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死神と最期の一週間  作者: 佐武ろく
二日目:火曜日

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5/10

月曜日4

そこには想像通りお父さんぐらいの年齢そうな男性が椅子に腰掛けていた。目が合うなり片手を上げ陽気そうな人だ。


「お嬢ちゃんは入院してるのか?」

「はい」

「そうか。やる事なくて暇だろ?」

「まぁそうですね」


 私の返事を聞きながらおじさんは隣に置いてあった紙袋を手に取った。


「漫画は好きか? えーっと確か」


 そう呟きながら紙袋を開けるとおじさんは中から漫画を一冊取り出し、一度表紙を確認してから私に見せた。


「御伽の住み人っていうタイトルらしい。一応、最新刊だな。実はうちの子に買ってきて頼まれたんだが、どうやら間違っちまったらしい。俺は読まないからもしよかったら」


 おじさんはそう言って私へ漫画を差し出した。


「別に金は取らねーから安心しな」


 少し冗談めいた口調で一言そう付け加えて。


「いいんですか!?」

「俺が持ってても意味ないしな」

「ありがとうございます! 丁度、最新刊読みたかったんです!」

「そりゃあ良かった」


 私は自然と浮かべた笑みのままおじさんから漫画を受け取った。


「ありがとうございます」


 そして再度、頭を下げてお礼を言った。


「いいってことよ」

「それじゃあ早速読ませてもらいますね」


 その場ですぐにでも読みたかったが、その気持ちを抑えつつおじさんと軽い別れを交わした私は早足で病室へ。

 そしてベッドに寝転がると早速、漫画を読み始めた。黙って頁に視線を這わせ(自分ではそんな気はないが)速読でもしているかのように一頁また一頁。気が付いた時には漫画を読み終わってしまっていた。しかもこれまたいいところで終わってる。


「あー! ここで終わり?」


 思わず天井を仰ぐ。


「はぁー。私はもうこの続きも最後はどうなっちゃうのかも分からないんだ……」


 最初は最新刊を読みたかったし、読んでる時もそれは楽しかった。でも読み終わると次が気になって――でも私には次が無い。

 そう思うとついさっきまでの浮かれた気持ちは鎮火し、まるで自分が無意味な事をしていたようにさえ思えた。それどころか、余計に次が気になってもどかしさが増した気分だ。


「その物語がどうなっていくのか知りたいんですか?」

「そりゃあ、ここまで読んできたし。でも今はこれが最新だからね。流石に発売されてないどころかまだ描かれてないかもしれない漫画は手に入らないでしょう?」


 すると真さんは意味ありげな微笑みを浮かべた。いや、もしかしたら私がそう感じただけで特に表情は変えてないのかも。それから私は昼ご飯を食べ、少しだけお腹を休めゆったりとした時間を過ごした。

 夕食までの残り時間をどう過ごすか? それはそんな疑問が過った頃。不意に病室へ足音がやって来た。ふらっと入ってきたのは一人の男性。勝手な想像だけど年齢は三十代ぐらいだろうか。

 彼は無人のベッドに目をやりながら不思議そうな表情を浮かべている。そして最後は私の方へ。


「あのー。吉崎康太って人がここで入院してるはずなんですけど……」


 誰もいない、そういう彼の指が辺りの空ベッドをさらっと撫でる。


「この部屋は私だけですよ」

「え? あー。えーっと。ここって四〇五号室ですよね?」

「それはもう一つ上ですね」

「あっ!」


 自分が階数を間違えてると分かった男性はどこか恥ずかしそうに声を上げると少しだけ後ろを振り返った。部屋の番号を見ようと思ったんだろう。当然ながら内側からは見えない。


「すみません」


 そう謝りながら男性は頭を下げた。


「いえ。全然大丈夫です」


 そして顔を上げた男性は更にもう一度、会釈をして病室を後にしようとしたようだったが――それは突然止まった。

 なんだろうか、私がそう小首を傾げているとドアとは逆にこっちへと歩みを進め嬉しそうに指を差した。


「あの漫画、好きなんですか?」


 指先から伸びた線を辿ってみると、そこには隣の棚に置かれた御伽の住み人の最新刊。


「あぁ、はい。毎回最新刊が出るのを楽しみにしてたんです。でもすぐに読み終わっちゃってまた次を待つ時間が来ちゃったんですよねぇ。楽しいのに読むのはあっという間で」

「いやぁー。それは申し訳ない」


 頭の後ろの手をやり笑みの強い苦笑いを浮かべた男性は何故かそんな言葉を口にした。


「どうして謝るですか?」


 適当に笑って流すには余りにも意味の分からない言葉に私は思わず首を傾げざるを得なかった。


「あっ! すみません」


 すると男性はハッとした表情を見せまた謝った。先程のですらまだ消化できていないのにも関わらず、更に上乗せさせられた謝罪。当然ながら何の解決にもならないそれは今の私にとってただの言葉にしかすぎなかった。


「実は――」


 そう言って漫画と自分を交互に指して見せる男性。何かをアピールしてるんだろうが、その何かに気が付くには少し物足りなかった。

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