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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
終章

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生まれたての悪魔

 生まれたての人間が持つ最初の感情は何だろう。

 それが赤ちゃんなら、親に対する愛情なのかもしれない。

 しかし、成長の過程を飛ばしたクローンは?

 俺を模したイオナが持つ力は甚大だ。

 ならば、自分を証明する手段は――――暴力なのかもしれない。


 「黒龍。データベースにあった。古代種ディアドラ」


 イオナが舌なめずりする。


 「私が貰う」


 黒龍に劣らぬ深淵の闇を想起させるイオナの黒髪。

 それが魔力で揺れている。


 「ふーん、強そうだ」


 その背を見つめながら、シオンさんが呟いた。

 俺もイオナの戦闘をまじまじ見るのは初めてだ。

 ていうか、ファンタジーにあるまじき単語を使ってたなイオナ。

 まあこんな完璧なクローンを作るくらいだから、現実より進んでるかも。


 「お手並み拝見」


 などと偉ぶっていると、イオナが得意そうな顔でこっちを見ていた。

 ちょおま、前向け!


 「――」


 先手は案の定、黒龍だった。

 音にならない衝撃波。思わず耳を塞ぐ。

 黒龍の咆哮?

 いや、これは――ブレスの準備か!

 耳鳴りが酷い。気圧の急激な変化なのか。

 今さらながら状況を把握したイオナがぬるり、と駆けた。

 独特な動き。

 ブレスが解き放たれる前に黒龍の懐に入り込んだ。


 「はあ!」


 間髪入れず、下から顎に向かって飛び上がる。

 開きかけた顎に掌底を突き上げた。


 「――ダーク・インパクト」


 黒い衝撃が黒龍の顎を貫く。

 ブレスを中断した黒龍が、たたらを踏んだ。効いている。

 なるほど……俺でもそうするかも?


 「戦い方、アリスに似てるな」

 「あ、やっぱりです?」

 「流石従妹だな」

 「で、ですね」


 従妹設定、気を抜くと忘れそうだな……

 イオナは黒龍に向かって追い打ちをかけるべく突進。

 腹部に同様の技をぶつけようと踏み込んで――はじき返された。


 「フィールド」


 イリアが当たり前のように呟いた。

 竜が誇る絶対障壁。

 さっきはブレス直前で解除してたんだな。


 「あれほんと面倒だよ。いつも攻撃の隙間に踏み込むしかなかったから、毎回紙一重」


 シオンさんがげんなりしたように言うが、現在無傷である。

 紙一重を100%成功させる姉。


 「ダークレイ」


 黒い閃光を放つイオナ、しかしそれもフィールドに受け止められた。

 ふむ? イオナの魔法系統はなんだ?

 火、氷、雷の基本3系統じゃないな。

 マリアさんが光を使うから、まあ感じ的にイオナは闇ということか?


 「なんなの、忌々しい……」


 そんな希少魔法使いのイオナさんは絶賛イラついている。

 せっかちか?

 魔力を込めた拳で何度も殴りかかってははじき返される。

 工夫が無いなぁ。イオナの攻撃は決して弱くないが、流石の防壁強度だな。

 黒龍ディアドラ、だっけ?


 「鬱陶しい!!」


 右手と左手に、闇色の魔法を纏う。


 「お?」


 ――ダブルキャスト、幻想魔法!!


 「我が左手に真なる闇を、我が右手に深淵なる探求を――混ざりて潜れ!」


 イリアが盾になるべく、全員の前に出た。


 「――アビス・フィアー!」


 闇色の竜を、更に濃い闇が飲み込んだ。


 「~~~~っ気持ち悪い声!」


 聞くに堪えない、おぞましい断末魔……のような幻聴?

 闇の影が怨嗟の声を上げながら竜に襲い掛かる。

 うっわぁ……イオナのセンス、悪党過ぎる……

 どろどろの闇が黒龍を飲み込んでいく。黒龍のフィールドごと飲み込む凄まじさ。

 あの魔法は避ける以外の選択肢無いな。受けるには相当ヤバそうだ。

 さて、そんな魔法を受けてしまった黒龍さんは――




 「――ふむ、偽物も侮れんものよな」




 闇に飲まれかけた黒龍に膨大な魔力が宿る。

 魔力を宿した万全のフィールドが、イオナの幻想魔法を跳ね返した。


 「……なに?」


 イオナも面食らっている。


 「だがおぬしに用は無いぞ。疾くと居ね――フィンブル」


 黄金の雪が、イオナを襲う。


 「あ――」


 あのバカ!! 棒立ちなんて――!!

 経験が浅すぎる!


