表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

165/170

灼熱の森

お久しぶりの更新になります。

完結まで走りたいと思って改めて更新しましたので、どうぞよろしくお願いします。

 夜中に突然目が覚めた。

 なんだと言われても答えはない。

 ただ胸が煩い。

 虫の知らせというものを信じるなら、寝入っている場合じゃない。

 まして今は世界の一大事なのだ。

 すぐに部屋着から装備に着替える。

 嫌に静かな夜だ。

 ひとまず音を立てないように家から出る。

 暗闇に覆われた上に夜中という事もあって、視界は最悪だ。

 エルフの目を持つ俺でも気軽に動き回れる闇じゃない。

 何も無ければそれでいい。とりあえずは村をぐるりと回ってみる。

 足元を注視しながら慎重に歩く。

 目が慣れてくれば、もうちょっと自由に動けるだろう。

 しばらく歩く、が流石に人の気配はない。

 静かだ。

 耳が痛いほどに、静か。

 虫の鳴き声さえない。

 ……おかしいのではないか。

 こんな森の中で何の音もしないというのは、逆に異常だ。

 自然の音がしない、異常。

 やはり不自然。

 改めて鼓動が早くなってきた。


 「――アリスさんですか?」


 突然の声に、硬直した。


 「ふぁっ……びっ……くりした。シトラ?」


 目を凝らすと、少し先に幽鬼のように佇んでいる少女がいた。

 足元を注視した俺では気づかなかった。

 いや逆によくシトラは俺より先に気づいたな。

 ほっとした俺が歩いて近くに寄ると、シトラは完全に装備を着込んで杖まで持っていた。


 「驚いちゃった。あの距離でよく私だって分かったね?」


 俺ですら見えなかったのに。


 「ふふ、目で見ている訳ではありませんから。昼夜? の区別は私にはありません」

 「それ結構凄い事だよね?」

 「そうなのでしょうか」

 「そうだよ」

 「そうですか」


 いまいち昼夜の区別がついていないシトラは首を傾げている。

 シトラにとっては夜はただ眠る時間帯ってだけの区別かな。


 「それより、シトラはどうしたの? こんな時間に」


 というか俺ちょっと怖かったからシトラ居ててくれてほっとしたんだけども。

 暗闇怖い。

 これ人間の本能。


 「なにか、良くないものが視えました。いえ、視えたと思ったので、確認です」


 俺は虫の知らせだけど、シトラがその目で視たというならこれはもう無視はできない。

 というかこの子、怖くなかったのかな?

 勇気凄くない?


 「そういう時は、仲間に声をかけないと」

 「皆様、寝入っていますので。この先の事を考えると体力回復は大切です」


 今やられちゃったら何にもならないんだけど。

 出し惜しみダメ、絶対。

 まあ病み上がりのシルヴィちゃんを起こすのは忍びないけどね。

 仕方ない、念のため。


 (――イリア、イリア)


 パスで繋がっているイリアに限っては遠隔でも意思疎通可能だ。


 (ん……お嬢、さま……?)

 (夜中にごめんね? 何か様子がおかしいの。皆を起こして。それとシルヴィちゃんは起こさないで欲しいんだけど……)

 (承知しました。シルヴィ様には、わたくしが守りに付きます)

 (うん、イリアありがとう。あなたが守ってくれるなら、私は誰よりも安心できるよ)

 (光栄です、お嬢様。御武運を)


 イリアと話すとなんか、心がぽかぽかする。

 イリアもそう思ってくれてたら嬉しいけど。


 「もうすぐ皆も来るから、先に村の様子を見て回ろうシトラ」

 「本当です、皆さま起きていますね。どうやったのですか?」


 俺のイリアネットワーク凄いだろ。

 というか、それが分かったシトラも常人ではないね。


 「まあ私とイリアだけの裏技だよ」

 「興味ぶか――――アリスさん」


 シトラの声が変わる。

 明確な臨戦態勢だ。

 新調した錫杖をしゃらんと鳴らして暗闇を見据えるシトラ。

 俺も隣で構えた。

 何も見えない、いやほんと。

 横目でシトラを伺うと、はっきりと前を見据えて待ち構えている。

 これは、シトラが頼りだ。

 改めてシトラの見据える暗がりを凝視すると、豆みたいな光が瞬いた。


 ――っ反射で避ける。


 臨戦態勢の俺は常に身体に雷を纏っている。

 どんな不意打ちだろうと、光の速さで反応します。

 どうだ、先制できると思ったら大間違いだ!


 「いきなり物騒ですね!」


 ちらりと後ろを見ると、今の攻撃で村に火の手が上がっている。

 やばい、避ければ避けたで問題が!

 森の中でなんて攻撃だ。燃え広がったら一大事だ。

 この前のやつか?

 悠長に構えてる場合じゃないな。


 「どうして関係の無い人を、巻き込むんです!」


 シトラが俺の前に一歩踏み出した。


 「他者を踏みにじる理由なんて、何であろうと認めません!」


 戦場に立つ心構えが出来ている。

 正体不明の敵に対して、一歩も気遅れしていない。

 伊達に戦場を渡り歩いてないな。


 「シトラ、あまり勇み足を踏まないで。落ち着いてね」


 いくら気が逸ってもシトラは聖女、回復特化だろう。

 前に出るなよ。


 「いいえアリスさん、私が敵の攻撃を全て引き受けます。なので、攻撃はお任せします」

 「は?」


 驚く俺を置き去りに、戦況は動く。

 再度光の攻撃が来た。

 物理系なのか魔法系なのか判別できないが、攻撃となれば躱すのが道理。

 しかし世の中にはイリアのようにタンクという役割が存在している。

 そしてシトラが選択したのは、まさかのその役割。

 俺よりも小さなその華奢な体で前に出た。

 ――光が、直撃した。


 「か……っは」


 羽のように軽そうなシトラの身体が宙に舞う。

 その身体から血が舞った。


 「なんって無茶を!」


 血の気が引いた。

 たたらを踏んだシトラが、近寄る俺を手で制した。


 「……これが、わたしの戦い方」


 気が付くと俺を含む周囲が優しく淡い緑色に光輝いていた。

 エリアヒール!


