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幻想世界のアリステイル  作者: 瀬戸悠一
一章 異世界転生編

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罰当番の日常

 当たり前と言えば、当たり前だが。

 あの後、シオンさんの案内で遺跡からは一直線に脱出した。

 遺跡に何があるのか、ということを探るのはまた別の機会だ。

 出口までの道のりは、そう遠くはなかった。

 道中2回くらいクマとエンカウントしたんだが、シオンさんが居てくれれば何の問題も無かった。

 ……無かったんですよ。

 俺はもう、驚かない。

 しかし今回は逆にシオンさんが俺に驚いた。


 「え!? 一撃!?」


 俺が後ろから放った、サンダーの威力に目を剥いていたのだ。

 どうやら俺のサンダーは、クマを一撃で葬れる威力らしい。

 まぁ、だからってもう変な気を起すつもりはないが。

 そうして帰ってきた、リンナルの街。

 その我が家(仮)。


 「この人ったら、アリスちゃんが心配でもう、おろおろおろおろしちゃってさぁ? だったら通すなって話よねぇ?」


 ねえ?

 と、おばさんに笑って言われるが、俺はとても「はい」と言える気分ではない。

 ただただ謝った。

 おっさんにも深く謝った。

 妙な後ろめたさを押し付けてしまったから。

 因みにおっさんの挙動不審を発見したシオンさんが問詰めて、俺の外出は周知となったらしい。

 俺を発見できたのは、どうやらシオンさんとパーティを組んだままだったからのようで、ステータスで調べればメンバーの位置をある程度把握できるらしい。

 いや、ほんと、ごめんなさい。

 俺は拳骨くらい覚悟して、頭をおっさんに差し出したくらいだ。

 怖かったが。

 だって、LV38おっさんの攻撃で、LV6(上がった)俺の装甲が耐えられるとか思わないからな?

 しかし、おっさんは。


 「若ぇうちは、向こう見ずなくらいがちょうどいいんだ」


 と、渋い顔を決めて家の中に入って行った。

 後ろでおばさんとシオンさんがこそこそ会話してる。


 「あれ、絶対アリスの事好きだわ」

 「やだねぇ、男って。年甲斐もなく」


 おっさ~ん?

 俺、男に興味がありません……





 明けて翌日、今日は冒険禁止である。

 罰として家事全般に、お使いなど細々としたことを頼まれた。

 罰って言っても、居候からすれば当たり前な気もするので、本当に優しい家族だと思う。


 「箒で掃いて、最後は雑巾がけでいいのね」


 さっそく、朝早くから掃除に取り掛かる。

 さすがに邪魔な髪は、おばさんから借りたリボンでポニーテールに纏めました。

 いや、俺が付けたいって言ったんじゃないよ!?

 おばさんがしてくれたんだからね!


 「まぁ! 可愛いわ、アリスちゃん!」

 「え、そうですか? ……そうですか」


 喜んでくれたのは良いんだけど、まだ素直に喜べない俺の男心は如何に?

 無くしたくない、この気持ち。

 リビングのソファで、ずっしり座っていたおっさんと目が合った。

 ダンディな顔で、うむ、と頷かれた。

 ……どうでも良いけど、この人仕事してんのかな?

 今日って、何曜日だ?

