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第二部 第二十九章

 「何でしょうか」愁は言った。「用がなきゃ呼び出しちゃだめか?」高山が言った。二人はテーブル席に座っている。「いえ・・・」愁は言った。マスターがコーヒーを二つ持って、二人の前に愛想なく置いていった。ここは、喫茶紅涙「どう?」高山はコーヒーカップを手に持って言い、そして一口飲んだ。「まだ、書けないか?」高山は愁の目を見て言った。「いえ、書きます」そう、愁は言った。「無理すんな。お前の目が書けないと言っている。コーヒーでも飲め」高山が言うと、愁は目の前に置かれたコーヒーを一口飲んだ。「今年はゆっくり休め。来年から気持ちを切り替えて頑張ればいい」そう言うと、上着のポケットからタバコを取りだしてテーブルに置いた。そして、其処から一本のタバコを抜いて口に銜え、ライターで火を付けた。一つ、吹かした。そして、愁の前にタバコを差しだし「お前も吸うか?」高山は聞いた。「すみません」愁は言うと、一本取りだして口に銜えた。そして高山はライターの火を愁に差し出した。「すみません」愁はそう言うと、タバコに火を付けて吹かした。「うまいか?」高山は言った。「ええ、うまいです」もう一度、吹かした。「何があったんだ?」高山を見た。「昔、何があったんだ?」高山は一度吹かし、タバコを指で摘んで眺めた。「タバコは人に不思議な落ち着きを与える。一口吸えば、安心感を与え、二口吸えば、苦痛から解放される。だが、其処から出る煙には様々な哀しい過去が写るんだ。いつもお前は何処か哀しい顔をしている。母親が亡くなったからじゃない。前から気になっていた。いつも笑顔でいるが、不意に見せる哀しい顔がある。一度聞きたかった。昔、何があったんだ?」愁は黙って高山を見た。「黙るのか・・・まあいい、話したくなければ話さなくていい。だが、いつか教えてくれ。俺はお前を知りたいんだ」高山が持つタバコから、灰がテーブルに落ちた。「すみません・・・」目を落として愁は答えた。



 凍えるような冬。雪は止まない。窓は閉まっている。カーテンも閉まっていた。二階の部屋。暖房はついていない。凍えるような部屋に、美月は仰向けになって寝ていた。

 廊下をミシミシと歩く音がして、部屋のドアは開いた。体を寝かしたままドアの方に目を向けると、そこに敬生が毛布を持って立っていた。美月に近づいた。「風邪引くぞ」そう言うと、手に持っていた毛布を美月の上に投げた。美月はその毛布を拾うと、自分の上にかけた。「出かけてくる」スーツ姿だった。部屋を出て階段を降りていった。美月は何もない天井を見ていた。窓から見える雪は哀しいほどに静かに降り注ぐ。車の通る音が聞こえた。昔のことを思い出していた。美月は、愁と遊んだ事を思い出していた。神霧村の出来事、湖のこと。

 霧が深々と樹木の影を通り過ぎた。まだ、小さい橘愁は草を掻き分け掻き分けて道に出た。荒れ狂うエンジン音が鳴り響く。その物は見えない。愁は自転車に凭れ、その物を待った。徐々にそのエンジン音も大きくなり、霧は渦巻き、やがて、物の影が見えた。車のヘッドライトが浮かび上がってきた。愁はずっとその方向を見た。するとヘッドライトの光の玉は徐々に徐々に大きくなり、やがて霧の中から大きな荷物を載せた小さなトラックが姿を現した。

 ガタガタと大きく揺れた。霧で視界が悪く、辺りは殆ど真っ白く何も見えない。倉岡直也が運転していた。その横に美月は黙って、少し俯いて寂しく車に揺られながら座っていた。窓は曇っている。美月は少し窓を手で拭いて外を見た。ガタガタと車は揺れる。霧はなだらかに流れ、辺りは真っ白くて何も見えない。速度は遅く、ゆっくりと道を走った。ゆっくり、ゆっくりと流れる樹木を見ながら過ぎていくと、道端に少年が自転車に凭れていた。目があった。その少年を眺め、ゆっくりと通り過ぎていった。それが、橘愁。それが、出会いだった。



 床に寝ている美月が見ている天井の壁に、十二歳の自分の姿がまた映し出された。



 雨は続く。静かな神霧村を包み込んだ。美月は家の窓から雨の降る神霧村を眺めて思い出す。母親シャリーのことを──────

 あの日も雨だった。あの、事件のあった日。豪雨で、シャリーは走っていた。美月はシャリーを追った。雨は体を流れ、視界は失い、辺りは暗く道さえも分からない。転び、立ち上がって、また転んだ。それでも追いかけた。母親を。シャリーを。そして、丘にたどり着いた。シャリーは丘に近づき歩いていた。暗く、人の影が丘の下にある。美月は走り、丘が見えてきた。シャリーの姿も雨で影としか見えない。美月はシャリーの姿を確認して、息を落ち着かせて、ゆっくりと歩き始めて丘に向かった。その時土砂は崩れ落ちた。



