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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
五章 来訪者編

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刀匠

 さむっ!

 濡れた服が体温を奪うし、洞窟もひんやり冷たい。

 さすが滝の洞窟だ。

 洞窟内は一本道だが思ったよりも広く、奥行きがあった。

 道中は魔鉱石の灯りが備えられており、確かに人が暮らしている痕跡がある。

 そしてこの頃には俺の頭もすっかりと冷え、曇り空のようなもやが胸の内を燻っていた。


 「どしたの、アリスさん? さっきから落ち込んじゃって」

 「マキナ……」


 この子も尾を引かない子だよね。


 「ごめんね、マキナ。あなたの事を無理矢理聞き出すことはしないって言ったはずなのに、力ずくでもだなんて……すごく反省してます」

 「はははっ! いいよいいよ、本来ならボクだってもっと事情を話して然るべきなんだから」


 本当に前向きで明るい。

 でも……昨夜、独白に近いマキナの昔話を聞いた。

 心を簡単に推し量る事はできないけど、この子は何か張りつめ過ぎている。

 その身一つで全ての危険を取り除く。

 そんなどこか危なっかしい気概を感じて、どうしても喋らせたかった。

 前言撤回してでも。

 会ったばかりのこの子の事が、不思議に思えるくらい心配だ。


 「でし? さむい? だいじょうぶ?」

 「大丈夫ですよ、リンちゃん」

 「きゃは」


 心配して寄って来たリンちゃんの頭を撫でる。

 とりあえずタオルだけ頭からかぶって髪を拭いたが、服の方もどうにかしないとな。

 そして頭に乗れないキュウは珍しく足元をちょこまかと走っている。


 「お、行き止まりですね」

 「うん、そして到着だよ」


 突きあたりに行きあたると、岩肌の中に明らかな人工物の扉が見つかった。

 遂に鍛冶師にご対面か。

 これで目的でもあるシオンさんの刀をゲットできるのか?

 うむ、刀を持って帰って褒められたい。

 お胸に顔をうずめたい。


 「こんにちは~!」


 マキナが扉をノックしながら声を上げた。

 中から女の人の声が返ってきた。

 どうぞ、という優しげな声だ。


 「お邪魔しま~す!」


 遠慮なくマキナは扉を開いた。

 扉の向こうは工房――という訳でもなかった。

 一般的な民家の居間だ。

 壁が全て天然の岩でまかなわれている、という以外は。


 「お客様は久しぶり、鍛冶の依頼ですか?」


 小さな子供を膝の上に乗せた女の人が柔和な笑顔で応えてくれる。

 黒髪を綺麗に三つ編みにした女性だ。

 この人が鍛冶師なのだろうか?


 「そうだけど、実は今回は弟子入りというか、コツを教えて欲しいって依頼になるんだ」

 「まあ? あの人は頑固ですから、それは大変そうです」


 どうやらこの人は鍛冶師さんの奥さんらしい。

 濡れた俺を見てお風呂(天然の温泉!)に入れてくれたり、遠い所をようこそとお茶を出してくれたりと至れり尽くせりの歓待を受けた。

 あまり人が来ることが無いので、久しぶりの来訪が嬉しかったとのこと。

 ひとごこちついた今、ようやくその鍛冶師さんと俺はテーブルを挟んで対面していた。

 奥の工房で作業をしていた鍛冶師さんは、奥さんに無理やり引っ張ってこられたのだそうな。

 う~ん、おっさんとおばさんの関係もそうだけど、奥さん最強だな。


 「初めまして、アリスと申します。こちらのマキナの紹介で、本日は立ち寄らせてもらいました」

 「ん……?」


 既に不機嫌そうな鍛冶師さんを前にして、にっこり笑顔。

 外用のお澄ましモード発動である。

 鍛冶師さんはそんな俺と、マキナに目を向けて不思議そうな顔をしていた。

 それも一瞬で、かぶりを振ってもう一度視線を合わせてくる。


 「おう、イザナギだ」


 イザナギ……?

 頬杖をついて、悪ガキのように不貞腐れる鍛冶師さんに記憶が刺激される。


 「……確か、私の姉の使っていた刀の銘も、イザナギでした」

 「あん? 俺の打った刀を使ってるやつぁ、そういないはずだがな」

 「姉の名は、シオンと申します。リンナル出身の剣士ですわ、鍛冶師様」


 鍛冶師の太い眉毛が片方だけ跳ね上がる。


 「シオンってぇと、あのシオンか? 人間離れした速さの」

 「間違いありませんわ」


 あの速さを知ってる者なら、一発で思い浮かぶ人物像だ。


 「あの胸のぼいんとした?」

 「間違いありませんわ」


 大きく頷いた。

 俺はサイラから、鍛冶師さんは奥さんから冷たい視線を向けられた。


 「まあいい、しかしあんたはシオンとは似てないんだな」


 疑り深そうな視線で鍛冶師は俺を上から下まで眺めてくる。


 「そうでしょうか? 髪の色と瞳の色がちょっと違うだけですわ」

 「ちょっと……?」


 仮に俺とシオンさんが本当の兄妹だよ、おばさんから生まれたんだよ、と言われたらおっさんが発狂しそうだな。

 ま~、おっさんなら全部飲み込んで愛してくれそうな懐の広さは感じるけどさ。


 「人里離れた場所に住んでいると、他人のあれこれを勘繰る事がお好きになるのですか?」

 「……っち」


 笑顔のまま、ちょっと刺しておく。

 しかし締まらない事に俺の膝にはリンちゃんが、向かいの鍛冶師さんの膝の上にはお子様が。

 年の頃はちょうど同じくらいなのだろうか?

