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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
一章 異世界転生編

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冒険者

 シオンさんの案内で辿り着いた、所謂ボス部屋。

 その物々しい扉の前で、俺は期待と不安で胸を高鳴らせていた。


 「さすがにドキドキしますね……」

 「アリスは平たいから、心臓の音がよく聞こえそうだね」


 え?

 胸の大きい人って、心臓の音聞こえ難いの?


 「……あれ? 怒らないんだ?」

 「え? あ、ああ! いえいえ、私の胸はこれからですし!」


 怒る所だったのか、そうか。

 俺からしたら、大きいのも小さいのも、どっちでも良いんだが。

 そして実際には俺の胸はもう、成長しない。

 神様が決めました。


 「……というか、何でいきなりそんな変なこと言うんです?」

 「いや、アリスが緊張してるかと思って、和ませてあげようかと」

 「止めてください。センスがおっさんです、お姉ちゃん」


 割と衝撃を受けて、シオンさんは項垂れた。

 あ、あれ?

 ボス戦を前に前衛の気力を削いでしまったというのか?


 「おっさん……」

 「ちょ、落ち込みすぎです、すみませんでした! 口が悪かったです!」

 「いいよ、気にしてないから……」


 なら、こっちを見て!?


 「さあさあ、行きましょうお姉ちゃん! 魔物でも倒して気分を入れ替えましょう!」


 シオンさんの腕を掴んで、扉を押す。


 「おっさん……」


 お願いしますよ!?

 シオンさん!






 その部屋は遺跡内部の中でも特に魔鉱石の光が強く、まるで太陽の下に出たかの様だった。

 明るい室内には、いきなり襲って来る様な敵は見当たらない。

 シオンさんの腕を引っ張って、とりあえず部屋に入り切ってしまう。

 見渡すと、随分部屋中に木の根が張っているのが目に付いた。

 それと部屋の中央に天井まで届こうかという立派な木が生えている。

 もしかして、根っこはこの木から伸びているんだろうか?

 観察していると、いきなり後ろの扉が大きな音を立てて閉まってしまう。

 独りでに。


 「びっくりしたぁ……」


 バックアタックかと思ったよ。

 思わず振り向いてまじまじと見る。


 「来るよ」


 あ、復活した。

 シオンさんが俺の手から離れて、前に出る。

 その手に剣を抜いて構えた。

 え、何が居るの?


 「…………ひっ!」


 部屋を見ていると、中央の木の幹に突然一つ目が開いた。

 ……びっくりするわぁ。


 長老樹LV14


 確認した!


 「前に出るなよ! アリス!」

 「はい! お願いします!」


 シオンさんが大樹に走る。

 やはりというか、攻撃は木の根っこを鞭のようにした複数攻撃だ。

 数が多い!

 スライムの鞭とは比べものにならない。

 突っ込んで行ったシオンさんをターゲットと見なした大樹は、全方向からその攻撃を叩き付けに行った。

 さすがにまずいのでは!?

 と、心配したが、やはりシオンさんはダンスを踊るように木の鞭を躱した。

 じりじりと近づいたシオンさんは、間合いに入ったと見るや、連続で大樹に攻撃をしかけた。

 剣で、木を切る。

 見た目にも中々骨の折れる作業に思える。

 ここにはシオンさんが見習い剣士の時は、おっさんと来たらしい。

 その時はおっさんと前衛を交代出来ていたが、今はシオンさんしかいない。

 疲れが出る前に勝負を決める必要がある。

 何せ、シオンさんの体力は俺と同じだからね!

 まぁ、LVは違うが。

 で、そのおっさんはギルドの依頼で魔物の討伐任務に出ている。

 人でなし、という訳ではない。

 むしろ良かった、仕事してた。


 (そろそろかな?)


 と、思っていたらちょうどシオンさんと目が合った。

 頷くのを確認する。

 俺はようやく魔法を発動させた。

 いや、さっさと攻撃出来ない訳があったので。

 つまり、ある程度シオンさんが攻撃してタゲを維持しておかないと、俺にタゲが来ちゃうのだ。

 意外と俺の魔法の威力が強すぎて。

 そして、タゲがこっちに来たら、俺は自分で処理出来ない。

 ええっと、こういうのゲームでなんて言うんだっけ?


 ――地雷!


 呼ばれたくない!

 と、お遊びはここまでだ!


 「天を裂く一筋の光となって、我が敵を撃て―――サンダー!」


 的が大きすぎて外しようがない。

 直撃!

 大樹の動きが一瞬止まる。

 が、倒すには至らない。

 再び動き出した敵を確認。

 想定内だ。

 俺は息を整えた。

 クールタイム10秒。

 シオンさんが居れば、何でもな―――


 「アリス! そっち行ったぞ!」

 「ええ!?」


 一発で、タゲもらっちゃったのか!?

