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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
二章 王都動乱編

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護衛依頼

 宿の連泊の手続きをして、ようやく午後から俺たちは外出することが出来た。

 遅くなったのは、なかなか頭痛が取れなかったからだ。

 お昼は軽いものを一階の食堂で取ってから出てきた。

 ……その食堂だが。

 何故か注文する際、お店の人が怯えていたり、常連客のような人が喝采を浴びせてきたりと謎は尽きなかったのだが、イリアが何も言わないので、特に問題ないのだと思うことにした。

 いや、お店の人が怯えていたのは俺じゃなくて、イリアか?

 ほんと、どういうこと?


 「イリア、昨日ってそういえば……」


 あれ?

 そういえば、何か食事した後の記憶が無いんだけど、これ如何に?

 何か喧嘩が始まって、優男が仲裁してという、薄らとした記憶ならあるのだが……


 「う~~ん。私、何か変な事してなかった?」

 「いえ、アリス様はいつもお美しいし、とても格好良いお姿でした」

 「カッコいい……?」


 なんだ?

 この姿になって転生して以来、初めて言われた言葉だな。

 ……まぁ、いいか。

 今日は忙しいし、いつまでも不思議がってる場合じゃない。


 「まずは、ギルドにでも行きましょうか」


 とりあえず、仕事しよう。






 ギルドに来る途中に感じたが、このルフィンの街はやはり、リンナルの街より栄えている印象だ。

 リンナルの街とは馬車で丸一日分の距離しか離れていないとはいえ、地図で見るとリンナルの街は確かに辺境で、そこからどこか他の街に繋がっているような中継点という訳ではない。

 つまり、用事が無ければ立ち寄らないのがリンナルの街だ。

 それに比べて、このルフィンの街は南の王都に繋がる中継点にあり、北にリンナル、西と東にもそれぞれ街道が伸びた、恵まれた立地の街だと言える。

 だから人通りも多く、色んな種族を街でも見かける。

 実は犬耳の女の子を見つけてしまったりもして、凝視してしまった。

 イリアに窘められたのだが。

 はい、人を舐めるように見てはいけません。

 俺はそんなことを、ギルドの壁に立てかけられた地図を見ながら思い浮かべていた。

 正直もう少し大きい地図なら、この世界のことがもっと分かったんだが、周辺地図だから仕方ない。


 「これで見ると、王都までは馬車で丸三日ってところかな? ちょっと遠いね」

 「そうですね、今日中にアリス様の用事を済ませて、明日は旅の準備をしなければいけませんね」


 旅支度か。

 ちゃんと計算して買わなければ、道中大変なことになりそうだ。

 と言ってもまぁ、三日だけの事だから、そこまで神経質になることもないかな。

 そういえば、と俺はイリアを見た。

 今はこれから冒険に出る所なので、皮のローブに鉄の槍を装備した格好だが、イリアの普段着は商会で着ていたサービスの服一着しか持っていない。

 何だかんだで俺はおばさんから着替えも貰ったし、他にもリンナルの街で買い揃えている。

 イリアの事にまで気が回らなかったのは、まさに失態。

 このままにしておいては、ご主人様が廃るのではないだろうか?


 「イリア、明日は一緒に服を買いに行きましょう。もちろんイリアの分です」

 「そのような……いえ、ありがとうございます、アリス様」


 遠慮しかけていたが、イリアは俺の顔を見て思い直したように頷いた。

 ちょっと困ったように笑っている。

 いかん、拗ねたような顔が出ていたかもしれない。

 だって、遠慮って何か寂しいんだもん。

 イリアからすれば、この世界の感覚で奴隷とはこういうもの、という認識があるのかもしれない。

 しかし、俺にとってはイリアは一緒に旅する仲間そのものである。


 「実を言うと、確かに下着も欲しいと思っておりました」

 「下着……?」


 そ、そうか。

 確かに服以上に、必要かも……

 服に関しては普段着と、一応皮のローブでローテーション組めるしな。

 しかし、下着だと?

 それって、俺一緒に買いに行くの?

