その9
毎日暑いですね.熱中症には気をつけてください.
「そろそろ『洗濯物』と云う単語を、
一、汚れるなどしてこれから洗濯する衣類など。
二、洗濯し終わってこれから乾燥させる衣類など。
三、洗濯・乾燥後のこれから畳む或いは畳まれて箪笥などに終われる前の衣類など。
の三つの意味に合わせてそれぞれ別の単語にすべきだと思うんだけど、君はどう思う?」
「……ん? それ全部洗濯物じゃないの?」
「……」
彼は一つ溜息を吐いた。
今日も今日とて、相も変わらず夏休み。
午前中の補習を終えて今日も私たち二人はこの〝野球研究会〟の部室に屯している。
先日クーラーを点けっぱなしで帰ってしまったから、今日も窓からでろでろと流れ出てくる湿気まみれの温い風だけがこの部屋の頼りである。全く頼りない。
二人して、机に広げたチェックペンがほぼ全文に引かれた教科書を放置して、赤い下敷きでぱたぱたと自身の顔面を扇ぐ。
私たちの汗でこの部屋の空気がしょっぱくなっている気がする――汗まみれである。
濡れ透け乙女が完成してしまっている。
「なんでこういう日、洗濯物はすぐ乾くのに乙女はこうしてベタベタになるんだろうね」
「発水するか撥水するかの違いじゃない?」
後者はわかるけれど前者はどゆこと? 水を発するってこと?
「そゆこと」
「てか『発水』なんて単語ないでしょ」
「……バレタ力?」
「どんな能力?!」
……実は私は国語は得意なのだ。特に熟語系は。
「それでも赤点だけどな」
返す言葉もない。
「……日本語って難しいよな」
と彼は話を帰る。
「いや、暑いし確かに帰りたいけども」
彼は話を変える。
「漢字一文字だけで複数意味をもつものが多くて――特に新聞だと短縮されるし――『米』と『印』の文字はぱっと見『どっちの意味?』ってなる」
「?」
「世界一短い手紙か」
「!」
……彼の話は新聞を読まない私にはわからない。
「……今日はもう帰ろうか」
「そうだね」
珍しく明日の予習なんてするものではなかった。頭皮が燃えるように熱い。
「知恵熱じゃない?」
「知ってる? 『知恵熱』ってね――」
「知ってる知ってる」
と、二人で楽しい掛け合いをしながら、私たちは施錠して、部室を後にした。
別れ際、
『試しに今日帰ったら新聞読んでみたら?』
とフタマ――彼のことだ――に言われたので、早速帰って読んでみることにした。
いつもお父さんしか読まないので、朝お父さんが朝刊を読んだ後はだいたいお父さんの書斎の机の上に置かれている。私はまだ仕事から帰宅していないお父さんの部屋に入り、机の上の新聞を開く。
『応援ありがとう! プリキュア新聞 ……』
……。
私はお父さんの部屋の扉をそっと閉じた。