第4話 マイペースな神々
「ちな、あれ見て」
「あれ?」
エルに言われるがままに後ろに振り返ると、何やら揉めているであろう誰かがこちらに近づいてきていた。
「何あれ」
ミルク色の髪の毛をした尋常じゃない程の美人と、〈眼鏡はかかさず装着!それが僕のポリシーです!〉系の美青年。
「あいつらが今から君の上司になる奴らだ」
……え。
て、ことはつまり。
「つまり、君のパラメータを破いた女神とその助手という事になるね」
「うえェえぇ!?」
まさかこんなにも早くご対面するとは思ってもいなかった。
そしてなんだこの只ならぬ空気は。
「女神の方がミュロ=オルガ。かなりの実力を持った女神だ。が、致命的な欠点がマイペースという点。
まあ、ちなが一番わかってるだろうケド問題アリだなあれは。
それから助手のティボー。ティボー=マニク。
彼はとにかく真面目な見習い神。良い点は欠点と紙一重って言うケド、正に彼の為にあるような言葉だ。
真面目すぎるが故のウザさってね」
「みんな外国人なの?」
そういえば、と思いついた事を聞いてみた。
エルやミュロという女神サマは髪の色から日本人ではないと判断できる。
なら黒髪のティボーは?名前から判断すると日本人離れしているケド、どう考えてもあれは日本人顔だ。
そしてなによりエルもミュロもティボーもみな、日本語ペラペーラなのだ。
「え?あぁ。俺らのセカイにはそんな種族が決められていない。
ここでは何ランクの神かに重視して判断されるからね。
なにしろ生まれつき神だからさ!」
キラーン、と爽快なBGMに合わせてキメ顔をするエルの顔面を思い切り殴る。
なにげに自慢しやがって。わたしの身にもなってみろよ、と。
「だから先生、もう少し自覚をですね?」
「ウザい。消えろメガネ」
「……先生。全国のメガネ信者に謝ってください。
でなければもうじき戦争が起こりますよ?てか、起こしますよ?
ご存知ありませんか?毎晩広場でメガネを拝む僕らのこと」
「死ね。厨二病め」
気がつけばミュロとティボーとの距離は1メートルと縮まっていた。
しかも女神サマであるミュロの機嫌が超悪い。
「ミュロ、ティボー。遅せェよ。大体なあ、お前らがミスしなければこんな事にならずに済んだのに」
そこにエルも加算する。
待ったストップ。ここで一番被害受けてるのわたしなんですけど。
そこ一番重要!
思いっきりスルーしてません?3人方。
そう心の中でショックを受けていたわたしにティボーが口を開く。
「君が、チナ=タテマツ?」
「……はっ?」
ああ、なるほど。このセカイでは立松茅愛ではなく、チナ=タテマツとなるのか。
我ながらの納得の遅さに呆れる。
「あ、ハイ。ちなだと思います」
「とにかく、ごめんなさい。うちの先生が、パラメータを破いたばっかりに――…」
「あー、もうイイですよ。なんか、わたし死んじゃったみたいなんで」
ちょ、なに言ってんの?わたし!
こんな簡単に許していいのか?いいや、許せない。
だって死んだんだよ?殺されちゃったんだよ?
……でもまぁ、なんかティボーが健気に思えてきた。そしてわたしは許してしまう。
「だーよーね!仕方ないよねー。って事でこれから宜しく」
………。
「ちょいちょい。軽過ぎやしません?ティボーさん。今の〈だーよーね!〉ってどういう事でしょう。
三途の川に溺れさせてあげましょうか」
そう詰め寄ると彼はプルプルと首を振り始めた。
自慢のメガネも白く曇り始めている。まぁ、なんとなく可哀想なので解放してやる。
「じゃ、ちなの事はお前ら二人に任せた」
「えっ?エル、は?」
「いろいろと仕事詰まっててさ。ま、パラメータについてはその二人がきっと、教えるだろうね」
な、なんなのさその妙に不安を誘うような言葉は。
肯定も反論もままならず、「じゃ」とだけ言うが早いがエルはまさに魔法にかかったかのようにポンっと消えた。
……消え、た。キエタ?消えた。
いつものわたしなら、いや、すぐさっきまでのわたしなら間違いなく叫んでいただろう。
だが、エルが神サマなのだとようやく納得した今ではそれも納得できる。
「じゃぁ、僕らも戻りますか」
しーん、と静まり返った空気に終止符を打つかのようにティボーが話を切り出した。
おそらくこれからわたしが暮らす事になるであろうパラメータを扱う所に帰るというのだろう。
それにコクリと頷き同意するとティボーは、只今絶賛不機嫌中女神サマを引きずりながら一歩一歩前に歩き出す。
かなりの距離にあるように見えたその場所は、ミュロが指先をクルリと回すと目の前に2階建て程の大きさの木で出来た、かなりメルヘンチックな建物が現れた。
「これも、魔法?」
恐る恐る聞いてみると、どうやらミュロの機嫌が悪いのは一時的なものですっかり機嫌はなおっていた。
が、ここで分かった事はミュロはものすごくフワフワしている。
髪の毛が、とか見た目が、とかじゃなくて勿論雰囲気が。だから聞いても聞いても「んー、たぶん!」としか答えない。
よくこれで女神サマになんてなれたな、とかなんとか思うけれど、不機嫌な時のミュロの様子といったらどんな物でも三途の川へ送り込んでやるぜ、的オーラが出ていたから恐らくは、いざという時だけ才能というか本能を発揮するタイプだろう。
女ってこわいね。




