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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
一章 異世界転生編

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盗賊団

 3日後、盗賊のアジトを発見したギルドによって、盗賊殲滅作戦が行われることになった。

 ギルドから説明を受け、パーティ同士の連携についても確認された。

 と、言っても急造な連携など大したことは出来ない。

 せいぜい、敵のアジトに東から突入するとか、西から突入するとか。

 包囲担当で、逃げてきた盗賊の相手をするとか。

 その程度だ。

 殲滅作戦に参加する冒険者パーティは、全部で16パーティ。

 人数にすると50人ちょっと、という所だ。

 対する盗賊の人数は動きを察知されない為、ということもあり、把握し切れていない。

 アジトの規模からすれば、恐らく30人程度だろうと予測されている。

 逃げられてしまえば意味はなく、かといって、戦力不足では返り討ちに合う。


 ――かなり、危険な依頼である。


 だが、リンナルの街と周辺の街をつなぐ街道や林道を荒らされる被害は深刻で、いつまでも指を咥えて見ているだけでは住民生活に支障が出る。

 商人も通りたがらないだろう。

 それでは街が寂れてしまう。

 思った以上に、深刻な事態と言って良い。

 王都に行けばギルドではなくて、ちゃんとした騎士団があるらしいが、当てにするには腰が重すぎるらしい。

 申請し、然るべき手順を踏めば『いずれは』来てくれるらしいが、それでは困るというのが住民の本音だ。


 「なぁ、シオン。本当にアリスちゃんも参加させるのか?」


 作戦決行の出発前、家で装備の確認をしていると、おっさんが口を開いた。

 自分の剣を見ていたシオンさんが、それを鞘にしまいながらおっさんに向かってはっきり頷いた。


 「これはこの子が決めたことだ。冒険者としてね」

 「そうだがよぉ……」


 心配でたまらない、という表情でおっさんは俺を見る。

 ……まぁ、気持ちは分からないでもないよ?

 だって、今まで心配しかさせてないしねぇ。


 「ニコルさん、私も出来ることをするだけですから」


 無理はしない――

 と、本当は続けたかったのだが、実際の戦場ではどうなるか分かったものでもないので、黙っておく。


 「う……む。危なくなったら、自分の身を第一に考えて逃げるんだぞ? アリスちゃん」

 「分かってます」


 嘘だ。

 出来るわけない。

 危なくなったら?

