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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
二章 王都動乱編

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ほろ酔い気分

 ルフィン酒は甘口で飲みやすいお酒だ。

 爽やかな香りが鼻をくすぐる、果汁100パーセントのジュースの様にも思える。

 でもそこにしっかりとしたアルコールの、大人の味わいがブレンドされている。

 女性にも大人気らしいが、なるほど口当たりも良いし分かる気がする。

 果実酒ということで、ビール程苦みも無い。


 「結構いけますね、これ!」


 大ジョッキ一杯を見事飲み干した俺は、店の人に追加を頼む。


 「やるじゃねぇか、お嬢ちゃん。これは負けられないねぇ」


 優男も俺の様子を見ながら、ペースを調整しつつ追いかけてくる。

 な~~んか、下心が見え隠れするんだよねぇ。

 俺が酔いつぶれても、俺をどうにかできるとは思わない事だ!


 「お嬢様の様子を見ながら飲むだなんて、男らしくありませんね? ――それとも、まさか何か良からぬ事でもお考えで?」


 かなり良い笑顔でイリアが優男に忠告を入れる。

 あ~、美人に凄まれるとなんか迫力あるよなぁ。


 「ふ、慌てるなよ。勝負はまだこれからだろ? お嬢ちゃんたち」


 そしてこの優男は中々肝が太いらしい。

 頼みますよ、イリア。


 「――しかし、あっちの坊主共同様、勝負ってのは賭けるもんがねえと面白くねえ」


 イリアのこめかみに、確かに青筋が入るのを見た。

 顔は笑ってるんだけどね……


 「……どういうことでしょう?」

 「ふ、なぁに。俺が勝ったら、そのお嬢ちゃんと一晩――おわう!!」

 「は? 何か言いまして?」


 イリアさん、ナイフを手に刺したら下手すると指が飛んじゃいますよ?

 テーブルに置いた優男の指の間に、食事用のナイフを突き立ててイリアが笑う。

 いやいや、怖いよ?


 「おっかねぇな、金の嬢ちゃんは……」


 確かに。


 「まぁ待てよ。俺は女は好きだが、外道じゃねぇ。一晩デートしてくれるだけでいい。これでどうだ?」


 カッコつけた風に、またウィンクを飛ばしてくる優男、

 意外と様になってるから、笑えない。


 「却下します」


 しかし、イリアには通じなかったようだ。


 「取り付く島もねえ! おい、そっちの銀の嬢ちゃんはどうなんだ? 自分の事を話してんだぜ?」


 そんなことを言ってる間に、俺は既に二杯目を飲み干した。

 すばらしく、気分が良い……


 「あ~~、美味しいかも……え? あぁ、デート? あぁ、遊ぶのね、いいよ~」

 「アリス様!!」


 何だろう、凄く良い気分なんだよねぇ。


 「ひゅうっ、話が分かるねぇ」


 喜び勇んで、優男も二杯目の注文に入る。


 「じゃあ、私が勝ったら~、このお店の皆の食事と飲み代、全部お兄さん持ちね~」


 うおおおおおおっ、と周りから怒号が上がる。

 それに、やーやーと手を挙げて俺は応える。

 なんだろ~、良い気分~。


 「ほ、ほう? 勝負ってもんを心得てるな、銀の嬢ちゃんは? 面白い、乗ったぜ!」


 優男の目が、賭け事が成立したことによって本気になる。

 若干、顔が引きつっているようにも見えるが。

 ともかく、やる気はあるようだ。

 目がぎらぎらしている。

 俺たちは不敵に睨み合った。

 隣でイリアが何故か怒っていたが。






 「……おい、金の嬢ちゃんよ」

 「はい」

 「人間ってのは、あんなに笑えるもんなんだな?」

 「そのようですね」


 横でイリアと優男が何か話している。

 何話してる?


 「あははははっ! 何それ、その帽子なんで屋内でも被ったままなの? あはははっ」

 「これは、俺のポリシーなんだよ! というか、銀の嬢ちゃん、飲み過ぎじゃねえか!? 大丈夫か!? うぇっ」


 優男が青い顔をして、口元を押さえる。

 だらしない、俺より二杯は少ないはずだ。


 「まぁ、どちらが酔っぱらっているのかは置いておいて、勝負の方は決着ということで宜しいですかね?」

 「そんな、馬鹿な……この俺が、こんなお嬢ちゃんに、うぇっ」

 「宜しいですよね?」


 イリアに念を押されて、優男は呻きながらも首を縦に振った。


 「く……男に二言はねぇ、払えばいいんだろ、払えば!」

 「あはははははっ、聞いたかぁ、おまえら~~?」


 うおおおおおおっ、と再びの怒号が沸き起こる。


 「いいぞ、もっと食え~、もっと飲め~。今日は全部、このお兄さんの奢りだあ!」


 やんややんやのお祭り騒ぎ。

 あ~~~、なんだこれ、ほんと気持ち良い~。

 あれ?

