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死神と最期の一週間  作者: 佐武ろく
二日目:火曜日

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10/10

火曜日3

「まずは親だから俺らからスタートね。もちろん親のメリットとデメリットがあるんだけど、今は気にしなくていーよ。取り敢えずこれを捨てようか」


 そう言って坂井さんが指差したのは西と書かれた牌。


「これを手に取って――じゃなくてあぶな! まずは一枚取ってからね」

「あれぇ? ホントにプロですか?」


 透かさず土倉さんが口元を隠しながらわざとらしく訝し気な視線を向ける。


「プロでも凡ミスはあるだろ。ていうかあんたも公式戦でしたことあるだろ」


 てへっ、そんな効果音をつけたくなるような頭の後ろへ手をやる反応を見せた土倉さん。


「それじゃあそれ引いてね」


 言われた場所から一枚引いて、並んだ牌の一番右端に置く(これも後ろから指差しで押してもらった)。その後は坂井さんが牌を見て考え、私は何となく牌を眺めては言われた通りにする。

 そんな感じでそれからも私は坂井さんの指示通りに麻雀を打っていった。でも牌に触れるのも、牌を取って捨てるのも全てが新鮮で殆ど言われた通りにしてるだけなのにそれだけでも十分楽しかった。

 だけど時々どれを捨てた方がいいか問題を貰ったり、どうしてこれを選んだ方がいいのかなどを教えてくれたりと、更に自分も一緒になって打ってるかのような感じでそれがより一層楽しい。とは言え、聞かれたらまずい説明は小さな声で私だけに聞こえるようにしてたし、勝負自体はラフだけど真剣なものだった。


「リーチ」

「――ポン」


 坂井さんの言う通りに打っていき、最初にリーチをしたのは私。それを林川さんがポン。正直、意味は覚えきれてないけどそれが私の捨てた牌を取って自分のにするってことは分かる。


「後は誰かが出すか、引けるかを只管に祈って待つだけ。もう引いたら出すしかなくて何も出来ないから。ただ見逃さないようにね」


 その言葉通り毎回引く時には心の中で強く来いって思いながら手の中の牌をクルリ回しては見ていた。

 するとその時。


「リーチ」


 東雲さんが同じ様にリーチをした。


「さぁどっちが先に引くか。この緊張感を楽しめたら結構メンタル強いと思うよ。あと、多分だけど優もテンパイしてるはずだから」

「テンパイって何ですか?」

「状況はリーチと同じであと一手で揃うんだけど、ポンとかチーっていう鳴きしてるからリーチっていう役が付かないんだよね。まぁいつでも止めたり変えたり出来るリーチだと思って大丈夫だよ」


 それからは坂井さんの言う通り緊張感は更に倍増した。他の人がもしかしたらアガるかもしれないっていうのと思うと自分以外の番でも怖い。

 でも一番緊張するのはやっぱり自分の番。まずアガれるかどうかっていう緊張が先に来て、その次はこれで他の人がアガるんじゃないかって怯えながら牌を捨てなきゃいけない緊張。他の人に気付かれてるかは分からないけど、引く時の手も捨てる時の手も微かに震えていた。

 そしてその緊張の果てに――。


「――つも!」


 坂井さんにそう言うと教えて貰ってから私は嬉々とした声で復唱すると引いた牌を置き、自分の牌を台へ寝転ばせた。


「やるじゃーん! イェーイ!」


 正直に言って私の力は何もないけど、初めて勝てたという喜びが溢れ返りながら坂井さんとハイタッチ。

 そして自動で台の中から既に並べられた牌がせり上がって来ると、坂井さんがこんな提案を口にした。


「折角だから親と一緒に諄々と回って行ったら? 人によって打ち方とか変わってくるからさ。色んな打ち方を体験したら楽しんじゃない?」


 それは私に言ってるというより他の三人への提案だった。


「でも親と一緒に回るならまたそっちじゃない?」

「まぁまぁ、次はそっちで順に回っていったらいいんじゃない?」

「アタシは全然いいけど」


 何やら話が終わると坂井さんは私へ顔を向けた。


「じゃあ次はあっちでまた別の攻めた打ち方を体験してみてね」

「はい」


 言われるがまま私はさっきまで東雲さんが座っていた席へ。


「じゃあよろしくね」

「よろしくお願いします」

「三奈も一緒に考えようよ」

「いいよ」


 そして次は二人のお姉さんに挟まれながら私は麻雀を打った。


「この状況ならこれかなぁ」

「こっちじゃない?」

「これですか?」

「うん。そうだね」


 相変わらずよく分からなかったが、言われた牌を手に取り捨てていく。牌を引く場所もまだ分からなくて毎回のように確認しないといけない。

 でもただ初めて触れる牌の感触とか席に座ってるってだけで麻雀をしてる感じがして、それがやっぱり新鮮で楽しかった。それに三つ一組を四つと二つ一組を一つっていう形は分かるから、それが徐々に出来上がっていくのを間近で見るのも何だかワクワクする。しかも自分が牌を手に取って捨てたり引いたりしてるから少しだけ自分でやってるみたいだ。


「うわっ! ツモいいねぇ~。桜咲ちゃんいくつ?」

「十六歳です」

「若いね」

「やっぱり若いから勢いがあってツモも良いのかなぁ」


 東雲さんは羨ましがる口調だったが、私からすればそんなに羨ましがる必要は無いと思う。むしろ大人だし綺麗で余裕ある感じの東雲さん達の方が羨ましいぐらいだし。

 だって大人なんてどれだけ願っても私には訪れる事がないのだから――なんて事は思わない。もし仮に思ってそれを口にしようものならこの場の雰囲気はとんでもなく酷いものになってしまうだろうし。


「お前らさぁ。そんな事言い始めたらホントにオバさんだからな?」


 そんな若干の呆れと笑い交りの坂井さんの声が隣から聞こえると、私の陰から顔を覗かせた東雲さんの睨み付けるような視線が銃弾のように発射された。


「オジさんに言われたくありませーん」

「オジさーん」


 すると東雲さんに加勢するように向かいの土倉さんは坂井さんへ小さめの声を飛ばした。


「うるせーなジジイ! この中じゃあんたが一番歳食ってるだろ!」


 そんな坂井さんが真っ先に反応したのは土倉さん。それに対してコントのように「酷い」と言いたげな表情を土倉さんは浮かべていた。


「それより早く打ってほら」

「はいはーい。それじゃあ桜咲ちゃん次はこれね」

「はい」

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