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カイ・ルート

「星空観察会」の選択肢までは、ほぼ他のルートと同じ内容です。

エリス・フローレルは馬車の窓から、ルミエール郊外の丘陵を眺めていた。

春風が運ぶ星花の甘い香りが、彼女のピンクブロンドの髪をそっと揺らす。

初めて生まれ育った町を出て、ヴァルテリア王国の首都ルミエールへ向かうこの旅は、彼女の人生を変える一歩だった。


田舎町の小さな本屋の娘が、ルナリス王立学園の特待生として選ばれたのだ。

手に握りしめた入学許可証には、金箔の徽章が輝いている。

「私、どんな物語を紡げるかな!」


試験での詩作と歴史論文は満点を叩き出したが、貴族社会になじめるだろうか。

それでも、父の「本の魔法を信じなさい」という言葉と、母の刺繍が施されたハンカチが、彼女の心を支えていた。



馬車が学園の門前に停まると、エリスは息をのむ。

白亜の校舎が朝陽に輝き、星花の花壇が色とりどりに咲き誇る。

生徒たちのネイビーの制服が風に揺れ、まるで絵画の世界だ。

「わあ、素敵!物語の世界みたい!」

エリスの胸がこれからの学園生活への期待に満ちる。



門をくぐった瞬間、特待生の金の徽章に貴族の生徒たちの視線が突き刺さる。

「平民が…」「特待生だって?」囁き声が耳に届き、エリスは肩をすくめた。

「気にしない、私には私の物語があるもの」

彼女は自分を励まし、荷物を抱えて校舎へ向かった。


だが、階段でつまずき、荷物が地面に散らばる。

(ああ、こんな時に…)

顔を赤らめ、涙ぐみそうになったその時、たくましい手が本を拾い上げた。



「大丈夫か? 初日から派手な登場だな!」

赤みがかった茶髪の少年が、屈託のない笑顔でエリスを見た。

ガイル・ブランウェル、地方貴族の次男で騎士見習いだ。

「特待生のエリス・フローレルだろ。同じクラスだ。よろしくな! 何かあったら俺に言えよ」

彼の気さくな声に、エリスはほっと笑みを返す。

「ありがとう、ガイル。助かったわ」



その日の午後、入学式が大講堂で執り行われた。

絢爛なシャンデリアの下、校長の挨拶が響く中、エリスは壇上に立つ金髪の青年に目を奪われた。

レオン・ヴァルテリア、第一王子だ。

青い瞳が会場を見渡し、優雅な仕草で全員に微笑む。

「新入生の皆、ルナリスは未来を切り開く場所だ。共に学び、成長しよう」

その声は温かく、エリスの心を震わせた。

(王子様、なんて素敵なの!)


だが、彼の隣に立つ金髪の令嬢、クラリス・ラルティスと目が合い、鋭く睨まれてしまう。

レオンの婚約者だ。

エリスは思わず視線をそらした。



式の後、エリスは図書室に足を運ぶ。

本の匂いに癒されたかったのだ。

そこには、銀髪に銀縁メガネの青年が静かに本を読んでいた。

シルヴィオ・ラルティス、クラリスの兄だ。

彼はエリスに冷たく一瞥したが、彼女が手に持つ詩集に目を留める。

「君が特待生のエリス・フローレルか。詩に興味があるのか」

その口調に感情は読み取れなかったが、エリスは彼の紫の瞳に知性の輝きを感じた。

「はい、シルヴィオ様。詩は私の宝物なんです」

彼女の笑顔に、シルヴィオは一瞬まぶしそうに目を細めた。



夕暮れ、エリスは学園の温室に迷い込んだ。

星花がガラス越しに輝く中、黒髪に金の瞳の青年が花に水をやっていた。

カイ・ヴェルモンド、大きな商会をもつ新興貴族の子息だ。

「こんなところに可憐な蕾が。初めて見る花だな。名前は?」

彼の妖艶な微笑に、エリスは頬を染める。

「エリスです」

「どんな花が開くのか楽しみだね」

と言って、エリスの髪を一房すくいあげ、キスをした。



だが、華やかな出会いの裏で、冷たい視線がエリスを刺す。

クラリス率いる貴族の令嬢たちの派閥である”瑠璃会”に目をつけられてしまう。

平民のエリスは、貴族文化になじみがなく、ついつい男子生徒との距離が近くなってしまう。

エリスが男子生徒とおしゃべりをしていると、女生徒たちからの冷ややかな視線を感じる。

通りすがりにわざと聞こえるように、「平民」「男たらし」「身の程知らず」という声が聞こえる。

特に、カイのファンクラブの女生徒たちのあたりが強かった。



(選択肢)

