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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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5-20

 「あの……これ、私聞いていいやつなんですか?」


 リアの形の良い口元から語られる、予想以上に重い過去の話を聞いたメイリは少し引き気味にそう言った。

 

 カフェ「サギュリティア」の採光を意識した、柱が行き交う高めの天井も、今は心なしかずっと近くに感じて、メイリは思わず息が詰まるような気分になった。


 まだ一口、二口しか口をつけていない、カフェ「サギュリティア」の特製カフェオレからもたらされていた、香しい珈琲とミルクの香りも、温度が下がったことによって大分その揮発性を下げて、彼女たちの重苦しい雰囲気の中であまり目立ち過ぎないようにテーブルの上でちょこんとかしこまっている。


 「いいんだよメイちならねー。なぜならー、これはミーちが提案したことだからー」


 「え゛……あの人なに考えてるんですか?こんな話されたら次会うとき気まずくなるじゃないですか」


 「そうねー」


 リアもやはり彼女は彼女で思うところがあるのか、伏し目がちな視線でそう呟くと、手に持ったストローで、黒々とした液体の中で未だ混ざりきることの無くその姿を保っている結晶をからからと揺らした。


 「あっでも、ふふっ、それってちゃんと次も会ってくれるってことでしょー?」


 だけど、口に含んだ珈琲の風味が予想以上に溶け出したそれによって、薄れていることに気付いて、リアは思わず笑みをこぼした。


 「まあ、そうですけど」


 「しかも友達やめるつもりもないー?」


 「……ええ、私は器がでけぇ女なので」


 「あはは、このツンデレさんめー」


 そして不意に横から飛んできた文学的な情緒もまるでない、下劣な笑い声ももしかしたらその内に、同僚に対する懸念や気遣いがあったのかもしれない。


 「うるせえな、このゲロ。お前はもっとキャラ変しろ、このゲロ――――……こほん、それはそうですよ。そもそも、私からすれば別に印象が変わったとか、軽蔑したとかそういうのも別にないですしね。むしろイメージ通りというか……やりそうっていうか……というか大体あの人考え方極端だし、すぐ周りが見えなくなるし、力強いし怖いし、そういうところ全然変わってないし……」


 「ふふっ、まあ私たちネームドだしねー。私たちの特徴は良くも悪くも感情に絆されないところ。ミーちだったら世界かヒロインかってよくあるお題でも迷わず世界を選べる、そういうタイプ。そうなるように創られてるって言った方がいいかな。彼女には絶対的な善とあまねく公平、そして真実しかない。全く素直過ぎるよね」


 「そう……ですね。残酷ですけど……でも、あれ……?」


 「そうだね。でもそう単純に捉えることは私たちの視点からは難しい。私たちには――見かけ上だけかも知れないけど――自由意志もあるし、短期間だけならば状況の目まぐるしい変化で性格が変わってしまう事もある。まあ、つまり感情もあるってこと……大体は長続きせずにすぐに元に戻っちゃうんだけどね」


 「……」


 メイリは件の彼女とそして自分について思いを巡らせた。観察する視点によってそれらの事象の捉え方は大きく変わる。大まかな因果は変わらないとしても、それらの情報やそれを元にした論理を構築することによって、主観による他人の印象は大きく形を変えるのだ。


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