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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
一章 異世界転生編
3/170

エンカウント

 途方に暮れても仕方ない。

 いや、本当はしばらく途方にくれてたんだが、それだけじゃどうしようもないという現実だよ。

 現実っていっても異世界の現実だが。

 ステータスチェックが出来るということに気づいた俺は、とりあえず自らのステータスをチェックする。


 名前:アリス

 種族:ハーフエルフ

 年齢:15歳

 性別:女

 職業:見習い魔法使い

 LV:1

 スキル:なし

 魔法:なし


 確かに年齢は15歳に設定した気がするが、3歳若返ってるし……

 まぁ、性別転換してるんだから今更か。

 そして名前はアリスと、設定したままの名前だな。

 有栖川だから、アリスにしただけだが。

 すぐ近くにあった澄んだ湖で自身の姿を映してみる。

 設定した通りの美少女がそこにいた。

 ちょっと微笑んでみる。

 やばい、可愛すぎる。

 惚れそうだ。

 でも自分だ。

 ちょっと設定ミスったんじゃないだろうか?

 やっぱ男で異世界にこなきゃ、面白くなくない?

 ……まぁいい。

 それよりも問題なのが魔法欄だ。


 魔法:なし


 これはやばい。

 見習い魔法使いLV1ということだから、多少LVが上がれば魔法を覚えるのだろうが、少なくとも今は魔法なしということになる。

 ここまで俺の設定に忠実なのだから、素質設定もその通りになっている可能性が高い。

 つまり、このキャラに白兵戦は無理なのだ。

 なのに魔法が使えない。

 これはマジでやばい。

 その辺の魔物にエンカウントしたら絶体絶命のピンチではないだろうか?

 そう思い至ると、途端にこの草原にいることが怖くなってきた。

 ここは魔物とか大丈夫だろうか?

 初期配置で、そんな無茶しないよね?

 誰も周りに通らないから、どうしたって自分から動くしかない。

 ちなみにログアウトみたいなことが出来ないか色々ステータスを探してみたり、その辺りをうろうろしてみたりは、さっき途方にくれてた時間でもうやってみた。


 ――無理だった。


 分かってた。

 なので、まずは街か何か探さないと生きていけない。

 動く前に装備を確認。


 武器:なし

 防具:布の服

 装飾品:なし


 これ、魔物出たら本当に死ぬんじゃないか?

 自分に言い聞かせるために、無茶をしないために、もう一度自らの素質を思い出そう。


 力0 体力1 守り0 敏捷4 知力5


 これね?

 武器ないのに、力0。

 布の服しかないのに、体力1 守り0。

 知力は5だけど、頼りの魔法はなし。

 むぅ……

 敏捷だ。

 敏捷で乗り切るしかない。

 エンカウントしたら、逃げよう!

 そう決意して移動を開始する。




 おっかなびっくり辺りを歩いていると、遠めに街のようなものが見えてきた。

 どうやら今居る場所が丘の上だったみたいで、坂の上から辺りが軽く見渡せた。

 街、といってもそれほど大きくはない。

 村からちょっと発展してます、って程度だろう。

 しかし、街に入っても金も住処も何も当てがないんだが、俺、どうなるんだろう?

 しかも。

 しかもですよ?

 今の俺は、俺が思う限りを費やした完璧美少女なのだ。

 さっきも確認したが、自分で惚れそうなくらい可憐だった。

 野宿はやばい。

 枕を高くして眠れる場所を確保しないと、やばい。

 ここって絶対現代日本より治安悪いよね?

 男に襲われるなんぞ、魔物に襲われるよりも嫌だ。

 絶対に嫌だ。

 まずは自分の身を守る術を探さないといけない。

 いろんな意味で。

 ――と、もうすぐ街という所でついに魔物とエンカウントしてしまった!


 プチパンサーLv1


 エネミーステータスと、頭の中で浮かぶ情報を参照する。

 てか……

 ええええええなにこれ、かわいいいいい!!

 子犬だ。

 完全にやんちゃな子犬だ。

 ちょっと角生えてるけど、可愛らしい角だ。

 ちょっと牙とがってるけど、まだまだ可愛い牙だ。

 俺は完全に犬派なんだ。

 大学でもペット可な物件で犬飼おうかと思ってたくらいで――


 「て、うわっ!」


 可愛い子犬が角で突撃してきた。

 すんでのところで躱す。

 ちょ、待て子犬!

 今のは危なかった!

 その角が刺さったらどうするんだ!

 冗談じゃない。


 「……ごめん、子犬! 俺も死ぬわけにはいかないんだ!」


 俺は意を決して戦うことにした。

 子犬が突撃から態勢を整える前に、パンチを繰り出した。

 さすがの敏捷。

 俺は軽快に動いて子犬に攻撃をヒットさせる。

 ぺち。


 「……」

 「……」


 子犬のつぶらな瞳と目が合った。

 がぶっと噛まれそうになる。


 「あっぶな!」


 さっと避けた。

 いかん、絶対に勝てん。

 非力すぎだろう?

 子犬にぺちって。

 子犬に勝てない腕力って。

 どうするどうする!?

