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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
一章 異世界転生編

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女の子

 「私、もう女の子止めます」

 「……は?」


 メイド事件の翌日、俺は部屋にシオンさんを呼んで、深刻な顔で告白した。

 もうこりごりだ。

 女を演じてみるのは楽しいと思ったのは事実。

 だがしかし!

 俺は別に醜態をさらしたい訳じゃない!

 あんなフリフリの服を着て、ご主人様だのお嬢様だの言いたい訳じゃない!

 むしろ、せっかくの異世界なら、俺がそれを逆に言われたい。

 イリアは必要だ。

 俺が俺のアイデンティティを保つ為にも、イリアは必要だ。

 確信した。

 そして俺の告白に、予想通りシオンさんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。


 「いいですか、お姉ちゃん?」

 「いや、あんたは定期的に訳のわからないことを言うね……」


 俺のベッドでまた馬鹿な話かと、シオンさんは寝転んで答える。

 いやいや、女の子が俺のベッドで寝転んでるとか、これ相当な状況なんだけど。

 しかし、このまま俺が女を演じているのでは、それも無意味!


 「聞いてください、お姉ちゃん。実は私……男だったんです!」

 「…………はぁ、あ、そう」


 返事も返事だが、その前のため息までつかなくても!


 「想像力を強く持って聞いてください!」

 「聞いてる聞いてる」

 「私は男だと、言ってるんですよっ」

 「私は、男ねぇ」

 「う……」


 ずっと喋り方気を付けてたら、段々こっちが素になってきてたよ!


 「そ、そうです! だから、そんな風にベッドに寝転んでいると、お、襲ってしまうかもしれないほど男です!」

 「……」


 ちょっと男の恐ろしさを教えてやろう!

 と、精一杯の虚勢を張ってみるが、シオンさんは無反応だった。


 「……な、何か言ってくれないと、凄く困るんですが」

 「いや、じゃあ、襲ってみたらどうかと思って待ってたんだけどね」


 シオンさんが寝返りを打つと、そのわがままなボディが余すことなく目に入った。

 何て身体してるんですか、お姉ちゃん!

 そのお胸は何ですか!?

 それはもはや、暴力です!


 「……どうしたの、アリス? 来ないの?」


 どこか熱に浮かされたような瞳で俺を見るシオンさんの色気は半端ない……

 俺は思わず生唾を飲み込んだ。

 ちょっと頭がぼうっとする、ような気がする。

 いや、まずい。

 まずい、か?

 むしろ俺はまだ正常だったと喜ぶべき反応なのかもしれない、ような気もする。

 ああ、頭がぐちゃぐちゃする!


 「お、お姉ちゃんがそう言うのなら仕方ありません。こ、後悔しても知りません、からっ」


 俺は座っていた椅子から立って、ゆっくりとベッドに近づいた。

 心臓の音が妙に煩い。

 頭ががんがんする。

 あれ、何だこれ?

 普通に頭痛のような気もする。

 何だ俺、そんなに緊張してんのか?


 「アリス……あんた、顔真っ赤過ぎない?」

 「そ、そんなことありませんし。お姉ちゃんこそ、虚勢張り過ぎですし!」


 俺は万里の長城を歩いたのかと思う程の感覚で部屋を横断し、遂にベッドに膝をかけた。

 そして、シオンさんの頭を挟むように手を付く。

 ああ、何かシオンさん本当に綺麗だな。

 いつも頼りになる家族みたいに思ってたけど、やっぱり綺麗な女の人なんだなって確認した。

 そして世界が回る。

 あれ、これ、ほんと何?


 「アリス……? って、あんたまさか!?」


 シオンさんが俺の下腹部の方に視線を移す。


 「馬鹿! 何で把握してないのよっ?」

 「……把握?」


 何それ?

 俺の下半身に、何が?

 そういえば、何かちょっと不快感があるような……!?


 「ひっ!?」


 確認して、顔が青ざめた。

 ちょっと見たことないような量の血が出てる。


 「なっ? これ、私撃たれた? 狙撃? え、私、死ぬんですか?」


 やはり、ファンタジーの世界にもスナイパーが!?

 しかも、別に痛くないって余計怖いんですが!?


 「寝ぼけてないで、早くトイレ行くよ!」


 素早くベッドから立ち上がったシオンさんに、手を引かれる。

 撃たれた人間を引っ張るなんて、あんまりだ!

 それより、俺にはヒールという魔法があるんだから!


 「ちょ、引っ張り過ぎですし!」


 そんなこんなで、有無を言わさず俺はトイレに連行された。

 女の子にトイレに連れて行かれる俺って、まだ男って言って良いんですかね……?






 謎の出血を遂げた俺は、その後服を着替えベッドに寝かしつけられた。

 シオンさんは本当に甲斐甲斐しい。


 「……あの、私もう、ダメなんですか?」


 悪い病気ですか?

 転生して間もないのに。


 「何を言ってるんだか……気を付けなよ、アリス。ほんとにあんたはボケ過ぎてるんだから」


 いやいや、微塵もボケてるつもりはないんですがねぇ。


 「痛みは?」

 「ん? 特にありません」

 「そう、でも顔が赤いから、あんたはちょっと体調崩すんだね」

 「あ、私熱あるんですか?」

 「みたいだね」


 熱か。

 なるほど、通りでぼうっとするなと……


 「……あれ? 私、熱出すようなことしたかな」


 遺跡に行った日くらいしか夜更かしはしてない。

 その他で特に無茶なことはしてないはずだが……?


