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第二話「第一ビルの屋上にて」

男は森を走っていた。

左腕からは大量に血が流れ出る。

このままにしておけば間違いなく大量出血となり死を迎えることになるだろう。

しかし男は走っていた。

――――まいたか…

男は座りこんだ。

男はあるものから逃げていた。

そのあるものに捕まれば、自分の命は無事ではいられない…

男はそれを自覚していた。

捕まって死ぬよりだったら逃げてやる。

その思いが男に森の中を走らせた。

しかしその、あるものから逃げ切ったようだ。

周りには静かな森が広がっている。

男はため息をついた。

逃げ切ったとはいえ、左腕から流れ出る血を何とかしなければ無事ではいられない。

とりあえず、服を細長く破き思い切り腕を締め付ける。

とても簡単な止血だ。しかし処置がこれで正しいのかは男も分からない。

どうしようかと男は顔を上げた。

すると、男の目の前に女が一人立っていた。

男は飛び退く。

「誰だ…」

「ふふ…誰だと思う?」

女はいたずらっぽい笑みを浮かべる。

「答えろ…!」

「もう、少しは考えなさいよ。…あなた、その腕大丈夫かしら?」

女はいきなり心配そうな顔になり男の問いかけた。

その瞬間男は倒れこむ。血を流しすぎた。貧血だ。

「やっぱり無理してたのねぇ…家に連れてってあげるわ。手当したげるよ。」

女は男を抱えた。見た目以上に力があるようだ。

男はそれに抵抗したが、その抵抗むなしく女に連れてかれる。

「あんまり動かないでちょうだい。運びにくいから。」

女は男を抱え、森の奥へと姿を消した。




夏秋(かしゅう)は第一ビルの屋上へと向かい階段を上っていた。

エレベーターを使えばいいのだが、あいにく故障中だったためだ。

(そら)は駆け足で階段を上っている。そのペースは少しも落ちない。

夏秋は感心していた。なかなか、駆け足で階段を上り続けれる人はいない。

夏秋が住む町には大きなビルが五つ立ち並んでいる。

そのビル名前はない。だから町の人々は第一ビルとかと呼んでいた。

このビルは主にマンションとして活用されていた。

しかし第五ビルだけは会社などが入っている。

夏秋は第一ビルの階段をのぼりながらため息をついた。

夏秋自身体力がないわけではないのだが、さすがに十階まであるビルを上りきるのは疲れる。

――まったく、なんで第一ビルの屋上で待ち合わせなんだ…

夏秋はもう一度ため息をついた。

屋上につくと空が腕組みをして夏秋を見下ろした。

実際、空に夏秋を見下ろせるほどの背丈はない。しかし、目つきだけは見下ろしていた。

「遅っ!体力もないのかよ。」

「悪かったな、体力無限ループめ。」

「何とでも言いな~」

屋上に顔を出す。しかしそこには人の姿はなかった。

夏秋は空を睨む。

「ここで待ち合わせ場所間違ったとかは禁止だけど?」

「言わねえよ!確かに第一ビルの屋上って言ったんだ!あの人は!」

「でもいない。…………からかわれたか…?」

「マジかよ…」

二人そろってため息をつく。

その時、後ろから拍手が聞こえた。

振り向くと一人の男が立っていた。その男はにこやかに拍手をしている。

空が「あっ…」と声を上げた。きっとその男が夏秋を呼び出した人物だろう。

男は口を開く。

「さすがだな、二人とも体力がある。息切れもほとんどしてないみたいだし。」

「…君か?俺を呼び出したってのは。」

夏秋の問いかけに男はうなずいた。

「正解。あ、自分の名前は仙希(せんき)という。よろしく。」

挨拶をした男は目にかかった髪をはらいよけた。

―――なるほど、空が一目ぼれするだけはある…

夏秋は目を細める。

仙希と名乗った男は整った顔立ちをしていた。

男前というよりは、美人と言った方がしっくりくる顔立ちだ。

年齢はきっと二十歳くらいだろう。

短めに切られた髪を仙希は邪魔そうにはらいのけた。

「えっと…空さんだったね。少し席を外してもらえるか?」

仙希のいきなりの要望に空はぽかんとした。

「え?……は、はい…」

空は目を伏せる。どうしてだよ、とでも言いたそうだ。

それを知ってか知らずか仙希はにこりと笑った。

「悪いね、空さん。夏秋君と二人だけでお話がしたいんだよ。あ、伝言を伝えてくれたお礼はするつもりだよ?だから、ちょっと外で待っててください。」

空はそれを聞きぴゃっと顔を上げる。目がきらきらしていた。

「はっはい!分かった!待ってる!」

「うん、どうも。それじゃあ後で。」

空は嬉しそうにその場を立ち去った。屋上には夏秋と仙希だけが取り残される。

夏秋はぶっきらぼうに口を開いた。

「…で?」

「は?」

「だから、下手に誠実そうな人を演じようとしてちょっと空回りしてた君は俺に何の用?」

仙希はふっと吹きだした。

「ばれてたか?演技ってなかなか難しいものなんだよな。分かるか?」

「さあ、知らない。てか君、誰?用って何?」

「何だと思うんだよ、あんたは。当ててみな。」

さっきとは似ても似つかぬ言葉使いだ。夏秋は半分感心していた。

「用なんて俺には予想つかない。」

「だろうな。あんたにゃ予想なんてできないだろうよ。」

仙希はからかっているような口調で言う。夏秋はイラつき軽く地面を蹴った。

「じゃあ、聞くな。だから、用って何?」

夏秋がもう一度聞くと、仙希は夏秋に近付いた。

そしていきなり夏秋の服をめくり上げる。

あらわになった夏秋の肌には大きなやけどの跡がくっきりと残っていた。

「なっ…!何すんだ!」

「俺はこの火傷について聞きたい。」

仙希はやけどの跡を指差す。夏秋は思い切り体をひねり仙希から離れた。

「君さ…人の服いきなりめくり上げるとかどういう神経してるわけ?おかしいんじゃねえの?」

「おかしい?俺が?…まあ、否定はできない…」

仙希はふふっと笑った。そのしぐさがいちいち夏秋の気に障る。

「俺はさ、とにかくあんたのその火傷について聞きたいわけだ。教えてくれるか?」

夏秋は仙希を睨む。そして口を開いた。

「君の正体がわからない。ちゃんと説明して。」

「そっか。…分かった。」

仙希は服のポケットから手帳らしきものを取出し、それを開いて夏秋に見せる。

その手帳には仙希の顔写真とある紋章がついていた。

「この紋章…何か分かるだろ?」

「………警察の物じゃないみたいだ…分からない。」

仙希はわざとらしくため息をついた。

「最近の若者ってのは嫌だねぇ…まあ、俺も若いけど。」

夏秋は仙希をより一層強くにらむ。仙希はふふっと笑った。

「俺は仙希。7.22特殊部隊の隊員だ。」

そう言って仙希はにこりと笑った。


さて、仙希が登場しました。

7.22特殊部隊の隊員さんです。

その特殊部隊ってなによ。そう思ったあなた!

次回まで内緒です(笑)

それでは次回もよろしくお願いします!

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