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その時、エルハルトの真夏の太陽の記憶が突然やって来た大雪によって塗り替わった。吹きすさぶ吹雪は連なる山々をその白で染め、降り積もり、館をも覆いつくして一面を雪原へと変えた。
一面が白と灰の、寒々しく凍てつくような記憶――
それは照りつける太陽の記憶とは真逆の色も温度も全てを失った灰色の記憶だった。
「僕は――優しくなんてない……ただ、僕はわがままなだけだ」
記憶の中のレーネもいつの間にかその姿を変えていた。
まだ幼く、彼と変わらないくらいの背丈だった彼女の姿。
「ううん、そんなことない。だってエル君は私に手を差し伸べてくれた。一人ぼっちだった私に――」
あの夏の日、しんしんと雪が降りしきる真夏の雪原の中で、エルハルトは彼女に出会った。
全てを失ったエルハルトの前に現れた彼女はまさに救世主だった。エルハルトからすれば、彼女の放った言葉は一言一句違わず彼のものだった。
「なあ、お前僕の従者にならないか?僕の下に付けばあのいけ好かない勇者達にだって、ぎゃふんと言わせられる」
耳から聞こえる自らの声も幼く感じる。変化など起こるはずもない身体なのにも関わらず……
(だけど僕は変わろうとした)
一人で寂しかったのは自分も同じだと、だから一緒に居て欲しいと、そんな簡単な事さえ恥ずかしくて言えなかったあの日。
(だから僕は変わらなくちゃいけなかった)
利害関係が無ければ一緒にいられないと思っていた。
追い詰められていたのは事実だったが、彼らが非常に危険な集団であることは理解していた。だけど、それ以上に一人ぼっちは耐えられなかった。
「――うん」
彼女はただそう呟いて、こくりと頷いた。
間違いなく、間違いだった。
もうその時から間違えていた。
エルハルトは過去の身勝手な自分をこれまで一生悔いてきた――
――――…………
――……