 「……倒れませんよ、わたしは絶対倒れない」


 この子、無茶苦茶だ!

 いわゆる、ヒーラータンク!

 イリア程の防御力は無いけど、攻撃が当たった傍から全て回復するつもりか!

 命さえ取られなければ無限に回復するとか、そういうこと!?

 でも痛いでしょ!?

 さっきも直撃して血があんなに……

 俺なら一撃で心折れる自信がある……痛いのはイヤです。


 「し、シトラぁ……見てる方が辛い」

 「お気になさらず」


 本人より外野の心が折れそうです。

 どんだけ勇者だよ。

 こうなったら、さっさと俺が敵を仕留めて終わらすしかないな。

 悠長に驚いてる場合じゃない。

 シトラのエリアヒールは暗がりを照らす光源としては十分だ。

 前方に黒甲冑を確認。


 「支援、頼みますよシトラ!」

 「! お任せを!」


 右足を踏み込んだ。

 雷を纏った最高初速。ゼロからのトップスピード。

 暴力的なまでの慣性に身体がねじ切れそう。

 ぐぎぎぃ……! 歯食いしばれぇ~~!

 初撃で決める!

 一瞬で懐に踏み込んで、黒甲冑に手を添える。


 「全っ力!」


 もう今さら、迷いもない。

 もし本当に『あなた』なら、今さらこんな人殺しに手を染めるはずがない。

 だから、黒甲冑これは違う!


 「――ライトニング・インパクト!」


 紫電一閃。

 黒甲冑を中身ごと完全に焼き払う手応え。

 ぐらり、と黒甲冑が崩れ落ちる。

 喉が鳴る。

 しゃがみこんで、横たわる黒甲冑の兜に手を添える。

 そっと兜を脱がすと、そこには――何もなかった。


 「からっ……ぽ?」


 中に、何も入ってない。

 リビングアーマー?

 いや、昨日の敵はそんな感覚でもなかったが。


 「アリスさん、まだ来ます!」


 シトラの声に顔を上げる。

 村の火の手で、うごめく黒甲冑がよく見える。

 その数……いくらだこれ、数えらんない。

 とにかく多い。

 そんな黒甲冑の手元が一斉に光った。


 「ちょっ――」


 避ける避けないの問題じゃないぞ!

 シトラが再び俺の前に出た。

 シトラの軽い身体がサンドバックのように閃光に蹂躙される。

 流れ弾が村を焼き、森に火をつける。

 村に向かう光線さえ、すべてわが身で受けようとしたシトラだが流石に無理だった。

 伸ばしたシトラの手を光が貫通する。


 「ああああああっ」

 「っこの、でくの坊!!!」


 こっちから撃ったら同じように火事になる、接近戦しかない!


 「調子に――」

 「――乗り過ぎですわ」


 黒甲冑たちの左右から、もの凄い勢いで突っ込んできた2人の影が瞬く間にその場を蹂躙する。

 片方の剣士、我が姉シオンさんは豆腐でも切るように鎧を切り捨てていく。

 いやすごい……

 もう片方の騎士、憧れのお姉様ことマリアさんは剣に乗せた光の魔法でザクザクっと複数の鎧を一気に片付けていく。

 味方の頼もしさに気が緩んだわ……あっちは任せるか。


 「シトラ、大丈夫なの?」


 貫かれた手も、すぐに自身のヒールで癒されていく。

 それどころか、村中を囲ったエリアヒールが全ての人を癒していく。

 不慮の事故さえ許すつもりのない、完全なる救いの光。


 「大丈夫、です……それより火を消さないと。いくら癒しても……生きたまま焼かれるのは」


 はっとした。

 火の手と、助けが必要な人を確認しないと……

 そう思って振り返ると、村に桃色の雪が降り始めた。

 懐かしい記憶がフラッシュバックして、ズキリと心臓が痛む。


 (――申し訳ございません、お嬢様。シルヴィ様を止められず)


 そうか、そうだよね。

 氷の魔法。

 このパーティで使えるのは、うちの病み上がりの娘か。


 (……うん、まあ、子供のくせに無理しちゃって)


 褒めて良いのか怒っていいのか……

 そうせざるを得ない状況を作り出した大人の責任だな。

 村の火の手は瞬く間に鎮火されていく。

 だけど、森の更に奥からは勢いよく炎が上がっている。

 村の奥、これから俺たちが向かう先だ。

 正直シャレにならない。

 森の火事だ。

 村の火の手は抑えられても森自体が終わる。


 ――ズゥン、ズゥン。


 身体の芯から震えるような地鳴りが、その方向から聞こえてくる。

 このエルフの村の更に奥、そこにあるのはつまり、イリアの故郷。

 つまり――


 「――ドラゴン」


 夜の闇を吸い込むような黒龍が、燃え上がる炎に照らされて浮かび上がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新、待ってました。 楽しみ!!!!
[一言] お久しぶりです!
[一言] ちょうど読み返していたところに更新…!嬉しいです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