 俺のパーティは当然、おっさん、シオンさん、そして俺。

 シオンさんの連れは今回別に参加しているので、この家族だけのパーティだ。

 このパーティで、後衛の俺が危なくなる状況というのは……考えたくもない。


 「――さあ、行くよ」


 シオンさんの声に、俺は強く頷いた。

 王都に行く前に、この人たちの為にも少しでも恩返ししたい。

 剣で戦うシオンさんとおっさんのパーティで、遠距離攻撃出来る俺は役に立てるはずだ。

 街の人たちの為にも、盗賊は討つ。

 相手のことは考えなくていい。

 それは、後になって考えればいいことだ。

 俺たちはおばさんに見送られ、作戦行動に移った――――






 盗賊のアジトは森の遺跡とは反対側の方向で、逆側から街を出て、街道を迂回しながら進んでいく。

 俺たちは当日の朝早くに出発したが、早いパーティは前日の夜の内に出発している。

 バラバラに街を出て持ち場に付くようになっているからだ。

 気休めに過ぎないが、少しでも盗賊の見張りを欺く為に。

 俺たちの役目はパーティの人数が少ないということもあって、アジトを囲んで逃げてくる盗賊の相手をする事だ。

 但し、見張りや外出中の盗賊とかち合う確率も少なくない為、安全だとは言えない。


 「そろそろ持ち場だね」


 シオンさんが印を付けた地図を広げながら、周りを確認する。

 街に流れる川の上流の傍で、すぐそこには森が広がっている、という地形だ。

 作戦開始は、太陽が上がり切った頃。

 時計があれば、正午ということだ。

 そして、それは間もなくである。


 「……突入する方、無事だといいですけど」

 「6人パーティの熟練者たちが、6組で突入するんだ。祈るしかないね」

 「はい……」


 さすがにシオンさんも、緩んだ空気が無い。

 注意深く周辺を伺っていた。

 それはおっさんも同じで、ちょうど腰掛けるのに手頃な大きさの岩に体重を預けて目を瞑っている。

 音に気を付けているのかもしれない。

 俺は、というと、何だか居ても立ってもいられないような焦燥感に襲われている。

 現状任務は待つ事なのだが、何かした方がいいんじゃないかと、そわそわする。

 まさに、浮足立つとはこの事である。

 シオンさんにもおっさんにも話しかける空気じゃないので、とりあえず俺は気持ちを落ち着かせる為に、水筒の水でも入れ替える事にした。

 川辺に近づいて、残った水を捨ててから、水筒を川に沈める。

 ちなみに、水筒はもちろん魔法瓶じゃ無い。

 革袋だ。


 「ん……?」


 水筒を沈めながら、何ともなしに川向うを眺めると、川べりの岩陰に何か不自然な違和感を感じた。

 川幅は10メートルくらいで、向かいの川辺にある大きな岩が光っているような気がする。

 光の反射だろうか?

 いや、あの光の粒子は……!?


 「魔法だ!!」


 咄嗟に叫んで2人に伝えた。

 だが、遅い!


 「凍てつく吐息よ、舞い踊って刃と化せ―――ブリザー!!」


 岩陰から飛び出した相手が、詠唱を口ずさむ!

 形成された氷の魔弾が、その名の通り刃となって降り注ぐ。

 狙いは―――全員!?

 魔法は範囲で撃てるのか!?

 俺たちの頭上から、雹のように氷弾が襲いかかる。

 とても避けられるものではない。


 「―――っ」


 せめて腕で防ごうと両腕で顔だけでも庇った。

 串刺しにされる――なんていう最悪の事態も予想したが、受けた衝撃は思ったほど最悪でもなかった。

 雹の礫を受けた、くらいの衝撃だ。

 もちろん、痛い事は痛い。

 が、その程度だ。

 せいぜい痣が出来たくらいだろうか?

 何故?

 と思って様子を見ると、自分の周りを薄らと光の膜のようなものが囲んでいた。

 氷弾が俺に当たる前に、その光の膜に当たって威力が弱まっている。


 「魔法防御は――知力なんだ!」


 と言うことは、この場で一番軽傷なのは、知力5の俺だろう。

 逆に――


 「お姉ちゃん!! ニコルさん!!」


 特にシオンさんは知力0!

 ようやく氷弾が収まったと同時に、ぞっとして振り返る。


 「大丈夫だ!」


 シオンさんは傷一つ無く、剣を抜いていた。

 え?

 無傷?


 「え?」


 まさか。

 全部……避けた!!?


 「化け物ですか!?」

 「何で罵倒されてるんだろうね、あたし……親父! 無事か?」


 対岸を睨みつけながら、シオンさんはおっさんに声をかける。


 「ああ、どうってことねぇ」


 盾を構えたおっさんが、のそりと起き上がる。

 ――が。


 「――足!」


 足に、氷の刃が突き刺さっている!

 おっさんは、問題ねぇと笑っているが、あれでは動けないだろう。

 ヒール!

 いや、それより対岸の敵が先か?

 考え込む間もなく、状況は動いた。

 森から盗賊団と思わしきパーティが出てきた。

 森から5人、対岸の魔法使いと合わせて、全部で6人!


 「ちっ!」


 対岸よりも、身近な脅威。

 シオンさんは盗賊団に向かって駆けて行く。

 剣が3人。

 槍が2人。

 魔法使いが対岸に1人。

 よく考えてる!

 詠唱とクールタイム、それに遠距離攻撃を思えば最適な配置だ。

 もし、こちらに遠距離攻撃出来る人間が居なければ、一方的になる。


 「……」

 「……分かってます!」


 切り込む前に、シオンさんは俺に視線を向けてきた。

 その視線だけの合図に、俺は大きく頷いた。

 それにシオンさんが小さく笑った。

 対岸に視線を戻すと、魔法使いがクールタイムを終えて再詠唱を開始した所だった。

 そんなんで……やらせるか!


 「遅いんですよ! 天を裂く一筋の光となって、我が敵を撃て―――サンダー!!!」


 ノンタイムで、魔法を放つ。

 それも詠唱を唱えた本気の一撃。

 魔力を生成する様子もなく突然魔法を発動した俺に、対岸の魔法使いは驚愕の顔を浮かべて――避ける間もなく、崩れ落ちた。

 相手の魔法防御を、完全に上回っているのだろう。

 光の膜など、何の意味も為さない手応えだ。

 その結果に、少し鳥肌が立つ――が。

 それは、後だ!

