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第3話 いきなり大金を手に入れちゃいました?!

 意を決して店の入口の前に立つと扉が自動で開く。


「うわ、びっくりしたなぁ。もう……あっ、ちょっと待って!」


 ――ギギ、ガギッ、ガギッ!


 驚いて立ち止まっていると扉が閉まり始める。慌てて扉を左右に押し広げようとすると、物凄い音を立てて開いていく。


「お客様、やめてください! 壊したら弁償してもらいますよ!」


 店の中から飛び出してきた店員が慌ててエリスを止めた。


「扉が閉まりそうだったから!」

「いやいや、どう見ても自動ドアですよね?! それより用があるなら、さっさと中に入ってください!」


 言い訳するエリスに店員が鋭くツッコミを入れ、店内に誘導し、手前のソファに座らせた。静かに腰かけると信じられないほどのふかふか具合に驚いてしまう。


「それでご用件は?」

「えっと、これを売りたくて……」


 向かいのソファに座った店員が用件を尋ねると、エリスは自分の指にはめていた指輪を外してテーブルの上に置いた。


 その指輪は聖女の加護を疑似的に再現した防御魔法を展開することができる。しかし、自前で聖女の加護を使えるエリスにとって、無用の長物でしかない。


「ふむ、これは……」


 指輪を手に取ってしげしげと眺める。


「素材は……銀でも金でもプラチナでもないな……玩具じゃないとは思うが……全く分からないな。一応、鑑定機に掛けてみますね」


 店員は指輪を手に持って眉を寄せて唸ると、奥に置いてある鑑定機へと向かった。


「この鑑定機は商品の情報を解析して、マザーコンピュータに金額を計算させる最新式の機械なんですよ」


 店員が指輪を鑑定機に入れ、機械を操作する。


 ――ピロピロピロ。


 しばらく待っていると、鑑定機のモニタに結果が表示された。


「金額は――」

「ろ、ろ、6000億円?! そんなバカな! もしかして壊れたのか……?」


 モニターにはズラリとゼロが並んでいた。


 見慣れない桁数の金額に店員が悲鳴のような叫び声を上げる。そして、慌ててポケットの中から端末を取り出すと耳に当てて話し始めた。


「す、すみません! 鑑定機が壊れたみたいなんです! はい……はい……えっと、金額のところが6000億って……えっ、問題ない? そんなはずは……金額は正常……? ろ、6000億ですよ! ええっ! わかりました……責任は取りませんからね!」


 話を終えて店員がエリスに向き直り、営業スマイルを浮かべた。


「えっと、こちらの指輪ですが……金額は6000億円になります」


 先ほどまでの慌てようが嘘のように、店員は落ち着き払っていた。しかし、その眼光は一層鋭く、まるでエリスを品定めしているよう。


「お支払いですが、現金か口座振込になります。金額も考えますと口座振込がおすすめ――」

「現金でお願いします!」


 口座と言われてもさっぱりなエリスは迷わず現金を選択する。それを聞いた店員は冷や汗をダラダラと流しながら固まっていた。


「えっと、現金……ですか? 正気ですか?」

「正気ですけど……」

「わかりました。少々お待ちください」


 店員はにこやかに微笑むと、ふたたび端末を操作し、耳に当てて話し始めた。


「ちょっと! 現金で欲しいって言われたんだけど……えっ? 一気には無理でも出せるだろうって? ああもう……わかりました! もう知りませんからね!」


 店員は端末をしまってエリスに向き直る。引きつった笑顔を浮かべながらテーブルに手をついた。


「わかりました。出しますので、お待ちください!」


 店員が鑑定機を操作すると、次々の紙の束が吐き出されていく。それを抱えてエリスの目の前に積み上げていった。


「ただの紙切れじゃないですか……現金でください!」

「これが現金ですよ。まだまだ出ますからね!」


 店員はエリスの反論を封じつつ、店員は粛々と紙の束を持ってくる。あっという間にエリスの前にあるテーブルには前が見えなくなるほど、うず高く紙の束が積み重なっていく。


「ちょっと、ストップ! ストォォップ!」

「何ですか? まだまだ出るんですけど」

「いやいや、どれだけ出すんですか!」

「えーと……この100倍は出ますけど?」


 平然とした様子で店員はとんでもないことを言いだした。前言撤回することになるが、慌てて店員を止める。


「とりあえず、いったん考えさせてください!」

「わかりました。あーあ、無駄足を踏んじゃいましたよ」


 嫌味っぽく言う店員にエリスは一瞬言葉を詰まらせる。店員の思惑に乗るようで腹が立つが、右も左も分からないエリスには店員を頼るほかに手はなかった。


「ぐっ……と、とりあえず現金でいただくのは現実的ではないと理解しました」

「では口座振込でよろしいですね?」

「いえ、口座と言われても……」


 エリスの躊躇う様子に気付いた店員がニヤリと笑う。そして、奥からパンフレットと一枚の用紙をエリスに差し出した。


「これは?」

「口座をお持ちではないのでしょう? そんなあなたにおすすめなのが、ダイコク銀行です!」

「おすすめ、ですか?」

「はい、ダイコク銀行は宇宙を牛耳るダイコクグループ傘下の銀行なんです。口座作るためにはマザーコンピュータの認証がいるのですが、こちらからダイコク銀行の口座を作るのであれば認証不要! どなたでも口座がお作り頂けます」


 目を輝かせながら熱く語る店員に、エリスは少し引き気味になってしまう。


「でも、書類の書き方が分からないんですけど」

「お任せください! 代わりに私が書いて差し上げます!」


 至れり尽くせりといった店員の対応に、エリスは少しだけ態度を軟化させて用紙を手渡した。


「あ、その前に札束は片付けちゃいますね!」


 口座を作ると決めたせいか、ノリノリで紙の束を鑑定機に戻していく。あっという間にテーブルの上が片付いて、向かう側に腰かけて用紙をテーブルの上に置いた。


「えっと、まずはお名前から――」


 店員の問いかけに答える形で用紙を埋めていく。しかし、埋められるところが名前と職業くらいだった。職業には聖女と答えたせいで苦笑いを浮かべていたが、何とか押し通した。


「分からないところは適当に書きましたけど、電話番号は必須だからな……あっ、そうだ。この際だから端末も買いませんか?」

「使い方もわからないんですけど……」

「お任せください。しっかりレクチャーしますし、初期設定もバッチリサポートします!」


 店員は奥から一台の端末を持ってきてテーブルの上に置いた。


「少し古い型ですが、ほぼ未使用です! こちらを特別に200万円でお譲りしましょう」

「200万円かぁ……」

「6000億円に比べたら取るに足らないお値段ですよ!」


 円自体の価値がエリスには分からないが、6000億に対して200万が大した金額でないことは理解できた。


「いいでしょう。それで買います!」

「おおおっ! さすが太っ腹! では、設定しちゃいますね!」


 店員は端末を操作しつつ、用紙に記入し、電話で事情を説明する。わずか10分ほどで口座の開設が終わり、鑑定機から振込処理をしてエリスのところに戻ってきた。


「あとは端末代を引かせてもらいますね」

「お願いします」


 端末を黒い機械の上に乗せると、ピッという音がして支払いが完了する。


「これで……この端末はお客様のものです。支払いはほとんどタッチで済ませられますので、お金を持つ必要はありません」


 それだけで支払いが終わったらしく、端末をエリスに差し出した。

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