第二部 十九章
山を自転車で走り抜けていた。愁が自転車を漕ぎ、健太郎がその後ろに乗っていた。木々の隙間から日が漏れ、二人にあたった。愁は神霧村に向かっていた。暫く帰っていなかった。暫くと言っても全く帰っていないわけではない。数カ月ぶりと言うだけの話だ。だた、村に帰る回数は多くはなかった。愁は村を出てもう八年は経つ。その八年、いや、あの事件以来全て空白に等しかった。恋をしたわけでもなく、友達が出来たわけでもない。いや、友達は一度できた。でも、すぐ喧嘩して会わなくなった。愁は何かを得るために八年前に村を出た。だがその八年は前以上に空白に等しく、何もない時間が過ぎていってしまった。一つ変化があるとしたら、小説家としてデビューしたことだ。それも、自分自身の苦しみを逃れるだけのことだ。健太郎と出会って愁は何かが変わる予感がした。その根拠は何もない。単なる直感だ。
愁と健太郎は山道を自転車で走っていた。愁は懸命にペダルを漕ぎ、健太郎は後ろに座っていた。「愁、後どのぐらいで着くんですか?」健太郎は後ろから声を張り上げていった。「アン?どのくらい?まだまだー。ちょっと敬語も止めてくれ。僕は敬語が嫌いなんだ」愁は健太郎の声が風に靡いてよく聞こえなかったが、微かに聞こえた声を頭で整理して答えた。風は靡いた。自転車を漕ぐ足は止まることはなかった。
霧のない日も珍しい。この日は朝から霧は現れなかった。神霧村の晴天は、あまり見慣れない鷹や鷲が現れる。
村人は皆広場に集まった。綺麗な広場はロータリーとなっている。その数多くいる人々の中に橘恵子の姿、古希ガン太に静江、芳井秀夫、そして竹中直紀の姿もあった。皆この日を待ち望んでいた。そのロータリーの周りにはまだシャッターの閉まっている真新しい商店街となる店が立ち並んでいた。「えーテステス。あっあ。ウォッホン!」ロータリーの周りにある電柱に吊られているスピーカーから男の声がした。すると前方にあるステージに、男がマイクを持って現れた。「みなさん、お待たせしました。村長の浅倉唯です」その男は唯の姿だった。少し皺を寄せ、頭はハゲていた。タキシード姿で現れる。唯は天高く手を掲げると村人は歓声とともに拍手で唯を迎えた。「霧が無く、今日は晴天です。山がこんなに綺麗に見えたことが、嘗てあったでしょうか。まるで空の野獣が私たちの歓声に恐れを為して、近づけないでいるようです。今日は何て素晴らしい日でしょう」ステージの後ろから、突然響き渡るうねり声がした。唯が後ろを振り帰ると、赤い屋根の大きな建物が立っており、その建物の前に赤いテープが引かれていた。神霧村駅と書かれている看板が屋根に掲げられていて、その奥から大きなうねり声と黒い煙が黙々と浮かび上がっていた。「ほら、みなさん。あの、吠え上がるような声が聞こえるでしょうか。静かな村に燃え上がるような魂を宿らせて、皆の希望を進めましょう。この村にもっと人を集めるのです。あの鉄の固まりに乗せて」唯は手をステージの後ろにある赤い屋根の家、神霧村駅を差すと、その奥から黒い煙が尖らせて汽笛が大きく鳴り響いた。
愁は素早くペダルを漕いでいた。樹木の影が二人の体に泳いだ。その時、遠くから汽笛の鳴り響く声と、黙々とした黒い煙が木々のは狭間から顔を覗かせた。愁は思わずペダルを漕ぐのを止めた。自転車は徐々にスピードは落ちていったが、道に沿って進んでいた。「どうした?」健太郎は言った。「いや、今、汽笛が聞こえた」愁が言った。「汽笛?」うねるような声が森に鳴り響いた。「ホントだ。汽笛だ。でも何で?」健太郎は言った。「今日、村に鉄道が開通するんだ」愁が言った。「鉄道?」健太郎が言うと愁は頷き「行くぞ!」そう言って、またペダルを踏み込んで自転車を動かした。
