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第六話「7.22特殊部隊」

その日はとんでもない雨だった。

こんな日に出掛けるものは滅多にいない。

望むことなら出掛けたくない。

しかし、学生という身分である。夏秋(かしゅう)はため息をつきながら外に出た。

自宅から高校まで徒歩十分。

とても近いのだが、それでもこの雨だ。ぬれずにたどりつくのは無理だろう。

傘を差しながら道を歩く。なるべく濡れないように静かにだ。その時だった。

「夏秋ぅぅう!止まれぇぇえ!」

後ろから大声が聞こえたかと思うと、夏秋のもとに一人の少女が飛び込む。

その瞬間、夏秋は前に体勢を崩した。

そこで踏みとどまれればよかったのだが、後ろから体重がかかり結局転ぶ。

夏秋に飛び込んだ張本人(そら)は大きな笑い声をあげた。

「ぶはっ!間抜け~夏秋、超間抜け面~」

「誰のせいだっっっ!」

夏秋は起き上がろうと手を地面につく。しかし、背に空が乗っているため起き上がれない。

「うわぁ、びしょ濡れじゃないか!」

「君のせいだ!てか自分だけ何でちゃっかり雨合羽着て…最悪じゃん!」

「最悪は人聞きの悪い…何でって、家を出るときからお前に飛び込んでいこうと思ってたからだよ。」

「やっぱり最悪じゃねーか!てか、さっさとよけろ!邪魔だ!」

「弱い犬ほどよく吠える~」

「今は関係ない!」

空は鼻歌を歌いながら夏秋の上をよける。夏秋は立ち上がった。

「で?どうした?」

「んん?なんで?」

「偉い上機嫌じゃないか。君にしては珍しい。話しかけてくるのも珍しい。」

空はそこで満面の笑み。よほど良い事があったらしい。

「聞いてくれるか!」

「…やっぱ遠慮しとく。他の人に話せ。」

その瞬間夏秋の背中に凄い衝撃が走った。夏秋はまた倒れこむ。

「君は何回俺を倒せば気が済む!もう、ビショビショじゃねえか!」

「お前が話を聞かないのが悪い。てかもう一回倒れたところで変わんねえよバーカ。」

「だから、誰のせいだっ!」

しばらくそんな言い合いが続き、空はやっと本題に入った。

「あのな、今日の朝連絡したんだぁ~」

「………誰に?」

「あの人に。」

「だからその人が分かんねえから質問してんだよ。」

「……せ、仙希さんにさ…」

空は顔を赤くして言う。恋愛に全くと言っていいほど免疫がないのだ。

「ふ~ん、んで?」

「そう、そこから!あたし前にな、あの人に暇なときに電話しても良いって言われたんだよ!だから連絡したんだけどな。んで、今日暇だって言ったら…」

「おい、ちょっと待て。」

「なんだよ。」

「今日学校。君、日直。」

「知るか。学校なんてサボるためにあるって私の中の天使が言ってた。」

夏秋はため息をつきながら話の続きをうながす。空は話を再開した。

「それでさ、今日暇だって言ったら”じゃあこの前のお礼するよ。”だってさ!うわっ、嬉しっ!」

空の顔は相変わらず笑顔だ。夏秋は内心少し驚いていた。

空がこんなに笑顔で夏秋と話すことなどここ最近全くなかった。

