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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
一章 異世界転生編

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生ける伝説

 「待ち伏せにしても、用意周到過ぎるね」


 シオンさんが考え込む横で、俺はおっさんからマントを借りて、短くなったスカート部の代わりにパレオのようにそれを腰に巻いた。


 「昨日の夜の内に出発した奴らが、先に見つかって尋問でも受けてたんじゃねえのか?」


 おっさんが言うが、シオンさんは納得いかない、という顔をしている。

 しかし、何気に恐ろしい事を言うな、おっさんも。


 「しっくり来ないけど……ただ、たかが盗賊団に魔法使いが居たのは驚きだね」


 シオンさんは、対岸で倒れる盗賊を見た。

 釣られて見たが、微動だにしない。

 死んだふりをするにも、迫真過ぎるだろう。

 そもそも倒れた際に、顔が川に浸かっている。

 議論の余地はない。


 「……」


 シオンさんが倒した盗賊に目を向ける。

 峰打ち――のはずがない。

 明らかに分かる血の跡。

 ただ、思ったより……気分は落ち着いている。

 近くで見たいとは思わないが。

 それとも、感覚が麻痺してるだけだろうか?


 「どうにもキナ臭いなぁ。どうするシオン? 中継点に報告しに帰るか? それとも、しばらく様子を見るか?」


 おっさんはシオンさんを本当に信頼しているんだろうなぁというのが良く分かる。

 まぁ、俺もなんだが。

 盗賊のアジトは、森の奥にあるちょっとした岩壁にある洞窟だ。

 森が深いし、そもそも街道から離れているから敢えて近寄るような場所じゃない。

 森のちょうど外に居る俺たちには、突入班の状況は分からない。

 ここで待っていれば、逃げ出した盗賊が来る、かもしれない。

 来ないかもしれない。


 「まだ作戦は始まったばかりの頃合いだろうし、様子を見るのが正解なんだろうけど」


 考えながらもシオンさんは森に、対岸にと視線を走らせて警戒している。

 さっきは偶々俺が最初に敵を見つけたが、基本的にシオンさんに油断はない。


 「風向きが怪しい時は――」

 「直感を信じることにする、だろう? 全く跳ねっ返りに育ちやがって」


 にっと笑うおっさんの犬歯がワイルドだった。


 「はいはい、親父の娘だからね」

 「違ぇねぇ」


 と、2人の意見が一致したらしい所で、俺に視線が集まった。


 「あたしたちはこれから、アジトの様子を見に行く。アリス、あんたは帰りな」


 言われると思ったんだよね。


 「1人で帰る方が危ないと思いませんか?」

 「アジトに付いてくるよりは、危ないと思わないな」

 「一度皆で帰るのは? ニコルさんも本調子じゃないです」

 「それを言われると、辛ぇがな」


 照れ笑いを浮かべて、おっさんは頭をかいた。


 「だがな、アリスちゃん。盗賊団を撃ち漏らすのは、上手くねえ」

 「それは……」


 街自体の衰退の問題だ。

 軽視出来るものではない。

 この依頼は、遊びじゃないんだ。

 俺は冷水を浴びせられたような感覚がした。


 「……」

 「ふふ、そんな目で見るなアリス。あんたは十分過ぎるくらい頑張ったよ」


 不満が顔に出ているくらいは、俺にも分かる。

 というか、俺も2人が心配なんだ。


 「頼むぜ、アリスちゃん。キナ臭い状況の報告だって、立派な任務なんだぜ?」

 「……分かりました」


 ダメだ。

 俺がどんなに駄々をこねても2人は納得しない。


 「よし、あんたも言った通り、帰り道だって何があるか分からない。これはあんたを信頼してるから別行動を任せるんだって、自覚しなよ?」

 「ズルい言い分です……」


 笑って、シオンさんに頭を撫でられる。


 「2人とも、本当に気を付けてくださいよ?」

 「分かってる」

 「おうよ、俺もアリスちゃんにカッコ悪ぃとこばっか見せられないからな」


 別にカッコ悪いとは思わなかったが。


 「では、また後で」

 「ああ」

 「おう!」


 2人を見送って、もう一度盗賊の死体に目をやってしまう。

 1人で見ると、やはりさっきより恐ろしい感じがする。

 俺は気持ちを無理やり切り替えて、森に背を向けて歩き出した。






 当たりを引いてしまったな、と思ったのは中継地点に到着した頃だ。

 中継地点は、街道を利用する人が休憩できるように作られた、簡易的な小屋だ。

 小屋と言っても外からは丸見えで、丸太の椅子を囲うように4本の木の柱があって、そこにちょっとした屋根が付いているだけだ。

 公園の屋根が付いている休憩所なんかに似ている。

 おかしいのは、そこに待機しているはずのギルド担当者が居ない事。

 辺りを見ても、誰も居ない。