自転車のスピードは山が下りに差し掛かっているせいか徐々に上がっていった。「愁?もうちょっとスピードを落とせないかな」後ろに乗っている健太郎は、そのスピードの速さから声を震わせて言った。「えっ?」愁は健太郎の声が風に靡かれて、よく聞こえなかった。「もぉ・・・もぉ〜ちょっと・・・スピード・・・」声が震えてそれ以上の言葉はでなかった。健太郎は恐怖のあまり、愁にしがみついた。愁はブレーキを握った。だが、自転車のスピードは落ちていくどころか、増していった。愁は更にブレーキを強く握った。「自転車・・・止めて・・・止めて・・・」健太郎は愁にしがみつきながら、その言葉を唱え続けた。「いや・・・あの・・・ブレーキが・・・」愁は何度も何度もブレーキを握っていた。健太郎は呪文を唱えるようにずっと口ごもって同じ言葉を繰り返していた。自転車は段々と安定しなくなっていた。「誰か・・・助けて・・・」愁から出た言葉だった。目を丸くし、声が震えていた。ブレーキを何度も握っている。「ブレーキが壊れた・・・誰か・・・誰か・・・神様・・・たすけて・・・」ガタガタと自転車も揺れ、愁の体も揺れた。「ワァー!」二人の悲鳴が山に木霊して、自転車はもの凄いスピードで下っていった。
「え〜、皆様お待たせしました。いよいよ開通いたします。この駅に貼られたテープを切るのは、わたくし浅倉唯ともう一人、亡き父の意志を受け継ぎ、この計画にも積極的に取り組んで協力してくれた橘亨さんの息子、橘愁さんでーす」唯は片手を高々と掲げた。だが、愁は出てこなかった。「橘愁さん?」唯はまたマイクで愁の名を呼んで現れるのを待った。<何やってるんだ!>本当は叫びたいほどだった。自分がみんなの恥をかく。唯の村長としてのプライドだった。「シュウ?」穏やかに、また名を呼んだ。村人はざわめき始めた。唯は泣きたいほどだった。「シュウ・・・」力無くまた名を呼んだ。愁はその場にいるわけはなかった。まだ松永健太郎と二人、自転車に乗って神霧村に向かっている途中なのだ。また、二人も自転車のブレーキが利かなくなり、その行方は自転車に身を委ねていた。
「愁は?」村人の群衆の中にいるガン太が芳井に言った。「さあ、村の何処かにいるんじゃなぁい?ほら、愁はかくれんぼ好きだから」芳井はチョコ棒を銜えながら興味なさそうに言った。ガン太は呆れかえり、竹中を見た。竹中はタバコを銜え、首を傾げて苦笑した。そしてまたガン太はステージに体を向けた。まだ唯は迷っているようだった。この後の段取りを考えられなかった。愁がまだ村に来ていないとは考えもしなかった。村人のざわめきは止まらなかった。<どうしよう・・・>唯の頭の中は真っ白だった。
「彼奴何やってんだ?」群衆の中のガン太は唯の姿に呆れて言った。その時、騒ぎ喚く声が、群衆の後ろから聞こえた。まず、後ろを振り返ったのは竹中だった。その姿にガン太が振り向き、側にいた恵子と静江も振り向いて、最後に芳井も振り向いた。群衆は皆後ろを振り向いた。その姿に唯も気づき、俯いていた顔を上げた。二人が乗った自転車が村人の群に、もの凄いスピードで向かっていた。村人はざわめいた。「シュウちゃん?」静江が言った。それは紛れもなく愁と健太郎の姿だった。
