第1話 「男の昔話」
とあるサラリーマンの恋話を聞きながらそれを肴にして楽しむ常連とバーのマスター。それぞれに過去に忘れられない女性のことを話して夜は更けていく…。
皆さんには忘れられない恋愛ってありますか?
私にはどうしても忘れられない女の子がいます。
どこの学校にでも居るようなちょっと大人しめの文学少女でした。
気がつくといつも何かしらの本を楽しそうに読んでいたのを覚えています。
その頃、私は声を掛けるのが妙に照れ臭かった気がします。まぁ…高校生で思春期真っ盛りだったので。
何故、こんな昔の事を思い出したのかと言うと、仕事の関係で地元へと出張し久々に馴染みのバーで深酒が過ぎたからだと今は思い返します。
でなければ…流石に恥ずかし過ぎてね。
仕事の打ち合わせと接待を滞りなく済ませバーへと向かい、キープしていたウィスキーをゆったりと飲みつつ、久々に会うマスターや常連さんと話に華をさかせていたのだが…、話のネタにはお決まりの色恋沙汰。
マスターの意外な一面を垣間見たり、常連さんの何処か苦い初恋。
そんな話に耳を傾けつつ、何時も通りにタバコに火を点け呼吸をするように一服をしつつ、あまり自分の事を話さない私が皆に話すべき事を考えていたのです。
常連さんの話が終わり、若干しんみりした空気の中で私の番となりゆっくりと当時を思い出しながら話を始めました。
「当時って言うよりかは高校生の頃に忘れられない子がいたんです。
何処か野暮ったくて、気が弱いし、ドジも踏むし。でも何だか放っては置けないような…父性をくすぐられる子だったんですよ」
「へぇ、君はそんな子がタイプだった訳ね。前の彼女は年上、その前は年下…、節操がないねぇ」
と、マスターはタバコに火を点けて一服しながら何処か楽しそうに笑っている。
放っといてくださいよ、と私はマスターに切り返しつつ話を続けた。
「学生だからやっぱり部活に入って活動してたんですけどね、当時の私も今とあまり変わらなかったので愛想はないし、口数は少ないし、人見知りもしてたからみんなを一歩後ろで見てたんです。
未だにその性格は治ってないし、色々と不器用だから誤解も受けたし。
でも…、そんな私が思わず手を出して…いや、差し伸べざるを得ない切っ掛けを作ったのは紛れもなく彼女の行動だったと思うな」
「ドジっ子ねぇ…、君は端から見てると冷たい印象だけど、この街で育ってきたから義理人情に弱いでしょ?だから放っとけないしついつい気にかけるし、世話を焼く。…貧乏クジをよく引くのはそれがあるからかな?」
「実際にはどうだかわかんないよ。目の前で困ってたら勿論手は貸すけどね?まぁそんなこんなで色々と一緒にいる時間が増えてきて、さ。
恋愛感情なんて15、6の小僧にはまだまだ理解は出来なかったし、それが恋や好きだと認める事なんて絶対にしなかった。醒めてるというよりも恋愛に関する事は否定的だし、そんな感情はまやかしだって思ってた」
「なんでそんなに恋愛感情に否定的だったんだい?高校生なんて青春真っ盛り、普通の子なら好きという感情を肯定してその感情の赴くままに恋人をつくるんじゃないのかい?」
と今まで私の話を聞いていた、50歳代の常連さんは私に問い掛けてきた。
「もちろん、私だって彼女は欲しがったですよ?周りの同級生は彼女を作ろうと躍起してたし、あの子は美人だ、可愛いだって話もしてましたよ。
でも…どうしてもその一歩が踏み出せなかった。自分の価値観や周りの目が変わるのが…怖かったんだと思います」
御無沙汰しております。雨凪です。最近ようやく、お仕事が落ち着いてきましたので、リハビリがてらにポツポツと書いていきたく再びサイトにアクセスしました。
つたないお話ですが、一読していただければ幸いです。