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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
一章 異世界転生編

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異世界メイド喫茶の乱

 「まて!」


 どうしようかなぁ。

 と思いながら商館を後にしていると、いきなり呼び止められた。


 「……はい?」


 振り向くと、黒ずくめが凄い形相で睨みつけてくる。

 いやいや、俺は親の仇じゃないぞ?


 「お前は、エルフの何なんだ?」

 「……その情報を私から無償で得ようとするのは、ルール違反では?」

 「あの女をくれてやれば、話してくれるのか?」


 ……はい?

 ちょっと耳を疑った。

 2.3度瞬きしてから、首を傾げる。


 「あなたにとって、エルフが何だって言うんです?」

 「……エルフには、恨みがある」


 回れ右した。


 「待て!」


 いやいや、理由からして俺はあんたと関わっちゃダメだろう。


 「しつこいですね」

 「……金が間に合わないようなら、俺が闘技大会に出て優勝してやる」

 「商会の人間が? 出来レースもいいとこですね。まさか最初からそのつもりですか?」


 だとしたら、商会はやはりキナ臭い。


 「これは商会とは関係ない。それに俺は傭兵だ。金で雇われているに過ぎない」

 「商会とは関係ない、で済む問題とも思えませんが……」


 しかし、この黒ずくめは強そうだ。

 もしかしたら優勝して、イリアを手に入れてくれるかもしれない。

 ……ただし、その場合俺が自分を身売りすることになるんだが。

 う~~ん。


 「私は私で動かせてもらいます」

 「構わない。俺は俺で勝手にやらせてもらう。結果が出れば、報酬は頂く」


 黒ずくめは一人で納得して、商館に帰って行った。


 「……ソルト、でしたっけ?」


 一体エルフに何されたんだろうねぇ。






 それはともかく。

 先立つものは、金である。

 金が無ければ借りを返せず。

 金が無ければイリアを買えず。

 金が無ければ装備を整えられず。

 金が無ければ王都にも行けない。

 すると、イリアもやっぱり手に入らない。

 そんな訳で、俺はようやく本題でもあるギルドに来ていた。


 「カネカネカネカネって……」


 何処まで行っても世の中世知辛いよ。


 「あっ? あなたは……」


 ギルドに入り、カウンターの前までやってくると受付の女の子に声をかけられた。

 ん?

 赤い癖っ毛に、そばかす?


 「ああ、あの時の?」


 生意気そうなガキの顔が直ぐに思い浮かんだ。


 「うちの弟が、ほんとにごめんなさい!」


 カウンターに頭が付くかと思う程の勢いで謝られると、こっちも困るものがあるという。

 ほらほら、他の人たちが何事かとチラチラ見てますよ!


 「いえいえ、顔、上げてください。特に何かあった訳じゃないんだから、大げさですよ」

 「ありがとう」


 おお?

 何だか、ほっとするような笑顔だな。

 自然になれるというか、構える必要が無いというか……


 「ギルドで働いているんですか?」

 「はい、あ、私エレノアって言います」

 「アリスです」

 「知ってます。弟が煩くって、もう。あれ、アリスさんがあんまり綺麗だから、構ってもらいたかったんですよ? あんなに小さいのに、男の子なんですよねぇ」


 あんなクソガキまで惑わすなんて……

 俺はなんて罪な造形をしてしまったのか。

 いや、そんなことはどうでも良い。


 「ところで――」

 「あ! ギルドに用ですよね? ごめんなさい」


 反応早いな~。

 一応、最後まで喋らせてくれても良いんですよ?


 「えと、まずはギルドに冒険者として登録したいんです」

 「分かりました! では、こちらの用紙に名前、年齢、性別、職業、LVを登録しますので、ご記入お願いします」

 「種族は良いんですか?」

 「それを書いちゃうと、差別に繋がっちゃいますので。ギルドはどなたにも門を開いていますからっ」


 なるほど、有難い。

 というか、種族に問題があるようなら、シオンさんが俺を1人で送り出さなかっただろうな。

 俺は必要箇所に今の自分の情報を書き入れた。

 不思議だなぁ。

 日本語で書いてるつもりなのに、これ何語に変換されちゃってるの?


 「これでいいですか?」

 「お預かりしますね! ええと……魔法使い!? あ、いえ、はいっ、大丈夫です」


 元気良いな~。


 「確認の為、ステータスを表示してもらっていいですか? もちろん、種族は隠して下さいね?」

 「は~い」


 操作して、エレノアさんに提示する。

 熱心に用紙と見比べるエレノアさんは、真面目なんだけど、何だか可愛い。


 「はい、大丈夫です。ありがとうございました!」

 「いえ、こちらこそ」


 何故か頭を下げてしまう。

 思いっきり日本人だな、俺。


 「では、書類に問題はありませんので、登録料に1000ルークかかりますが、宜しいですか?」

 「大丈夫です」


 俺はシオンさんから受け取った銀貨10枚をカウンターに出した。


 「確かにお預かりしました。これでアリスさんは冒険者として、大陸中のギルドを利用できますよ」

 「へぇ、すぐにですか?」

 「もちろんです。お預かりした情報は、ギルドの魔水晶で各地に転送して共有します。冒険者としてギルドに用事がある時はステータスを提示してくれれば、大陸中どこでもそれで分かりますから」


 おいおい、インターネットに匹敵するなファンタジー。


 「それと、年一回の更新がありますのでご注意下さい。その際にはもう一度登録情報の更新と、更新費用の500ルークがかかります」

 「なるほど」


 商売上手だな、ギルド。

 冒険者の数は結構なものだろうから、更新費用だけでも相当な固定収入じゃないだろうか?


