表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

いちばんのきらきら(軽量版)

作者: 七瀬みる

「いちばんのきらきら」の文章量をおおはばにへらした軽量版です。


 オリジナル(9,273文字)→軽量版(4,952文字)


ほぼ半分近くまで圧縮しています。



 ある日、さかなのぼうやは思いました。


「いつも水面にみえる、あのきらきらはなんだろう?」


 海のずっと上のほうで、きれいなひかりが、いつもきらきらしているのです。


 いったい、何が、ひかってるんだろう?

 どうして、落っこちてこないんだろう?


 おとうさんに、きいてみました。


「おひさまだよ」


 おとうさんは、いいました。


 海の上には、空があって、おひさまは、そのてっぺんで、燃えている。

 そして、海をあたため、てらしてくれる。

 それだけじゃない。

 こんぶや、わかめ、海ぶどう――海藻たちが、おひさまのひかりをあびて、元気にそだつと、水もきれいになるし、エサになる生きものだってあつまってくる。

 とっても、たいせつな、きらきらなんだ。


 ぼうやは、すっかり、かんしんしました。

「おひさまって、すごいね」

 だから、もっと近くにいってみたい。会ってみたい。

 いつもありがとう、ってお礼をいいたい。

 そう思いました。


 でも、おとうさんは、わらいました。

「それは、むりだよ」


 なんで? どうして?

 ぼうやは、ききました。


「だって、とおい空から、こんな海の下まで、あたためてくれる、おひさまだよ。いったい、どれだけ、熱いだろう。近づいたら、カラカラに、ひからびてしまう。それか、まっくろに、焼けこげてしまうよ」


 それにね、と、おとうさんは、つづけました。


 空は、カモメや、アホウドリなんて、ころしやで、いっぱいなんだ。

 たどりつくまえに、食われてしまうよ。

 なかでも、おそろしい、ころしやは、ニンゲンだよ。

 とっても、ずるがしこくってね。目には見えない、まほうの糸に、おいしそうな食べものをぶらさげて、そのなかに、ワナをかくしておくんだよ。

 まちがえて、食べてしまったら、もう、おしまい。

 ひきずりこまれて……

 あたまっから、むしゃむしゃ、食べられてしまうよ。


 ぼうやは、ぶるっと、ふるえました。


 でも、いちど、うまれてしまった、あこがれは、そうかんたんに、なかったことには、できません。

 それからまいにち、ぼうやは、はるか上のきらきらばかり、ながめて、すごしました。

 そして、いつも、こうかんがえるのでした。


「ニンゲンは、ちょくせつ、おそってくるわけじゃないんだろう? ワナをしかけるだけなんだろう? ぼくは、おとうさんの、むすこだもの。ひっかかったりなんか、するものか」


