第3話 死神オア妖精
「ヘルプミー。理解デキマセンガ。パラメータ?ヤブケタ?」
「まぁ、そういうことだからつまり」
そうエルが言いかけた所で、ようやくここがどこなのか理解する事が出来た。
そう。ここは、天国だ!
いや、楽園とかハーレムとかそういう系の天国じゃなくて、リアル天国。死んだ人が行く所!
その証拠にほら見るがいい!ふわふわと渦を巻く白い地面。ていうか雲。
その雲に貫通したボロボロの木の札。そこには黒のマジックペンで〈天国行きコチラ、地獄行きオチロ〉と書かれていた。
て、何この人種差別!地獄行きオチロって、ひどすぎだろいくらなんでも。
「君にここの存在を知ったまま地上で生活させる訳にはいかないという事。
もしこのパラメータの存在を地上の人間が知れば、どうなると思う?たちまち不正情報で溢れるだろう。
パラメータをつけるにあたって誤作動を起こすわけにはいかないからね。だから君に、ここに来て貰いたかったんだ」
「待って。来て貰いたかった=天国に来て貰いたかった。つまり、わたし死んだんだよね?
て、ことは生き返れないって事?」
「そういう事ー」
「ふざけんなよオォおォ!」
……もうヤダ。
なんでこんな事になった?わたし前世で相当悪い事した?
「う、うが……、た、たすけ――」
エルの胸ぐらを思いっきり掴んでいたせいで、エルを三途の川へ溺れさせる所だった。
あれ?待てよ。ていうことはエルって何者!?
この天国にいる訳だから死んだ人、もしくは死神。
「う、うえぇぇえ!?エルって死神だったの!?」
常識で考えて死んだ人が天国から地上へ降り立ち人を突き落とす事が出来るはずがない。
そしてわたしはエルに殺された。
となれば答えは一つ。エルは死神。
「へ?」
そんなエルはまるで呆れることもままならないとでも言いたげな間抜けズラをしていた。
それでもキレイな容姿に隠されてやがるから、恨みというよりも憎みがふつふつと湧き上がってくる。
「死神って、え?どっからそんな発想出てくんだよ」
「へ?」
逆に違う方の説明の方が難しい気がする。
もしかして天使とか、妖精とか。いやでも、人を殺すぐらいだから確実にそれは違う。
格がちがう、格が。
「じゃあ改めて、エル=モンヴェール。天界の最上級ランクに位置する神だ」
「カ、ミ?え……、えぇえぇェェえ!?」
エルの笑顔からポロリと飛び出たその単語に思わずわたしの目玉が飛び出しそうだ。
だって、神だよ?神。
神サマっていえば白ーい髭をボーボーに生やして雲のてっぺんに座ってそうじゃん!
そんなイメージじゃん!それが、ほんの19歳ぐらいの青年で、そして人を突き落とすようなそんな奴だったなんて信じられない。イメージガタ落ちです。そして軽くショックです。
「よくそう叫ばれるケドさ、軽くショック受けてるからね」
「あ……、神サマサマサマもですか」
「サマ多い」
仕方ないじゃんか!信じられないとはいえ神サマらしいんだよ!?
「まぁ神って言ってもそこら中に神なんてゴロゴロいるけどね。
一人でセカイを回すなんてそんなの超人だろ」
「ますますイメージ落ちたわ」
そして放心状態のまま、理解できないケド説明された事。
まずその一。
わたしは地上に帰れない。理由は死んだから。
とにかく単純な答え。そしてわたしのパラメータは結局修復できなかった。
その怠けた女神サマが破けたわたしのパラメータの上にコーヒーをこぼしたかなんかで、修復不可能と見捨てられたらしい。
つぎその二。
あまりにも理不尽だというわたしの訴えにようやく耳をかしてくれたエルによるとわたしは面接を免除されるらしい。が、その代わりに天国に行く訳でもなく地獄に行く訳でもなく神になれと。そうすれば自由に地上に行ける事も可能になる。そこでわたしが神になるため置かれる職場はパラメータを扱う資料室。つまりわたしの人生を180°変えた二人の神サマたちの部下になるという事。
「それもそれで結構複雑な心境」
「だろうね。可哀想に」
「同情しないでよ。泣きたくなるから」
元はといえば、今からわたしの上司となる神サマ方が悪いんだよ!
なんでわたしがこんな目に……。
「結局記憶は戻らないんだよね?」
「とりあえず俺が何とか修復してみるケド、期待は出来ない」
「そっか、」
絶望的すぎる。
もし普通に、自然な状況でこの場所に来れたなら「天国!?すげーすげー、すんげー!」なんてハシャゲるのだろうが、聞いた話によるとわたしはまだ17歳らしい。
4人家族で結構幸せな生活を送っていたとか、恋愛経験はほぼ無に等しいとかそんな話を聞くと余計にハシャグ気力が失せる。ありえないとしか言えないじゃないか。
「眠いだるい疲れた帰ろ」
「何言ってるんですか先生。元はといえば先生が悪いんですよ?せめてですね。
コーヒー撒くなとしつこいぐらいの僕の忠告聞いてくださいよ」
うなだれるわたしに向かって必死に慰めようとするエル。
そんな二人に近づく影が、うっすらと路地裏に反射されていた。