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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
終章

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五里霧中

サブタイ変更してます。

 闇を飲み込む深淵の黒が、炎に照らされて蠢いている。

 ゆっくりとした地響きに身体の芯から震えがくる。

 ただの散歩じゃないよな、これだけの敵意。

 というか歩いただけでエルフの村は全滅する巨体だし、災害認定やむなしだよ。


 「これは……大物だね」


 今の俺が本能的に震えるんだから、やばい相手だ。


 「ほぉ~、千本桜ならドラゴンも切れるかな」

 「セイクリッドティアなら折れる事は無いと思いますわ」


 自慢の愛刀を片手に、二人が俺の傍に寄ってきた。

 その気楽さに、年長のお姉様方の偉大さを知る。


 「お姉ちゃん、マリアさんも。頼っちゃいますよ」

 「任せておけ」

 「うふふ、アリス様に頼られるとは面映ゆい事ですわ」


 色々経験してきたとはいえ、俺の心は異世界2年生だからな。

 生まれも育ちもこの世界で過ごしてきた、しかも戦いに身を置いてきたこの二人は流石に頼りになる。

 よし、大丈夫。

 一つ息を吐いて、周りを見渡した。

 黒鎧のせいで村は既に火に包まれている。

 悲鳴と怒号で大騒ぎだ。

 シルヴィちゃんが魔法の雪を降らせてるけど、完全鎮火にはまだかかる。

 双子メイドのミオとレナはさっきから飛び回っている。

 長老さんも避難の陣頭指揮をとっている。

 あちらはあちらに任せよう。


 「お嬢様」

 「お母さま」


 イリアに抱えられて、シルヴィちゃんがやってきた。

 流石に寝てられないよね。


 「魔法ありがとう、シルヴィちゃん。体調はどお?」


 おでこにおでこを当ててみると、シルヴィちゃんが固まった。

 照れるなんてかーわい。


 「少し熱い?」

 「い、いえ! 大丈夫です! もう戦えますので!」


 じたばたと暴れるシルヴィちゃんにイリアが苦笑しながら地面におろした。


 「うん、シルヴィちゃんはシトラと後方から援護して。お願いできる?」

 「……え、ええ。もちろんです、お母様」

 「シルヴィス様の事はお任せください、アリス様」


 力強い返事に頷く。

 基本的には俺が決着をつけたいが、あのドラゴンなかなかのラスボス感だ。

 いやでも中ボスか?

 油断できないけども。


 「イリアは私と一緒に前に」

 「イエス、マイ、レディ」


 前衛4人、後衛2人。

 互いに顔を見合わせた。

 やる事は決まり切っている。言葉はいらないか。


 「じゃ、ここはあたしから突っ込もうかね。一番槍は剣士の誉れ!」


 言うや否や、ドラゴン目がけてシオンさんが駆けた。


 「あらあら、シオン殿。見違えるような成長度ですわね。1対1の切り合いでは世界一かもしれません」


 おお、うちのお姉ちゃん、マリアさんのお眼鏡に適いますか?