 あの悪夢が美月の心に衝撃に振るわせた。



雨の降っている神霧村を窓から眺め、ゆっくりと玄関に向かって歩いて外に出た。傘は差していない。服の上から雨は染み込んだ。地面に雨が落ちる音がして、家々も静かに佇む。「あの〜」声がし、美月は驚き脅えた顔でその方へ向いた。そこに、少年が傘を差して立っていた。「なまえ、なんて、言うの?」美月は脅えた。「傘、風邪引くよ」少年は傘を差しだした。美月は傘を持とうとせず、ジッと少年を見た。「み・・・つ・・・き・・・」声が掠れていた。雨でその声も消えてしまった。少年はまたジッと美月を見た。「く・・・ら・・・お・・・か・・・み・・・つ・・・き・・・」答える気はなかった。だが、無意識にそう、言葉に出たんだ。少年は、美月の名前を聞くと笑顔になり、勢いよく話し始めた。「僕の名は愁。橘愁なんだ。年は十二歳で来年中学一年生。この村には学校がなくて隣村まで行ってるの、山道を通って。よかった、え〜、み、みつき?ちゃん。美月がこの村に来てくれて。子供いないの。この村、僕しか。一緒に行けるね、学校。あれ?年はいくつなの?」美月の顔が少し微笑んだ。「十二、歳。と・・・し・・・」美月の口が開いた。「僕と一緒だ」愁が言うと、美月は頷いた。

「山を二つ越した村。私の村」

「でも、もうこの村が美月の村だ」

「この、むら?」

「この、神霧村だよ」

「うん」

美月は頷いた。

「ようこそ神の村へ」

愁は静かにお辞儀し、傘を持っている手を差し出した。



 美月は床に仰向けになって天井を見ていた。少し、微笑んで、また、思い出した。



 「この村の神は、其方が来られたことを心から歓迎する。その歓迎の意としてこの傘を進ぜよう」愁は顔を上げた。「風邪引くよ」優しい笑顔だった。そして、傘を美月に渡し、走って自宅に戻った。その二人の姿を窓から見ている男がいる。美月は傘をさし、愁を見届けた。何か不思議な安心感がする。その安心感が美月の心に留まる。それを胸に、傘をさしてゆっくりと美月も自宅に向かって歩いたが、家が近づくにつれて足が拒む。あの悪夢が蘇るんだ。あの雨の日。激しく降り続けた日。倉岡シャリーは家を出ていった。傘もささず、走り出ていった。美月は階段の隅で二人を見ていた。会話は聞こえなかったが、シャリーは鋭い眼差しで直也を睨みつけた次の瞬間、驚きの顔に変わっていた。そして、勢いよく玄関の扉を開けて出ていった。直也は仄かに笑った。その顔を美月は見て、そして階段を降りてシャリーを追った。

 美月は玄関に辿り着くと傘を閉じ、暫く握り締めていたが、その傘を玄関の横に放り投げた。それは、直也に隠すため。愁との出会いを知られないため。自分を守るためだった。 玄関のドアノブをゆっくりと回して家の中に入った。だが美月の髪も服も、体中が濡れていて一瞬のうちに水が垂れて床に溜まった。玄関元にあった雑巾で体を拭い、床に垂れた水を拭いた。焦っていた。直也に恐怖を抱いていた。急いで床に垂れ落ちた水を拭いていた。気配がする。美月の前に誰か近づいてくる。美月は動きを止め、顔を上げると目の前に直也が立っていた。美月はゆっくりと立ち上がり、直也を見た。震えと脅えが重なり合って、体中が硬直して雑巾を床に落とした。時間が止まったようだった。その瞬間、直也は美月の頬をひっぱたいた。



 美月は床に仰向けに寝ていた。天井に写る自分自身の姿が心に突き刺さった。



 「この村には言い伝えがあるんだ」愁が言った。軽妙な音楽が流れていて、周りに屋台が建ち並ぶ。鳥居もあり、ここは神社のお祭りだ。手には綿菓子を持っている。

「言い伝え?」

美月は言い、二人は歩き出した。

「うん。神霧村っていつも霧が多いでしょ」

「うん」

二人は人の気配のない静かな神社の裏の道を歩き、その道の奥にある杉の木の下で立ち止まって、綿菓子を食べながら話した。

「でも、昔は霧一つ無かったんだって。とにかく村全体が透き通って見えるような、輝いて見えるような、そんな村だったんだって。でもね、ある寒い日に天界にいる一人の天使が息を吐くと白い煙のような物が出て、天使はそれが面白くて何度も何度も息を吐き出したの。そしたらそれが一度浮き上がり、その後下界に沈んじゃったんだ。天使が下界を覗くと、そこに村や畑がなかったんだ」

