光を失った都市
エルン・アーシ――希望ではなく、傷を抉る光しかない、灰色の街。
今夜は、生き残った者たちが最後に記憶したいような夜だった。
霧が街の隅々までを覆い、亡霊たちの手のように離そうとしない。老朽化した建物は静寂の中にそびえ、錆びた鉄、乾いた血、昨夜の焼け焦げた木材の臭いを放っていた。雨に濡れた石畳は、灰色の雲に囚われた月の光を鈍く反射し、すべてが凍りついた悪夢のように見えた。
遠くから、鉄を引きずる音と荒々しい笑い声が静寂を切り裂いた。路地の隅、湿ったレンガ壁にぶつかりながら、一人の男が倒れた。震える体、こめかみから流れる血。
「へへ……見ろよこのザマ。昼間は偉そうにしてたくせに」
荒くれ者の声が響く。三人の男が彼を取り囲んでいた――錆びた鉄パイプ、壊れた椅子の脚、飢えた蛇のように軋む鎖。彼らはただ暴行しているのではない……楽しんでいるのだ。一撃一撃が正当性のない罰であり、笑いはこの街でとっくに葬られた人間性への冒涜だった。
「俺は……ただ、店を……家族の店を守ろうとしただけだ……」
傷ついた男の声はかすれ、目には逃げ道を探す色が浮かぶ。
「生意気だな?」
「ボスに直接文句言えよ。運が良ければ、舌を抜かれるだけですむさ」
木箱と錆びた樽の陰で、二十歳にも満たない若い女性が震えていた。雨で濡れたドレスを体にまとめ、腕には小さな女の子――唇を噛んで泣き声をこらえている。母親は目を閉じ、息を殺し、彼らに気づかれないよう祈った。
しかし……
足音がした。
急がず、しかし一歩ごとに心臓を締めつけるような重い足音。
闇の奥から、黒いローブをまとった背の高い人影が現れた。かすかな光に浮かび上がったそのシルエットに、三人の男は凍りつく。
「おい……あいつだ……」
声には勇気がなく、強がりだけが混じっていた。
「続ける……か?」
即答はなかった。だが、鉄パイプを持った男がゆっくりと後退り、髪をかきながら無言で頭を下げた。他の二人もそれに倣う。
沈黙。
数秒が永遠に感じられた。
そして……ふと、風が唸るような吐息が聞こえたかと思うと、三人は急いでその場を離れた。一人が去り際に傷ついた男を蹴ったのは、自身の恐怖を誤魔化すためだろう。
路地に残された男の体は、ボロ人形のように崩れ落ちた。
「なんで……みんな……あいつを怖がるんだ……?」
樽の陰の女性が目を開ける。震える手でポケットから古いお守りを取り出す――もはや誰も信じない、過去の時代の護符だ。
「アヤネ……彼らの方を見ちゃダメ。早く……ここから離れよう」
しかし、少女の目は空っぽの路地……さっきまで影が立っていた場所を見つめていた。今やそこには霧とネズミの音、そして再び降り始めた雨――この街が毎夜見せられる光景を嘆く天の涙だけがあった。
「ママ……あの人、だれ……?」
母親は答えなかった。
この街で彼の名を口にすることは死を意味するからだ。
だが、誰もが知っていた。
影。
闇夜の神。
抗えず、飼い慣らせず、無視することもできない存在。
この街では、闇は単なる風景ではない。支配者なのだ。
そして、エルン・アーシで息をするすべての者が知っている
闇と共に歩むのは、ただ一つの名だけだと。
小さなアヤネの足が水たまりに触れ、石の間にぬかるんだ跡を残す。母親の指を握りしめる手は、嵐の中の最後の錨のようだった。
「ママ……」
「しゃべっちゃダメ、アヤネ」
母親―レインの声は鋭く、しかし怒りではなく、長く押し殺された恐怖が生存本能に変わったものだ。エルン・アーシでは、間違った時に話すことが最期の息になる。
彼女たちは狭い路地から這い出し、ゴミの山、傾いたドアの枠、風に揺れるランプの横を通り過ぎる。この古い街の道は、もはや死の迷宮だった。ここで生まれ育った者でさえ、帰れなくなることがある。
「もう……安全?」
「いいえ」
その答えはアヤネの心に石のように沈んだ。
「……でも、きっと大丈夫」
彼女たちは気づかなかった。
高い屋根の上で、一対の瞳がじっと見下ろしていることを
動かず、瞬きもせず、街そのものとなった影のように。