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十代の不協和音  作者: 鷺岡 拳太郎
エピローグ
23/26

第23話

 

 エピローグ


 山科英明がガラガラと教室のドアを開けると、今まで自分の席を離れておしゃべりをしていた生徒たちが慌てて自分の席に戻る。

 いつものことだったので、山科は特に気にすることもなく教壇の前に向かった。右手に持った出席簿を開き、教室の中にぐるりと視線を巡らせる。窓側の席から順に、廊下側の席へと確認していくが、主のいない空いた机は一つもない。今日も欠席の生徒は一人もいないようだ。山科は上着のポケットに差し込んだボールペンを取り、出席簿の今日の日付の欄に、「欠席者なし」と書き込む。

「それでは、朝のホームルームを始める。

 まず、昨日お前たちに話していた、K線の乗客からのクレームについてだが、クレームの対象となった生徒が分かったそうだ。彼らが自分から教師に申告したらしい。彼らには厳重注意が与えられている。

 二年一組の生徒にこのような生徒はいないと俺は信じていたが、今後もくれぐれも注意するように」

 クレームの対象となったのは隣の二年二組の生徒だった。その件で今朝の職員会議で教師たちは、教頭から口を酸っぱくして、生徒たちに再度注意喚起するように言われている。人騒がせなものだ。一応はホームルームの中で二年一組の生徒には注意をしたので、これで自分は義務を果たした。

 山科はそのような思いを心の中で噛み殺しながら、ホームルームを続ける。どうせ何度言っても、目の前の生徒たちにはすぐに左耳から右耳に抜けていくのだろうと思いつつも、これが仕事なのだからと自分を納得させてホームルームを続けている。

 本当に誰のための学校なのだろう……。

 その心の声は誰にも届くことはなく、山科は「これでホームルームを終わりにする」と締めた。



 二年一組の六限目の授業は、山科が受け持つ英語の授業だった。

「そうだな……。では、この問題を……」

 山科は教壇の上から教室を見回す。

 生徒たちは、自分が当てられないことを願うかのように皆、目を伏せている。その中でたまたま、廊下側の一番後ろの席に座る一人の生徒と目があった。山科はその生徒に当てることにする。

「では、渡辺。この文を日本語に訳してみろ」

 黒板には『Even though he was tired, he continued to work until late at night.』と書かれている。渡辺と呼ばれた男子生徒は少し考える素振りをしてから、「彼は疲れていたので、夜遅くまで働かなかった、ですか?」と答えた。

「違うだろ、『even though』の意味は、『なので』ではなく『にもかかわらず』だ。だからこの一文の意味は『彼は疲れていたにもかかわらず、夜遅くまで働き続けた』になる。

 前回の授業で習ったばかりだろ」

 男子生徒は、特に反省する顔も見せずにただ口だけで「すみません」と謝る。山科は小さく溜息を吐いてから、前回の授業でやった内容を、もう一度そっくり繰り返すしかなかった。

 授業も終わりに近づき、山科は「最後に、今日の授業の内容についての小テストを行う」と生徒たちに告げる。そして用意してきたプリントを前列に座る生徒に配っていく。プリントを手渡された生徒は、自分の分を一枚抜き取り後ろに回していく。

「それでは始め」

 山科の声を合図にして、生徒たちはカリカリとそのプリントに答えを書き込み始める。

 十分が経過したところで山科が「それではテスト終わり。後ろから前にプリントを回していってくれ」と言うと、生徒たちは黙ってプリントを前に回していく。配ったときと同じように前列の生徒に回答が書き込まれたプリントが戻ってくる。最後に山科は、一列ずつそのプリントの束を受け取っていった。


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