 俺はとりあえず、無反応を貫いて自分の仕事に取り掛かった。






 家が木造なので、要領は学校の掃除と同じようなものだ。

 ちなみに、水の確保は井戸である。

 地下水が豊富らしく、手押しポンプで水を確保する。

 ポンプは庭に設置しているので、それほど重労働ではない。

 ……普通に体力と力があれば。


 「ふぅ、ふぅ!」


 桶に水を汲んで庭から家に出入りするのはかなり大変だ。

 地下水は豊富かもしれませんが、一度汲んだ水は大事にしましょう。

 水、大事。

 そうして掃除の準備を整えた俺は、まず高い所から綺麗にしていくことにした。

 掃除の基本。

 棚の上や、窓の縁などを雑巾で拭いていく。


 「窓か……ガラスってどうやって作ってるんだろ?」

 「そりゃ、錬金術師が作るに決まってるよ」


 決まってるのか、そうなのか。

 部屋から出てきたシオンさんが俺の呟きに返事を返して、また部屋に戻って行った。

 振り返ると、リビングのテーブルでおばさんが裁縫をしていた。

 手元が光っている。

 俺が提供したプチパンサーの毛皮を皮のローブに変えているのだ。

 手作りは手作りだが、ちくちく縫ったりするのとはまた違う。

 ファンタジー、凄い。

 そしてソファーでは、おっさんが俺を見てサムズアップしていた。

 いいから、仕事しろ。






 お風呂掃除から、台所の掃除、それに皆の部屋以外の掃除は全て終わった。

 朝が早かったから、まだ太陽は上がりきる前だ。

 この世界はまだ時計という、時の牢獄に囚われていない。

 太陽が上がりきったかな? という時に教会の鐘が鳴り、沈んだかな? という時にもう一度鐘が鳴る。

 そして朝は日の出と共に、鐘が鳴る。

 まぁ、時間なんてこれくらいゆっくり流れてた方が良い。

 日本人、忙し過ぎ。

 お昼はおばさんの用意してくれたパンを食べた。

 食べ物はそう変わるものじゃないんだな、と改めて確認した。

 フランスパンにそっくりのパンに何かの肉と、レタスのようなものを挟んでいる。

 マスタード欲しい。

 食欲はというと、身体のサイズが縮んでしまったので、本当に食べられなくなった。

 手の平大にカットされたパンを一切れ食べるので限界だ。

 おっさんとシオンさんは健啖家で、カットされていないパンを丸々一つ食べていた。

 エンゲル係数、高そうだな。





 昼からは、お使いだ。

 物価の事も、ある程度はこれで分かるだろう。

 おばさんに100ルークを渡された俺は、初めてのお使いに出発した。

 1ルーク=銅貨1枚

 100ルーク=銀貨1枚

 10000ルーク=金貨1枚

 これがこの世界の貨幣だ。

 俺は銀貨1枚を渡されて、ベルトに取り付けた小物袋の中にしまった。

 それにしても長閑な街である。

 まぁ、俺の実家だって田舎だったんだから、大差ないのだが。


 「あ~~~、変な銀髪がいるぅ! 銀髪、銀髪!」


 途中、妙なクソガキに絡まれたりもした。

 イラっとしたが、シオンさんたちに迷惑がかかったら不味いので、滅多なことは出来ない。


 「あ~、君」

 「カルだぞ」


 ……それが?

 それがどうした?

 なんでお前は今、ドヤ顔で自己紹介した?

 ちょっと赤みが掛ったくせっ毛のクソガキ君。


 「……え~~、カル君?」

 「お前、なんてんだ?」


 こいつ、殺そうか?

 人間に魔法を放った時、熟練度は増えるのか?

 悪魔の実験に心が動かされるわ。


 「アリス、です……」


 但し!

 今俺、反省中。

 問題、起しません。


 「アリス~~? 銀髪アリス~~! 変なの~!」


 何がおかしいのか、俺の周りをちょろちょろ走り回る。

 さぁ、どうしてくれようと俺が割と本気で黒い考えを始めた頃、そのガキの頭に拳骨が落ちた。


 「ぎゃっ、いってぇ!」

 「恥ずかしいから止めてよ! 本当に、すみません!」


 クソガキと同じ赤みが掛ったくせっ毛。

 健康そうな小麦色の肌に、そばかすが妙に似合っている女の子。

 恐らく姉であろう、彼女に平謝りされて、クソガキはそのまま連行された。


 「はぁ……」


 そんなことも、ありました。

 そうして、昼なのに人通りもまばらな街道を歩いて店を見て回る。

 果物屋、野菜屋、肉屋、魚屋もある。

 魚があるってことは、近くに海でもあるんだろうか?

 まさか冷凍で遠くから運ばれてきてるとも思えないし。

 とりあえず、俺は買わずに店を見て回った。

 リンナル1個で3ルーク。

 大根にしか見えない野菜で1ルーク。

 何か良くわからないお肉の切り身で5ルーク。

 さんまの様な魚で4ルーク。

 まぁ、家族分の食材を買って帰ってもお釣りが出るだろう。

 何を買うかは任されているし、晩御飯は俺が作ることになっているから、カレーでも作ってみようか、作れるなら。


「……ん?」


 さあ、そろそろ買い物をしようかと思い始めた頃に、街道に大きな馬車が乗り入れてきた。

 街の人たちにとっても珍しい事らしく、何事かと視線を集める。

 俺ももちろん、その人だかりに参加した。

 馬車には立派な意匠が施されており、異世界初心者な俺の目を楽しませてくれる。

 と、思っていたんだが何かちょっと雲行きが怪しい。

 近づいて来た馬車はよく見ると、荷の部分が牢屋のようになっている。

 やたら意匠が様になっているのは、その通りなのだが。

 意匠に拘った牢屋。

 そんな感想。

 そして、馬を操る御者と、その横に座る男は相当にうさんくさそうだ。

 御者の男はかなり無愛想に見える冷たい無表情だが、黒髪黒目の、まぁイケメンである。

 目つきが悪いが。

 年の頃はシオンさんと同じくらいではないだろうか?

 目つきが悪いが。


 「……」


 あんまり熱心に見たから、目が合っちゃった。

 まぁ、気にしない。

 隣の壮年の男は、言うなればマフィアのような迫力を醸し出している。

 白髪をオールバックにして、フック船長よろしく眼帯で片目を隠している。

 堅気であるはずがない、という風情だ。

 あ~、これは関わったらダメだわ。

 これに関わったら、またシオンさんに怒られる。

 俺は興味ありませんよ~、という風情で買い物に戻り―――かけたが。

 かけた、が。

 馬車が真横を通り過ぎる時、ようやく荷台の中身が分かったので振り向いてしまった。

 注目し続けていたオーディエンスの中で、1人だけ変に動いた俺に、荷台の人物が目を向けてきた。

 今の俺と、同い年くらいだろうか?

 セミロングの金髪。

 世の中に絶望したような、疲れた碧眼。

 シオンさん程の胸のボリュームはないが、出る所は出て締まる所は締まった、俺とは違ったモデル体型。

 見世物のように、そんな彼女が荷馬車の牢屋で運ばれていく。

 いや、見世物なのだ。


 「……奴隷?」


 呟いた俺の言葉を拾ったのか、察したのか、彼女は悲しそうに目を伏せた。

 馬車はそのまま街道を進んで行った。

 ようやく観客と化していた人々も、ざわめきながらも日常に戻っていく。

 そんな中、俺は最後まで馬車の方を見ていた。

 見えなくなる前に、もう一度振り向いた『彼女』と目が合った気がした。


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