「退いて、退いて、退いてー!」愁は懸命に叫んだ。「ああ、お母さん、助けてください。僕はこれから良い子にしますから・・・」健太郎は口の中に籠もって、呪文を唱えるように言っていた。二人の乗った自転車は村人の群に向かい、村人は目を丸くしてその驚きを隠せなかったが、自転車が突っ込んでくる直前に村人は皆二手に分かれて間に道をつくり、二人が乗った自転車は村人の目の前を通過していった。そしてステージの横を通り、駅前に張られたテープの前に立っている浅倉唯に向かった。また、唯も立ち往生してドギマギしていたが、接触する瞬間に何とか避け、二人の乗った自転車はテープを切り、バランスを失いつつも大声で喚きながら駅に突っ込み、狭い改札を通って黒く堅い鉄道に当たり、大きな音を立ててそのまま二人は自転車とともに倒れた。そして汽笛は黒い煙とともに放たれた。
その瞬間、村人は一瞬の驚きと、一瞬の緊迫感と、一瞬の静けさが襲ったが、一人が我に返り手を叩き始めた。それが徐々にみんなが手を叩き始めて一人が大声で言った。「みんなー、乗り込めー!」そのかけ声とともに、村人は吠え叫んで駅に走り向かった。誰もがそれを鉄道開通のパフォーマンスと思った。一人の村の青年は唯の前に来て言った。「唯村長、大変素晴らしい演出でした」唯は苦笑しつつも「あ、ああ」誇らしげに青年に返事をし、青年は笑顔で唯の手を取って握手を求めると駅に走っていった。
愁と健太郎は目を丸くして倒れたままだった。村人は二人の姿を尻目にかけず、汽車に乗り込んだ。「シュウ」女の声がした。愁は倒れたまま目だけがその言葉が聞こえた方を見た。そこには恵子が立っていた。「かあさん・・・」愁は言った。恵子は手を差し伸べた。愁はその手を取って、上半身を起こした。「早く乗りなさい。もう汽車は出発するわよ」優しい口調でいうと、恵子は汽車に乗り込んだ。その後ろにいた静江とガン太も乗り込み、竹中も乗り込んで、最後に芳井が乗り込もうとしたとき、愁の姿を見て口を開いた。「シュウちゃんすごいよ。さっきのパフォーマンス。今度教えてね」そう言うと汽車に乗った。「シュウ〜、シュウ〜」駅の改札からホームへ唯が走って来て、愁の前で足を止めた。「すごいよ!本当にすごい。いつあんな演出を思いついたの?ずるいよ、どうして僕に教えてくれなかったんだ。段取りに困っちゃったじゃない。でもみんな喜んでた」唯は笑顔で言った。「いつあんな危険なパフォーマンスを覚えたの?あ、分かった。隣村に今サーカスが来てる。そのサーカスでも見た?」すると唯は愁の後ろで倒れている健太郎の姿に気づいた。「サーカス団の人?」指を指して言うと、後ろから途方もないほどの汽笛がうねりを上げた。「あ、出発するぞ」唯は一人で話、一人で納得したら慌てて汽車に乗り込んだ。「おい!健太郎」愁が呼んだ。「ん?」健太郎は上半身を起こした。「おまえはピエロか?俺達はトムとジェリーとでも組むか?」そう言うと、立ち上がって汽車に乗った。「ん?ん?」健太郎は何も理解できないまま、立ち上がって汽車に乗った。汽笛はうねりを上げた。すると汽車は蒸気の音と共に徐々に徐々に進んでいった。
辺りは暗くなっていた。月は綺麗に輝いている。村役場の一郭の明かりのついた部屋から、賑やかな声が聞こえてきた。
テーブルを囲んで、愁と竹中とガン太と芳井はポーカーゲームをしていた。健太郎は愁の隣に座って一緒に戦っていた。
「よ〜しよし。いいカードだ」
カードを一枚引いた芳井が言った。
「ばか!俺の方が勝っている」
ガン太は自信満々に言った。
「ガン太、自信ありそうだな。よし!賭けるか?」
「もう賭けてる」