 決められた中継地点で誰も居ないのは、この作戦の重要性を考えれば極めて不自然だ。

 持たされた地図を見るが、間違ってはいないだろう。

 目印となる物をちゃんと辿って、地図通りにここに行きついたのだ。

 ここからなら、街道を辿って行けば街まではそう遠くない。

 考えても仕方ないのなら、一気に街まで帰って直接ギルドに報告するしかない。


 「――おい、小娘」

 「―――っ!」


 心臓が止まるかと思った。

 振り向くと、本当にいつの間に居たのか、今の俺よりも小さな女の子が立っていた。

 思わずロッドを構えたが、女の子は何もしない、とばかりに両手を広げて見せた。


 「な、何です? どうやって……」

 「今から街に帰ろうとするのは、止めておけ。死ぬぞ」

 「……は?」

 「先ほど主らの戦士たちが出払ったタイミングで、ならずもの共が逆に街に仕掛けたのじゃ」

 「な――にを、言って……」


 思わず街道の先にある街の方角を見た。


 「あれ……煙!?」


 まだ距離があって、はっきりとは分からない。

 だが、あれは……!


 「賢しい、ダークエルフがおってのぅ……恥さらしじゃが」


 そこで初めて女の子の特徴に気が付いた。

 金髪のツインテール。

 そこから覗く尖った耳。

 澄んだ空色、というよりは深海を思わせる蒼の瞳


 「あなた……まさか、エルフ!?」

 「鈍いのう。いかにも。人里に出てくるなど、もう何時振りだったか記憶にないが」


 女の子は、その可愛らしい見た目とは裏腹に、態度も喋り方も幼さが無い。


 「それより、今は急ぐ。里の恥を雪がねばならん」

 「あなた、街を助けてくれようとしてるんですか?」

 「勘違いするな。妾は妾の事情で動いておる。人里など知ったことではないが……ついでに助かるという結果には、なるやもしれんがのう」

 「……あなた、強いんですか?」


 1人で盗賊団を相手にしようとするほど?


 「くふっ、そなたのような小娘に確認される程度には、時が経ったか」


 時って、今の俺より幼い容姿をして何を言ってるんだ。

 それとも、エルフってことは……


 「妾はティルベル・エインシャウラ。氷雪の魔女と呼ばれておった、時代もある」


 俺よりも明らかに無い胸を張って、女の子が応えた。

 が……


 「知りません」

 「……これだから、最近の若い者は」


 女の子は気分を害したのか、俺に構わず街に向かって歩き出した。


 「待って下さい!」

 「……なんじゃ? 急いでおるとゆうて――なぁ!?」


 俺はエルフの女の子の手を掴んで、走り出した。


 「だから、歩いてる場合じゃありませんよ!」

 「お主が引き止めたんじゃろうが!」

 「細かいことは良いんです!」

 「というか、人の忠告を聞いておらんのか、お主は!」

 「聞いてられない場合だって、あります!」


 シオンさんも、おっさんも居ない。

 ギルドのメンバーはアジトに出向いている。

 一体どこですれ違ったのか分からないけど、今あの街に大した戦力はない。

 自警団はあるが、そんなに大きな規模じゃない。

 田舎の街なのだ。

 誰がおばさんを守る?

 誰がエレノアさん達を守る?

 イリアは?


 「……のう、小娘。お主、名は?」

 「アリスです!」

 「……この魔力」


 女の子がその蒼い瞳で俺をじっと見て来る。


 「面白い。アリスよ、特別に同行を許す。妾の事はティルと呼ぶがよい」


 くくく、と何故か女の子は楽しそうに笑っていた。


 「それは、どうもです! それより、あなた――ティルは本当に強いんですよね!?」


 見た目通りの、幼い女の子が背伸びしているのなら、俺の行為は殺人幇助になってしまう。


 「まぁ、お主のように無駄な体力を使わない程度にはのう」


 そういえば引っ張っておいて何だが、小さい子なのに良く付いてくると思っていた……


 「空気の上を……走ってる!?」


 女の子の脚は地面に付いていない。

 そして空を駆ける彼女の歩幅は飛ぶように長く、余裕で俺の走りについてくる。

 いや、むしろ俺が合わせて貰っているレベルだ。


 「空を飛ぶことは出来んが、一時駆ける程度ならの」


 空気中に着地する際に、冷気のようなものが出ている。

 冷たい空気は、温かい空気より重いから、下に落ちるという。

 つまり、冷気を地面に叩き付ける反動を利用してる……という解釈か?

 どちらにしても、これで只者であるはずがない。


 「……深く考えるのは止めです。強いのなら、それでいいです!」

 「うむ、急げよ。どちらも手遅れになる前にの」


 ……どちらも?

 走りながら、俺は思わず盗賊のアジトの方に振り返った。


 「……無事で!」


 信じるしかない。

 身体は一つしかないのだから。

 俺は女の子――ティルの手を強く握って、走る速度を上げた。


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