 そして、ある日、とうとう、決心するのでした。


「そうだ、やっぱり、おひさまに、会いにいこう。どうしたって、いってやる」


 なかまたちからはなれて、ぼうやだけが、上へ……

 はるか水面めざして、およぎだすのでした。


 はじめは順調でした。


 深いところにもぐるときは、水の抵こうがつよくて、押しつぶされそうになります。

 でも、いまは、はんたいに、浅いところにのぼっていくのです。

 水がかるくて、ふわふわ、うかびあがっていけました。


 でも、そのうちに……


 だんだん、まわりが、あかるくなって、それどころか、まぶしいくらいになってきました。

 水もだんだん、あたたかくなって、そのうち、アツいくらいになってきました。

 からだのなかも、なんだか、ヘンです。内がわから、パンパンに、ふくらんでいくみたいな気がします。


「そうか、おとうさんがいっていたのは、このことか」


 まえに、おとうさんが、おしえてくれました。

 浅いところには、浅いところにすむ、さかな。

 深いところには、深いところにすむ、さかな。

 みんな、それぞれの深さがある。

 神さまが、そうお決めになった。

「だから、けっして、深すぎるところや、浅すぎるところに、行ってはいけないよ。たいへんなことになるからね」

 その「たいへんなこと」が、いままさに、ぼうやの身に、おきているのでした。


「うーん、こいつは、たまらないや」


 ぼうやは、すこしだけ、ひきかえすことにしました。

 でも、すこしだけ。

 せっかく、ここまで、のぼってきたのです。

 このまま、ひきさがるなんて、くやしすぎます。


「ああ、なさけない。せっかく、ここまで、やってきたのに、これ以上、どうにも、できないなんて」


 ぼうやは、なんども、あきらめて、ひきかえそうとしました。

 でも、そのたび、やっぱり、あきらめきれなくて、いつまでも、そのあたりを、ウロウロ、してしまうのでした。


 そうこうするうちに、あたりは、だんだん、暗くなってきました。

 きらきらが、だいだい色になっていきました。

 そして、ぱっと、ひときわあかるく燃えあがると、海のぜんぶが、きらきら、まぶしい金色にかがやくのでした。

「ああ、なんて、きれいなんだろう」

 ぼうやはうっとりしました。

 でも、それで、おしまい。

 その一瞬がすぎると、ふっと、あたりは暗くなって……


 とうとう、夜になったのでした。


 われにかえって、ぼうやは、ぶるっと、からだをふるわせました。

 あたりは、まっくら。

 ここは、どこ?

 暗くて、なんにも、見えません。

 かえり道だって、わかりません。

 あっちの暗がりにも、こっちの暗やみにも、ころしやが、ひそんでいるような気がします。

 なのに、ぼうやは、ひとりぼっち。

 おとうさんは、いないのです。


(こわいよ、おとうさん……)


 でも、ぐっと、がまん。

 ぼうやだって、そのおとうさんの、むすこなのです。

(そうだ、まけるものか。ひとりで、かえり道を、みつけてやる)

 よし、行こう。

 そう思った、そのときでした。


「きらきらだ!」


 それまで、まっくらだった海のなかに、突然、まぶしいひかりが、さしこみました。

 見あげれば、水面に、ふたたび、まぶしいきらきらが、ゆれています。

 お昼のおひさまとは、どこか、ちがうような気もしたけれど……

 でも、とにかく、きらきらには、ちがいありません。

 ぼうやは、ほっとしました。


(なあんだ、夜にも、きらきらは、あるんじゃないか)


 だけど、そんなの、おとうさんだって、おしえてくれませんでした。

 もしかして、おとうさんも、知らなかったのでしょうか?

 夜は、ぐっすり、おやすみの時間ですからね。

 だとしたら、大発見、かもしれません。

「すごいぞ、夜のきらきら、ぼくがみつけたんだ!」

 ぼうやは、それまでのこわさもわすれて、はしゃぎました。


 でも、ほんとうは……


 それは、おひさまなんかじゃなくて、夜釣りの船の明かりでした。

 まぶしい電灯にてらされた、船の上に、太い釣り竿が何本もならべられ、するどい針に、おいしそうなエサがとりつけられています。

 そして、もっとたくさんのさかなを、おびきよせるために、まき餌が、まかれるのでした。


「なんだか、おいしそうなにおいがしてきたぞ」


 ぼうやのおなかが、ぐうぐう、鳴りはじめました。

 一日およぎつづけて、もうくたくた。晩ごはんの時間は、とっくにすぎています。

 まき餌のにおいに、ふらふら、ひきよせられていきました。


 こまかくすりつぶされたまき餌は、すっかり水にとけこんで、まわりぜんぶが、おいしそう。

 ぼうやはむちゅうで飲みました。

 でも、そんなスープくらいでは、すきっ腹には、足りなくて……かえって、おなかペコペコ。あたまがおかしくなりそうです。


 まわりには、ほかのさかなたちも、あつまってきました。

 みんな、いいにおいのする、おいしい水を、がぶがぶ飲んで、よっぱらったみたいになって……

 みんながみんな、おんなじように、こうふんして、いっしょになって、おおさわぎ。

 それが、ぼうやもまきこみ、いよいよ、くるったようにさせました。


(おなかすいた。ごはん、ごはん。もっともっと)


 だから、目のまえに、ふわっと、おいしそうなお肉のかたまりが、落ちてきたとき……

 ぼうやには、もう、ふしぜんだとか、おかしいとか、かんがえるヨユウなんて、なかったのです。


 ガブッ!