 この国特有の、同じ黒髪黒目だ。

 可愛らしい女の子。


 「リンはなんさい?」

 「5さい! シルちゃんは?」

 「5さい!」


 と、現在2重に会話が為されている状況。


 「……くだらない話だったな、刀だったか?」


 鍛冶師さんもすっかり毒気を抜かれたらしい。


 「はい」

 「残念だが、今の手持ちの素材じゃ、なまくらしか打てないな」

 「素材、ですか。では、こちらのサイラに刀錬成のコツを教えて貰う事はできませんか?」


 良い素材を集めるにも手間がかかりそうだしな。


 「教えてできるもんじゃねえよ。あれはお山の頂上、試練の祠に挑まなきゃなんねえ」


 それが刀錬成というスキル獲得の条件か?


 「それは危険なのでしょうか?」

 「打てる人間が広がってないのがその証明みたいなもんじゃねえか? 需要の割によ」


 確かにな。

 眼帯も刀が錬成できるなら仕入れたいと言ってたし。

 武器というよりも、美術品骨董品のような感じで値が張るのではないだろうか?

 それなら本数が少なくても利益はデカい。


 「ま、くだらん金持ちには過ぎた代物だろうよ」


 それでこんな辺鄙なところに?

 なるほど、飾られるのを嫌がる訳か。

 でも、俺は飾られる為の取引であっても応じるつもりだ。

 商売だからな。

 サイラにそれとなく会話の流れから視線を向けてみる。


 し、ん、ぱ、い、し、な、い、で、く、だ、さ、い――にゃ。


 と、口をゆっくり動かしたように思う。

 読唇術ができないから、心と心で会話したつもり。

 鍛冶師さんに向き直る。


 「私の姉は、そういう方ではありませんよ。武器の力を引き出してくれます」

 「シオンか、あいつは良い使い手だったが、今でもそうなのか?」

 「昔以上です。鍛冶師様が打って下さった刀、砕けましたから」

 「砕けた!?」


 レオニールの魔剣の方が良い刀だった事、そしてシオンさんの剣速に武器の強度がついてこなかった経緯をかいつまんで話すと、鍛冶師さんは大口を開けて笑い始めた。


 「あの野郎、俺の刀をへし折りやがったってのか……? へ、いいねいいねえ」


 自分の錬成した刀が折れると、燃えるのだろうか?

 実戦の中で役割を果たし、かつ武器が持ち主に応えられなかったとあらば、職人としては期するものがあるのも頷けるか。


 「依頼は、刀を打って欲しいというよりは……そっちの嬢ちゃんに仕込んで欲しいって事だったか?」

 「はい、できますか?」

 「スキルだけ獲得しても腕が未熟だと話になんねぇ、ま、その嬢ちゃん次第だが……シオンの為ってんなら、やってやらなくもない」

 「ありがとうございます!」


 良い職人は、良い使い手に武器を届けたい。

 そういう意味では、俺が改めて説得する必要もなかった訳だ。

 すでに我が姉を知っているというなら、じゃあ打ってやろうと思うのが世界の共通認識だろう、間違いない。


 「タダでとは言わねえがな?」

 「それはもちろん、正当な報酬は払います」

 「ありがたいが、酒も付けてくれるともっとありがたい」

 「とびっきりのを手配するようにします」

 「へ、お嬢ちゃん、見た目通りのお嬢ちゃんなのかねぇ?」

 「さあ? どうでしょう?」


 交渉成立!

 後は、お山の試練の祠って場所でスキル獲得すれば良い訳か?


