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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
六章 竜契約編
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主従の誓約

 朝食を済ませた後、俺たちは4人で2次転職用の遺跡に足を運んでいた。

 前から不思議に思っていたのだが遺跡内なのに空気が淀んでいる事もないし、廃墟のように埃や塵が舞っている訳でもない。

 誰か空気清浄機でも使っているのだろう、間違いない。

 しかもこの遺跡の壁には相変わらず天然の魔鉱石が含まれているらしく、灯りにも困らない。

 う~ん、これの成分なんだろう?

 こっちの世界でも学者さんはもちろん研究してるよね、これを取り出してエネルギーにしてるくらいだし。


 「アリス、何を壁と睨めっこしてるのよ? どこにでもある遺跡の壁がそんなに珍しいの?」

 「この世界は宝の山ですか……」


 本当に資源は豊富そうだよね。

 それにしてもこの世界、どのくらいの規模なんだろう?

 地球くらいあるのかな?


 「エクレア、この世界ってなんて言うんですか?」


 はぁ?

 想い想われていると信じている紅のお姫様が呆れた顔をしなさった。


 「世界ってステラガルドの事?」

 「ステラガルド? それがこの世界の名前ですか?」

 「ああ、世界ってそっち? 勘違いしてたわ。そういう意味なら、アルカノアの事ね」


 まったく早く言いなさいよね、とエクレアが腰に手を当てた。

 そのステラガルドってのは当たり前にしても、アルカノアって名称はあまり知られていないのだろうか?

 片目を瞑ってしょうがないわねー、と言いながらも満更でも無さそうに教えてくれるエクレア可愛い。

 

 「ステラガルドというのは、大陸の事ですか?」

 「そうね、今エクレア達がいる大陸がステラガルドよ。王国に公国、共和国に教国や帝国もある大きな大陸ね」

 「へー」


 改めて異世界の事について興味が湧いて来たぞ。

 アルカノアというのがこの世界を指す呼称なのか。

 図書室での調べ物は主に生活の事や魔物の事や魔法の事とか、その辺に時間を割いていたから地理とか失念していたな。

 まあ、周辺地図くらいは頭に叩き込んだけども。


 「どのくらいの大陸があるんです?」

 「学者が言うには5大陸あるらしいけど、良くは知らないわ」


 5大陸あるという事は当然ながらそれを隔てる海がある訳だ。

 大航海時代よろしく新大陸発見に乗り出してみたい気もするが、その時代の苦労を考えるとちょっと危なそうだな。


 「他の大陸と交流は無いんですか?」

 「まったくもう、よく質問する子ねー」

 「人間の知識欲に終わりは無いのです!」

 「あーそう。答えは全く無い、じゃないかしら? 実は裏ではっていうのは、エクレアは知らないけど」


 そうなのか?

 どういった理由で交流が無いのかも興味深いな……

 クランやマリアさんなら何か知ってるかも。

 考え込んでいると、爽やかな空色の瞳に真剣に見つめられていた。

 ……思わず目を瞑ってみた。


 「ち、違うわよ! 馬鹿!!」

 「あいたっ」


 茶目っ気を出しただけなのに……頬を抓られました。

 でもエクレア真っかっかで相変わらずかわいーなぁ。


 「ふん……そのうちあんたも噂の姉弟子みたいになったりしないか心配だって言いたいの」

 「……ん~」


 なるはずがない、とは自分で思うけど。

 元々リブラがどんな性格をしていたかも分からないし、何とも言えないな。

 明朗快活、誰にでも好かれるような人柄だったのが道を踏み外したという可能性も無くは無い。

 ティルが何も言わないから分かんないや。


 「仮に道を踏み外したら、エクレアが私の事を正して下さい。だって、貸しがありますし、エクレアには」

 「う……たまに持ち出してくるわね」


 たじろいだものの、すぐにエクレアは鼻で笑い飛ばした。


 「まーそりゃね? あんたをどうにかするのは、このエクレアしかいないでしょ! 任せときなさいよ!」

 「でもルミナちゃんの方が才能豊かな可能性も……」

 「だからそのルミナって誰よ!?」


 と、遺跡の中でそんなやり取りをしている間、そういえば前方では剣戟の音が木霊しているのだった。

 しばらくして静かになったかと思うと、こんな声が聞こえてきました。


 「ところでイリア、後衛からのサポートを一切受けられない前衛ってのは一体どうすればいいんだろうね?」

 「ふふ、どうしましょう? ですがお姉様、割とよくある事ですわ、わたくしたちのパーティなら」

 「よくあっても困るんだけどねぇ」


 しまったエクレアのイベントを起こしてる間にシオンさんの好感度が下がってる!