 「後方任務で腕を鈍らせている場合ではありませんね……血が滾ります」


 満面の笑みで物騒なことをいう引率のお姉様は、シオンさんに続いて駆けだした。

 お姉ちゃんは俺と一緒で短距離選手なんだよね。

 短距離~長距離まで対応可能な万能戦士のマリアさんは器用貧乏を通り越したバケモノだと思うけど。

 さて……


 「私たちも行きますよ、回り込みながらね」


 つぶさにドラゴンを観察しながら側面に回る俺に、イリアが付いてくる。

 とはいえ、イリアの速度に合わせるわけにもいかない。


 「飛ぶよ、抱っこして」

 「ふふ、お嬢様が抱っこしてくれないので?」

 「私、筋トレしても筋肉がつかない体質なので」


 誰やねん、力0とかの廃プレイ希望したやつ。


 「では失礼します」


 先ほどの我が娘のように、イリアに抱っこされると雷の魔力をイリアの身体に通す。


 「飛べそう?」

 「これは……器用すぎますわ、お嬢様」

 「イリアと契約してから、なんかやれそうな気がしたんだよね」


 イリアが試しに跳躍してみたら、余裕で村の建物の屋根を超えた。


 「わたくしがこんな風に動けるなんて……本当にお嬢様と居ると驚きが付きませんね」

 「我が眷属、行くのだ~」

 「ふふ、承知しましたわ」


 動きを確かめたイリアが全力で跳躍して森に飛び込んだ。

 木の枝を足場に、ドラゴンの側面に回り込む。


 「イリア、あのドラゴン知ってる?」

 「……知っているというか、恐らくエクレア様が仰っていた例のドラゴンかと」

 「なるほど――だったら一人なはずがないよね」

 「おそらく。復活の際に何者かが居たと言っていました。わたくしにとってのお嬢様のような」


 竜は一人で最強種だと言える。

 でも魔力供給してくれる主が居れば、その強さはさらに跳ね上がる。

 中にはイリアみたいな魔力無しの竜もいるだろうしね。


 「イリアは魔力を持って生まれなかったけど、その分才能を他に回せた。魔力は私が十分に補える。要するに、世界最強の竜はイリアかもね」

 「その言葉、胸に刻みます。貴女様の竜こそが世界最強だと証明してみせますわ」


 おっと発破を掛けすぎちゃった。


 「竜化はしなくて良いよ。ドラゴンスレイヤーは人の身で行うのが正義だから」

 「ふふ、なんですそれ。竜のわたくしに言う言葉ですか?」

 「イリアは、イリアだから」


 竜の前に。

 良い感じで肩の力が抜けてきたな。


 「さって、じゃあ行きますか」


 既にお姉ちゃんが切りかかったのだろう、ドラゴンが雄たけびを上げている。

 足元に向けて憎悪を向けている。

 ここは、けん制しておくか。


 「天下る一条の光刃よ、我が剣となりて闇を裂け! ――ライトニング!」


 詠唱込み、左手全力!

 けん制とはいえ、甘くないぜ!


 「――」


 どでかい雷が、黒龍に直撃した。

 雄たけびすら上げずに、ドラゴンが固まった。

 お? やったか?

 と、思ったら何やら様子がおかしい。

 黒龍の身体に、俺の雷が帯電している……ような?


 「やばそう、イリア、動いて!」


 ちなみに俺はまだ抱っこされたままである。

 楽だな、これ。

 イリアが跳躍した直後、カウンターのように魔法が跳ね返ってきた。

 というより、全方向に俺の魔法をまき散らしている感じ。


 「魔法が効かない?」

 「そのような生き物はこの世におりませんわ、お嬢様」

 「スキルか、何か条件があったか……」


 それなら、シトラの出番かもな。

 前衛最強の2人なら加護無し空間なんてむしろご褒美だろう。

 まあ質量差は凄いけど……

 それにシトラがスキルを使うと俺がゴミになるからな。

 いや全力を出せば行けるけど、状況も読めないのに全力出し切るのもちょっとな。

 ここアウェイだし。


 「接近戦、行きますか?」

 「私、魔法使いだって知ってた?」

 「いえ、初めて知りました。武闘家かと思っておりました」


 見ろよ、この鍛え上げられた鋼のような腕を。

 力こぶを作ってみようとしたら、イリアにぷにぷにされた。


 「あ、気のせいでした」

 「私で遊ぶ従者の鑑だよ……」


 口を尖らせると、含み笑いをしたイリアが頬を寄せてきた。

 ち、近いな……


 「では、わたくしが?」

 「さっきも言ったけど、それも早い。まだ黒幕出てきてないのも気味が悪い」


 土煙と地響きが鳴り響く大物を、実質2人だけで相手させてるのは心苦しいけど。

 俺の援護も邪魔になりそうだし、とりあえずドラゴンは任せて周りを探すか。


 「高みの見物をしてる魔術師を探しますよ」

 「お嬢様を差し置いて高みから見物など……許せませんね」


 うちの奴隷からの崇拝が凄い。


 「イリア、あのドラゴンから円を描くように、半径を広げながら相手を探します」

 「お任せを」


 雷の魔力で俊敏になったイリアが跳躍を繰り返す。

 その腕に抱かれながら、俺は辺りを注視する。

 しばらくそれを繰り返す。

 未だに主の姿は見えない。

 前情報を総合すると、また俺のクローンじゃないかという気はしてる。

 つまり、またまた厄介な姉弟子のせいだ。

 死んでも面倒な……


 「……って、はあ!?」


 俺たちを追いかけるように、ジャンプしているエルフが居た。

 ――イオナだ。

 驚愕で指を刺すと、不思議そうな表情でイオナが首を傾げた。


 「? 久しぶり、アリス」


 こいつ俺の左手切り飛ばした事忘れてないか?


