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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
一章 異世界転生編
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異世界転生は、美少女で

 目が覚めたら、全く見知らぬ光景だった。

 混乱したんだが、覚えはある。

 想像力は豊かな方だ。


 「……え? いや、異世界? 本当に?」


 うん、想像力は豊かだが、声に出すと馬鹿っぽい程斜め上な事態だな。

 それよりもっと重大な事実が、今出した声の中にあったぞ?

 そう、声。

 声だよ、声?

 俺の名前は、有栖川明斗。

 18歳。

 この春に上京して入学したばかりの大学生だ。

 ちょっと落ち着くために、回想しよう。

 少し前の事を―――





 高校までの俺は、田舎ではあったが部活動にも入って割と精力的に学生生活を過ごしていた。

 サッカーを幼い頃からやっていた俺は青春の大半をそれに費やし、そして三年最後の大会で敗れて燃え尽きた。

 そこからはそれを忘れるように勉強し、実家を出る条件である割と難関の大学に合格して、一人暮らしデビューと相成った。


 ――いや、ここまでは良かった。


 だが俺はもう、この18歳までの時点で自分でもどうかと思うが燃え尽きてしまった。

 もう、な~んもやる気が起こらなくなった。

 大学なんて入学式しか行ってない。

 現役大学生という名のニート予備軍であるのに疑いはない。

 しかし何のやる気もないが、暇を持て余しているのも確かだ。


 そんな時に出会ったのが、ネトゲである。

 自分の分身となる新しいキャラを作り出して、仮想現実の世界で新しい自分を演じるのはかなり爽快だった。

 あっという間にハマって、丸一か月寝る間も惜しんで色々なゲームをやってみた。


 大学?

 一日も行ってないよ?

 あ、ごめん入学式ね、入学式だけ行ったわ。

 俺は別にコミュ症という訳でもないからね?

 ただ、めんどくさいだけなんだ!

 か、勘違いするなよ!


 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 とにかく俺は、特にファンタジー系のMMORPGが好きだ。

 ファンタジー。

 これがいい。

 昔から現実に疲れた時なんか、本を読んだりしては空想に浸るのが大好きだった。

 ファンタジー系の映画を見た夜は空想いっぱいで幸せすぎてふわふわしてた。

 飛行石は無かったが、目を瞑っただけで大空を飛び回っていた。

 そう、ファンタジーな世界を駆け抜けるのが大好きなのだ。

 新しい自分で。

 そんな俺は数多のネトゲを数多のキャラで渡り歩き、ある意味充実した大学生活を送っていたのだが、ここで一つ実験してみたいことが出来た。


 ――ネカマ、してみたい。


 うん、してみたいな。

 男の俺が思う理想の女、というのを演じてみたい。

 まぁそんな、ちょっとした変身願望?

 ペルソナ?

 そして俺は決断した。


 ――誰よりも可愛い女になろう、と。


 それから適当なネトゲを探し回り、『異世界で新生活』などという、ちょっとスローライフっぽいネトゲを発見した。

 随分かっこも何もない、緩い名前である。

 だがそれが気に入った。

 そのゲームでネカマデビューをすることにした。


 キャラクターメイキングはかなり凝っていた。

 種族も色々あるが、とりあえずヒューマンとエルフのハーフということにした。

 年齢は15歳。

 髪の色はかなり迷った。

 二時間は迷ったかもしれん。

 やはり金髪は鉄板。

 しかし、赤もカッコいい。

 だがピンクは可愛い。

 青系もクールでいい感じ。

 もちろん、オーソドックスなブラウンも落ち着いていて良い。

 しかしファンタジーな世界で敢えて黒というのもまた良いものだ。

 迷った。

 迷いに迷って、もう一つの鉄板にすることを決断した。


 プラチナブロンド、つまり銀髪にした。

 銀髪ロングのストレートにした。

 かなり神秘的な雰囲気で良い。

 顔は快活な感じ。

 瞳の色は琥珀色。

 身長は160センチちょうどにしよう。

 細身でモデルのようなスタイル。


 おっぱいには夢が詰まっているが、今回のキャラ設定では余分な気がしたので控えめにした。

 うむ、こだわりが合って良い。

 こうしてキャラクターメイキングが終了した。

 めっちゃ時間かかった。

 だがこれ以上ない程満足いく美少女に仕上がったと言って良い。


 で、次からはキャラクターの能力設定。

 職業は色々あって、これもやはり悩んだ。

 どれがこの美少女に相応しいのか。

 剣を持った前衛職というのもこれはこれでアリだと思うが、まぁそれは次の機会にして今回はやはり魔法職系にしたい。

 火力か、回復か。


 快活な設定にしているから、火力かな?