 さっき言った手前、やっぱり一人で行って来い、とも言い難いような。

 かつて、シオンさんに連行された記憶が蘇る。


 「おかしくない、何もおかしくない、私は女。私は、女……かもしれない」

 「?」


 この葛藤が無くなった時が、俺の最後かもしれない。

 強く持とう、自分。






 ギルドの受付の人に遺跡の場所と、何か手頃な仕事が無いかを聞いてみると、ちょうど遺跡護衛の仕事が一件あるということだった。

 なんという一石二鳥。

 報酬は銀貨15枚、1500ルーク。

 出発はすぐにでも可能ということで、本当にちょうど良い。

 この街の滞在費の足しにはなる。

 というか、持ち家っていうのは考えてみると大きいよな。

 いつまでも借り宿暮らしだと、路銀がいくらあっても足りない。

 王都で家を買おう。

 そんな夢もちょっと生まれてみたり。


 「この依頼、受けます」

 「畏まりました。では、こちらの書類にサインを。また依頼放棄、成功のいずれにしても報告書を提出下さい」

 「分かりました」


 契約書のようなものにサインをして、書類を受け取る。

 そういえば、シオンさんが何か書いてたよな。


 「お客様は、初めての仕事の請負になりますね?」


 俺の登録情報を確認していた受付嬢が、問いかけてくる。


 「はい、そうですね」

 「宜しければ、簡単にギルドの仕事について御説明致しましょうか?」

 「あ、よろしくお願いします」


 そういえば、慌ただしかったり、人任せだったりで、自分で仕事のこと把握してないや。


 「畏まりました。基本的に、ギルドの仕事にはランク付けがありまして、Sランク、Aランク、Bランク……という風にEランクまでの仕事に区分されています。お客様が今お請けになった仕事は、Eランクに区分されているもので、冒険者であればどなたでも請けることが出来る仕事です」

 「へぇ、なるほど」


 Eランクの仕事で1500ルーク稼げるんだったら、冒険者って結構いい商売だな。

 まぁ、やってることが命がけだから、安いか高いかちょっと判断し難いが。


 「上級ランクの仕事を請けるには、その下のランクでの依頼成功実績が十件必要です。もし依頼放棄をした場合は、ペナルティとして成功実績からマイナスされることになります。もし成功実績が無い場合に、いきなり依頼放棄をすると、マイナスにカウントされますので気を付けてくださいね?」


 なるほど、零から下、マイナスもあるということか。

 俺は分かったと、頷いておく。


 「ランクは主に危険度、もしくは困難度で区分されております。当然ランクが上がれば報酬は増えますが、命の危険が増えることも、お忘れなきようお願い致します」


 受付嬢が真摯な態度で頭を下げた。

 実際ギルドで働いていたら、命を落とした冒険者を見ることは日常茶飯事なのではないだろうか?

 ついこの間の盗賊退治だってそうだ……


 「依頼には期限を設けておりまして、その期限を過ぎれば自動的に放棄したと見なされます」


 敢えて言ってこないが、これは自力で報告出来ない場合のルール。

 つまり命を落として報告など無理な場合に備えて、そのようなルールを設けているということだろう。

 自分の腕で成り上がるのも、楽ではなさそうだ。


 「また、魔物と戦った際に得られたドロップアイテムは、ギルドの方にて買い取りさせて頂いておりますので、副収入になり得ます。ぜひお客様もお持ちくださいね」


 そういえば、何かあったかな?

 やくそうに、クマ耳に、イカスミ?

 クマ耳とか、どうするんだよ……

 まぁ、今はいいや。


 「以上で、簡単ではありますが、初回のご説明となります。また疑問点などありましたら、その都度ご質問くださいね」

 「はい、とても参考になりました。ありがとうございます」


 エレノアさんも、リンナルの街でこういうことやってるんだろうなぁ。

 顔見知りの冒険者が、この前の事件で命を落としてたら……ショックだろうな。


 「では、ギルドからの紹介状を書類に同封しておりますので、ご依頼者様にはお客様の方で直接ご訪問ください。請負期間は今日を含めて四日です。四日後のギルドの営業が終了するまでにご報告下さい。詳細については、お渡しした書類に書いております。それでは、どうぞよろしくお願い致します」


 丁寧な受付嬢に、俺も丁寧に礼を返してギルドを後にした。






 渡された書類をざっと確認しながら、地図に書かれた依頼主の家に向かう。

 街の地図が添えられているのは有難いが、そもそも不案内な土地なので見つけるのに苦労する。


 「アリス様、よろしいですか?」

 「ん、どうしたの?」


 書類から目を離して、イリアを見る。


 「はい、差し出がましいようですが、基本的に護衛など、他者が関わる依頼は危ないので、仕事選びの際には気を付けて頂ければと」

 「え? なんで?」


 護衛って、そんなに危ないかな?