ガン太がそう言うと、芳井は縮こまってカードを睨みつけた。
「健太郎君は、仕事何してるの?」
タバコを銜えながら竹中が言った。
「そうだよ愁。おまえ名前だけ紹介して、他何も言わないんだもん」
ガン太が言った。
「分かった、分かりました。松永健太郎君は、僕の、担当の編集の人です」
愁は笑顔で言うと、隣にいた健太郎も笑みを浮かべて頭を下げた。
「何だ、サーカス団の人だと思った」
唯が台所からタキシードにエプロン姿で、手にはピラフを持って来た。
「はい、伝説のピラフ」
健太郎と愁の前に、ピラフとビールの入ったジョッキを置いた。
「伝説?」
愁が言った。
「そう、伝説。何かそう言うネーミングの方がかっこよくない?」
「そう言う問題か?」
ガン太が言った。
「そう言う問題!」
唯がガン太にそういい飛ばすと、ガン太は苦笑して愁を見た。そして唯は台所に戻った。
「愁ちゃんも偉くなったんだ。何か遠い存在に感じるね」
芳井がカードを睨みつけながら、独り言のように言った。愁は目の前にあるビールを飲んだ。
「健太郎も飲めよ」
愁が言った。
「すんません」
健太郎は目の前のジョッキを持ち上げて、みんなに頭を下げてビールを旨そうに飲み干した。
「うんめ〜」
健太郎の一言だった。本当に美味しそうだった。
「どんな物語を書くんだ?」
竹中が愁に聞いた。
「う〜んとね、この前連載が終わったんだけど、この前のは恋愛。これから書くのも恋愛。これからの物語はね、詩人の物語なの。ローカル電車で旅をする詩人が恋に落ちるんだ。だけど、その恋は不倫の恋なんだ。美しい景色に、綺麗な詩に包まれたような物語だよ」
「愁の物語はおもしろいです。この前の物語も最高だった」
健太郎が言った。
「あ、それ聞きた〜い」
唯がそう言いながら台所から戻っていた。手にはお盆、他のみんなのピラフとビールを持っていた。そしてそれぞれの席の前に置くと、健太郎の前に興味深く座った。竹中とガン太も興味深く聞き耳を立てた。芳井はまだカードを睨みつけていた。
「俺は今までいろんな物語を読んできました。あくまでもこの仕事に就く前だけど・・・あくまでも素人の目で、愁の物語を読んだのかもしれないけど・・・でも、愁の物語の完成度は高かった。一人の女性を一生愛していく物語だった。純愛です。だけど、その純愛の中にも激しさはある。女は傷つき、男は女を守っていくんだ。自然がよく描かれていて、目の前にその映像が過ぎるんです。綺麗な自然の中に描かれる二人の激しくも純粋な物語は、やがて読む者を釘付けにする。悲しいラストから目が離せなくなります。俺はまだ、その興奮から冷めません」
皆、健太郎の話を微笑んで聞いていた。
「何か読みたくなってきた」
ガン太が言った。唯は健太郎の話に夢中になり、自分のイメージの虜になっていた。自分の中でドンドンイメージを膨らませていた。
「神霧村から天才の登場だ!」
竹中が言うと、目の前に置かれたビールを飲み干した。
「うめ〜、唯、もっとビールもってこい!」
竹中が言うと、唯が立ち上がり台所に行った。みんなの話に入れなかったのは芳井だった。カードを睨みつけ、進まないゲームをずっと進むまで待っていた。愁と健太郎の話は聞いていた。二人の話に入り遅れた自分に苛立ちを感じ、体をカードに隠すように小さくなって、カードを手に持ち、皆が忘れた進まないゲームが進むまで待っていた。
「止め止め止め!や〜めた」
芳井の苛立ちが最高潮に達した。突然大声でそう放つと、手に持っていたカードをテーブルに叩き付けて、目の前のビールを飲み干した。