 「でもアリスさん、15歳だったんですね~。私より2こ下なのに冒険者だなんて、凄いですね!」

 「ええっと、まぁ、生きてたのが不思議なくらいで」

 「謙遜しなくていいのに」


 いや、ホント。


 「それで、早速なんですが、何か仕事はありませんか?」


 時間との勝負なんだよね。


 「ん~、そうですね。目ぼしい仕事は、他の冒険者の方が遂行中ですから……あ!」


 書類と睨めっこしていたエレノアさんが、良い事思いついたという顔をする。

 不思議だなぁ。

 何か、良い事思いついたって顔した人の良い事って、俺にとって良い事だった記憶があんまりないんだよな。


 「……何か、ありましたか?」

 「はい! 凄く良い事思いつきました!」


 仕事を思いついたって、どう考えてもおかしいよね?

 それ、ギルドの仕事だよね?

 不安を募らせながら、俺はエレノアさんの話を聞いた。






 「おかえりなさいませっ、ご主人様! お嬢様!」


 そしてその晩、仕事帰りの勤め人たちが足げく通う一軒の定食屋があった。

 その名を、『ミルキーウェイ』と言う。

 いや、ごめんなさい。

 現実逃避してた。

 カッコよく言っても駄目だ。


 「おかえりなさいませっ、ご主人様! お嬢様!」


 頭がおかしくなりそうな定型文を、俺は何度も繰り返す。

 その度に、来店した男どもが俺を凝視した。

 視線が痛い……

 今、俺が何をしているのか?

 それを一言で言うと、メイド喫茶でメイドしてる。

 で、すべて余すことなく伝えられると思う。

 異世界舐めてた。

 奴隷もいればメイドも当然、現実世界――という言い方も今更変だが――より多く存在している。

 となれば、こういうエンターテイメント性を追求した店があってもおかしくない訳です。

 いや、実に異世界舐めてた。


 「アリスさん! 3番、ミックスジュースお願いしますっ」


 厨房のエレノアさんから、鬼注文が入った。

 そう、ここはエレノアさんのご家族が経営する店。

 俺はそのアルバイトに雇われたという訳だ。


 「……はい!」


 俺は、全力で絶望を笑顔の裏に隠した。

 ……はは。

 舐めるんじゃねえ。

 仮にも俺は心は男、それでも女を演じている身だ。

 メイド?

 ああ、メイドね?

 やってやろうじゃないか。

 今の俺はどこからどう見てもメイドだ。

 ヒラヒラ可愛いホワイトブリムで髪を留め。

 フリルの可愛い膝丈ワンピースのエプロンドレスに身を包み。

 ボーダーのニーソックスで足元まで完璧!

 ……出来ないはずは、ないんだよ!


 「お待たせしましたっ、ご主人様! お嬢様!」


 冒険者の一団らしいテーブルの前で、元気よく声をかける。

 俺は受け取ったドリンクのシェイカーを3番テーブルに運び、お客の前で、それをそっと持ち上げた。

 一呼吸置いて、満面の笑みを作る。


 「じゃあ~、魔法をかけますね~? お嬢様も、ご一緒に!」


 俺は手に持ったシェイカーを満を持して振り抜いた!


 「シャカシャカ♪」

 「……しゃかしゃか」

 「フリフリ♪」

 「……ふりふり」

 「萌え萌え♪」

 「……もえ?」

 「キュンキュン♪」

 「きゅんきゅん」

 「美味しくなぁれっ、萌え萌えきゅーんっ♪」


 全力で愛と勇気と希望を込めた!

 そしてお嬢様の前に、出来上がったみっくすじゅーちゅ! を、そっと置いた。

 そこで初めてお嬢様と目が合った。


 「よ、よう、お疲れアリス」

 「お…………ねえ、ちゃん」


 シオンさんだった。


 「……」

 「……」

 「い」

 「い?」

 「いやああああああああああああああああっ!」

 「ちょお!? アリス!? ここ店内だぞ!?」

 「言ってよおおおっ、ひどいよ、おねえちゃんんん」

 「泣くな! いやっ、本当プロだったよ、アリス!」


 この日、ミルキーウェイは遅くまで騒がしかった。

 そうして俺は、異世界で初めての報酬を得た。

 その額、500ルーク。

 お金を稼ぐのは、まこと至難である。


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