「消えちゃったの?」

美月は聞いた。

「ううん、隠れたんだ。その天使の吐いた白い物に因って。それを知った神様が凄く怒って、天使を捕まえて罰を与えようとしたの。それで天使は逃げたんだって、白く埋まった下界に……ここなら見つからないと思ったんだ。だけど神様はすぐに見つけたの」

「どうやって?」

「どうやってだと思う?」

「分からない、どうやって?」

「天使は太陽の光を辿って逃げたの。白く埋まった村に太陽の光が降り立つと、まるで道のようにいくつもの線になって辺りを映し出すの。神様がその線を辿ると、そこに白く輝いた天使の姿があったんだ。神様は罰としてその天使にこの村の平和を見守るように言い渡し、お社に閉じ込めたんだ。それからずっとこの村は霧に埋もれた村となった」

 美月は聞き入っていた。

「でも、お社がないんだ。昔の人はこの村の何処かに絶対お社があるって信じて立てなかったんだって。でもこんな小さな村、お社があったらすぐに分かるのにね」

 愁は美月を見て、笑顔でそう言った。その笑顔もやがて消えていった──────



 青々とした湖、色とりどりの花々、巨大な樹木、巨大な岩、そこに、愁と美月は立っていた。まだ見たことのない自然が目の前に広がっていた。愁は美月の手を引っ張って岩に近づき、美月を座らせた。

「ねぇ、何で青い目をしてるの?」

 愁は美月を見ていった。考えた。

「ママが言っていた。青い瞳は、女を美しくする魂の輝きだって」

「じゃあ、神様がくれたプレゼントだ」

 愁は優しい笑顔だった。だが、その笑顔も消えた──────



「目を瞑って、祈るんだ。自分の声を・・・自分の思いを・・・自分自身を・・・信じて・・・想像して!」

 愁が言うと、美月は瞑っていた目を、そっと目を開けた。するとそこに大きな湖が広がり、その周りには全ての物が覆い隠すほどの妖精で埋め尽くされた。美月は驚きのあまり口を開けてしまい、そして笑顔になった。



 「ただいま」玄関のドアが開いた。「パパ?」美月は玄関に向かった。「ただいま!」直也の姿だった。「今日、帰らなかったんじゃないの?」美月は飛び上がって、直也に近づいた。「ちょっと予定が変わってな」直也は言った。「そうなんだ、ちょ、ちょっと待ってね。今食事の用意をするから」美月は台所に向かおうとして「美月、食事はいいよ」直也は言った。「何で?」美月は首を傾げて直也を見た。「ほ〜ら」直也は手に掲げていた箱を差し出した。「お土産だ」美月の目は輝いた。「何?お寿司?」直也の顔を見た。直也は眉を顰めかした。「お寿司なのね!」美月は目を輝かせ、直也はにこやかに頷いた。「ワーイ、パパ大好き!」美月は思いっきり直也に抱きついた。



 「みつき〜、みつき〜」直也の声が響き渡った。満月の夜。直也は玄関の扉を勢いよく開けた。目の前に広がる空き地には、背の高いススキが月の光にあたり、その一郭が大きく揺れていた。「今日はいい天気だ。とても気持ちいい。雲もない、風もない、とても美しい満月だ。お前が生まれた日を思い出すよ。とても美しい月だった。ハハハ、逃げても無駄だ。待ってろよ、今、パパが行くからな」大声で叫んだ。愁は美月の手を引いて、背の高いススキを掻き分けて懸命に走った。美月は直也の声が聞こえた。その声に思わず振り向き立ち止まった。その手に引かれて愁も立ち止まった。「どうした?」愁は聞いた。美月は首を横に振ると「早く行こう!」愁はそう言ってまた美月の手を引き、またススキを掻き分けて進んでいった。美月は愁に手を引かれるも、直也が気になって後ろを振り向きながら進んでいった。

 直也はニヤホヤと笑い、ススキが輝く空き地に入ろうとしていた。



 床に寝ていた美月の目は瞬きもせず、ジッと天井を見ていた。



 「ガキに何が出来る」直也は愁を睨みつけた。直也が掲げた(てのひら)には、小さな愁の拳となった手が押さえ掴まれて話さないでいた。愁は抵抗した。だが直也は愁の手を離さなかった。愁が更に抵抗すると、直也は突然掴んでいた手を離し、その反動で愁は蹌踉けた。直也は愁を見て笑い、殴りかかった。顔に一発、腹に二発。