 ロードしなきゃ!


 「……あんた、今失礼な事考えてないでしょうね?」

 「は、はは……そんなこと考える訳ないじゃないですかー」


 我が紅のお姫様は最近ちょっと勘が鋭くなっていました。




 ◇■◇■◇


 その後は何事も無く、遺跡の最深部まで進んできた。

 一度通った道なので何も問題ない。

 そしていわゆるボス部屋の前で小休憩。


 「お姉ちゃん、どうしてその刀使わないんですか?」


 そこでさっきから気になってた事を聞いてみる。

 そう、シオンさんはこの遺跡に入って一度も未来サイラ作の名刀を抜いていないのだ。

 じゃあどうやって戦っているのかと言うと、お店で買ってきたらしいブロードソードで間に合わせている。

 もちろんシオンさんは史上最強の剣士だからそれで十分戦えているけども。


 「別に勿体ぶってる訳じゃないよ。ただこの刀、切れすぎるから……武器に頼りそうで怖いんだ」


 鞘に入っている刀の柄を親指で持ち上げて、少しだけ刀身を見せながらシオンさんが笑う。

 どうも試しに切ってみた木の枝に手ごたえが無さ過ぎて、次に丸太を切ってみたらしい。

 刀で丸太を切るってどう考えても無理があるでしょう?

 なぜそんな事をしようと思ったんですかマイシスターと思わなくもない。

 下手をすれば折れますよ、刀が!

 渾身の力作が!

 ところが、そうはならなかった……らしい。


 「豆腐みたいにスパっと切れてね」

 「それはシオンの業なんじゃないの?」


 感心したようにエクレアが口を挟んでくる。

 俺もそう思う。


 「謙遜するつもりもないけど、だけどあれは刀の力だと思うよ。なんせ……手応えがなかったからね」

 「……丸太で?」

 「ああ」

 「なん……ですって」


 衝撃を受けた。

 それはつまり……割れる?

 俺が振っても、丸太割れるんじゃない?

 スパっと。


 「振れないからね?」

 「振れないわね」

 「振れませんわ」

 「……」


 ちょっと待ってくれないか?

 この確信しきったシンパシーはなんですか?

 しかも俺まだ何も言ってないし……

 唇を尖らせていると、よしよしとシオンさんに頭を撫でられた。

 ふぁぁ……


 「平和ねぇ」

 「そうですわね」


 見られてる超見られてる。

 は、恥ずかしいよお姉ちゃん!

 ……でももっとして。




 ◇■◇■◇


 満を持してボス部屋へ。


 「さあ行きますよ皆!」


 気分は上々。

 俺の新必殺技、トライデント・ブリザード・ファイヤー・サンダー・アタックを食らうが良い!

 この攻撃は相手の防御力を完全に無視し、全てを崩壊させる必殺中の必殺技なのである!

 ダメージは9999999!

 相手は死ぬ!


