その2
全開の続き,もとい前回の続きです.が,別に今回から読んでも構わない程度には繋がっていないです.
「えっ?! 『トリプルプレイ』って3Pのことじゃないのっ?!」
「もう君はスリーアウトどころか試合終了だよ」
「諦められちゃった!」
相変わらず、私たちは馬鹿みたいな会話をしながら、部室で昼食を摂っている。私も彼も父親製の弁当である。別に父子家庭ではないけれど。
今日も今日とて、夏休みなのに昼まで補習を受けて、その後〝野球研究会〟の部室で駄弁っている。
「……っていうか、君はそんなことも知らずに野球を見てたのかい?」
「……うん。あ、そう云えば中学校のとき、同級生と野球の話をしててちょっと違和感があったことがあったんだけど――」
ほわんほわんほわんほわんほわわわわーん
或る年の夏休み明けの九月一日のこと。
『ねえねえ、甲子園見た?』
『見た見た! 全試合見た!』
同級生女子の問いに私は答える。
『甲子園球場で、あの舞台で高校球児がトリプルプレイしちゃうとかもう大興奮で私叫んじゃったもん!』
うん……?
うほっ……?
『うん、私も大興奮だったよ!』
「――っていうことがあったんだよ」
「君、よくこれまで逮捕されずに生きてこれたな」
「そこまで酷くない!」
でもさ! 甲子園球場のあの大舞台で泥まみれになりながらガタイのいい高校男児が大観衆の中3Pとかそれはそれは大興奮だよ! 仕方がないよ!
「もう君は三重殺の刑だよ」
「むごい!」
「米粒を飛ばすな!」
彼は顔に付着した私の弁当を取っては捨て取っては捨て。
「……ところでさ」
と、彼は話を変える。
「もうすぐ夏の甲子園が始まるね」
あんまり変わってなかった。
「見に行きたいね」
高校球児たちが泥だらけになって大観衆の中で金属のように固いバットとボールをきゃっち!
「……もう君は銃殺刑だよ」
「ガチ!」
「……今日はもう帰ろうか」
「うん」
「君も暑さで頭がおかしくなってしまったみたいだし」
「ひどい!」
クーラーは先日の一件で使用禁止になってしまっているのであった。
「いや、いつもどおりか」
「もっとひどい!」
……確かに、暑さで頭がおかしくなってもしょうがないかもってくらい暑いのである。
よく高校球児はこんな暑さで炎天下の中スポーツできるよね。
――私たち二人は部室を出る。
「湿気がむわっと酷くてムワッヒド朝だよ……」
「何で君はそういう微妙なところは覚えてるんだ」
彼は呆れながらも私を褒める。
「別に褒めてはいないのだけれど」
ツンデレった。
「……」
彼は何も言い返さなかった。暗黙の了解である。
「どう答えてもダメじゃないか!」
「ところでさー」
廊下に響いた彼の怒号をスルーして、私は訊ねる。
「『トリプルプレイ』って実際どういう意味なの?」
彼は一瞬私をじっと睨んだ後、一つ溜息を吐いて、答えてくれる。
「……一度のプレイで一遍に三個のアウトを取ること、またはそのプレイのこと」
「えっ?! ……それってまさか!」
彼の顔が引き攣るのがわかる。
が。
私はつい、叫んでしまう。
「一回のプレイで三回なかだ」
人生で初めて男の人にアイアンクローされました。
どう見ても私のせいです。本当にありがとうございました。
「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」のパロディがわかったあなたには,この二人の仲の良さがわかるでしょう.