 重なっていた。直也の姿と、敬生の姿だ。敬生が美月に殴りかかった。腹を殴り、頬を殴り、美月を殴り殴った。

 小さい美月は震え、裸のままに服を握り締めてどうすることも出来ずに愁を見ていた。直也が愁を殴る。顔に一発、腹に二発。

 敬生が美月を殴る。腹を殴り、頬を殴り、殴り殴った。

 そして直也が愁の──────

敬生が美月の顔を──────

殴った。

小さい美月はグッと抱えていた服を握り締めた。



 美月は天井に写る姿を見ていた。瞬きもせずに、ずっと───────

その目から、涙が静かに流れ落ちた。



 明るく輝いてた。今日は満月だ。美月の家の前にある空き地になるススキも輝いて見える。村は静かだ。静けさの中に美月の家から声が聞こえてきた。「開けてくれ。美月、何故逃げるんだ。パパが悪かった。さっきはぶったりして。もう怒らないから、お願いだから開けてくれ」直也は廊下からドアを叩いた。顔は笑っていた。ドンドンと激しく叩かれる音が響き渡る。



 階段を駆け上がる足音。二人の足音が鳴り響いた。「あの女!」志帆は憎しみ、怒りを露わにして叫び、部屋の前に来るとドアを蹴りまくった。「チキショー!」その怒りは異常なほどに狂い、異常なほどの叫びだった。ドアを蹴った。「何なのよ!あの女!」

 敬生は静かな笑みを浮かべ、しゃがんでズボンのポケットを探り、そしてポケットの中の鍵を取りだした。志帆はその行動を見、静かな笑みを浮かべた。そして敬生はその鍵を鍵穴に近づけた。



 美月は床に寝て、天井を見ていた。静かに涙は流れた。そして、静かに目を閉じた。



 「俺から逃れられると思ってるのか。誰かが助けに来るとでも?」敬生は美月を見下ろした。「夫婦なのに・・・結婚してるのに・・・」そう言うと敬生はしゃがみ、美月を哀しい顔で見た。「こんなに愛してるのに・・・」優しくキスをした。美月は動けないで目は開いたままだった。敬生は唇を離して、哀しく、涙を流した。「こんなに愛してるのに・・・」美月の目を見ると頬を思いっきり殴った。そして立ち上がり、美月を蹴り飛ばした。「こんなに愛してるのに!お前は俺に恥をかかせた!」腹を蹴り、頬を殴り、美月を殴り殴った。その姿に花崎志帆は嘲笑い、腹を抱えて笑い転げた。



 <助けて・・・>



 部屋の中には月明かりが充満していた。美月はドアから離れ、ゆっくりと歩いて月明かりも届かぬような部屋の隅に腰を下ろしてただ、その物事が収まるのを待った。ドンドンとドアを叩く音は聞こえる。そして美月は悲しい音色で鼻歌を歌った。「美月〜」廊下から声は聞こえてきた。ドアが激しく叩かれた。「美月〜」直也は激しくドアを叩いた。

 その時音がした。窓が開く音。美月は月の明かりが入り込む場所と、その明かりがあたらない部屋の影の境にしゃがんでいた。窓を見た。誰かいる。月明かりが眩しくて、誰だか分からなかった。だが、その人物が前屈みに動いたとき分かった。愁だ!「逃げよう!」愁は言った。窓から一歩足を踏み入れて美月に手を差し伸べた。「僕と一緒に逃げよう!僕が守るから・・・」

 その声も消えた───────



 祈った。目を瞑り、床に横になったまま涙は流れた。胸に詰まる。<たすけて・・・>



 静かに雪は降り続いた。人々は音も立てずに傘を差して歩く。クリスマスも近く、商店街も賑やかに飾り付けられていた。クリスマスソングも盛んに鳴り響き、サンタクロースの格好をした人も店前に立ち、チラシ配りをしていた。そのチラシ配り人をはらいのけ、橘愁は傘をささないでレインコートに身を包んで急ぎ足で歩いていた。橘愁には賑やかな商店街も目に留まらず、静けさを感じた。ずっと考えてた。美月のことを───────

 それと同時に急ぎ足で杖をついて歩く姿がある。愁は急ぎ足で歩いた。また、それを追う足がある。そして愁は突然止まると、その追っていた足も止まった。愁が振り向くと倉岡直也が立っていた。直也は黙って愁を見ていた。愁は直也に近づいた。「何のようだ」初めて周りの音が聞こえた。直也は静かに答えた。「ずっと追ってた。今日、愁君をずっとつけてたんだ」直也は言った。「何のために?」二人は歩き始めた。

