サイラ様の素質をお見せになってもらっては如何でしょう?」


 後ろを歩くイリアが進言してくる。

 素質を見て、鍛冶師の腕なんて分かるの?


 「あ、はい。私は構いません」

 「そう? ありがとう、では見せて貰えますか?」

 「はいっ」


 力1 体力1 守り1 敏捷2 鍛冶5


 ん?


 「親方さんに拾ってもらえるまで、自分が鍛冶師の才能あるなんて、分からなかったから……恥ずかしいニャ……です」


 これは……どういうことニャ?


 「……素晴らしい才能ですね」


 ちょっと意味が分からないが、それだけは分かる。

 後でイリアに聞こ。

 しかし、素質5とは、俺が知る限り全員化け物!

 いや、言葉悪いな。

 天才と言い換えよう。

 お姉ちゃん然り、イリア然り、ティル……は聞いたことないけど、聞くまでもないというか。

 これは……手放せないかも。


 「……王都に伝手は?」

 「何も……」

 「王都のお得意様なら、私がなれるかもしれません」

 「え!?」


 サイラが目を輝かせて俺を見る。

 眩しい。


 「私は冒険者だから、腕の良い鍛冶師とはぜひ懇意にしたいです。金の卵のサイラさんには、期待出来そうですし」


 王都に住むところがないなら、俺が融通しても良い。

 もちろん、先に俺が王都で生計を立て始めてからになるが。


 「金の卵だなんて、恥ずかしいニャ……です」


 そんニャこと言っても、逃がしませんよ?

 この子は放っておいても噂になるレベルの鍛冶師かもしれない。

 見習いという今のタイミングで出会えた俺は幸運だろう。

 まだ銘も出回っていないらしいし。

 う~~ん。

 できれば、独占したいが。

 ワンオフの装備を、この子に作って欲しい。


 「私の夢は王都で店を持つこと、というよりも、大勢の人の中から、この人と思う方の専属のスミスになることなんです。専属スミスは鍛冶師の憧れですから」

 「なって! 私のスミスに!」


 あ、思わず言葉……


 「そ、そんな……アリスさん……恥ずかしいニャ」


 そうか。

 このこっちが身悶えるような可愛さは、やっぱりあれか?

 動物の可愛さか?

 その隠された帽子の中身に何があるのか、俺はもう確信しているよ、サイラ。


 「すみません、気が急いたようです。私もあなたに認められるだけの力を示さないと、話になりませんよね? この護衛任務で、私を見定めて下さいニャ」

 「アリス様、うつってます」


 気にしない。

 誰が好き好んで、弱い人間の専属になりたがろうか?

 サイラにも作る者の矜持があるだろう。

 力を示さねば。

 サイラの心を打つ程の力を。

 ――俺の新しい魔法を見せてやる。






 プチパンサーLV5


 「……」


 遺跡に向かう街外れの丘で、強敵と出会ってしまった。

 ああ、なるほど。

 街の近くの敵が急に強くなる訳ないよな。

 だって、そんな街の遺跡なんて、冒険者の駆け出しが行けるはずないもん。

 うんうん。

 俺は強敵の突進を、ひょいと避けた。


 「アリス様? 薙ぎ払わないのですか?」

 「え?」


 薙ぎ払う?

 サイラの守りに着いてもらっているイリアが不思議そうに首を傾げた。

 魔物が魔物なので、俺の守りからサイラに回ってもらうのにさしたる説得は必要なかった。


 「……私の故郷では、魔物と心を通わすことの出来る人間が居ました。私は今、それを試したい。そんな心境なのです」

 「そんなことが出来るのですか? 凄いです、アリス様」

 「頑張ってください!」


 声援を受けながら、俺はマタドールの様に強敵の突進をいなし続ける。

 ふ、お前の攻撃はもはや見切った。

 通用せんよ、俺にはな。


 「ふぅ……」


 一つ、深呼吸する。

 そう、こちらが怖がるから動物は牙をむくのだ。

 怯えているのだ、彼らは。

 そのすれ違いこそ悲劇。

 繰り返して良いのか、こんなことを?

 否!

 間違っている!

 分かり合えぬと諦めた時が、本当のお終い。

 他の誰が諦めても、俺は諦めない!


 「ほら……怖くない」


 俺はその場にしゃがみ込み、ぐるる、と唸る強敵に手を差し伸べた。

 イリアとサイラが固唾を飲んで見守っているのが分かる。

 つぶらな瞳が俺を捉える。


 「……?」


 強敵は、どこか怪訝そうに俺を見た。


 「怖くない……」

 「……」


 俺と強敵は見つめ合い、その手が彼の者の頭に、遂に触れ――


 「――あっぶな!!」


 なかった。

 噛まれそうになる瞬間に手を引いた。


 「何ということ……私まだ、怖がってた」


 急いで距離を取る。

 強敵は俺を真っ直ぐに見据えている。

 そのつぶらな瞳の、なんと意志の強いことか。


 「……そう、それに応えてあげるのが、私の勤めなのね」


 俺は魔法の発動をイメージする。

 身体が熱くなる。

 光が集まる。


 「――天下る一条の光刃よ、我が剣となりて闇を裂け! ――ライトニング!」


 覚えたての中級魔法が、容赦なく強敵を撃ち貫いた。

 強敵は……そっと、前のめりに倒れた。

 俺は近づいて、倒れた強敵を抱き抱える。


 「こんな形でしか……」


 腕の中で薄れゆく柔らかな体温に、涙がこぼれる。

 さよなら……


 「……アリス様」

 「……なに?」

 「今、その魔法、必要でしたか?」


 獅子は兎を狩るにも全力を尽くすという。

 まだまだ甘いですね、イリア。

 今日の空は今にも泣きだしそうな曇り空。

 天も泣いてくれている。

 安らかに眠れ、トモよ……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