 「避けなさい、こんの馬鹿っ!!!」


 一足で最速に、ぶつかるようにイオナを吹っ飛ばして回避する。

 しかし避け切れない。

 全力で魔法障壁を張るが、俺の障壁でも守れない。

 両足首あたりまで凍り付いた。


 「あ、ありす……?」

 「いった……」


 かすっただけでこれなんて、あの魔法使い……


 「……ヒール」


 凍傷になる。

 てかこれヒールじゃ無理だな、とりあえず氷を砕かないと。

 てしてし、と手で叩くが無駄過ぎる。

 うわぁ、氷魔法やっかい……

 それ以前に俺の腕力がお嬢様過ぎて笑える。


 「お嬢様」


 イリアがすぐに敵との間に割って入ってくれた。

 追撃は無い、上から睥睨される。


 「――ふむ、我の魔法を受けてその程度か。なかなかの魔法力よな」

 「……どこのどなたか知りませんけど、出会い頭にご挨拶ですね」


 つか、ちょっと痛い痛い。冷たいを通り越して痛い!


 ――キン。


 俺が悶えていると、静謐な音を立てて凍り付いていた足の氷が細かく砕けた。


 「お姉ちゃん!」

 「大丈夫か、アリス」


 千本桜で小間切れに。


 「へへ、ちょっと痛かったです」


 改めてヒール。

 あー、本当に痛かった。ちょっとどころじゃないのよ。

 しかしまあ、人を庇った名誉の負傷とくれば、やせ我慢が男の美学です。


 「アリス……痛かった……?」


 所在無さげに、俺に抱かれたままのイオナ。

 怒られたワンコちゃんみたいになってる。

 上目遣いは結構な破壊力で。


 「大丈夫ですよ。でもイオナ、咄嗟の判断が甘すぎです。それで私に勝とうなんて夢の又夢ですから」


 まあ脳の反射神経って実戦経験の差が如実に出るからな。


 「そ、それは……ごめんなさい」


 何だこの子、素直じゃないの。

 いや、当たり前と言えば当たり前かもしれない。

 クローンとして知識はインプットされているかもしれないけど、生まれたばかりに違いは無い。

 親となるはずだったリブラも居ない。なら、この子は今から何にでもなれる。

 それこそ優しい正義の味方にだってなれるはずだ。ちゃんとした大人が近くに居れば。


 「ふふ」


 なら、その役目……俺がしてもいい。

 従姉あねとして、従妹いもうとの面倒を見るのもやぶさかじゃない。


 「怒ってませんよ。でも話はひとまず後ですね」


 しょげたイオナの頭を一撫でしてから、立ち上がる。

 こちらを待っているように、金色の魔法使いはのんびり見下ろしているままだ。


 「あなた、エクレアが言ってた魔法使いさんですか?」

 「エクレア?」

 「とっても可愛い赤髪の」

 「ああ、あの魔族の事か? 魔眼の」

 「あと八重歯が可愛いですよ」


 チャームポイントがいっぱいあるね!


 「このような状況で突然のろけ出すお嬢様、さすがです」


 なぜかイリアに尊敬されてしまった。


 「ふむ、身重だったようだがお主の子であろう? そこの出来損ないだけでなく、正当なスペアを作ってくれるのは有り難いのう」


 まったく、不穏な事しか言わないやつだな。

 イオナも馬鹿にするしルミナちゃんまで害が及ぶなら、もう敵認定で良いか?


 「くく、なかなか良い目よ。しかし今日の所は顔見せしか用は無い」

 「まあそう言わないで、ちょっとお相手願います」


 お前みたいな不穏な輩を野放しに出来るわけないだろ。

 黒龍だってエルフの村を焼いてるんだ。

 ん? いや、この竜は焼いてないのか?


 「時間が無い、それはお主たちも同じではないか?」


 まるで狙っているかのようなタイミングで、何者かの咆哮が集落を揺らした。


 「何事!?」


 村の方を見ると、禍々しい紫色の光が遺跡の方から立ち上っている。

 あれは……例の魔物か。


 「……一つだけ聞きたいんですけど、エルフの村を襲ったのはあなた達じゃないんですか?」

 「無関係だ」

 「……ま、信じます。確かに時間も無いようですし」


 もう行けと、ひらひらと手を振る。

 それに魔法使いが可笑しそうに笑った。


 「くく、この我にその振舞い。なかなか大したヤツではないか」


 そういうと、魔法使いは村とは違う方向に向かって飛んで行った。

 黒龍もそれに続く。

 なんだよ、本当に村を襲ってた訳じゃないのか?

 目的不明な第3勢力は面倒だな。


 「皆、村の方に戻りますよ」

 「……ああ、それにしても」


 シオンさんが流れる汗をぬぐっていた。


 「ええ……凄まじい圧。あれを受けて平然としてるなんてアリス殿、流石ですわ」


 マリアさんも安堵したように息をついている。

 そういえば、ピリピリした感覚はあったな。

 今はそんな事より村だな。うちの可愛いシルヴィちゃんを置いてきてるんだから。

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