「声をかけようとした。ずっと、声をかけようとしたんだ」

 愁は直也を見た。

「だが、どう話したら・・・年は取りたくないもんだ。寂しく、悲しく、孤独な自分がいる。声をかける勇気もないんだ」

 愁は直也をジッと見た。

「美月と話したか?」

「いや・・・」

「そうか・・・不安なんだ。自分のしたことに後悔している。美月はまだ恐怖を抱いてるだろうか」

 愁は言葉を一つおいて答えた。

「今日・・・会おうと思っている」

 直也は愁を見た。

「美月のサングラスを取ってくれ。・・・きっと痣がある。あと、体にもいくつかの痣があるはずだ。・・・愁君、美月を守ってくれ」

「ああ」

 愁は頷いた。

「いつか・・・」

 そう言うと、直也は言葉を詰まらせた。

「いつか・・・何だ」

 直也は俯いて答えた。

「いつか・・・美月と会いたい。・・・美月に会って、謝りたいんだ」

 直也は立ち止まった。愁は少し前に出て振り向いた。

「会いたいんだ。美月と、会いたい」

 直也の力強い言葉に、愁はジッと見ていた。



 慌ただしさが増すオフィス。恋酔出版社。九階。恋愛大衆編集部。松永健太郎はデスクでパソコンに書類を打ち込んでいた。

 高山春彦は鞄を抱え、慌ただしく歩く人々の間を抜けてデスクに辿り着いた。「よくまあ、こんなに毎日毎日雪が降るもんだ。家に帰ると服はびしょ濡れ、洗濯しても乾かないし、着る服が無くなって困るよ」高山は独り言に大声で言い、鞄を机の上に置いた。そして編集員のデスクに目を向けると、健太郎がパソコンに書類を打ち込んでいた。「松永!」高山は叫んだ。「あ、編集長、お帰りなさい」健太郎は高山に顔を見ずに、パソコンの画面を見ながら答えた。「松永!」高山は手招きした。「はい」健太郎はパソコン画面を見ていて、高山の行動に気づかなかった。高山は手招きしていたが、ため息をついて手招きも止め、自ら健太郎に近づいた。「松永」高山は健太郎の横に立ち言った。「何でしょうか」パソコンに打っていた。「今日、橘に会ってきた」そう言うと健太郎はパソコンの打つ手を止め、高山を見た。

「先生に?」

「ああ」

「どうでした?」

「ダメだ。俺には何とも出来ない。松永、お前悪いが夜、橘の様子を見に行ってくれないか」

「はい、分かりました」

 健太郎はすぐに答えた。



 携帯電話が鳴る。部屋は薄暗くなってきた。美月は床に横に寝ている。携帯電話の着信

音は鳴り響いた。部屋の隅の、タンスの上に置いてある携帯電話だ。美月は起きあがり、タンスに近づいて携帯電話を取った。

「はい、もしもし・・・シュウ?」

 美月の顔は、少し綻んだように見えた。

「今から?うん、分かった。いいわ」

 電話を切った。そして部屋を出て階段を降り、洗面所に向かった。洗面所に着くと電気をつけ、鏡に向かった。自分の顔が写る。目の周りに大きな痣があった。美月は棚からファンデーションを取りだしてぬった。



 辺りは薄暗くなってきた。雪は降っていない。霧が村を囲むようになだらかに流れていた。村役場の周りも静かに霧は流れる。そこへガン太、芳井、竹中、国利が歩いてきて役場に入っていった。