「唯!ビール」
ジョッキを大きく掲げ上げた。
「はいはい」
台所から声が聞こえると、唯はビールを持って、健太郎と竹中と芳井の席の前に置いた。唯は自分のビールを手に持って、健太郎の隣に座った。芳井はビールが置かれた瞬間、手にとって飲み始めた。
「今日は実に気持ちいい。記念日だ。かんぱ〜い」
竹中が言うと、みんなジョッキを高々と掲げた。一人だけビールを飲み始めていた芳井も、その姿を見て慌てて高々とジョッキを皆と同じように掲げた。
神霧村の周りの山は、所々にもみじの葉で赤く染まっている。田園の稲は全て刈られていた。夜道を月明かりが照らしている。愁と健太郎は、ボロボロになった自転車を押しながら歩いていた。村役場からの帰りだ。
「いい人達だった」
健太郎が言った。
「ああ」
「愁はこの村で育ったんだ」
「そうだ」
「いいよね。自然がいっぱいあって、何か、まだ古風な感じで」
「そうか?」
「そうだよ」
「どうしたんだ。急に」
「いや、別に・・・ちょっとよかったなって。だって、俺の育ったところは自然なんか無かったぜ。それに、愁にも尊敬できたし」
「なんだ?」
「愁のお父さんはすごいよ。鉄道を通そうとするなんて・・・愁もすごいよ、それを受け継ぐんだもんな」
愁の顔色が変わった。
「親父の話はするな」
「え、何?」
健太郎はその言葉がよく聞き取れなかった。
「親父の話は、俺の前ではするな」
愁は健太郎を睨みつけ、自転車を押して歩いていった。健太郎は訳が分からず立ち止まったが、すぐ愁の後についていった。二人は少し離れた間隔で歩いた。二人の歩いている横には、暗く、明かりのついていない美月の家が、月明かりで黄色く染まっていた。
愁の目の前に乏しい明かりがついた家が見えてきた。愁の家だ。愁は近づき、玄関を開けた。健太郎も少し後れを取って玄関に辿り着いた。
「かあさん!」愁は呼んだ。家の中は片づいていた。ゴミもなく、綺麗だ。奥から恵子が顔を出した。
「遅かったわね」
「ごめん、何か盛り上がっちゃって」
「よかったわね。今日は泊まるんでしょ。早く家の中に入りなさい」
「ごめんかあさん。今日は帰るよ。明日早いし、まだ、終電には間に合うでしょ」
「あら、そう」
恵子は悲しい顔をした。
「自転車、置いていっていいかな。ボロボロで乗れないや」
「いいわよ。今度はいつ来るの?」
「分からないけど、すぐ来るよ」
「寂しいわ。体に気を付けてね。食事をきちんと取りなさい。今度来るときは、愁の好きな物をいっぱい作って待っているから」
「分かった」
「健太郎君もまた来てね」
恵子は愁の後ろにいる健太郎に呼びかけた。
「はい、分かりました」
健太郎は言った。
「じゃあ、帰るね」
そう愁が言うと、家を後に二人は歩いていった。恵子は暫く二人を見送り、また家の中に入って、ドアをゆっくり閉めた。恵子はドアを閉めた瞬間、ドアに寄りかかり、息を引きつり、手を胸にあてた。苦しい思いがした。そのまま、床にしゃがみ込んだ。それは、寂しさからでた苦ではなかった。いや、それもあった。愁への思い、それも勿論ある。だけど、それだけではない。自分でも分からない苦しみが、恵子を襲っていた。様々な苦が重なり合って、涙が出た。
恵子は息を引きつり、手を胸に当てながら、震えた足を一生懸命立たせ、ふらふらと足を進ませて居間につく。そして窓に近づき、這い蹲うように壁に寄りかかって、そっと外を覗き込んだ。
そこには暗闇に浮き彫りされた、美月の家があった。