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死神と最期の一週間  作者: 佐武ろく
二日目:火曜日

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3/10

月曜日2

 そんな表情を見つめながら私は彼のした説明を思い出していた。


「そう言えば、何でも願いを叶えてくれるって言ってましたけど――あれって本当ですか?」

「何でもとはいきませんが、ある程度のご要望にはお応え致します。私は最期の一週間をより良く過ごして貰う為に、こうして貴方の前に現れたのですから」


 その言葉は私を少しだけ自分が大金持ちで執事を雇ったような気分にさせてくれた。


「とは言え先程も申し上げた通り、制限無くご要望にお応えする事は出来ません。私達はあくまでも他者に働き掛ける等、この人間界を無闇に乱さぬよう心掛けなれけばなりませんので。無理矢理に流れを変える事なく自然に。もちろん、多少でしたら力を使用する事も可能です――人間から見れば神の御業とでもいうのでしょうか? それとこの場所から一瞬にして移動なんて事も残念ながら出来ません。多少の範囲ならば可能な場合もありますが」


 意外と現実的と言うか、色々と制約はあるらしい。


「じゃあこの一週間で世界中を回りたい! なんて夢があっても無理って事ですよね?」

「瞬間移動で各国へというのは申し訳ありませんが。――ですが、思い付きましたら是非とも言って頂ければと思います。もしかすれば意外にも別のやり方で叶えられるかもしれませんので」


 それを聞いた私は取り敢えず「んー」っと何かないか考えてみた。直ぐにはパッと思い浮かなかったものの少し頭を回してみる。

 その結果、思い付いたのが一つ。


「美味しい海老が食べたいな。私海老好きなんですよねぇ。だから最後の晩餐って訳じゃないですけど海老が食べたいかなぁー。あっ、でも折角だから伊勢海老とかそういう食べたことないようなとびっきり美味しい海老がいいですね」


 我ながら中々に意地悪な要望だ。何せ私は今、入院中だから当然の如く食事は病院食。普通のならともかく伊勢海老なんて類の食べた事ないとびっきり美味しい海老なんて無理だろう。

 だからこれは彼が本物か試すためのようなそんな要望だ。


「分かりました」


 でも死神は嫌な顔一つせず、済ました顔で答えた。一体どうするつもりなんだろうか? ならばお手並み拝見といこう。なんて私は一人心の中で気取っていた。

 そんな声にはならない独り言が沈黙に溶けると、普段と変わらない病室が戻って来た。死神がそこに座っている――それを除いてだが。

 私は思わず誰もいない大部屋を見渡した。少し前まで唯一の同室人が一人いたのだが、その人ももう退院してしまった。入院患者がいないというのは良いことかもしれないが、病院的には複雑に違いない。

 私にとっては半々だ。話し相手がいるっていうのも悪くないけど、一人静かにっていうのも嫌いじゃない。

 そんな病室を撫でるように見ていき、最後には日常とは懸け離れた死神へ。


「何だかやっぱり、あと一週間って言われてもあんまり実感ないですね。だから驚いたり困惑したりもしないのかな?」


 改めて自分の状況を確認してみるが、自然と首が傾く。


「では――もし一週間後に世界が終わるとすればまず今日は何をしたいですか?」


 それは在り来りなもしも話。殆どの場合は明日だけど、あまり大差ないだろう。ただ明日世界が終わるとしたらを七回繰り返すかどうかの違いだ。


「一週間かぁ。……って言ってもアタシは結構な縛り付きなんですけどねぇ」


 言葉と共にアタシは少し両腕を広げて見せた。もちろん縛りとはこの入院生活の事だ。


「あっ! もしかして退院したいって願いも叶えられるんですか?」

「お望みならば」


 そう言われて少し心躍りはしたし迷いもしたけど、結局私の答えは変わらなかった。


「いや、いいですかね。特に退院したからといってやる事がある訳でもないし。それに学校とかも全然行けてないんで、友達もいないですからねぇ」


 あはは、と私は笑みを浮かべて見せたが別に強がりとか照れ隠しとかでもない。本当にそれに関しては何にも思ってない。


「でも急に言われて一週間をちゃんと過ごせるかなぁ」

「その為の私です。少しでも満足のゆく最期になるよう努めさせて頂きます」


 そう言って死神は座りながら深々と頭を下げた。


「今のとこ特にやりたいこととかない私ですけど、よろしくお願いします」


 遅れながら私も頭を下げて返す。

 二人の顔が上がると何もなかったかのように再び向かい合った。


「まぁでも、そういうのって普段通り過ごすか好きな事で埋め尽くすかとか意外と限られてますよね」

「そうですね」

「んー」


 それを踏まえた上で再度、頭を絞ってみるがやっぱりこれといって何かが思い浮かぶわけじゃない。でもその事に対して別に自分がつまんない人間だと落胆したり驚いたりはしない。


「――まぁ、とりあえずはいつも通りにって感じで」


 それから私はいつも通り朝食を済ませ、それからも回診やら検査やらこれまたいつも通り。本当にあと一週間で死ぬ人間なのか、と自分に問いかけたくなる程に変わらないスタートを切った。

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