 静江は部屋で待っていた。黒板台の脇に立って少し落ち着きがない。「静江さん、ちょっと落ち着いたら?」唯はエプロン姿で立っていて、手には布巾で拭いている皿を持っていた。そう言うと、台所に引っ込んだ。「遅いわ、みんな」かなりな苛立ちを感じてきた。その時、管理室のドアが開き、ガン太、芳井、竹中、国利が入ってきた。静江がドアを見、唯はその音に台所から顔を覗かせた。「遅いわ!」静江は腕を組んで言った。「おう、ごめん」ガン太が言った。「あんたがモタモタしてたから先に来て待ってたけど、いくら待ってても来ないじゃないかい。何やってたんだい」静江はガン太に言った。「便所だよ」ガン太が言った。「トイレ?長いトイレだこと。まあいいわ、みんな座って」静江が言うと、みんな黒板台の前に座った。「唯ちゃん、始めるよ」台所にいる唯に静江は声をかけた。「は〜い」そう返事が聞こえると、唯はお盆にお茶を入れた湯飲みを乗せて台所から出てきた。そしてみんなの前にお茶を置いて、唯は黒板台の脇にノートを広げて座った。静江は黒板台の脇に立ち、話し始めた。「みんないい?今日は何しに来たか分かってるわね」そう言うと芳井が答えた。「明日の計画でしょ」静江は頷いた。「いよいよ明日、計画は実行するわ。とうとう私たちの心髄に迫るのよ」竹中はタバコに火をつけて、一つ拭かしてから聞いた。「……で、どんな計画だ」静江は目の前にあるテーブルまで前に出て、お茶を一口飲んだ。それと同時にガン太、芳井、国利もお茶を一口飲み、竹中はもう一つタバコを吹かした。そのみんなの行動を見て慌てて唯も目の前にあるお茶を一口飲んだ。「計画は、明日の夜中に決行よ。まず器用なヨッシーが鍵を開ける……」唯はメモをとり始めた。「鍵?どうやって開けるんだ?」竹中が聞いた。「これよ」静江がはいているジーンズのポケットから針金を出した。「随分古典的な開け方だな」国利が言った。「そして、たけちゃんとヨッシーは一階を、私とガン太とコクリンは二階を探すのよ」静江は力強く言った。「いつの間にかコクリンになってるよ」国利は呟き言った。「大体何を探すんだ」ガン太が言った。「あの家は昔と変わらない。あの事件から誰も踏み入れてないのよ。きっと何かあるはずよ」自信に満ちた表情で言った。「警察が証拠として全部持っていってるだろ」国利が落ち着いた口調で言った。その言葉に思わず静江は口を開けてしまったが「私の気が済むのよ!」少し怒った口調で言った。「何だ、そう言うことか」芳井が言った。「あの事件に納得いかないのよ。警察は何も教えてくれなかったわ。あの事件のせいで私たち・・・苦しんだ。ずっと苦しんだわ。愁ちゃんから両親を奪ったのよ。亨ちゃんは直也に、恵子ちゃんは直也の幻に悩まされて死んでいったわ。私の友達よ。許せないわ。せめて・・・少しでも何か動きたいの。何もないかも知れないわ。でももしかしたら重要な証拠がある。そんな気もするの・・・証拠があっても、どうしようもないけど・・・でも、自己満よ!」そう言うと、俯いていた顔を上げて笑顔で言った。「分かった。明日、あの家に行こう」竹中が言った。「あの〜僕はどうしたらいいの?」黒板台の脇に座っている唯が言った。「あ、唯ちゃんね。唯ちゃんは見張り番」静江が言った。「見張り番?」唯は言った。「そう、誰か来ないか家の前で見張ってて。携帯持って、何かあったら連絡頂戴」静江は考え、また口を開いた。「そうね〜、連絡係はヨッシーね。何かあったらヨッシーに連絡すること」そう言った。「でも、僕も中に入って何か手伝うこと無いの?」唯が言った。唯は寒いのが苦手だった。雪の中、外にずっといるのが嫌だったんだ。「ないわ」悪気はなかったが、冷たい口調で言った。その口調に静江も気づいて、優しい口調で唯に言い直した。「でも唯ちゃん、重要な任務よ。みんなの仕事をうまくいかせる為に唯ちゃんが必要なの。唯ちゃんじゃないと出来ないわ」唯の目を見て言うと、唯も頷いた。「はい、解散!明日また夜来て!」静江がそう言うとみんな立ち上がった。唯も立ち上がった。そして唯は台所へ、竹中、芳井、国利、ガン太は部屋を出ていこうとした。「あんた!ちょっとあんた!」竹中、芳井、国利は部屋を出て、ガン太は出る直前の振り向いた。「あんたは私と同じ所に帰るんだから、みんなと一緒に出ていかないの」静江は言った。「ああ」ガン太は頷き、静江に近づいた。「ねえ、飲まない?」ガン太は少し驚いた。「なんだよ急に」

「いいじゃないたまには」

 ガン太は頷き、二人はテーブルに座った。

「唯ちゃん、ワイン持ってきて!」

「は〜い」

 台所から声が聞こえた。

「ワイン?」

 唯が台所からワイングラスを二つ、赤ワインのボトルを一本持ってきて、二人の前に置くとまた台所に戻った。

 静江はボトルを手に持ち、ガン太のグラスに注ぎ、自分のグラスにも注ぐと置いた。

「久しぶりね、二人で飲むの」

 静江はグラスを持ち、ガン太のグラスに静かにあてて一口噛み締めるように飲んだ。

「どうしたんだ?急に」

 ガン太は静かに言った。

「ううん。何でもないのよ。ただ、二人で飲みたかったの」

 ガン太は静江を見た。

「不安だったの。ずっと・・・あの事件からよ。恵子ちゃんと同じだったのよ。分かってた。恵子ちゃんがあの事件以来幻を見ていたこと。私と同じだったから・・・でも私にはあなたがいたわ。恵子ちゃんは一人で苦しんでいたのよ。私はそれを知っていながら、助けられなかった。友達を助けられなかったのよ。だからあの家に忍び込みたいの。心に中で、事件を解決したいの。恵子ちゃんの気持ちを楽にしたいのよ」

 ガン太は優しい顔で静江を見て、静江の手を静かに握った。俯いていた静江は顔を上げてガン太を見た。そしてガン太はグラスを掲げて微笑み、その顔に静江も微笑んでグラスを掲げた。二人はグラスを静かにあてて一口飲んだ。二人のもう一つの手は、柔らかく握り合ったままだった。