- 女生徒たちに反論する

- 黙って耐える

- カイに助けを求める



エリスはぐっと堪えた。

言ったところで何になる。

何を言い返せばいいのか正解がわからない。

初めての貴族社会の厳しさを実感する。

だが、彼女は自分を信じ、前に進むことを決意し、顔をあげる。




春:星花祭


星花が散り、新緑が芽生える頃、エリスは学園生活に慣れ始めていた。

授業では文学と歴史で頭角を現し、貴族の生徒たちも彼女の実力を認めざるを得なかった。

しかし、瑠璃会の女生徒たちからの嫌がらせは続く。

ある日、食堂でエリスが持つトレイをわざとぶつけ、料理を床に落とした。

「あら、平民には銀の皿が重すぎたかしら?」

モブ女子の嘲笑に、周囲が笑う。

エリスは唇を噛み、涙をこらえた。


春の学園で一番大きなイベント、星花祭の夜。

学園の庭園はランタンの光に彩られ、女子学生たちは星花の花冠を編んで、恋人やお世話になった人、友人など特別な人に贈る。


エリスはレオンに誘われ、ダンスの輪に加わった。

ガイル、シルヴィオ、カイ、それぞれとも踊る。

彼女の心は、4人の異なる鼓動に揺れ始めた。


踊りつかれたエリスは一人、星花を手に庭の隅に座っていた。


(選択肢)

「誰に花冠を贈る?」

- レオン

- シルヴィオ

- カイ

- ガイル

- 誰にも贈らない



祭りの喧騒から離れた庭の片隅、星花のアーチの下のベンチにカイを呼び出す。

黒髪が夜風に揺れ、金の瞳がランタンの光を浴びて怪しく輝くのに一瞬見とれる。


「カイ、これ、もらって」


エリスは花冠を差し出す。

カイの瞳が一瞬揺れ、まるで彼女の心を覗き込むように深くなる。

「君が頭にのせて」

と言って、頭を差し出す。

細くて艶のある夜色の髪を撫でたくなる衝動をおさえ、花冠を頭にのせる。

彼はエリスの手を取り、唇をその指先に押し当てる。

「ありがとう。この華奢な指で作ってくれたんだね」

温かく、わずかに湿った感触にエリスは息をのむ。

月光の下、星花の花びらが二人の間に舞い落ちる。

エリスはその後、ベンチに並んで何をしゃべったか思い出せないくらいドキドキしていた。




夏:星空観察会


ルナリス王立学園の夏は、青春のざわめきに満ちていた。

それは、夏の終わりに開催される「星空観察会」だ。

学園の丘陵に広がる天文台が開放され、学生たちが望遠鏡を覗き、星座の物語を語り合う夜。

エリスは、学園の庭園に立ち、夕暮れの空を見上げていた。


今夜、彼女は誰かと星空を共有する。

そしてその選択は、これからのルートが確定することを意味する。


噴水広場で、レオン、シルヴィオ、カイ、ガイルがエリスを囲む。

レオンは「君に守護星を見せたい」、シルヴィオは「星図を一緒に見よう」、カイは「星の物語を語ろう」、ガイルは「流れ星を探そうぜ!」と口々にエリスを誘う。


(選択肢)