 触手のごとく木の鞭が迫る。

 シオンさんの方にも分散している為、絶対に躱せないと言う程ではない。


 「このっ」


 必死で避ける。

 良く見て、無理そうなのは雷のロッドで叩く。

 もうすぐ次が撃てる―――と思っただけで、油断した訳ではない。


 「ちょっ! ひゃあああああああっ!!」


 だが、いつの間にか足に絡みついていた触手に、宙吊りにぶら下げられた。

 待て待て!

 皮のローブはベルトから下はスカートみたいな構造だから、この体勢はまずいって!

 俺は思わずスカートを押さえた。


 「恥ずかしがってる場合か! ホントお嬢だな!」


 シオンさんが自分に対する攻撃を避けながら、俺に止めとばかりに迫る鞭まで払い除けるという神業を披露しながら叫んでくる。

 いやいや、むしろ男なんですがね!?

 この恥ずかしさはどういうことだ!?

 そんなことをしていると、足に絡みついていた触手がどんどん身体の方に這いずってきた。


 「こらこらこらぁ! 狙ってるのか!? 狙ってるでしょ!? このエロ大樹!!」


 魔物を罵倒する。

 気のせいか一つ目がにやけた気がした。

 いや……気のせい、だよね?


 「ちょ、ほんと、まっ……ぅっ」


 足から、纏わりつかれたのが腹から胸まで巻き付いてくる。

 せめてもの情けは服の上からだということだが、絶妙な締め付け具合で、何か変な声が!?


 「……あっ、ぅっ」

 「うわぁ……えっろ、アリス……」


 感心した声を出さない!

 ええい、お前のような魔物に良いようにされる俺ではないわ!!


 「っ天を裂く一筋の光となって、我が敵を、あっ……撃て! サンダー!!!」


 しっかり魔法発動しておいた俺の一撃が、エロ大樹に再度直撃した。

 今度こそ、大樹は耐えられなかったようで、その身体を枯れさせながら、溶けて消えた。


 「わわっ!」


 宙吊りになっていた俺も落下する。


 「おっと」


 それをシオンさんにお姫様抱っこで受け止められた。

 ……

 あぁ、俺、お姫様抱っこされとるわー。


 「泣くほどか?」


 シオンさんに困った顔で声をかけられる。


 「私まだ、汚れてませんし……」

 「いやいや、分かってるって」

 「私まだ、心まで染まってませんし……」

 「はぁ?」


 そんな複雑な俺の男心に、シオンさんは首を傾げるのだった。






 多少やさぐれた俺だったが、ようやく中央の部屋の奥の扉を開けて、祝福の泉に辿り着いた。


 「わぁ、ここですか?」

 「ああ、綺麗なもんだろ?」


 シオンさんの言うとおり、地下から湧き出しているらしい泉の水は、周りの魔鉱石のおかげなのか、それともそれ自体が光っているのか、真っ青に輝いている。

 味はハワイアンブルーなんだろうか?


 「飲んで良いんですか?」

 「もちろん」


 お墨付きを貰って、俺はその場にしゃがみ両手で水をすくって口に流し込んだ。

 うん、水ですね。

 だが、それを飲むと身体がぽかぽかしてきた。

 それに魔法を発動している時のように、身体が淡く輝いてもいる。

 感心したようにそれを見ていたが、やがて光が消える。


 「ステータス、確認してみな?」


 促されて、自分のステータスを確認する。


 名前:アリス

 種族:ハーフエルフ

 性別:女

 年齢:15歳

 職業:魔法使い

 LV:1


 「おお? ……お、お?」


 魔法使い……LV1ですと?

 LV初期化?


 「はは、まぁこれからってことだよ」


 そうか、そう言われてみると昨日今日冒険を始めた俺が、あっという間にシオンさんに追いつき過ぎてるなぁとは思ったんだよ。


 「でも、これでギルドにだって、登録出来るようになるんだよ?」

 「へぇ、ギルド!」


 そういえば、1000ルーク払えばって言ってたけど、見習いが取れることも条件だったんだ。


 「ギルドに登録すれば、色んな依頼を受けられるし、ドロップアイテムも換金してくれる。冒険者稼業の始まりだね」

 「冒険者……」

 「危険は危険だから、あんまり無理はしてくれるなってのが、まぁ、あたしの本音なんだけど」


 照れたようにシオンさんは頬をかいた。


 「でも、とりあえずは」


 相変わらず、シオンさんの砕けた笑顔は気持ちのいいものがあった。

 そんな笑顔を向けられて。


 「ようこそ冒険者稼業へ、アリス!」

 「……はいっ!」


 差し伸べられたその手を、俺は力強く握り返した。


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