 台所で洗い物をしている唯は、二人の会話を静かに聞いていて微笑んだ。



 雪は降る。人は疎らに歩いていた。殆どが恋人同士だ。水の出ていない凍り付いた噴水がある。その前で愁はダウンジャンパーのポケットに手をいれて、傘を差して立っていた。

 樹木の間を歩いていた。ここは雪もなかなか入り込めない空間だ。所々にある電灯も乏しく光る。その道も徐々に広がり、噴水の前に出た。そこにサングラスをした美月は立ち、愁を確認して歩き始めた。

 愁は美月が近づくのに気がついた。

「遅くなっちゃって、ごめん」

 美月は言いながら近づいた。

「どうしたの?急に電話なんてびっくりしちゃった」

 愁は黙っていた。二人は歩き出した。

「愁、久しぶりね。どこ行くの?食事?」

 愁は黙っていた。

「何故黙ってるの?」

 二人は樹木の間を歩いた。所々にある電灯も乏しく光った。

「美月は何で、サングラスをしてるの?」

 愁は言った。

「えっ?」

「夜だよ」

「えっ?あ、でも雪が眩しいじゃない」

 美月は慌てたような答え方をした。

「そのサングラスの向こうには何があるの?」

 愁は美月を見た。美月は驚きの顔で愁を見た。

「どうしたの?」

 愁は少し黙って美月を見、そしてまた口開いた。

「サングラス、取ってみて」

「えっ?」

 美月は戸惑った。

「いいから!」

 愁は苛立ちを感じて感情を込めて言い、美月はそれが何なのか分からずに戸惑いを隠せなく、サングラスも外せないでいた。

「いいから!」

 感情を込めて心の奥から声を放ったが、美月には突然のことで分からなく、立ち止まって愁を見た。こんな愁は初めてだった。美月からは笑顔が消え、ただ愁の顔を見るのが精一杯だった。愁はジッと美月の顔を見て、そして咄嗟に顔からもぎ取った。思わず美月は愁から顔を背けた。そして愁は美月の腕を掴んで電灯のある下までいき、そっと美月の顔を押さえて上げた。

 美月の目は泳ぐように避けた。

「これ、どうしたの?」

 美月の目の回りには青々とした痣がクッキリとあった。そして愁はまた素早く美月の上着のボタンを胸まではだけた。「やめて・・・」美月は苦しい声で言った。そこにも痣はある。肩や胸、所々に青々とした痣だ。愁には言葉はなかった。美月は直ぐさまはだけた上着を閉じてボタンを閉めた。

「何で・・・」

 静かに愁は言葉を放った。悲しかった。また同じ事が起こっている。美月は目を反らしていた。

「何で?」

 また、愁は聞いた。

「優しかった。昔は・・・恋をしたの。子供の恋じゃないわ。キチンとした恋よ……」

 美月は静かな声で愁の顔から背けて話し始め、愁は美月を見た。

「あの事件からずっと一人だった。友達も出来ず、もちろん恋も・・・人を寄せ付けなかった。いつも一人、施設に育てられても私は一人。夜眠ればあの悪夢に襲われたの。怖い日々は続いた・・・恋も、出来ないと思った」

 美月を見ていた。

「でもある日、施設に男の人がやってきた。私は部屋で外を眺めていると、その人は私に声をかけたの。『美月・・・さん』そう、呼んだ。何故か、私の名前を知っていた。私はその声に驚いて振り向くと、その人は近づいてきた。匂いがしたわ・・・」

「匂い?」

 愁は聞いた。

「パパの匂い・・・昔の・・・優しかったパパの匂いなの・・・私は胸が締め付けられる感覚に陥った。懐かしい匂い・・・優しい匂い・・・その男の人が夫、敬生だった」

 愁は何か言おうとしたが、黙って美月の言葉を待った。

「敬生に惹かれたの。初めてだった。優しかったの。私の全て受け止めてくれた。公園を歩いて・・・手を繋いで・・・初めて恋を味わった・・・結婚するまでは。変わったの。結婚して・・・私が・・・夜を共に出来なかった。抱き合うときに蘇るあの恐怖。キスをするのがやっと。次第に敬生の神経は過敏になった。夜を共に出来ないと殴り、埃が落ちてると殴り、教会の聖なる歌が流れると私を殴った」