「誰と星空観察会を過ごす?」

ーレオン

ーシルヴィオ

ーカイ

ーガイル

ー一人で星を見る


エリスは心臓がドキドキと高鳴るのを感じながら、4人の視線を一つずつ見つめ返した。


「カイ」と、彼女は小さく、しかしはっきりと呟いた。


その瞬間、場の空気が微妙に変化した。

レオンの穏やかな笑みが一瞬固まり、シルヴィオの眉がわずかに動く。

ガイルは「あ、そっか!」と明るく笑ったが、その声にはどこか寂しさが混じっていた。

カイだけが、妖艶な微笑を深くし、金の瞳を細めてエリスに近づいた。


「いい選択だ、エリス。後悔させないよ」

カイはエリスの手を取り、まるで舞踏会のステップを踏むように軽やかに彼女を天文台へと導いた。


天文台の屋上は、ルナリス王立学園の喧騒から隔絶された静かな場所だった。

木々のざわめきと、遠くで響く虫の声が、夜の調べを奏でる。

屋上の中央には古い望遠鏡が置かれ、その周囲には星図やランタンが散らばっていた。

二人は毛布に腰を下ろし、空を見上げた。

ヴァルテリアの夜空は、まるで黒いビロードにダイヤモンドを散りばめたように輝いていた。

エリスは星座を指さし、詩人のようにその美しさを語り始めた。

「見て、カイ!あの星座、ヴァルテリアの竪琴座だよ。恋人たちが空で再会する物語なの。ロマンティックだよね」

カイはエリスの横で膝を抱え、彼女の声に耳を傾けていた。

だが、彼の視線は星空ではなく、エリスの横顔に注がれていた。

「エリス、君は本当に…星みたいだ」

カイの声は低く、どこか切なげだった。

エリスは驚いて彼を見た。カイの金の瞳は、星空よりも深く、複雑な感情を湛えていた。

「星?私、ただの平民だよ?カイの方が、なんか…ミステリアスで星みたいだと思うな」

彼女は照れ隠しに笑ったが、カイは真剣な表情で首を振った。

「違う。君は、どんな暗闇でも輝ける光だ。僕みたいな人間には、眩しすぎるくらいだ」


その言葉に、エリスは息を呑んだ。

カイの過去については、学園で囁かれる噂しか知らない。

ヴェルモンド家にまつわる黒い噂。

だが、今、彼女の隣にいるカイは、そんな噂とは別人のように脆く、純粋に見えた。


「カイ…そんな風に言わないで。私には、こうやって一緒に星を見てくれる、優しいカイだよ。」

エリスはカイの手をそっと握った。

その小さな手は温かく、カイの冷えた指を包み込むようだった。

カイは一瞬目を閉じ、深いため息をついた。

「君は本当に、僕の光だ、エリス」

その瞬間、夜空に流れ星が一筋、輝きながら落ちていった。

エリスは目を輝かせ、「カイ、見た!?流れ星!」と叫んだ。カイは微笑み、彼女の髪にそっと触れた。

「願い事、した?僕は…もう叶ってるかもしれない」




秋:仮面舞踏会


仮面舞踏会が近づく中、エリスはカイの様子に異変を感じる。

温室で星花に水をやる彼の背中は重く、普段の妖艶な微笑が影を帯びている。

「カイ、大丈夫? 何か悩んでるみたい…」

エリスがそっと手を伸ばすと、カイは一瞬目を逸らし、すぐに笑みを浮かべる。

「舞踏会で君が着るドレスを考えていたんだよ。受け取ってくれるよね」

「本当?うれしいわ」

エリスはそれ以上踏み込んで聞けなかった。


舞踏会の朝、カイからエリスに豪華なドレスが届く。

黒いベルベットに銀糸で星花が刺繍され、肩を露わにした流れるような、初めて身に着ける大人っぽいデザイン。

胸元にはカイの身に着けているピアスと同じサファイアのペンダントが輝く。


舞踏会が始まる。

大広間は燭光と音楽に彩られる。

カイは黒い仮面をつけ、エリスをダンスフロアに導く。

指を絡ませ、腰に手を滑らせる。

吐息が耳元をくすぐり、エリスの心は高鳴る。


踊りつかれて、庭園のベンチで夜風にあたる。

「カイ、今日こそ聞かせて。何を悩んでるの」

エリスは明るく冗談ぽくカイの胸倉をつかむ。


「エリス、僕がヴェルモンド家の養子なのは知ってるよね。

身寄りがなく、路地裏でスリや小間使いなんかをしてしのいでたんだ。

そんな時、僕の容姿と頭脳を見込んだヴェルモンド家に拾われた。」


カイの声は低く、深い傷を帯びているように見える。

エリスは彼の手の冷たいてを両手で包む。


「養父の商会は裏社会と繋がってる。

麻薬、武器…俺は汚い仕事の駒なんだ。

今も養父は俺を縛り、商会を継がせようとしてる。

君をこんな世界に巻き込みたくないのに…君を離したくないと思ってしまうんだ」


彼の声は震え、金の瞳に涙が滲んでいる。


(選択肢)

