秘境の遺跡
一夜明けたエルフの村の有様は悲惨、という言葉すら気休めでしかない状態だ。
木造の家は焼け、怪我人は後を絶たない。
遺跡に現れたサイクロプスが火事から避難していた村民を虐殺……している。
それに長の姿が見当たらない。
ひとまず焼け残った建物を防災拠点にして集まっているのだけど。
「ミオ、レナ、里長さんの姿が見当たらないんですけど……」
「……」
「……」
毒舌が飛んでくるかと思ってたけど、流石の双子ちゃんも憔悴してるのか。
何か含むような表情だが、二人そろって俯いている。
俯いているといえば、マリアさんも朝から思案顔で無口だ。
「ふぅ……次に、怪我が酷い方は?」
建物の中では未明からシトラが、ずぅ~~~っと回復に明け暮れている。
俺ではとても癒せないような火傷や重傷者まで癒していくヒールは驚嘆ものだ。
それに何より絶対に助けるんだという精神力が凄い。
「……職業とかいうことじゃなくて、あなた本当に聖女さんですよ、シトラ」
外に出てみると火種はひとまず全て鎮火しているようだ。煙も上がっていない。
シルヴィちゃんが雪を降らせて完全に鎮火してくれている。
昨日の戦いといい、我が娘は頑張り屋である。
「アリス殿、良いですか?」
「マリアさん?」
押し黙っていたマリアさんに呼ばれて人気のない場所に付いていく。
ん? わざわざ内緒話が必要な事?
「先に結論から申し上げます。昨日の黒龍の主……あれは里長さんです」
「……え!!?」
あのとんでもない魔法使いが、里長さん!?
「だ、だって、え? 里長さんとは先に村で会ってましたけど、あんな姿じゃ……姿?」
あれ?
そういえば、どんな容姿だった?
「そうです。認識疎外の魔法か、スキルなのか、そこは分かりません。ですが私たちは既に顔見知りのはずの里長さんを認識できておりませんでした」
「ちょ、ちょっと待って下さい。じゃあ、この惨状は? あの人が?」
「……そこは分かりません。昨日の里長さんの言葉を信じるなら、村への襲撃は別勢力と考えても良いかもしれません。まして遺跡の悪魔は完全に別物でしょう」
ただし――とマリアさんが付け加える。
「あれほどの力を持っておきながら、助けなかったのは事実ですが……」
「……」
なんてことだ。
ティルを育てた親代わりのような人、だと聞いていたのに……
「目的が、分かりません……」
「はい、それは私にも。ですが、それを知るためにも立ち止まっている暇はありません、アリス殿」
「そう、ですよね……」
横目で村を見ると、後ろめたい。
「心配しないでください。もはやこの村でエルフたちは生活できないでしょう。私がひとまずリンナルの村まで案内してきます。少々外聞は悪いかもしれませんが、確かあの町には奴隷商館があったと思いますので、短い間なら村民の滞在は可能でしょう」
そうか、その手が。
「頼めますか、マリアさん」
「ふふ、一緒に先に進めなくなってしまい申し訳ありませんが、任されましたわ」
本当に頼りになるな、この人。
「それならシトラもお願いします。彼女はもう十分に戦いましたし、怪我の面倒を見るためにも彼女は絶対に必要でしょう」
「……シトラ様の力は、これから先のアリス殿に必要かと思いますわ」
「いいえ、お願いします、マリアさん。あと、シルヴィちゃん――」
「――お母様! わたくしは、わたくしの意思でここに居ります。お母様の意思に左右される立場ではありません」
木陰からこちらを伺っていたらしいシルヴィちゃんが激おこだった。
娘に怒られてしゅんとしてしまう。
「う、うん……ごめんね」
「……村を見回ってきます」
肩を怒らせて足早に去っていく娘。
「ふふ、アリス殿。子育てとは難しいものです。クランも本当に難しい子だったのでよく分かりますわ」