 愁の胸は苦しんだ。優しく美月の顔を胸に寄せ付けた。

「何で、逃げなかったの?」

「あの人からは逃げられない・・・いいの、私が悪いんだから。私が・・・もっと・・・」

 美月の声が震えていた。愁の胸の中で静かに涙を流した。

「私がもっと・・・」

 愁は美月を力一杯抱き寄せた。涙が出た。辛く、悲しく、愁の目から涙は静かに流れた。どうしたらいいか分からない──────

「私が・・・もっと・・・」

 美月はまだ震えながら言葉を続けようとした。

「もう、いいよ。何も言うな・・・何も、言うな・・・ずっと、このままでいたい・・・」

 愁は美月を抱き続けた。樹木からなる道の電灯は乏しく二人をあて、雪は疎らに二人の周りを静かに降り続けた。



 静かな夜だった。町のネオンが窓から微かに入る。車の走る音がする。ドアを閉め切り、明かりをつけずに橘愁は一人、部屋の隅に座っていた。考えていた。美月のことを───

チャイムが鳴った。部屋のチャイムだ。だが、愁はその音さえも振り向こうとしなかった。暫くするとドアノブが回り、玄関のドアは開いた。すると松永健太郎が立っていて、部屋に入ってきた。「何だ?部屋をまた暗くしてるのか」その声に愁は振り向いた。「何だ、健太郎か」愁が言った。「ああ、健太郎だ」笑い、愁に近づいて横に座り、肩に手を組んだ。「どうしたの?」愁は言った。「どうしたの?じゃねえよ。お前が元気がないから心配してきたんだよ」健太郎は言った。

「ああ、ありがとう」

愁は言った。

「ッタク!元気ねえな〜」

「別に・・・しおりちゃんは元気?」

「明日だよ。しおりちゃんは関係ないだろ!どうしたんだよ。おい!」

 健太郎は肩に組んでいた手を引き寄せた。

「いや・・・」

「お母さんのことか?確かに悲しい出来事で辛い。愁の辛さを感じ取ることは難しいよ。でもさ、もっと前向きに生きようよ。お母さんが亡くなったことに対して悲しい過去を振り返るよりも、これからのことを考えようよ。これからどう生きるか、どう、お母さんが愁に生きて欲しいかを考えながらいこうよ」

「いや・・・」

「何だよ!別のことか?」

「いや・・・」

「何だよ、ハッキリしろよ!」

 健太郎は思わず立ち上がった。

「言えよ!ウジウジしてんの嫌いなんだよ!」

「関係ないだろ・・・」

 愁は俯いて小さな声で言った。

「え?」

「関係ないだろ・・・」

「何?もう一回言ってみろ」

 健太郎は愁を見ていた。

「関係ないだろ!」

 愁は振り返り健太郎に言うと、健太郎は咄嗟に殴った。愁はその反動で体を倒したが、すぐに体を起こして健太郎を見た。

「関係ない奴が殴るか?心配してんだよ」

 拳を握っていた。悔しかった。自分でも愁にとった行動は信じられない──────

「・・・もう、いいよ」

 そう言うと、静かに振り返り玄関に向かった。そしてドアの前でまた振り返り、愁を見て言った。

「編集長が心配してんだよ。だから来たんだよ。ま、俺は関係ないからな。・・・勝手にしろ」

 健太郎は玄関を出た。愁はそのまま玄関のドアが閉まるのを見ていた。



 悲しかった。雪は降る。静かにひらひらと降り続けた。街灯も乏しく道を照らす。健太郎はフラフラになりながら急ぎ足で歩いていた。胸が痛い。弾けるような痛さだ。誰も通らない道、そこに孤独を感じた。

 道を歩き、大きな公園がある。そこに健太郎は入っていった。樹木からなる道を歩き、雪も疎らに散り、電灯も乏しく照らしていた。その道も歩き、そして水の出ていない凍り付いた噴水の前に着いた。フラフラになり、そこに、雪で埋まった地面に跪いた。地面に拳をつけ、悔しく、とても悲しかった。

 携帯の着信メロディーが鳴った。静かな公園に響いた。長く鳴り響き、健太郎は上着から携帯電話を取りだし、画面表示を見た。そこにしおりちゃんと書かれていた。長く表示を見ていた。着信メロディは止まらず、鳴り続け、健太郎はゆっくりと受話ボタンを押して静かに電話に出た。「もしもし・・・」苦しい声だった。「しおりちゃん?明日?来るの夜遅くなるんだ。そうか〜、分かった。え?声暗い?ああ、ちょっと・・・いろいろあって・・・橘愁って前話した・・・そう、俺の友達。・・・傷つけちゃったんだ・・・友達を・・・傷つけちゃった・・・」声は震えた。「悔しい・・・自分がとても悔しくて・・・どうしよう・・・」俯き、拳を強く地面に何度も打ち付けた。「そうだよね・・・」顔を上げた。「明日、謝ればいいよね。愁に・・・謝ればいいよね」そう言って、ゆっくり立ち上がった。

 広い公園。凍り付いた噴水。白く覆い被さった地面。人はいない、電灯は乏しくあたる、雪はひらひらと降り続いた。そこに、松永健太郎は静かに立ち上がった。

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