「エリスはどう応える?」

- 黙ってカイを抱きしめる

- 「離さないで」

- 「いっしょに立ち向かおう」



エリスは黙ってカイを抱きしめる。

カイを一人にしたくない、自分が支えになりたい、私を頼って、という気持ちを込めて、しがみつく腕にぎゅっと力を込めた。




冬:聖夜祭


冬の聖夜祭は、雪の大聖堂で詩の朗読会が開かれる。

エリスは新作の詩を披露し、平民の夢を無邪気に歌い、聴衆を魅了することに成功する。

カイは商会の仕事で出席できないと言っていたが、エリスの朗読が始まってすぐに、息を切らせて入ってきた。

後ろの壁にもたれて、じっとエリスの声に聞き入っている。


朗読会の後、カイはエリスを庭園のいつものベンチに呼び出した。

そこは、無数の水晶ランタンが星空のように輝き、純白の絨毯が星花の花びらに見立てた光で覆われた小道を彩る。

アーチがダイヤモンドのようにきらめき、その下にカイが立つ。

胸にはエリスとお揃いのサファイアのブローチが輝く。

背後では弦楽四重奏が甘美な旋律を奏でる。

「な、何、これ、カイ…」

カイはエリスを小道の中央に導き、彼女の手を取り、跪く。


「エリス、家を出ることにした。話もついている。貴族でもなくなるし、しばらくは貧乏になる。自分の商会を立ち上げるよ…」


カイは、星花の花びらを散らした黒いベルベットの箱を開ける。

中にはカイとエリスと同じ瞳の色の、サファイアとエメラルドが星座のように輝く指輪が収められている。


「俺と結婚してほしい。君と新しい世界を創りたい。」


エリスは涙で頬を濡らし、声を震わせて答える。


「はい。カイ、お嫁さんにして」


音楽が盛り上がりを見せ、光のアーチの下、カイは立ち上がり、エリスを抱きしめた。

「しばらく苦労をかけるかもしれないけど、今夜は特別な夜にしたかったんだ。がんばりすぎたかな」

真冬にも関わらず、たくさんの花弁が宙を舞う。

「ふふふ、びっくりしたけど、すてきよ」

二人はしばらく抱きしめ合っていた。




春:星冠の儀式


春が再び訪れ、ルナリス王立学園は1年の締めくくりを迎える。

学園の中央広場では、「星冠の儀式」が開催される。

これは、学生たちの功績を称え、卒業生や特別な発表を行う盛大な式典だ。

「星冠」は、ヴァルテリアの伝説に登場する、星の宝石が輝く冠だ。

星冠は、愛と希望の象徴であり、ヴァルテリアの民を導く者に与えられるとされている。

この儀式では、将来有望な生徒に冠を付し、学園の未来を祝福する。


星冠の儀式で、エリスは文学の優秀者として星冠を授かる。

カイは観客席から彼女を誇らしげに見つめていた。




卒業後、カイとエリスは新たな商会を立ち上げた。

ヴァルテリア王国の港に停泊する大きな帆船の甲板、夜空は満天の星に覆われている。

「エリス、君は俺の行く先を導くヴァルテリアの守護星、ステラ・レギアだ。これからもすっと僕の行く先で輝いていてくれ。」

「カイ、どこまでもいっしょに」

突然、船の周囲で花火が打ち上がり、金と銀の光が海面を照らす。

乗組員たちが甲板で拍手し、遠くの港町から祝福の鐘が響く。

カイはエリスを抱き上げ、星空の下で深くキスを交わす。

船はゆっくりと動き出し、夜の海へ進んでいった。



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