 「何をぶつぶつ言ってんのかしら、この子」

 「ふふ、エクレア様、そっとしておいてあげましょう」


 意気揚々と重厚ながら、押すと不思議と力要らずで開く扉を開け放つ。

 耳障りな鉄の擦れる音と共にボス部屋が開かれた。

 真っ暗闇な部屋に皆で侵入する。

 皆が部屋に入ったところでお決まりに、再びの重たい音と共に扉が自動で閉まった。


 「アリス」


 前に出ようとした俺の肩にシオンさんの手が置かれる。

 あ、そういえばあの過酷なヤマタノオロチ戦とは違ったな。

 今は大人しくシオンさんの背に隠れる。

 そしてその肩口から覗き込むように前方に注意を向けた。

 前回はマリアさんという圧倒的な『引率者』が居たから緊張もなにも無かったけど、一応気は引き締めておかないとね。

 暗闇のボス部屋の中を伺ってみると、ほんのりと緑光が灯り始めた。

 そして薄緑に輝く魔鉱石の光が、ボスの姿を浮かび上がらせる。




 ――レアエンカウント――


 『アルファオメガLV99』




 エネミーステータスに驚愕を隠せない。


 「レア!?」


 浮かび上がったシルエットは見るからに頑強そうな守備を誇るであろう、甲殻を持つ禍々しい獣。

 見かけは亀に似ているが、もっと凶悪な別の生き物だ。

 実際4本足で立つその姿は亀ではなくライオンのような力強さと俊敏性を感じさせる。

 下顎から飛び出している二本の牙も人の大きさほどあり、大怪獣を連想させる。


 「これだから冒険者って家業は気を抜けないね」


 シオンさんがブロードソードを構えて前に出る。

 それに続いてイリアも槍を取って前に出た。

 エクレアは既に詠唱に入っている。

 早いな皆、どうやら俺も呆けている場合じゃない。


 「サンダー!」


 『重い』魔法は恐らくエクレアが詠唱してくれている。

 ならば俺の役目は露払いだろう。

 下級魔法で足止め兼前衛の支援を務める。

 走るシオンさんの横を抜いて銀の雷光が甲殻獣に突き刺さる。

 甲殻に覆われた武骨な身体が帯電して、僅かな足止めにはなった。


 「はあああっ!」


 その隙にシオンさんが上段に振りかぶった強い一撃を叩き込む。

 耳鳴りがするような甲高い音が響いた。


 「やっぱりか! でもまだっ」


 ブロードソードではどうやら荷が重いらしいが、シオンさんはまずは自らの業に拘るらしい。

 いいよいいよそういうの!

 存分にやっちゃってよお姉ちゃん!


 「はぁっ!」


 いつか見たレオニールとの一騎打ちのような連撃。

 あの時は何となく眺めていたが、剣術という意味ではレオニールに分がある様に見えた。

 だが今のシオンさんの剣はどうだ?

 あくまで素人目線ではあるが、剣閃の流れに淀みが無い……ように見える。

 しかも闇雲に身体を覆う甲殻を力任せに叩いている訳でもない。

 足の関節部、甲殻の隙間、そういう部分を狙っているようだ。

 だが――


 「くっ――こいつ!」


 それでも、ダメらしい!

 亀もどきのくせに生意気な!

 無呼吸運動を続けていたシオンさんが息を吐く――その瞬間を見極めてイリアが前に出た。


 「お姉様!」

 「頼む!」


 見事な連携を見せて二人が入れ替わる。


 「受け止めて見せます!」


 攻守が入れ替わった。

 甲殻獣の身体全体を使った、ぶちかましだ。

 この亀もどき、竜ほどの大きさは無いものの象くらいの体格はある。

 そんな攻撃を生身で受けられるものは限られているだろう。

 イリアはいつもの緑のフィールドを展開――


 「えっ?」


 ――しなかった!

 そのまま、サイラに作ってもらっていたマジックシールドのみで受け止める。


 「うぅ――っ」


 凶悪な亀の突進を華奢な身体で受け止めるも、踏ん張りも足りない。

 守り5のイリアにはダメージ自体は入っていないかもしれないが、勢いよく吹き飛ばされた。

 後方で息を入れていたシオンさんを巻き込んで縺れるように倒れる。

 この――っ!


 「――邪魔よ! どきなさい!!」


 エクレアの声で跳び掛かるのを留めた。


 「デカいの行くわよ! スターフレア!!」


 追い打ちをかけようとした甲殻獣が紅の鮮烈な爆発に直撃されて、お返しとばかりに遠く離れた壁まで吹っ飛ばされた。

 象くらいの質量の魔物を軽々吹っ飛ばす炎の魔法、やっぱり恐ろしいかも……

 遺跡に振動を残す程の衝撃で叩き付けられた甲殻獣は爆発の熱と衝撃で昏倒寸前のようだ。

 まだ油断はできないが低く呻いている。

 イリアを見るとシオンさんが介抱している所だ。

 ……よし、先に魔物を倒す!