 「ふふ、で、私は男なアリスさん? 何か言うことある?」

 「は?」


 あれ?

 なんでそんな悪戯っぽい顔で、俺を見るんですか、シオンさん?


 「まぁいいや。体調も優れないから変な事言い出したんだろうし。ゆっくりしてな、アリス」

 「え? あ、はい……」


 はい……?

 良くわからない事を言い残し、シオンさんは部屋から出て行った。

 と、思ったら一度だけ顔を出した。


 「たまに様子見に来てあげる。後、今日は記念にお母さんに美味しいもの作ってもらうよう、言っておくよ」

 「はぁ」


 笑顔を残して、シオンさんは部屋から出て行った。


 「……」


 ……

 …………?

 いや、まあ、落ち着こう。

 俺もまるで無知なガキじゃない。

 ある程度モノは知ってるつもりだ。

 それを踏まえて、ここまでの展開から導き出される答えは何だ……?


 「生理……」


 口に出すと、気が遠くなって、本当にそのまま意識を手放した。






 起きた時、どうやら体調は大分戻っていたようで、身体も辛くはなかった。

 枕は涙で濡れていたが。

 おかげで頭は少し痛い。

 ちょっと気になったので、もう一度トイレに行ってから、服を着替えた。

 服はおばさんが裁縫師ということもあって、かなり融通してくれた。

 俺は何でも良かったんだが、俺が変なものを着ていたらおばさんの沽券に係わるとのこと。

 裁縫師にも裁縫師のプライドがあるんだろう。

 ああ……でも洗濯は自分でしよ……


 「お、もういいのかって、わあっ!?」


 服を畳んでいる所にシオンさんがやってきたので振り向いたら何故か大仰に驚かれた。


 「……どうか、しましたか?」

 「い、いや……アリス、目が……怖い、んだけど?」


 確かに、自分でもちょっと虚ろな感じだなぁとは思う。

 一体どんな目をしているんだろう?


 「ふふ」

 「ど、どした?」

 「いえ、そうか、考えてみたら当たり前でしょうね。神様がそんな中途半端な転生をするはずがありません」


 洗濯物を籠に入れて立ち上がった俺に、シオンさんが若干後ずさった。


 「そもそも、あれは夢だったんじゃないかとさえ思うようになりましたよ、ええ」


 あの世界の18年がね。

 ……

 て、そんな訳あるか!

 俺はまだボケてる訳じゃないぞ!


 「な、何だか分からんが、冒険者をやるんなら、体調のことはちゃんと把握しておけよ? 大変な事になるからな」

 「……理解しました」


 俺が何にも理解してないことを理解しました。

 サポートしてくれる人間が必要だ。

 やはりイリアか。


 「お姉ちゃん、私お金を貯めて王都に行こうと思ってます」

 「王都か、確かに憧れるのは分かるよ」

 「そこの闘技大会に出ようと思ってます」

 「……変な事知ってるんだな、闘技大会ねぇ。もう3週間と無いじゃないの」


 それ、むしろ俺の体調が悪くならないタイミングだし、絶好の機会じゃね?


 「分かってるのかねぇ、あれは死ぬことだってある大会なんだって。あたしはもちろん反対だな」

 「え……死ぬんですか?」


 大会なのに?

 俺が間の抜けた顔をしたので、やっぱりか、とシオンさんが笑う。


 「試合中の事故で、お咎めなしさ。むしろ、殺した方が盛り上がるくらいの野蛮な大会だよ」


 うわぁ、やっぱり平和と安全が浸透してる思考回路をどうにかした方が良さそうだ。

 だがしかし、40万ルークなんて大金を貯めるのは現実的じゃない。

 でもイリアは必要だ。

 誰が何と言おうと必要だ。


 「危なくなったら……降参します」

 「降参すると、勝者にそれなりのものを献上しないといけない。今のあんたは何もないから、相手が男だったら……何言われるかくらい、分かるでしょ?」

 「下衆いです……」

 「ふふ、あんたはもうちょっと自分について、自覚した方がいいと思うなぁ」


 やれやれと腕を組むと、シオンさんのお胸が強調されます。

 うん、お姉ちゃんも自覚した方が良いと思うな。


 「……それに、戦うのは魔物じゃない、人間だ」

 「はい……そうでしょうね」


 言いたいことは分かる。

 俺みたいな甘ちゃんが、人間相手に戦えるのかということだ。

 考えてみるが、やはりイメージは湧かない。

 戦えるような気もするし、無理かもしれない。

 人に、魔法を撃てるだろうか?


 「アリス、ちょうどいい。3日後にリンナルギルドの依頼で、盗賊狩りをするんだ。この辺りの腕の立つ冒険者が大勢参加する。私もそれに参加するつもりだが、アリス――」


 一度言葉を切って、シオンさんは念を押すように強い視線を向けてきた。


 「あんたも、来るかい?」


 盗賊狩り。

 間違いなく、相手は人間。

 そして、恐らく……デッドオアアライブの依頼だろう。

 もちろん、相手は躊躇なくこちらを殺しに来る。

 魔物じゃなくて、人間の殺意を浴びることになる。


 「……参加、させて下さい」

 「良いんだね?」

 「はい……そんな危ない事、お姉ちゃんが心配ですし」


 不意を突かれたかのように、シオンさんが毒の抜けた顔をした。

 それからちょっとだけ、頬を染めた。


 「生意気……アリス」

 「えへへ、妹って、多分そんなものですし」


 そして俺はもう、多分、男に戻れなさそうですし……

 色々考えないといけない異世界ライフだった。


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