 焦って考えがまとまらないうちに、子犬の突撃が始まった。


 あ―――やばい。


 避けられない。

 一撃?

 一撃で死ぬ?

 守り0って、紙だよね?

 スローモーションのような光景を瞬きもせずに見続けて。


 「ふん!」


 突然、がたいの良いおっさんが俺と子犬の間に割って入った。

 なんでおっさんって?

 おっさんってすぐに分かるダンディな横顔が見えたからね?

 おっさんは盾で子犬の突撃を受け止めて弾き返すと、手にした剣で子犬をぶっ刺した。

 ……あまりいい絵面じゃないよね、これ。

 子犬はそれで動かなくなり、霞のように消えてしまった。

 なるほど、魔物は倒すと消えるのか。

 死体が残るより遥かに良い。

 ドロップアイテムが出ていた。

 プチパンサーの毛皮。

 こういうのを売ったりして生計を経てていけばいいのだろうか?

 おっさんはそれを拾って、わざわざ俺に投げて寄越してくれた。


 「危なかったな、嬢ちゃん。嬢ちゃんみてぇな子が一人で街の外をうろつくもんじゃねえぞ?」


 嬢ちゃん?

 あ、ああ、俺か。

 ダンディなおじさんが振り向いて、その精悍な顔をにかっと緩める。


 「は、はい。どうもありがとうございます」


 よし……成りきれ。

 元々そのつもりだったんだから、成りきって見せろ。

 ちょっとドキドキするが。

 バレる要素なんて微塵もないけど、バレないよね?


 「こりゃ……驚いた。嬢ちゃん、エルフかい?」

 「え……?」


 おっさんが改めて俺の姿を確認して、驚いた顔をする。

 え?

 エルフってどうして分かった?

 いや、実際はハーフエルフだけど。


 「いえ、私はハーフエルフ、です」

 「へ~、そうかいそうかい。見たこともないほど可愛い子だったからよ。エルフかと思ったんだが、そういうことかい」


 エルフは容姿が秀でているのだろうか?


 「そ、そうですか。あの、ありがとうございます。さっきも助けて頂いて」


 冗談抜きで死にかけたからな。


 「いいって、困ったときはお互い様だろう? 見たところ1人みてぇだが、連れはいないのかい?」


 おっさんは笑って答えると、俺が1人なのかと心配そうに辺りを見渡している。

 最初から悪い感じはしなかったが、どうもこのおっさん、良い人っぽい。

 う~ん、どうしよう。

 ある程度事実を交えながら、状況を話すか。


 「実は私、住んでた所から出てきて。その、もう二度と帰れないので、行くあてもなくって、どうしようかって思ってたんです……たぶん」


 事実である。

 詳細は省いたが。

 二度と帰れないかどうかは今後も検証する必要はあるが。

 おっさんはそんな俺の話を神妙な顔で聞いていた。


 「嬢ちゃん、ハーフエルフって言ってたな……エルフの里は、その辺り厳しいからな。さぞ辛い思いをしたんだろうなぁ」


 ちょっとおっさんは涙ぐんでいた。

 てか、エルフひどいな。

 やっぱり排他的なのか?


 「ああ、いえいえ、なんというか」


 しかし勝手にエルフを悪者にするのも気が引けるな。


 「いいっていいって嬢ちゃん! 思い出したくないことの一つや二つくらい、あらぁ!」


 うんうんとおっさんは頷いた。

 どうしようこの人、底なしの善人っぽい。


 「しかしそうか、嬢ちゃんみてぇなのが行くあてもないのはいけねえ。ヒューマンも悪いやつばかりじゃねえが、嬢ちゃんみたいな世間知らずな子が1人で生きていくのは難しいってもんだ」


 世間知らずかぁ。

 そう見えるのだろうか?

 まぁ、戦えもしないのに、1人で街の外にいるしね。

 少なくとも、この異世界では右も左も分からないのは事実だ。

 やっぱり不安になってきた。

 そんな俺の表情を見たおっさんが、うむ、と一つ大きく頷いた。


 「俺はニコルって言う、その街に住んでる冒険者だ。妻と娘と暮らしているんだが、良かったら俺のところに来るか、嬢ちゃん? これも何かの縁だ。放り出すわけにはいかねえよ」

 「え!?」


 渡りに船とはこのことだろうか。

 おっさんのいう所の世間知らずな俺は、疲れていることもあって一も二もなく頷いた。

 初対面のおっさんを信じすぎだが、命の恩人でもある。

 何より、この世界で本当に生きていく術がないので、誰かに頼るしかない。

 今は。


 「あの、ご迷惑かと思いますが、お願いしたいです!」

 「はっはっは、迷惑なんかじゃねえさ。嬢ちゃんみてぇなのが家に居たら、華やぐし、娘も年の近い子がいれば喜ぶ」


 妹が欲しかったと煩かったんだ、とおっさんは苦笑いしていた。


 「私は……アリスと言います。ニコルさん、ほんとにありがとう!」


 ほっとした俺は心からの笑顔を浮かべると、おっさんはちょっと動揺したようにどぎまぎとした。


 「お、おう。さあ、いくぜ嬢ちゃ……アリスちゃん!」


 こうして俺は異世界生活での第一歩を踏み出した。


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