 「そ、そうですね……」


 彼女こそ姉弟子の研究の集大成、そのクローン。

 その端正な顔を、かくんと傾げて見せる。

 可愛いなおい。俺の顔だけど。

 じゃなくて……


 「な、何しに来たの?」


 やんのか?


 「あの竜、倒す。貰う」

 「へ? あれ?」


 黒龍にアゴをしゃくるイオナ。


 「アリスには、強そうな竜が居る。私、居ない。それ不公平」


 子供か?

 いやこの子、そういえば生まれたてだしね。

 クローンで身体ばっかり大きいから忘れてたけど。


 「ところでイオナ、この前私の腕切ったよね?」

 「うん」

 「あのね? 人の腕とか切っちゃうのは凄く悪い事だよ?」

 「そうなの?」


 情操教育どうなっとん?

 あ、誰も教育者いないのか?


 「そう。悪い事したら謝らないといけないんだよ?」

 「謝る?」

 「そう、ごめんなさいって」


 イオナは首を傾げた。

 いや可愛いなこいつ。

 でもごめん、俺のキャラメイクだわ。


 「ごめんなさい」


 素直。


 「ん、まあ許すよ。私は心が広いからね。でも今後は気を付けるんだよ? 後、他の人にはそんな事しちゃダメですよ?」


 普通、腕切ったらもうくっ付かないからな?

 俺が有り余る魔力を持ってヒールを使えたからいいものの。


 「分かった。で、あの竜は倒してもいいの?」


 俺はこいつの保護者か?


 「私も良くわからないんですけど、あなた殺すつもりじゃなくて従者が欲しいんでしょ?」

 「うん、コテンパンにして分からせる」


 分からせ……


 「んんっ、ま、それなら丁度良いんじゃない? 全力で戦ってきなさい」

 「分かった」


 無表情な子だな、でもなんかちょっと嬉しそう?

 しかし突然あり得ないほどの援軍だわ。

 とぼけた子だけど、たぶん俺とタメを張る実力だからな。


 「イリア、一度お姉ちゃんたちと合流しよう」

 「承知しました、お嬢様」


 ちょいちょいと手招きしてイオナを呼んで、手を握る。イリアの手も握らせる。

 仲直りの握手です。

 イオナが首を傾げた。


 「くれるの?」

 「あげません」


 唇を尖らせた。

 イリアが少し笑っている。


 「よろしくお願いします、イオナ様」

 「よろしく? よろしく」


 なんか感動してる?


 「アリス、人と話すのは良いな」

 「貴女結構寂しそうな環境でしょうしね。全部終わったら私が保護者になってあげても良いですよ」

 「ほんと?」

 「もちろん、私と敵対しないのが条件です」

 「それは難しい。最強を決めないと」

 「私が最強、はい終わり」

 「異議あり」

 「却下です」


 イオナが膨れた。


 「黒龍を分からせて、主も倒す。神も倒す。私が最強」

 「分かった分かった。それを全部達成できたら、貴女が最強で良いです」

 「言質とった」


 無表情を綻ばせる、という器用なことをやってのけるイオナ。

 超戦力ラッキー。

 そうして、俺たちは暴れ狂う黒龍の眼前に降り立った。


 「あらアリス殿、援軍ですか?」


 マリアさんが息を整えながら、並んでくる。

 お姉ちゃんはドラゴンと格闘中だ。


 「ええ。イオナ。この子なかなか強い、と思うから。役に立つよ」

 「ん、最強」


 俺と睨み合う。


 「あらあら。うふふ、よろしくお願いしますわ、イオナ殿」

 「よろしくされた」


 挨拶してる間にバックステップで跳躍してきたシオンさんが、隣に着地した。


 「キッツ。切ってもすぐに再生する。相当深い一撃じゃないと倒せないぞ」


 流石の強さということか。

 魔法もなんでか跳ね返すし。


 「任せて、私が分からせる」


 イオナがふんす、と前に出る。


 「どちら様?」

 「まあ、いとこ、みたいな……」

 「へ~、アリスに従妹いたんだ」


 実際この子が何なのかって、この異世界で説明しにくい。

 現場を見てたのは、俺と黒づくめ、シトラの3人だけだし。

 腕を鳴らしながら前に出てきた小柄なエルフに、黒龍が不信そうな目を向けている。


 「腕が鳴る」


 イオナの無表情が、リブラを思い起こさせるように残酷に歪んだ。

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