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第1話 破れた紙切れ



2653年   XX月XX日



「先生、またですか?」

「仕方ないじゃない。まちがえちゃったんだから」

「もう少し自覚をもってください」

「……わ、悪かったわね」


天界に近い所に位置する資料室。ここで行われていることを知る人間は、彼女を含め二人だけ。だからこそ、彼女たちは人間に神だと拝められてきた。


「このパラメータ表、一度破けば本人が本人じゃなくなるって、僕あれほど言いましたよね?」

「……へい」

「ふざけないでください。いくら僕に修復能力があるといえど、パラメータの消えた時間の記憶は残るんです。すなわち、先生の存在も僕の存在も地上の人間に知られるということですよ?

そうなれば天界で罰せられます。二度と天界へ帰れなくなりますよ?」



オニのような形相で詰め寄る青年。18歳に見えて実は2000歳だったりする。

そんな彼に対し「うるさい」だの「めんどー」だの「つかれたー」だのと正に火に油、生意気な口調をたたく彼女は、現代風ニートに見えて実は神サマだったりする。


「とりあえずこの件に関しては僕がなんとかしますから。

 先生はくれぐれも、パラメータ表を大切に扱ってください。いいですね?」

「へーい。……いやー、優秀な部下を持つって大事だねえ。楽々、ほんと幸せだわぁ」

「助手です」

「ああ、助手ね。ごめんごめん」



彼女たちの仕事はたった一つ。人間のパラメータを管理する事だ。

管理といっても、見守るのではなく、一人一人の今している行動を各パラメータに記入するという意味らしい。

例えば、地上でいうと履歴書のようなもの。

人間が地上で死を迎えると同時に自分のパラメータ表が渡される。

それを持って、天界のすごーく偉い人の面接を受け、合格ならばそのままウェルコム天界。

もしも不合格だと言われた場合はそのまま、まっさかさま。人間の言う「天国と地獄制度」というものだ。


そして重要なものがパラメータ表。もしこれが、生きている間に破けでもすれば、そのパラメータの持ち主の過去も未来もそして今でさえも文字通り白紙になる。だがこれは、破けている間のものでなんとか修復することが可能なら、その時の記憶は残るがいつも通りに戻ることができるのだ。



「ねえ、直った?」

「まだですね。最悪でも1日はかかります」


はあー、と偶然にも同じタイミングで重なり合うため息にまたため息が出た。




そしてこの資料室から3556423km下。









「嘘……、でしょ」


ありえない。17,18歳ぐらいの少女が、呆然とそう呟いた。彼女の視界の先にあるものは空っぽの写真立て。

昨日までは、いや1分前までは確かにそこに写真があったはずだ。

これは夢かと、そう疑ってしまうようなポルターガイスト現象。今すぐにでも叫びたい所だが、あいにく声はあたりの空気を空回りするだけだ。


――わたしは、誰?


小説なんかでよくある展開。

いわゆる記憶喪失って奴?いや、でも自分で自覚しているぐらいだからそうではないと思う。

だとしても、何も思い出せない。頭の中の何かがすごい分厚い壁に塞がれたみたいに何も出てこない。

せめて名前だけでも分ればなぁ。……とは思っても、それすら分からない。刻々とまるで自分に向かって迫ってくるような針の音だけが時間の流れを告げていた。

これは、夢?

そう考えることが一番自然だ。だが、人差し指と親指にはさまれた頬の痛みからその可能性はイヤでも消える。

と、なるとこれは現実。うん、それしかないよね。

とりあえず自分は誰なのか知りたいものだ。

自分の事を知っている人こそ、あいにく分からない。家族の事すら分からないのだから。

自分の事について知っている、何か。自分の事について書かれている紙……。

浮かんでくるのはたった一つの答え。母子手帳だっ…!


ダダダ、と階段をかけおりそれがしまわれているであろう場所を探す。その家は広い訳でもなくむしろせまい方だったのであの大きなタンスを見つけることは簡単だった。

そう、そこまでは。


さて、これはどういうことだろう。わたしにどう解釈しろと?

夢か本物のポルターガイスト現象か。はたまた現実か。

もしこれを現実だと言う奴がいるならば、わたしは間違いなくそいつの正気を疑うかもしれない。

バタ、と音をたててわたしの手からすべりおちたのは白紙の母子手帳。

そこには名前も、誕生日も、なに一つ書かれていない文字通りの白紙だった。



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