 「……しかしなぁ、今の時期にあの祠に行くのは正直止めておいた方が良いと思うがな」

 「今年は……お山がお怒りだとか聞きました」

 「知ってんなら話が早い。10年に1度くらいの周期でそんな時期があるのさ。国からのお触れじゃぁ、今年がそうだとな。毎回、国のお偉いさんが何とかして鎮めてるんだとよ」

 「……何とか?」

 「詳しくは知らねえよ。ただな、国の人間の中じゃ有名な話がある――」






 結局1泊させてもらった。

 リンちゃんもいるし、強行軍はしたくなかったから奥さんが「せっかくなので」と言ってくれた時は本当にありがたかった。

 報酬には色を付けねばなるまい。

 手持ちで足りない気がするし、イリアに持ってきてもらおう。

 リンちゃんとシル嬢も子供特権というべきか、わずか一夜ですっかり仲良くなっていた。

 気分もすっきり、再び王都に向けて進み始めた訳だが、う~む。


 ――生贄を捧げてお山を鎮める。


 これが、巷で有名なお山鎮めの噂話らしい。

 頭を色々整理してみる。

 まず俺たちの目的は刀だ。

 その為にはサイラを連れて、お山の祠に挑まなくてはならない。

 しかし、どうやら今年はそのお山がお怒りの年らしい。

 それは放置すればどんな天災が起こるか分からないと言われている。

 アシタカ王国はその都度、何かしらの対策を施しているらしい。

 その対策というのが――生贄だという。

 あくまで噂話だが……無くは無い話だ。

 この異世界じゃなくて、俺が生きていた世界でもそういう風習はあったのだから。

 そして、ここからが問題だ。

 俺たちはなぜかマキナ曰く、国の関係者に襲われた。

 仮に国のやっていることが生贄として、その生贄に求められるのが魔力だとしたら……目的は俺?

 腑に落ちない……

 俺と認識して襲ったということは、俺がアルセイド王国のアリスさんと知られている事になる。

 背景を考えれば、俺を襲う事は国際問題になるんだよな。

 自惚れかもしれないけど、クランは怒ってくれそうな気がするよ?

 じゃあ、マキナはそれを阻止する側の人間だということか?

 国が一枚岩じゃないなんて当たり前の事だから、辻褄はあってるけど。

 でも、この子の抱える決心は、そんな事じゃないような気がする……

 う~~ん?


 「山の祠、この時期に向かうのは危険でしかないのかもしれません」

 「私は、アリスさんが引き返すならそれに従いますにゃ」

 「ダメダメ、引き返すのは禁止って言ったはずだよ」

 「でし、おだんごたべたい!」

 「キュイ!」


 あ~~~~~~~~、もう!!


 「お団子を食べましょう」

 「やった!」

 「圧倒的にリンに甘いよ!?」


 許せマキナ。

 俺もどうしていいのか分からないくらい、可愛い。

 そしてキュウは何言ってんのか分かんねーからね?

 きゅいきゅい主張しないで、お願いします。


 「マキナ、王都にお団子屋は?」

 「知らないよ、どこにでもあるでしょ~」


 マキナは頬を膨らませた。

 しかしここまで好評だと、国から出る際にお団子おっさんのお店に寄って土産を買って帰らねばなるまい。


 「マキナ、おこるのよくない!」

 「リンに言われると、こう、ぐにゃっとしたくなるよ」


 ぐにゃ?


 「斬新な擬音ですけど、それよりお山に登るには、王都からが近いんですか?」

 「そうだよ。行程的には一旦王都で宿を取って早朝に出発かな? 途中で宿泊施設があるから、そこに泊まる。1泊2日で登頂する」


 なるほど、頂上の祠の試練もあるからそれが無理のない登頂計画になるか。


 「高山病って知ってるかな?」

 「はい、知識としては」

 「うん、正直リンは置いて行った方が良いと思うけど……」

 「リンもいく!」


 良く分かってないけど、置いてけぼりに断固反対という気概である。


 「ま、いいよ。いざとなったらボクがおんぶするし、魔法で空間も快適にできる」


 お、俺もおんぶできる、よ?

 とは口に出しては言えなかった。


 「山道は整備されてるから、それほど心配しないでも良いよ」


 ふ~ん?

 富士山みたいだね。


 「お……っと」


 そんな話をしていると、また地震があった。

 それほど大きくも無いが、それと分かる程度には揺れている。


 「…………すこし、早い」


 マキナの呟きが聞こえてしまった。

 やはりどう考えてもこの子は何か知っている。

 でもここまで一緒してみて、今更俺たちを悪いようにするとは思えないし……


 「マキナ?」

 「うん?」


 固まったように眉間に皺を寄せるマキナは、見ていて辛い。


 「何かあれば、相談して下さいね?」

 「……」


 あ、険しい表情消えた。


 「うん、ボクはね……ううん、何でもない」

 「えー、何でもなくないでしょ? そこまで言って」

 「あはは、いいんだよ。ただね、ボクの事……見ててね。しっかり、見ててほしいかな」


 そこで年齢にそぐわないような切なそうな顔をするものだから、かける言葉が見つからない。

 今まで、こういう気配を出した人を見たことある。

 子供たちの為に行動した、エイム。

 それにレオニールの為に身体を張った、レイミア。

 二人に共通してるものは……自己犠牲。


 「マキナ、英雄って生きてこそだと思いませんか?」


 不安になったので、ちょっと釘を刺しておこう。


 「ん~、英雄はきっと……居なくなった方が、皆の為なんだと思うよ」


 どうやらマキナと俺の英雄感は違うらしいという事しか、この時は分からなかった。

次回『王都スメラギ』

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