 考えるのを止めて、おっさんの元へ走る。


 「傷は……ひどい!」


 脂汗を流すおっさんの左太腿に、氷の刃が突き刺さっている。

 痛々しいなんてものじゃない。

 流れ出る血すら凍りかけ、凍傷すら誘発しそうだ。


 「お、おう、すげぇじゃねぇか、アリスちゃん。大した腕だ!」


 全く全く!


 「そんなことは、どうでも良いんです!」


 どうしたら良い?

 ヒールを使うにも、氷の刃を先に抜いた方が良い気がする。

 だが、それをすると血が溢れ出るか?

 どちらにしても、このままでは凍傷になる!


 「貸してください!」


 俺はおっさんから剣を借りて、自分の皮のローブのスカートを切り裂いた。

 大分短くなったが、そんなことはそれこそどうでも良い。

 これで止血帯の代わりにする。

 左足の付け根を精一杯の力で締め付ける。


 「くぅっ 力! 弱くって……!」


 これで大丈夫か!?

 ちゃんと締まってないと、意味がない!


 「こいつを締めればいいんだな?」


 おっさんはダンディな顔で俺に笑いかけると、自分で止血帯を結び直した。


 「は、はい! 少しの間だけですが、目一杯締め付けて下さい!」

 「おうよ! ぐぅぅっ」


 苦悶の表情を浮かべながら、おっさんはキツく止血帯を締めてくれた。

 後は……!


 「すみません、我慢してください!」


 俺は氷の刃を掴んで、一息に引き抜いた。


 「ぐああああっ!!」


 あのおっさんが叫び声を上げるなんて、相当痛いんだろう。

 申し訳ない気持ちになる。

 ここまで来て、失敗しましたじゃ何にもならない。

 俺は氷の刃を抜き切って捨てると、一息付いてから魔法の発動を念じた。


 「大地の女神よ、癒しの息吹を持って慈悲を賜れ――ヒール!!」


 傷口に手を近付けて魔法を唱えると、淡く優しい白い光が傷口を包んだ。

 血が滴っていた傷口が、次第に塞がり出す。

 だが傷が深い。

 直ぐに治るものでもない。

 そしてこのヒールという魔法は、発動し続けることが出来る――ということが分かった。

 傷の具合によって、調整できるのだろう。

 但し――恐ろしく消耗していくのが分かる。

 身体の中の魔力がどんどん奪われていく。

 それだけでなく、体力まで奪われるのか――もしくは、与えているのか?

 ともかく、頭がくらくらする。


 「くぅっ」


 一度キャンセルして、もう一度かけなおすか?

 いや、まだシオンさんが戦ってるのに悠長な!

 気合いを見せろ!

 もう本当に倒れる――という寸前の所で、何とか傷は塞がり切った。


 「はぁぁぁっ……どうです? 足、大丈夫そうですか?」

 「……すげぇ」


 おっさんは傷があった場所を嘘のように撫でまわして呟いた。


 「大丈夫、みたいですね……良かった。あ、止血帯は外して下さいね」


 止血帯も外すと、おっさんは確かめるように立ち上がった。

 そして左足を上げたり、踏ん張ったりする。


 「うむ……違和感はあるし、全快という訳でもねぇようだが、十分だ」


 まぁ、完全回復したら怖いよな。

 ほっとしたら、立ち上がれないくらい消耗していることに初めて気づいた。

 そのまま、ぺたんと。

 所謂、女の子座りをしてしまう。


 「……いい女、痛ぇ!!」


 シオンさんが、おっさんの頭を張り倒した。


 「あたしの妹は、凄いだろう? 親父」

 「わわっ」


 そのまま近づいて来たシオンさんに、頭をくしゃくしゃに撫でられる。


 「……その言い分じゃ、俺の娘でもあるはずなんだがなぁ」

 「娘に向ける目じゃないんだよ、馬鹿親父」

 「そ、そんなことはねぇ!」

 「い、いやいや! そんなことより、盗賊団、は?」


 変な話をし出した2人を止めて、森の方に振り返る。


 「え? あれ?」


 シオンさんの指差す先に、5人の倒れ伏す姿があった。


 「…………化け物ですか?」


 お姉ちゃんには逆らわない。

 俺は密かにそう誓った。


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