 イリア、どうしたの、そんなくぁわいい顔して。


 「イリアも~、飲まないの~~?」

 「わたくしまで飲むと、狼共がいらぬ気を起こさぬとも限りません」

 「ん~~? 良く分かんないけど、まぁ、いいや~~」


 しっかし、つまらんな~。

 飲む相手がいないなんて、つまらんな~。

 お?

 良いのがいるじゃん。

 あっち行こ。






 ――タケシの場合。


 「くそ、頭いてぇ……ちくしょう」

 「辛気臭い顔して飲んでるなぁ」


 最初にこの飲み合いの口火を切った少年の元にやってくる。

 随分飲んだみたいだが、あっちの少年に負けている。

 確かあっちの少年が勝ったら俺に声をかけてくるという話だったと思うが、あっちの少年には少女が気を使って寄り添っている。

 はぁ、救われないなぁ。


 「うわっ、なんだお前!?」

 「煩いなぁ、おい、タケシ。お前、あっちのに負けていいのか?」

 「誰がタケシだ! そんな名前聞いたことねえよ!?」


 しかめっ面で言い返してくる威勢はあるようだ。


 「名前なんて、どうでもいいんだよ」

 「大雑把すぎるだろ! いてっ、くっそ、頭に響く」

 「なっさけない、情けないなぁ。勝っても負けても、お前に救いがないじゃん、馬鹿なの? それがカッコいいの?」


 確かタケシが勝っても、あっちのがあの子と付き合うとかだったっけ?

 あぁ、まぁ、細かいことはいいや。


 「うるせえっ、女に俺の気持ちが分かるかよ!」

 「はっ、勝負に勝てない、揚句にヤケ酒呷って、他人に当たる。これじゃぁ、振り向いてくれないね」

 「こっの!」


 勢い込んで俺の胸倉を掴みかかって――こようとした所で、タケシの首元にナイフが突きつけられた。


 「おわっ!?」


 イリアは可愛いなぁ。


 「それだけの威勢があるなら、ぶつかれよ」

 「なんだって?」

 「お前、あの子に気持ち伝えたことあるの?」

 「……でも、サイラは、あいつのことが好きだから」


 目に見えて消沈するタケシ。

 俺はジョッキをぐいっと、呷った。

 イリアがちょっと嫌そうな顔をしていた。


 「それでも、好きなんだろ?」

 「っ!」

 「保障なんて、出来ないよ。だけど、このまま終われないだろ? お前の恋がさ」


 あぁ、そういや俺サッカー部の頃、よくこんな相談受けてた気がするなぁ。

 人の相談聞き過ぎて疲れたよなぁ。

 それでも、ほっとけなかったんだが。


 「勇気を出せよ、それでもダメなら……また俺がヤケ酒に付き合ってやるから」


 励ますように、良い笑顔を作ってやる。


 「姐さん……」


 姐さん?

 ま、どうでもいいや。






 ――ケンジの場合。


 タケシが何かを決意した頃、もう一方の少年、ケンジはわざと少女を振り払ってカウンター席に移動していた。


 「飲んでるか、ケンジ」

 「ケンジ……?」


 ケンジは隣にやってきた俺を、訝しげな顔で見た。


 「あんたか……」

 「お前、勝負に勝ったら俺に声かけるんじゃなかったの?」

 「……」

 「ふん、分かってるんだよ。ダシに使われてることくらいな。お前も大概男らしくない奴だなぁ」

 「あんたに、何がわかるっ」


 特に何かされた訳でもなかったが、忠告代わりにイリアがカウンターにナイフの柄を叩き付けた。

 かなりいい音がした。

 店の人の顔が引きつっていた。


 「分かんないな。黙って身を引くことが、男の振る舞いだとでも言うの、お前?」

 「っ!」

 「そんな曖昧なことで、結局あの子の気持ちも、お前たちの気持ちも決着が着くものなの?」


 カウンターから店のおじさんに、追加の大ジョッキを頼む。

 イリアが泣きそうな顔をした。


 「俺は部外者だから、結局無責任なことしか言えない。いざ自分の立場になったら、やっぱり迷うだろうさ。でもな」


 言葉を区切って、武骨なケンジに笑いかけてやる。


 「あの二人を大事に思うなら、心の底から真剣に行動しなきゃ、後悔するぜ」

 「あんた……」


 ケンジはその武骨な顔から憑きものが落ちたような顔をした。


 「すまない……その通りかもな。あんた、良い女だな、姐さん」


 姐さん?


