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〔秋人〕 エピローグ

前日から行方をくらましていた飼い猫のすずは、結局朝になっても帰ってこなかった。その代わりに、学校の連絡網である知らせが回ってきた。内容は、『昨夜十時過ぎ、○○学校の生徒が、何者かにナイフで切りつけられる事件が発生した。生徒の安全を考慮し、本日は休校とする。生徒は自宅にて待機』というものだった。そういうことなので、僕はその日を家の中で過ごした。

夕方の四時過ぎ、私はスケッチブックを片手に高台へと向った。昨夜約束したので、あの子は来ているだろう思っていたが、高台にあの子の姿はなかった。そして僕はそこで、昨夜亡くなったであろうすずの屍骸を発見した。僕はすずの屍骸を持ち帰ると、家の庭に埋めてやった。


生徒が切りつけられた事件の犯人は、事件当日の夕方、一度学校に現れているということだった。そして、被害者本人や目撃者の証言から、犯人の容貌が浮かび上がった。犯人はなんと僕等と同じ中学生くらいの女の子で、服装は紺色ワンピース、髪型は黒のストレート。

後に、被害者は本校の生徒から度々金銭を脅し取っていたことが分かる。僕もその被害者の一人なのだが、そのほかにも多数被害を受けた生徒がおり、相当な恨みを買っていたと予想される。しかしその中に女性被害者はおらず、犯人は直接強請り被害を受けたわけではないが、強請り被害を受けた生徒と何らかの形で繋がっている可能性があるとのこと。

更に後、当事者の一人が、犯人の背中を自らが持っていたナイフで刺してしまったことを自供した。犯人は重傷を負っている可能性が高く、市内の病院に問い合わせたが、それらしい人物は現れていないということだった。

現場には犯人のものと思われる血痕が残されていた。血痕を辿っていくと、例の神社裏の高台まで続いていたらしい。しかし血痕はそこで途切れていたという。周囲を捜索するが、何も発見できず。


僕はこう考えた。犯人は実は、あの高台の女の子だったのではないだろうか。そしてこれはやや現実味を欠いてしまう推測になってしまうが、実はあの女の子は、飼い猫のすずと、同一人物だったのではないか。という結論だった。そうおもう根拠としては、まず、被害者や目撃者が語る犯人の姿が、例の女の子の風貌と一致すること。また、昨夜、彼女が僕の家に訪ねてきた時間帯が、丁度事件の起こった時間帯と一致すること。最後に、当事者が自供した、犯人の背中を切りつけたという供述と、すずの屍骸の背中にのこされた傷痕とが一致するということ。以上を踏まえて考えた結果、僕は先の様な結論に至ったのだ。しかし、猫が女の子に化けていたなんて考えるのは、馬鹿げていると言われるに違いない。それに、本校の生徒ではない彼女に、犯行の動機がみあたらない。しかし僕には、そう考えずにはいられないのだ。だって、仮にそれが真相だとして、それに誰かが気づいてあげなければ、あの子が、あるいはすずが、あまりにも救われないではないか。気づいてあげることで、救われる何かがあるのではないか。そう思った。なんにせよ僕は、彼女とすずのことは一生忘れないだろう。

後に僕は、すずの墓前に一枚のスケッチと一枚の手紙を捧げた。


 

拝啓 高台のあなた様


ついに最後まで貴方に名前を聞くことができませんでした。しかし僕は、あなたとは名前などで呼び合わなくても、心の深いところで繋がっていたと勝手ながら思っています。

あなたと高台で一緒に過ごした時間は、僕にとって何にも変えがたい至福の時間でした。そのときの感覚は、おそらく、普通の人間にはわからない、特殊な感覚なのでしょう。うまくいえませんが、例えるなら、あなたがとなりにいて、初めて完成するパズルを眺めるような感覚です。僕は、その完成したパズルを眺めているだけで、幸せだったのです。あなたが訪れてからは、景色がより鮮明になったような気がするほどでした。なので、あなたが突然いなくなってしまったのはとても残念だし、悲しいです。正直に言うと、私は飼い猫であるすずやあなたが、殆ど同時に私の元から消えてしまったとき、僕も後を追って、自らの命を絶とうと考えました。だって、いつだって僕の大事な人は、僕を置いて遠くへ行ってしまうのです。しかし、それでは駄目なのです。いつまでも子供では駄目なのです。僕は、両親の死にしたって、どこか受け入れられずにいて、そのせいで、言葉をいまだに話せずにいるのです。しかし、それでは駄目なのです。僕は、前に進まなければいけないのです。どうやら僕には、何事も深く考えすぎてしまいきらいがあるようです。また、問題に直面すると、それを誰にも相談できず、一人で抱え込んでしまうのです。迷惑を掛けまいが為の行為なのに、それがかえって、周りの人を傷つけていたことに、いままできづきませんでした。そういったことも含めて、僕は大きく変わらなくてはいけないのです。

もし、僕が自分の言葉を取り戻したときは、改めてあなたに、自分の口から、ごめんなさい、そしてありがとうを伝えたいと思います。それまでどうかお元気で。さようなら。


敬具


藤沢秋人




墓前には、手紙と共に一枚のスケッチが添えられていた。そのスケッチには、夕日を背景にした一匹の猫が描かれていた。

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