 遺跡に行くだけだよな?


 「依頼主を疑う訳ではありませんが、冒険者の隙をついて盗賊まがいのことをしでかす輩もおります。冒険者がどこで命を落とそうが、自警団も騎士団も動いてなどくれませんからね」


 そうか、その場合、ただ依頼に失敗した、とギルドも受け取るだけか。

 魔法はパーティを組んでいれば問題ないが、物理攻撃はそうもいかないみたいだからな。

 いつかシオンさんが言っていた通り、まさに後ろから……というやつである。


 「それに、そうでなくとも戦いに慣れていない者を護衛するのは、思ったより困難です。どういう突発的な動きをするか分からないものですから」

 「難しいんだね、色々と」


 そういえば、守る戦いか。

 俺は今まで守られる戦いばかりだったから、守る戦いというのは初めてだ。

 そう思うと、少し緊張してきた。

 この手に他者の命を預かるのだ。

 しかし、シオンさんは俺みたいに弱いやつをよく鍛えてくれたよな。

 さすがです。


 「ですが、わたくしはアリス様の盾。お嬢様が行く道ならば、何処だろうと厭いません。そのことに変わりはありません」

 「ありがと。イリアは私を心配してくれたんだよね? ……身体の弱さだけは、どうしようもないから」


 紙だからな。

 ラッキーパンチで死ぬからな。

 今更だが、俺のポイントの振り方は上級者向けだよなぁ。

 何者をも打ち倒す術はあるが、何者にもやられる可能性がある。

 長生きしたいものです。


 「守ってあげたくなる女性というのは、お嬢様のような方を言うのでしょうね」

 「……薄幸そうな。吐血はしません、よ――」


 自分で言いかけて、思わずイリアを見た。

 いつもと変わらぬ、朗らかな笑顔。


 「イリア、身体は……大丈夫なの?」


 ずっと気になっていたのだ。

 事が事だけに、いつまでも知らんぷりは出来ない。


 「アリス様……もう、お師様のせいですね」

 「イリア」


 冗談っぽくイリアが流そうとしたので、心なし険のある声を出してしまった。


 「申し訳ございません、お嬢様……しかし今日明日中に、どうにかなるようなものではありません」

 「じゃあ……一年後は?」

 「……」

 「その沈黙、答えだって受け取るよ?」

 「今はまだ……もう少し、内緒にさせておいて下さい」

 「病気……じゃ、ないよね?」

 「違います」


 それは何となく分かっていたけど。

 じゃあ、やっぱり問題は俺か。

 俺にまだ、何か足りないんだな?

 イリアに『何か』を決心させる程の、何かが。

 くそ~、ティルがまだ何も言わないから、大丈夫だとは思うけど。

 二人だけで何か、分かっちゃってる空気出してるもんなぁ。

 と、もやもやしていたら、ようやく依頼人の家に到着した。

 地図を見てみるが、恐らくここだろう。

 『鍛冶屋リュート』と、書かれた看板も出ている。


 「分かりました。お話はまたいずれ。今はお仕事です」

 「はい、お嬢様」


 外から見ると、鍛冶屋らしく煙突から煙が出ている。

 やっぱり火は使うんだな。

 裁縫師みたいに、魔法の様に素材を武器に変えるのかな?

 とりあえず、訪ねてみるか。


 「ごめんください、ギルドから依頼を受けたものです」


 扉を叩いて声をかけると、中から人が慌ただしく近づいてくる気配を感じた。

 扉はすぐに開いた。

 中から現れたのは帽子を被った、小柄な少女。

 煤けたエプロンを掛けているから、この子が鍛冶師なのかもしれない。

 その栗色の髪が、どことなくシオンさんを思い出させるが雰囲気は全然違う。

 こっちの少女は可愛らしい、という言葉が良く似合う。

 髪は作業に邪魔なのか、一つに纏めて後ろに流している。

 というか、あれ……?

 この子?


 「あっ」


 向こうも俺を見て、声を上げた。


 「えと……もしかして、護衛依頼を出したのは?」

 「はい、私です。サイラと言います。どうぞ入ってください」


 これも縁なのかなぁ。

 ともかく、初仕事である。

 気を入れ直して、サイラの招きに応じることにした。


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