 「おう、良い恋しろよ、ケンジ」


 手に持った大ジョッキを祝杯代わりに掲げてやる。

 ……ん?

 ところで俺は、何をしているんだ?






 最初の席に戻って来た俺は、テーブルに項垂れている優男の背中を張ってやった。


 「うあいてぇ! て、そうでもねえ? じゃなくて何するんだ、銀の嬢ちゃん!」

 「何を黄昏てんだよ、あんたのお陰で、少なくとも二人の少年の気が晴れたみたいだぜ」

 「は……口調……?」


 どういうことだ、という顔で優男がイリアを見る。

 イリアは疲れたような顔で、首を横に振った。


 「時にはこんな気晴らしも、良いもんだなぁ」

 「お、おう……?」


 俺は腰に提げた革袋から一枚の硬貨を取り出した。

 それを親指で弾いて、テーブルに置く。


 「楽しませて貰ったよ。皆の分、それで足りなきゃ、後は払っといてくれ」

 「き、金貨……」


 周りの観客含めて、一際大きい歓声が巻き起こる。

 俺はそれに振り向かずに、じゃあな、と後姿のまま手を振って応えた。

 代わりに、イリアが律儀に礼をしていたが。


 「姐御……かっこいいぜ」


 姐御?

 俺はかなりいい気分で、食堂を後にした。






 ――次の日。

 目が覚めると、俺は激しい頭痛に襲われていた。


 「あ、頭いたいっ、なに、これ?」

 「……」


 イリアが微妙な顔をして、答えてくれないのは何故!?


 「何をやらかしたのじゃ、竜の小娘よ?」


 いつの間にか戻ってきていたティルが、半眼で俺を見る。

 一体、俺に何が!?


 「大したことではありません、が……お嬢様にお酒を飲ますのは、控えた方が宜しいかと」


 後半上手く聞き取れなかったが、ティルはやれやれと頷いていた。


 「妾はまた出かける。竜の小娘のクラスアップくらいは、済ませておけよ」


 そう言ってティルは颯爽と部屋から出て行った。

 釣れないところが、何か可愛いなぁ、ティルってば……


 「んん……チェックアウト、何時だろ。このまま同じ部屋で後二連泊するって、先に予約した方がいいかな」


 棚に置いた革袋から、硬貨を出す。


 「あれ? 金貨が一枚減ってるような……?」

 「……気のせいでございます。お嬢様」

 「そ、そう? イリアが言うなら」


 おかしいなぁ……

 というか、頭が痛くて考えがまとまらない……


 「ごめんね、イリア。少しこのまま横になってていい?」

 「もちろんです、アリス様。お水をお持ちしましょうか?」

 「うん、お願いします」

 「ふふ、やっぱり。わたくしはこちらのお嬢様が好きです」


 「え?」

 「……でも、あちらの方も、確かに……」


 何故かイリアは頬を染めて、お水を取るために椅子から立った。


 「あちら?」


 良く分かんないが、今日は色々やらなきゃいけない事もある。

 ティルの言う通り、イリアのクラスアップは今後の事を考えると欠かせない。

 さっさとこの街の遺跡を見つけて行ってこよう。

 今の俺とイリアなら、行けないはずがない。

 それからギルドで一個くらいは、簡単な仕事も請け負いたい。

 路銀のこともあるしね。

 それに、買う買わないは別にして、装備も変えていかなくては。

 俺は枕元に立てかけてある雷のロッドを手に取った。


 「欠けてるから、もう使えないのかなぁ」


 実は、一人で無茶をした時にクマの口に突っ込んだ際、雷の宝玉が欠けたようで雷撃が出なくなっている。

 戦闘の際は、ただの棒きれ替わりにしか使えない。

 いくら魔法メインで戦うとは言っても、寂しいものだ。


 「ちょっと、捨てたりしたくないんだけどな……」


 ロッドをそっと立てかけ直して、ため息を吐く。

 いずれにしても、やることだらけだ。

 いつまでも寝てる場合じゃないだろう。

 しかし考えてると、やっぱり頭痛いなぁ……


 「どうぞ、アリス様」


 ちょうど良いタイミングで、イリアが戻ってくる。


 「うん、ありがと」


 イリアの笑顔に癒されながら、俺は受け取ったコップから水を喉に流し込んだ。


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