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短編集  作者: JC
2/5

魔王の裏側

魔王業も楽ではないというお話。


「フハハハ!! 思い知ったか勇者め! これが魔王の力ぞ!!」


 高い山の上に聳え立つ、黒く濃い霧に包まれた城。その中にある終焉の間。

 今まさにそこで、勇者とその仲間が世界の命運を掛けて魔王と戦っている。


 魔王は様々な魔法や魔力を駆使し、勇者達へ攻撃する。勇者の仲間達も、一人は魔法を、一人は道具を、一人は飛び道具を使いそれに対応する。

 勇者は強力な剣技を繰り出し魔王へと直接斬りかかる。だが強大な魔王の力の前には、無残にも弾かれてしまう。

 仲間の一人が攻撃力上昇の魔法を使おうとしたその時、魔王は目から怪しい光を放ち、勇者達を一瞬の内に吹き飛してしまった。次々に倒れていく仲間達、勇者は最後の力を振り絞って仲間の一人を生き返らせようとした。

 しかし、魔王の容赦ない追撃によって無残にもその場で力尽きてしまった。

「フハ、フッハハハハハハ!! 無様な勇者よ! 世界は、我輩のものだ!!!」

 魔王は高らかに笑い、その場で両手を開いたままのポーズで止まる。

 静寂と沈黙。

「……はいっ! オッケーでーす! お疲れ様でーす!」

「魔王様、休憩入りまーす!」

「おいっ、六千八百五十二番おわりっ! 次は? 次はっ??」

「次の人まだ待たせといてー!!」

「おーい! 誰かこれわらって!! はやく!!」

「前の人、はけてはけて!!」

「この人達どっから来たって書いてある? どこに持ってくの?」

 誰かのオッケーを合図に、今まで隠れて見ていた魔王の手下達が続々と出現し忙しく叫びながら動き回っている。

 勇者一行は、手下達に担がれて、終焉の間の外へと運び出されていく。

 魔王はというと、首をパキパキと鳴らし、着ていたマントを畳みジャージ姿になる。そして、魔王の座の後ろにある控え室のカーテンを開けて中へと入っていく。

「ふぃー、やれやれ。休憩何分?」

「休憩三十分でお願いしまーす!」

「おーい。終わったよー」

 控え室の中では、魔王妃は椅子に座り「月刊第三ワールド」を読んでいる。入ってきた魔王には見向きもせず、雑誌に捲りながら話しかけてきた。

「ねぇ、あなた。今度、神界行きのチケットが安くなるんだって。三人で行ってきてもいいでしょ?」

「え、いや、あれ? 我輩は?」

「あなたはだって、お仕事があるじゃない!」

「いや、でもほら、我輩にも休養は必要なわけであって」

「バカ言っちゃやーよ! 魔王が休んだらいったい誰が勇者の相手するのよ!」

「でも、ほら、君にも仕事があるわけであって」

「あたしは別に、いてもいなくてもただの消化試合じゃない。へーきよ」

「そ、そうか……」

 魔王女と魔王子は後ろの座敷で何やら話し合っている。勇者達との戦闘を観戦していたらしく、二人で意見を交し合っているところらしい。

「今のやつさー、あそこで仲間生き返らせようとしちゃダメだよなー!」

「でも、一人を生き返らせて回復してもらって、自分が戦ってる間に他の人達も生き返らせるってのはいい作戦だと思ったけど?」

「ダメダメ! それなら最初っから、誰か一人に防御力上昇の魔法かけ続けとかないと!」

「それだと他の人達へのサポートが出来なくなっちゃうじゃない」

「だいたいさ、律儀に仲間全員を違う職業にするからいけないんだよ!」

「その方がカッコいいじゃない」

「それがダメ! 本気でパパを倒したいなら、二人剣士で、もう二人は魔法使いとかじゃないと! 二人攻撃して二人サポートが一番効果的だよ。パパなんて、バカみたいに全員攻撃と防御力低下の魔法ばっかなんだから!」

「あたし達なら、もっと簡単にパパを倒せるのにねー!」

 何気ない子供達の会話に少し傷ついた魔王は、隣の部屋へと向かった。


 机の前に座りパソコンでメールをチェックする。どうやら新着メールがあったらしく、喜びながら傍の受話器を取る。

 数回の呼び出し音の後に、相手が電話に出た。

「あ、もしもしー? 第五ワールドの魔王? あ、我輩我輩、第三ワールドの。うん」

 どうやら、他の世界の魔王友達に掛けているようだ。

 この業界では、横の繋がりが大切らしく、自然と魔王同士は仲良くなるらしい。

「今は休憩中。メール見たよー。 うちなら丁度いいんじゃない? 雀卓もあるし。うん、うん、オッケー! じゃあ、第一と第十二のにもそう伝えといて! よろしくー!」

 何やら魔王同士の集まりの予定が決まったらしい。こうやって、常にお互いの情報交換が必要なのだと言う。

 魔王は、何やらまた誰かに電話を掛け出した。

「あっ、もしもし? お母ちゃん? 我輩ですー。えーっと、メール見ました。魔王妃も同じ事言ってたので、どうせなら子供達と四人で行ってきたらどうですか? 我輩は仕事があるので、きっと行けないと思います。またその事については後日ゆっくり。それじゃあ、魔王でしたー」

 どうやら相手は留守電になっていたようだ。伝言メッセージを残して切る。置いてあるソファーに横たわり、額に腕を乗せ、目を閉じる。

 物思いに耽っているが、何かしらの悩み事でもあるのだろう、ため息ばかりついている。

「魔王様、準備お願いしまーす!」

 手下の呼び声で目を開ける。そして、深いため息を一つついて、気だるそうに立ち上がる。

 控え室に戻ると、魔王妃は携帯で誰かと楽しそうにしゃべっている。新作のブランド物の防具の話をしているようだ。宿敵との戦闘へ出向く夫には、まったく興味がないようだ。

 子供達は子供達で、駆け寄ってきて、それぞれに声を掛ける。

「パパ! もっと他の技も使いなね!」

「パパ! 一回くらい負けてみてね!」

 その言葉に対して魔王は苦笑いで返すしかなかった。

 この悲惨な家庭の現状を目の当たりにして、涙が出るのをグッと堪え、カーテンを開けて控え室を後にする。

「はい、魔王様入りまーす!」

 印の付いた定位置に立ち、マントを着け、手下に喉シュッシュを借りて調子を整える。

 頭の中では、相手のいくつかの行動パターンに対してどう対処するかを考える。

 ふと、魔王は自分に言い聞かせる。

 この職業に就いたのだから、やるしかないのだと。やるならば全力で使命感を持ってやろうと。

 手下が外へ向かって叫ぶ。

「次の挑戦者の方々!! どうぞー!!」

 その声を合図に、手下達は皆隠れ、魔王だけが残される。

 少ししてから勇者一行がぞろぞろと入ってくる。その目は、憎き敵に対する憎悪と、世界を救うという使命に燃え滾っていた。

 魔王も気を引き締め、禍々しさを見せ付ける事に集中する。そして、思う。自分もどうにかして旅行には行けないものかと。

 それからもう何千回と口にしてきたそのセリフを、また吐き出すのだ。

「フハハハハハ! よく来たな勇者よ!! 我輩が魔王、この世界を征服する者ぞ!!」

 こうしてまた勇者と魔王の世界の命運を掛けた戦いが、今、はじまる。



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