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「僕たちの方が圧倒的に正しくて、圧倒的に強いんだよ!!」
勝ち誇ったように笑みを浮かべる彼の表情に、リアは自らの敗北を悟った。
彼らは正しい。
長く辛い旅の記憶は、絶えず彼女の中に居座って、不変であるはずの彼女の魂でさえも侵食して、その繊細な心を摩耗させていた。
「お前ら!リアを離せ!!」
クエリのらしくない怒号が大広間に響き渡った。
大賢者たる彼にはわかるのだろう、この術式の異様さが。
「何をしたのかは知らんが、そんな脅しには俺たちは屈しない!!だから大人しくリアから離れろ!さもないと――」
「さもないとなんだって?」
焦るクエリの口調に、少年が勝ちを確信した様に口元を歪めた。
「お前こそさっさと理解した方がいいんじゃないか?この状況を」
「ふっ、君こそ何も理解できていない。たとえ一人行動不能にしたところで、俺たちに限りは無い。いずれ限界が来るのは君の方さ」
「ははっ!これまで通りならその通りだろうな!だけどもうお前たちは安全じゃない!どうだ?お前たちがこれまで強いてきた理不尽が自らの身に降りかかった気分は?」
「そんなのはったりだ!良いから大人しく降伏しろ。さもないと――」
「だったら力尽くで止めにこればいいだろ?ほら来いよ。早くしないとこのお仲間は本当に取り返しのつかないことになってしまうぞ?」
少年がリアに目線を送ると、床に描かれた魔法陣が一際大きな光を放って、彼女の表情を歪ませた。
「リア!!――――いいだろう。話し合いに応じよう。ただしその人質を解放してからだ」
「いや、それはできない。お前たちが僕たちにした事を忘れたのか?そんな信用がお前たちにあるわけないだろ」
「そうか、ならこうしようじゃないか――」
しかし、少年と少女に語り掛けることによって、時間を稼いでいたクエリが、何かに気付いたように彼らの足元を見た。
そしてどういうことかそれと同時に今までの焦ったような表情が、また別の諦めたような表情へと変わった。
リアはその表情の変化に、これから何が起こるのかを悟って、更なる虚無に心が満たされていくのを感じた。
「おい、どうした?黙り込んで。今更怖気づいたか?だがもう遅い。愚鈍なお前にそっくりそのままこの言葉を返してやろう――」
だが、少年は気付かない。
そして――
「降伏しろ、さもなければ――」
少年の言葉は唐突にそこで途切れた。
「こうなるってことさ……」
クエリは圧倒的な力の前にただ膝を折ってそういった。
「え……える……君……?」
少女は一瞬の間に起こった出来事をまるで理解できていないようだった。
いや、少女だけではない。恐らくこの世界で生きとし生けるものは誰一人理解することはできないだろう。
その圧倒的な力、速度、技量、そして――
「だから、油断しすぎだって言ったよね?」
その全てを見通す眼光――