それが、恋一つでここまで変わってしまったのだ。

――恋ってスゲーな…

そこで空がいきなり真顔になる。夏秋は無意識に姿勢を正した。

「な、なんだよ。」

「夏秋……お前も来い。」

「は!?なんでだよ!」

「仙希さんが言ってた。何か玄太郎って人がお前に用事あるらしいよ。」

「いやいや、君が今日、日直サボるってったら俺がやんなきゃいけないし…休むわけには…」

そこで空は思い切りそばにあった電柱を殴る。ボーンと音が響いた。

「来いって言ってんだ!お前に選択肢は一つしかないんだよ!あたしの言うとおりにするってことしかな!」

「独裁者かっ!」

雨の降り方が少し強まった。




夏秋の家からバスで三十分。そこに「7.22特殊部隊本部」はあった。

本部と言ってもただのアパートの一室。立派なものではない。

登校中、空に体当たりされ、その上無理やり引っ張られてきた夏秋は重いため息をつく。

「何ため息ついてんだよ。幸せが逃げてくぞ。」

「いや、君のせいで朝から不幸まっしぐらだし…」

そんな夏秋の足に空は思い切り蹴りを入れる。夏秋は「痛っ!」と声を上げた。

「何だよ夏秋。お前そんなにドMキャラだっけ?」

「は?今も昔もそんなんじゃない。てか君がドSになりつつあるだけだろ。」

そんな会話をしていた二人のもとに、一羽の鳩が飛んできた。

その鳩は空の頭の上に着地する。

「いやっ!何っ!」

空が声を上げる。そこに仙希(せんき)が現れた。

「こんにちは。二人とも。」

「おはよっす!…てか、この鳩なんですかぁ!」

空は混乱している。それを見ていた夏秋は隣で笑っていた。

「あ、別に慌てなくても良い。そいつ、俺の伝言係だから。」

仙希はそう言いにこりと笑う。そして付け足した。

「そいつは美人にしかなつかない生意気な奴なんだ。空ちゃんは逆に喜んだほうが良いかもよ。」

それで空は少し落ち着いたものの、まだ意味が分からないといった顔をしていた。

夏秋は相変わらず笑いをこらえている。

「まあいいや。外にいても濡れるだけだろ。入って。」

仙希はアパートの一室を指差した。




空、夏秋、仙希の順に部屋に入る。

夏秋が辺りを見回していると、後ろから仙希がコソリと耳打ちしてきた。

「残念だったな、お前に懐かなくて。」

「…!」

夏秋は仙希をはたこうとする。仙希はそれをするりと交わして、夏秋に笑顔を向けた。

「じゃあ、俺はあんたの連れの相手をさしてもらう。あんたはそっちの部屋にいる真面目くさった人間と話してろよ。」

そのまま仙希は部屋の奥に行ってしまった。夏秋は仕方なく仙希が言った部屋に入る。

そこには数十人の人がいた。その中の一人が夏秋に気付き手招きする。

「夏秋か?こっちだ、来い。」

言われるままにそちらに行く。夏秋を呼んだのは、仙希の言った通り真面目そうな男だった。

「あの…用事って?」

「まず自己紹介からだ。俺は玄太郎(げんたろう)、7.22特殊部隊の隊長だ。好きな物は握り飯。手前は?」

――ここの自己紹介では好きな物は必須事項なのか…?