「そういうマリアさんは反抗期とか無かったような感じですよね」
「どうでしょう?」
こて、と首を傾げるマリアさんは年上ながら愛嬌満点だ。
「とにかく、シトラ様の件は承知しました。あの方の戦場は私たちとは違う場所なのだということが、本当に良くわかりましたので」
「ありがとう、マリアさん。村民とシトラの事、よろしくお願いします」
「承りました」
微笑んだマリアさんは皆をまとめるために防災拠点に入って行った。
クランもマリアさんには頼りっぱなしみたいだし、俺も正直頭が上がらないな。
さて、それではもう一つの懸念を確認しに行きますか。
魔力を込めてジャンプする。
昨日サイクロプスが出た遺跡に向かう。
何度かジャンプを繰り返して到着。
「イオナ」
黒髪黒目の以外は私によく似たエルフの娘が黄昏ていた。
遺跡の入り口で所在投げに、ポツンと佇んでいる。
「アリス……」
明らかに落ち込んでるな、この子も。
「負けた……私は、もう負けた……」
「負けてないでしょう。今のあなたは勝ちの途中。全然負けてません」
あんな前哨戦、勝敗すら無いわ。
情緒不安定か。
「でも……」
「ふむ……イオナ、おいで」
手を広げてイオナを呼んでみる。
この子、見た目はともかく生まれたばかりだから人肌というか、スキンシップが足りてない気がする。
そういうの情操教育で凄く大切だって聞いた気がする。
愛されているという安心感が自己肯定感を育むとかなんとか。
「?」
俺を見て不思議顔をするイオナ。
「まあ、騙されたと思って私の胸に飛び込んできなさいよ」
「? 分かった」
「げっふ――」
戦いでも始まったかのように突進されてあばら折れかけた。
誰が本当に飛び込んで来いと……?
こいつ、今度絶対しばく。
だが落ち着け、今は落ち着け。俺は大人、俺は大人。
「~~ふぅ」
「……」
よしよしと頭を撫で繰り回す。
サラサラの黒髪が手の隙間から零れ落ちる。本当に綺麗な髪してるな。
あ、自画自賛になりそうだから控えるわ。俺はナルシストじゃないからね?
そうこうしていると、おっかなびっくりイオナが俺の背中に腕を回してきた。
「どう、落ち着く?」
「……」
返事は無いが、離れる気配もないので撫で繰り回す。
よしよしよ~しよしよし。
ああ、そういえばこの遺跡にも少し用事があったんだっけ?
なんか秘密があるとかないとか言ってたような……?
せっかくだから、覗いてみるか。
「イオナ、この遺跡を一緒に調べてみる?」
「……ん」
おや?
イオナの様子が……?
まあ、おちょくるのはやめておこう。
素直になったイオナの手を引いて遺跡に入る。
パッと見た感じはリンナルや他の遺跡と同じように見える。
特に何がある訳でもなさそうだが。
そもそも初期転職や生活用水に使っているという意味でも目新しさも無いだろう。
「それにここの秘密がどうのこうの言ってたのって、あの里長さんだったような……?」
怪しさ100%。
あの人、本当にナニモノ?
黒龍ディアドラを使役しているエルフ……
それって、つまり……初代様じゃないの?
それこそ何百年、下手したら千年前の人だよ?
「まだまだ世界は謎に包まれてるね」
トコトコ遺跡を進むが、イオナは無言でむぎゅっと手を握り返してくるのみだ。
まあぎゅっと握り返してくる手が、口よりも雄弁に心情を伝えてくるわけだけど。
「そういえば今更だけど、疲れてなぁい?」
「……ん、大丈夫」
「それなら良いんだけど」
とことこ二人で遺跡の奥に進んでいく。
道中微々たる魔物は出てきたが、まあ相手にもならない。
時々イオナがダークという魔法で倒してくれたりする。
手は握ったままなんだけど。