 それもどうせなら天才的な攻撃職になりたい。

 魔法使いを選んで、ポイント設定に移る。

 どう設定してもレベルが上がればそれなりに強くなっていくのだろうが、この最初のポイント設定は根本的な素質の設定というやつらしい。

 これも悩んだ。

 五角形のレーダーチャートに五段階で設定できる持ちポイントが10だ。


 力

 体力

 守り

 敏捷

 知力


 この五項目にポイントを振るようになっている。

 万遍なく数値を振ると、全部2になる。

 つまり、2が平均的な数値と考えてよいだろう。

 3が優秀。

 4で常人離れ。

 5で天才レベル、というところか?

 とにかく、この素質設定はかなり重要だと感じる。

 ふぅむ。

 器用貧乏は俺の好きなところではない。

 なので、一点突破しよう。


 力0

 体力1

 守り0

 敏捷4

 知力5


 これで持ちポイント10を綺麗に使い切る。

 ふ、紙のような防御力だ。

 しかし俺は敏捷と、知力――恐らく魔法力で生きていく。

 後は美貌?


 そして最後の項目は、特殊能力の設定らしい。

 これも特殊能力一つにポイントを入れることで取得できるみたいだ。

 特殊能力取得ポイントは3ポイントしかない。

 かなりの項目があるが、一点突破を極めることにした。


 『詠唱短縮』

 『ダブルキャスト』

 『潜在能力』


 以上の三点にした。

 俺の攻撃を防げる奴はこの世界にはいない……ような気がする。

 ……しかし誰か盾役を早々に見つけないと、スライムの体当たりで即死レベルじゃないだろうか?

 まぁ、いいだろう。

 敏捷で回避は可能だ。

 ようやく、四苦八苦したキャラクター設定の全てが終わった。

 画面を進むと、異世界にようこそ、と案内が出る。




 『あなたは異世界を信じますか?』


 『はい』 『いいえ』




 と、出てきた。

 『はい』だよ『はい』。

 迷いなどない。

 俺は異世界を夢見る純粋な男なのだから。

 迷わず『はい』を押した。




 『――では、良い人生を』




 と、最後に案内が出た。


 ―――気がする。


 気がするというのは、そこで俺の意識が途切れたからだ。






 ―――回想終了。


 「……」


 ふぅむ。

 何か嫌な予感がぷんぷんするぜ。

 夢だとか催眠術だとか、そんなチャチなもんじゃぁ、断じてねえ。

 俺が座るこの草原の草の柔らかさも、その匂いも、確かに自然そのものだし。

 大体俺の城であるワンルームの部屋は何処に行った?

 寝ぼけてもいない。

 視界もしっかりしている。

 頭も冴えているつもりだ。

 問題ない。

 何も問題ない。

 よし、いい加減覚悟を決めて、最初に懸念していた問題を確かめてみるか。

 俺は意を決してもう一度声を出すことにした。


 「あーあー、自分の確認中」


 信じられないくらい、可憐な声がした。

 間違いなく、俺の喉から。


 「……」


 違和感のある髪を梳くってみる。

 長い、そして艶々で滑らかな銀髪。


 「……」


 胸を触ってみる。

 控えめだが、そこには夢が詰まっていた。


 「……」


 おまたを触ってみる。

 べ、別にえっちなことじゃないんだからね!?

 大事なことなんだ!

 大事なことなんだ!!

 そう、本当に……そして――




 ――――ついてなかった。




 「……え?」




 ――――え?




 この時の俺の絶望感や。

 危うく、ここでもう一度気絶してしまいそうになった。

 だが、何とか気を取り直す。

 とりあえず起き上がってみる。

 身体の調子は悪くない。

 思い通りに動く。

 違和感のようなものは……まぁ、無いと言っておこう。

 しかし俺の元の身長は175センチだ。


 「何この目線の高さ、低い……」


 それは確実に感じる、物凄い違和感だった。

 ……なるほどね。

 はいはい。

 160センチだろう?

 分かってますよっと。

 ちょっと投げやりになった。

 しかしもう、分かってしまった。

 いや、何をどう理解しろというのか分からんが、もう認めよう。






 「俺、女になった……」






 ――ネカマしようと思っただけなのに、異世界で女になったっぽい。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 三年最後の大会後に猛勉強したってあるけど、高校のサッカーって野球とちがって本気でサッカー好きな人なら冬の全国高校サッカー選手権まで続けるだろうし、受験勉強する期間ほとんどない気が……
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