夏秋はそんな疑問を抱きながらも、軽く頭を下げた。

「俺は夏秋です。えっと…好きな物は…」

「あ、いいよ。それは面接のときに聞く。」

「面接?何のですか?」

「あれ?手前って入隊するんじゃなかったか?ここに。」

そう言い玄太郎は人差し指で机をたたいた。部隊のことを表しているのだろう。

「え、あ、はい。そのつもりです。」

「若いのに感心だなぁ、おい。」

そう言い玄太郎はにやりと笑った。しかし、すぐ真顔に戻り夏秋の目を見据える。

「いいのか、本当に。」

「…何が…ですか?」

「7.22特殊部隊に入隊する度胸はあるのかって聞いてんだよ。」

「はい。…というか、部隊では特に何をしているんですか?」

夏秋の問いに玄太郎の目が見開かれる。そしていきなり立ち上がり、玄太郎は一人の女を指差した。

加代(かよ)、手前!説明してやれって言っただろうが!」

「そうだったかしらぁ~。でもぉ、副隊長さんが説明しないほうが面白いって言ったしぃ。」

女は夏秋に軽く手を振る。加代だった。

「手前、仙希この野郎っ!いっぺん死ねっ!」

玄太郎は大声を上げる。すると、部屋のドアが開かれ仙希がひょっこり顔を出した。

「近所迷惑。客人にも迷惑。俺にも迷惑。迷惑三昧隊長が。バーカ。」

玄太郎は仙希に向かって灰皿を投げる。仙希はそれを受け止めた。

「あいにく客人も俺も煙草なんか吸わねえよ。」

そのままドアは閉められる。玄太郎はイラついたように座った。

「じゃあ、なんでだ夏秋。」

「え…」

「だから、何で内容も知らない部隊に入ろうとした!」

「十三年前の事件の真実が知りたかったから…」

夏秋の言葉に玄太郎は黙って耳を傾ける。夏秋は続けた。

「俺、十三年前の事件で母さんが殺されて…だから真実を知りたかったんです。」

夏秋はそこでうつむく。言いたいことは言ったつもりだ。

「夏秋。よく聞いておけ。」

玄太郎は口を開く。

「7.22特殊部隊ってのはよ、まさにその十三年前の事件を解決するためにできた部隊なんだ。

 ここの隊員達はもともと警察だった。しかし、警察はその事件についての取り調べをやめただろう?

 それに反発したらよぉ、クビだぜ?納得いかねえよ。そんな奴らが集まって結成されたんだ。

 未解決事件なんてあっちゃいけねえ。なおさらその事件が大量虐殺の事件だ。

 俺たちはその事件の犯人と、警察が取り調べをやめた事実、この二つを暴きてえんだ。」

夏秋は息をのむ。そこで玄太郎はため息をついた。

「十三年前の事件について詳しく知っているか?」

「あまり詳しいことまでは…」

「じゃあ、仙希に聞くといい。あいつはいろいろ知ってる。まあ、それまで入隊は待て。お遊びじゃねえんだ。お前がそういうつもりじゃないのは分かってるつもりだが、なんせ命がかかってるんだよ。」

玄太郎は一息つく。

夏秋は考えていた。部隊のこと、十三年前に出会った謎の男のこと…

ふと、ここで夏秋の頭に一つの疑問が浮かんだ。

「何で…仙希はこの部隊にいるんですか?」

夏秋の問いに玄太郎は眉をひそめる。

「何でそんなこと聞く。」

「だって、この部隊にいるのは元警察って言ったじゃないですか。だとしたらおかしい。仙希は今二十歳だ。十三年前はまだ七歳のはずですけど…途中から入隊してきたんですか?」

周りの空気がサワリと動いた。隊員たちがスッとこちらを見る。

「…仙希はよぉ、この部隊が出来上がったときから入りたいと騒いでやがったんだ。」

「それって何年前ですか?」

「警察が捜査を打ち切った年だから…十年前だったな。」

「十年前!」

夏秋は声を上げる。だとすると、当時仙希は十歳だ。

「小学生を部隊に入れるわけにはいかねえだろ?だから断った。そしたらあいつ、中学校卒業してすぐにまたきやがったんだ。生意気なガキだったよ、昔から…」

「何で…」

夏秋は呟く。夏秋自身、犯人を捕まえてやりたいと小学生の時から思っていた。

だからと言って、小学生の内からこの部隊に入りたいとは言わなかっただろう。

もし思ったとしても、断られたらそれで諦めていたと思う。

しかし、仙希は違ったらしい。

「何でぇ?こっちが聞きてえ。あの野郎入隊の理由については全く喋りやがらねえ。そのくせ、副隊長まで上り詰めやがった。本当にむかつく。」

玄太郎は舌打ちをして、外を睨んだ。

さて、夏秋が本部に来ました。

でも入隊はいったんお預け。

仙希がなんで入隊したのかはそのうち…

では、次回もよろしくお願いいたします!

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