 壁に叩き付けられて良い的だ!

 今こそ俺の超必殺技を――


 「ってしまった! 攻撃用の氷魔法が入ってない!」


 キャスター・グローブの残弾は左にライトニング、右にアイシクル・ガーデン。

 攻撃魔法をティルに入れてもらうの忘れてた!

 自分の力だけで使えない必殺技って面倒だなぁ!

 ええい、左手魔法だ!


 「古き女神よ、その力を持って我が前に天の裁きを下せ! イシュタル・エッジ!」


 ――っ!

 左手の上級魔法を本気で撃つと、やはりクルものがある……

 しかし威力は申し分無し、エクレアの特大の一撃との合わせ技一本。

 甲殻獣を粉みじんに吹っ飛ばした。

 溶けるように、甲殻獣が消えていく。


 「ふぅ……」

 「!? 気を抜くな、馬鹿っ!」


 咄嗟に顔を上げた俺が見たのは、今しがた撃った俺の上級魔法がそっくりそのまま反射される所だった。

 砕けて消えたように見えたのは擬態。

 蜃気楼のように別の場所から顔を出した甲殻獣が俺目がけてオーバーキルな魔法を返してくる――間に合うか!?


 「――ファイア・ウォール!」


 エクレアが咄嗟に作ってくれた炎の壁が、コンマ一秒の時間を稼いでくれた。

 雷を身体に通して、全力で回避する。

 まさに危機一髪。

 自分自身の放った大砲をやり過ごした。


 「あぶな……伝説の魔獣を退けた私が、こんな適当なレアモンスターに返り討ちにされるところでした!」

 「……なんだかんだ余裕あるわね、あんた」


 エクレアに半眼を向けられた。

 それより亀系の敵は反射ミラーを持っている、これはまさに定番だな。

 迂闊に大魔法撃てないぞ。

 となると……


 「変なこだわりは捨てないとな」


 シオンさんが介抱したイリアを背に立ち上がる――腰に提げた刀を手にかけて。

 天剣、千本桜叢雲のお披露目である。

 居合をしている所は庭で何度か見ていたけど、戦闘で使っているのは初めて見るな。


 「アリス、イリアに付いてやっててくれ」

 「はい」


 入れ替わりに、俺がイリアを診るべく駆け寄った。

 辛そうに横たわるイリアと目が合う。

 申し訳なさそうなエメラルドの瞳を見て苦笑する。

 シオンさん直伝、よしよしをお見舞いしよう。


 「お、お嬢様……」

 「ふふ、何も心配しないでいいよ」

 「はい……」


 女の子の頭を撫でるというのは、なんというか射幸心をそそられるな……

 少しだけ紅潮している様にも見えるイリアを診ていると、もっともっとと思ってしまう。


 「んしょっと」


 調子に乗って膝枕をしてみた。

 イリアにしてもらった事はあるけど、イリアにしてあげるのは初めてだ。


 「そのような……」

 「まあまあ、いいから、後は見ていましょう」


 再び、戦いに顔を向ける。

 エクレアが鞭と下級魔法で牽制している。

 いつもではないが、度々下級魔法も反射されている。


 「キャスト解放、アイシクル・ガーデン」


 飛び火したら嫌なので、氷の結界を張って戦闘の推移を見守る。

 エクレアとの小競り合いを嫌った甲殻獣が、その甲羅の中に身体を引っ込めた。

 まさに亀のように守るのかと思ったがそうではない。

 何かしらの魔力を使っているのか、その引っ込んだ状態から大回転してエクレア達に突っ込んでくる。

 あんなのを受ければミンチは必至である!

 そしてどこの大怪獣!?


