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十代の不協和音  作者: 鷺岡 拳太郎
エピローグ
25/26

第25話

 

「そんなことが……」

 竹内の話に相槌を打ちながら、山科は頭の中では別のことを考えていた。

 屋上から飛び降りて、亡くなった……。

 おそらく自殺だったのだろう。親との関係、学校内での孤立。心を病む十代の子どもによく聞く話だ。しかし、十年前に亡くなった女子生徒の小テストの解答用紙やノートが、現在の教室にあるわけがない。これらは、十年前にこの高校で自殺した「早川凛」のことをどこかで聞きつけた一部の生徒が行ったタチの悪いいたずらに違いない。

 山科の思考は、竹内の言葉に遮られる。

「でも、どこで山科先生は早川凛の名前を知ったのですか?」

「え?」

 山科は竹内の質問にどのように答えるか、一瞬迷った。

 小テストの中に「早川凛」と書かれた答案があったこと。二年一組の教卓の上に、同じく「早川凛」と書かれたノートがあったこと。そのことを正直に竹内に話すのにはためらいがあった。あまりに悪質ないたずらだったので、他の教師には知られない方がいいだろうという計算が頭の中で働く。

 とっさに山科は「ええ、まあ……」と言葉を濁していた。

 話をそらそうとして、逆に竹内に、「その早川凛という生徒は、この高校の何年の生徒だったのですか?」と質問した。

 竹内は溜めるように小さな間を作ってから「二年です」と言った。そしてその言葉に続けて、次のようなことを口にした。

「現在、山科先生が担任されているクラスと同じ、二年一組です」

 山科はその符合に少し驚いたが、さすがに、十年前に亡くなった女子生徒の答案やノートが目の前にあると思わないだけの理性は持ち合わせていた。山科の「わざわざ教えていただき、ありがとうございます」という言葉で会話は終わり、二人はそれぞれの仕事に戻った。

 山科は、このノートについては帰りのホームルームで再び生徒たちに話をしよう、と頭の片隅で考えながら次の授業の準備を始める。誰がこのようないたずらをしたのか。朝のホームルームでもこのノートについて生徒たちに尋ねたが、誰も答えなかった。帰りのホームルームでも名乗り出るものはいないだろうが、それでもこのようないたずらが二度と無いよう厳しく注意をしなければならない。

 その日、山科には一限目の授業は無かった。

 次の授業は、二限目の一年三組の英語の授業だ。

 机の隅に置かれた小さな本棚から、一年生向けの教材を取り出そうと右手を伸ばす。その時、たまたま同じく机の隅に置いてあった、表紙に「早川凛」と書かれたノートが目に入った。そして同時に、先ほど竹内から聞いた「遺書として、一冊のノートが彼女の机の中に残されていたらしいです」という言葉を思い出す。まさか、これがその遺書のノートではないだろうと思いながら、その考えが一度頭の中に浮かぶと、蜘蛛の巣に絡め取られた蝶のように山科の意識からそのノートのことが離れなくなっていた。どこかの生徒のいたずらだと決めつけていたので、二年一組の教卓の上でこのノートを見つけてから、ノートは一度も開いていなかった。

 どうせ、白紙のノートに決まっている。

 一度、中を見てしまえばはっきりするのだ。

 山科は本棚に向けていた右手を止め、代わりにそのノートを掴む。手元に引き寄せ、改めて表紙を見つめた。表紙には丁寧な文字で「早川凛」と書かれている。他には何も書かれていない。

 山科はその表紙を静かに開いた。

 白紙のノートを予想していたが、案に反して、ノートの一ページ目には、細かな文字で文章が書かれていた。表紙に書かれた「早川凛」の文字と同じ筆跡の、丁寧な文字で書き込まれている。

 山科は黙ってその文章を読んでいく。


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