 ぼうやは、かぶりつきました。

 とたんに、はげしいいたみに、目がくらみました。


「うわーっ、いたい、いたいーっ!」


 釣り針につらぬかれた傷口が、ものすごい力でひっぱられ、ぐいぐいえぐられ、血がふきだして――

 ぼうやのからだは、ものすごいスピードで、ひきずられていきました。

 ぼうやは泣いて叫びました。


「うわーっ! いやだっ! たすけて、おとうさん、たすけてよぅ!」


 でも、いくらおとうさんだって、こんなところまで、たすけにきてくれるはず、ありません。

 ぜんぶ、ぼうやが悪いのです。

 おとうさんのいいつけをやぶって、ひとりで、こんなところまできてしまったから……


 でも、そのときでした。


「まてーっ! わたしの、むすこを、かえせーっ!」


 おとうさんの声が、きこえました。


 ぼうやは耳をうたがいました。

 でも、はっきりと、きこえます。

 全身の力をふりしぼって、ふりかえると……

 やっぱり、まちがいありません。

 つよい、つよい、だれよりつよい、おとうさんが、ぼうやめがけて、まっしぐらに、つきすすんでくるのです。


「おとうさん!」


「まっていろ、すぐ、行くぞ!」


 そうです。さいきん、ぼうやのようすがおかしいので、おとうさんは、ずっと注意していたのです。

 今日だって、ちゃんと気づいて、こっそり、あとをつけてきたのです。ほんとうに、あぶなくなったら、たすけるつもりで。

 でも、釣り船がまき餌をまきはじめると、たくさんのさかなたちが集まってきて、あっというまに、グチャグチャです。

 そのせいで、ほんの一瞬、ぼうやを、見うしなったのでした。


 でも、もうだいじょうぶ。

 おとうさんは、ぼうやを、見つけました。


「そこだ!」


 水面はもう、すぐ近くでした。にせ物のきらきらが、あざわらうようにゆれていました。

 でも、そのおかげで、ぼうやをとらえた、ワナの糸が、キラリとひかったのです。

 おとうさんは、その糸に、かみつきました。


「わ た し の む す こ を か え せ っ!」


 ギューン――ぼうやはもちろん、おとうさんも、いっしょにひきずられていきました。

 おとうさんの口からは、あとから、あとから、血があふれてきます。

 それでも、おとうさんは、くわえた糸を、はなしません。


「おとうさん、やめて、はなして、おとうさんまで、死んじゃうっ!」


「はなすものか、ぼうやをみすてて、じぶんひとり、おめおめと生きていける、そんな父親など、あるものか!」


 おとうさんは、力をふりしぼって、こん身のひと噛みを、あびせました。

 たとえ、ニンゲンのまほうの糸だって、どうして、切れないわけがあるでしょう。


 ブツッ!


「わーっ」

 ついに糸が切れ、反動で、ぼうやが、はじきとばされていきました。

「ぼうや!」

 すかさず、おとうさんも、追いかけました。


 ふたすじの、あかい血が、長く尾をひいて……

 おやこは、深く、もぐっていくのでした。


「いたいよ、おとうさん……」

 さかなのぼうやが泣いています。

 全身がいたくて、息もたえだえ。

 しっかりしろ。

 おとうさんが、はげまします。

 そのおとうさんだって、傷だらけです。

 あたりは、ふかい、夜の海。

 音もなく、しずかです。


 こんな、暗くて、さみしいところで、ぼく、死んじゃうのかな……

 いいつけをやぶった、悪い子だから、バチがあたったのかな……


 ぼうやは、かぼそい声で、そういいました。

 でも、おとうさんは、力づよく、いい切ります。

「ぼうやは、いい子だ。つよい子だ。おとうさんは、知っているぞ」 

 ぼうやは、かすかに、ほほえみました。


 そのときでした。


 ぼうやも、おとうさんも、知らない、海の上で……

 夜空に、お月さまが、のぼりました。

 そのひかりが、しずかに海をてらしました。

 そして、波にゆらゆら、ゆれたのです。


「きらきらだ……」


 ぼうやの目に、力がよみがえりました。

「やっぱり、夜にも、きらきらはあったんだ……」

 それは、おひさまとも、釣り船ともちがう、お月さまのきらきらでした。

 ぼうやは、からだ中がいたいのもわすれて、みとれました。

 すると、おとうさんが、いったのです。


「ぼうやのほうが、きらきらしているよ」


 え?と、ぼうやが、おとうさんのほうをみると……

 おとうさんの全身が、銀色にかがやいていました。

 ぼうやは目をみはりました。

「おとうさんこそ、きらきらだよ……!」

「そうかい?」

 おとうさんが、ほほえみました。

 はげしく戦った、おとうさんのからだは、ボロボロです。

 わなにかかった、ぼうやだって、ボロボロです。

 でも、そんなボロボロのおやこのからだが、お月さまのひかりをあびて、銀のうろこを、きらきら、かがやかせているのでした。

 ぼうやも、おとうさんも、そんな、おたがいのきらきらが、世界でいちばんのきらきらだって、思うのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