 「天剣よ、気高く誇る桜花の舞を持って守り人とならんことを」


 距離を取ったエクレアとは対照的にシオンさんが前に出る。

 祝詞のような言葉を口ずさみ、その白銀の刀身を引き抜いた。

 居合ではない。

 刀身の文字が桜色に輝いている。


 「桜吹雪」


 まさに言葉通り、桜の花――魔力の花?――が猛吹雪となって甲殻獣の動きを止めた。

 竜巻の如く纏わりつく魔力の桜の舞に、甲殻獣は身動きが取れず咆哮をあげた。

 反射される様子も無い。

 そこに迷わずシオンさんが飛び込んだ。


 「一閃っ!」


 ごう、と。

 白銀の刀が振り抜かれた。

 滝の水流を割る、ということさえ簡単なのではないか。

 そんな一閃。

 刃物など通らなそうな甲殻を、バターでも切る様にあっさりと両断した。

 逃げも隠れもできなかった甲殻獣は断末魔の咆哮をあげる暇も無く、今度こそ世界から溶けて消えていった。




 ◇■◇■◇


 「凄すぎでしょう、シオン」

 「そうでしょうそうでしょう」

 「……なんであんたが得意顔なのよ!」


 無事イリアの転職を済ませて遺跡から出た俺たちは屋敷へと向かう帰路についていた。

 日は既に傾いており、街々の煙突から漂う湯気からはお腹を直撃する美味しそうな匂いが充満していた。

 今日も一日お疲れ様です!

 俺たちも美味しい夕食、楽しみだな~。


 「お姉ちゃんを褒めるという事は当たり前の事、つまり世界の真理なのです。いいですね?」

 「このシスコンどうにかしたいわね、ほんと……」


 何とでも言うがいい。

 俺は自分に正直に生きると決めたのだ。


 「でもまぁ、刀の力なんだよね」

 「そう? エクレアがその刀を使ってもあんな風にはなれないと思うけど」

 「それはそうでしょう」

 「うっさいわね馬鹿アリス! あんたなんて振れもしない癖に!」

 「言いましたね? ちょっと私の進化した薪割りを見るがいいです!」

 「もうそれは良いから」


 なぜ、お姉ちゃん!?


 「お嬢様……歩けますので」


 お、俺の背中から子犬が鳴くような小さな声が聞こえた。

 実はあれからずっとイリアを負んぶして遺跡を抜けてきたのだ。

 むろん、魔法の力は借りている。


 「いいからいいから」

 「なんという失態を……」


 イリアは、特に俺に負ぶわれている事に申し訳なさを感じているようだけど、俺からすればイリアを誰かに預けるのは違うと思ったから何も問題は無い。

 歩調を緩めた俺を察して、シオンさんとエクレアが先に歩いて行った。


 「イリア、もう意地を張るのは止めだね。この世界最強の私が契約してあげます。感謝するように!」

 「くす……」


 いい感じに力の抜けた笑い声をイリアが出した。


 「もう、自分を騙すのも疲れましたわ……本当はわたくしも、お嬢様と契約したかったのですから」

 「イリアは私のものですから、勝手に死ぬ事も他の誰かのものになる事も許しませんし」

 「ふふ……お嬢様、殿方のような独占欲をお持ちなのですね」


 実はその通りだが。


 「ねえ? いつか言ってたよね? 私は結構長生きみたいだから、普通に生きているだけで周りの皆が居なくなっちゃうって」

 「はい……」

 「それ、私と契約したイリアは、どうなるのかな?」


 イリアが優しく微笑んだのが背中越しに分かる。


 「お嬢様のその命尽きるまで、一番側で支え続ける事を誓いますわ」


 それは永遠の誓約のようにも聞こえる。

 心が熱くなった。


 「ふふ、お願いしますね?」


 背中から回された手に少しだけ力が込められたような気がした。

 ぎゅっとされて、イリアのぬくもりを感じられる。

 いくら魔力に頼っているとは言っても、これは明日は筋肉痛に襲われるかなー。

 安静にしとこ。






 だがその前に、夕食の場で意気揚々と待っていたサイラの手による渾身の一皿が俺たちを襲ったのだった。


 ……完食!

※トライデント・ブリザード・ファイヤー・サンダー・アタックは正式名称ではありません。

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